乱戦
「破アアアアアアアアアアァァァァァ――破ッ!!」
速さ得て威力を増した鋼の拳が眼前を覆い尽くす敵――深きものどもの一匹の頭を吹き飛ばす。
その有り余った威力は衝撃破となり、周囲の深きものたちを薙ぎ倒す。
だが、それだけじゃ敵の進行は止まらない。
津波のように次から次へと押し寄せてくる。
何匹もの深きものの頭を、腕を、足を、胴を吹き飛ばしても、間髪入れずに新しい深きものが攻撃をしてくる。
私はそれを見切って――――カウンターを入れる。
「ちッ! 次から次へと切りがない。さすがは邪神の眷属の中の最大グループって言ったところか!」
いや、敵は深きものだけではない。
敵は地だけにいるわけではないのだ。
空だ。
空にも敵は巣くっている。
その敵とは――
「前の修業のときは比べ物にもならないほどの大群、いや、大軍勢だ」
私が前の修業で戦った相手――バイアクヘーだ。
その数はざっと見ても百以上、二百、三百はありそうだ。
バイアクヘーは風の邪神ハスターの眷属、空では破壊の風が巻き起こり、並みの魔術師では近づくことすら難しい。
しかも、バイアクヘーは空中を飛び回っているだけではなく、積極的に地上へ攻撃をしてくる。
私の必殺の絶技――カイムのように光速での攻撃こそしてこないが、かなりの速さで突撃してくる。私なら避けることなど容易いが、避けられなかった深きものは腕を喰いちぎられたり、咥えられて空中へと連れ去られて無残な最期を迎えている。
「そりゃァ!」
私に向かって突撃してきたバイアクヘーの腕を掴むと、そのままの勢いで地面へと叩きつける。顔や服に汚らしい血を飛んでくるが、そんなこと気に
してはいられない。
叩きつけられたことで弱ったバイアクヘーを今度は周りの深きものへと振り回す。周囲は敵だらけだから、何かしら攻撃をしたら何かに攻撃が当たる。
それほどまでに乱戦と化していた。
おじいさんが言っていた、邪神同士の戦いが始まったのだ。今はまだ邪神たちは戦いこそ起こしてはいないが、その眷属の小競り合いは各地で起き始めた。小競り合いと言っても、数が数なだけあって、戦いが起きればそこは戦場と化す。しかも、奴らは私たち人類のことなど知ったことかと戦いの範囲を拡大していく。
「撃てっーー」
誰かが叫んだ。それを合図に次々と銃声と怒号が響く。
レジスタンスだ。私以外にも戦う人々が、邪神の眷属へと攻撃を開始したのだ。
「グオオオオオオオゥゥゥ」
地には大量の深きものが倒れ込む。如何に不老と言っても不死ではない奴らに弾丸は有効。また、それはバイアクヘーにも有効だった。空から何匹ものバイアクヘーが落下してくる。深きものよりは頑丈だが、地面に落下したバイアクヘーは深きものに取り囲まれたり、追撃の銃撃を受けたりして絶命していく。
「旧神の印を発動させろーー」
また誰かが叫んだ。
その声を合図に敵の足元が光輝き、光の柱が大地に立った。
旧神の印――それはその名の通り、旧神が残したと言われる邪悪を退ける印。師匠の話では人類はその一部をなんとか解析して、邪神及びその眷属の力を弱める方法を解析したらしい。にわかには信じられないが、解析には邪神復活前からその危険性を警告し、独自に邪神復活を阻止してきた組織の協力があったようで、実際に私の前で起きている光景がその証拠だ。
光の柱は広がり、その光に呑みこまれた眷属たちは急激に力を失っていく。光の柱は一本だけではなかった。三本もの柱がそびえ立ち、広がりを続けている。
「すごいッ! これが旧神の印の力…… 私も負けてられない!」
私は光の柱から逃れた一団へと飛び込んだ。
虚を突かれた深きものどもは慌てふためき、散り散りに逃げていく。
「逃がすかッ!」
一瞬の間に二匹の身体に風穴を開けると、傍で死んでいるバイアクヘーの死体からは翼を引きちぎり、逃げていく深きものどもへと投げつけた。翼は回転しながら、勢いを増していき、やがてそれは深きものどもを両断する断頭の刃と化した。
「お前らも喰らえッ!」
残った死体のもう片方の翼を引きちぎり、空へと向かって投げる、今度は狙いを点けない、空中でのバイアクヘーの旋回速度はかなりのもので狙って投げても到底当たりはしない。だが、そうとうな数のバイアクヘーが空で蠢いているなら話は別だ。適当に投げても何匹かには当たる。回避されたとしても今度は仲間同士での衝突が発生する。
「グオオオオッオオオオオオオッッ」
遠くで火柱が立った。
続いて、閃光が奔る。
私の近くで戦っているレジスタンスの人が驚きの声を上げる。
「おおっ! あれは!?」
「あれが作戦開始前に説明された魔術師の力か!」
火柱は何度も立ち、その度閃光が奔った。
「やっぱりアリスが言っていた通りか。私以外にも戦っている人々がいるって」
この戦場にアリスは来ていないが、私以外に戦っている魔術師が少なくとも三人はいるようだった。一人は先ほどから見える火柱と閃光、もう一人は何度か死体に見かける切り傷をつけていく者。最後の一人はレジスタンの会話からその存在を知った。
「師匠以外の魔術師を見るのは始めて……だよね。アリスは魔術師って感じではないし。よし! どんな人なのか見てみるか! でも、その前に――」
ここら一帯の敵を倒す!
師匠の下で習った炎を生み出す魔術を左手に集中、魔力の量を調整して左腕全体を火から炎から守りながら、十分な威力の火力を維持する。
「まだ、これに名前はない――――けどッ!!」
目標は空のバイアクヘーどもだ!
地を蹴る速さを上げて跳躍する。アルクナイアーシュラではないから空は飛べないが、それでもかなりの高さの跳躍。そして――
「喰らえッ! 私流の火柱ッ!」
左手に溜めた魔力を爆発させて、それに炎を宿らせる。魔力と炎は混ざり合い、拳から放たれた勢いにより空を絶つ巨大な火柱となって、空中を飛び回るバイアクヘーの群れを焼きつくす。
遠くで上がる火柱からヒントを得た新しい技だが、一発で上手くいったってことはやっぱり私自身も成長している証。
もっと、もっと強くなっていつかアリスを、師匠を超えて、邪神を討つ!