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一撃必殺邪神道  作者: オーゼイユ街の怪人
深きものどもとの戦い
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絶対絶命

 奴らの戦法は至って単純であった。何匹もの深きものが私に飛び掛かって来るだけ。ただそれだけである。


 だが、それがやっかいでもあった。


 先ほどと違って飛び掛かって来る数は一度に十以上と多く、今の私では一度に飛んでくる相手を迎撃できる数は二、三匹が限度。一度の攻撃で私が二、三匹倒したとしても、私が受けるダメージは残りの連中が爪で引っ掻いていく度に増えていく。


 しかも、それが休みな無くである。深きものどもは一度攻撃し終わった奴らは人海に消えては別の者と交代して休んでいる。


 つまり私は持久戦を強いられているのだ。


「――っこのぉ、次から次へとッ!」


 私が拳を振るう度に鮮血が舞い、蹴りを放つたびに奴らの骸が出来上がる。


 だが、それと同じように拳や蹴りに当たらなかった奴らが私の身体をその鋭い爪で裂いていく。師匠の下である程度の修業をしていたとはいえ、攻撃力が上がっても、防御力は上がらない。


 また、私の拳が一匹を冥府送りにしても、奴らの爪が身体を裂く。


 そろそろ、体力が深刻な状態になってきている。


 流れ出ていく血が身体に警告を発している。


 四方八方から飛んでくる深きものと戦い続けて、わかってきたことがある。奴らの戦い方はまさに捨身。自らの命などお構いなしにである。驚異の大小はさておき、大いなるクトゥルフに仇なす存在は捨て置けないのか、確実に私を屠りにきている。自分たちの神のため、自分たちの命でも安いということだろうか。


「師匠…… 私、ちょっとヤバいかもしれないです……」


 油断は無くしても心のどこかではザコと踏んでいたが、それも過去の話。今ではそのザコどもに私の命は徐々にだが確実に奪われつつある。


 振るう拳も速さも威力もだいぶ落ちていて、だんだんと倒しきれなくなってきている。蹴りもそうだ。足が上がらなくなってきている。


 その隙を奴らは見逃さなかった。一度に攻撃してくる数を増やし始めたのだ。こいつらは私の宣戦布告によって、たまらなく私の首を切り落としたいようだったが、疲れが出てくるまでは一度に攻撃してくる数は増やさなかった。それが、私の疲れを感じてか、それとも早く止めを刺したいのか、攻撃はより激しさを増していく。


 これが師匠の言っていた集団戦の力か……


 そろそろ、私の体力も限界にきていた。眼は霞み、意識は朦朧としている。既に自分が拳を振るい、蹴りを放っていること自体奇跡に等しい。


 深きものへと放った蹴りが宙を切り、その反動でふらついていた体はバランスを崩して倒れる。ちょうど、そこへ深きものの爪が私の身体を抉っていく。


 壮絶な痛みなど襲ってはこなかったが、代わりに世界が真っ白に染まっていく。これは完全にアウトだと思っても身体はどうすることもできなかった。


 寒いのか熱いのか。


 いや、きっと寒いんだろう。


 血、血が、血が足りない。


 まさか邪神を倒すと宣言した日から僅か一日で命を落とすことになるとは……


 邪神によって滅びへと進む世界をどうすることもできないとは……


 ましてや、眷属の眷属にも負けてしまうなんて……


 ああ、命が消えるのがわかる。


 でも、なんだろう。死ぬ寸前なのに感じる気持ちは?


 生きたい? 


 違う。


 死にたくない? 


 違う。


 この気持ちは――そう、


 ――負けたくない!!


 負けたくない。負けたくない。負けたくない。


 どこか近くて遠い場所から音――言葉が聞こえる。


 それは何かを私に語りかけている。


 これは夢? 


 現実? 


 その言葉は聞き取ることができないが、威厳に満ち溢れていて、そして反対に嘲りも含まれている。相反しているのにその二つで完璧な一つの様に。


 私に何を語りかけている?


 その言葉の意味とは?


 わからないことだれけであるが、揺蕩う意識の中で私はその言葉だけはしっかりと理解できた。


 その言葉とは――


「トラペゾ――ヘドロンッ!」


 私はトラペゾヘドロンと口にしていた。その言葉を口にしたのは自らの意思なのか、反射的なものなのか。


 だが、口にしたのは確かだ。


 そして、私はいつの間にか立ち上がっていた。


 その姿を変えて――



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