握手
今回はいつも以上に短かった……
次回はもう少し字数多くしないと
私の構えを見て、アリスも剣を取り出す。構えは先ほどと同じで、一本を私に首に、もう一本は私の心臓へと狙いをつけている。
互いの視線が交差する。
一瞬だが、永遠とも思える時間が流れた、その時――
「――なんてね」
「――っえ……!?」
アリスが剣を下ろしたのだ。
なんとも言い難い、空気が私たちの間を流れていく。
「冗談よ、冗談」
「冗……談……?」
「そう、冗談」
笑みさえ浮かべていないが、アリスからは殺気などは感じなかった。あれほどの殺気は隠しきれるものではないので、アリスの言う冗談はどうやら本当だったらしい。
「悪いわね、ちょっとあなたを試してみたかったのよ」
「試す……? 何を?」
「それはもちろん、あなたの戦う覚悟よ」
覚悟?
アリスは私の戦う覚悟を試していたって言うの?
「あなたは邪神ナイアルラトホテップが残した禁忌の力、トラペゾヘドロンを持っている。それだけでも危険なのに、その力を使い戦っている。それがどれだけ危険なことかは、正直私も予想はできない。それでもここに来る間に私は感じたわ」
「感じたって何を?」
「あなたの……そうね、想いとでも言えばいいのか……、兎に角、感じたのよ。そこで思ったの。この力を使う存在はもしかしたら私と同じく邪神と邪神に連なる者たちと戦う存在ではないかとね。ここに近づく間に邪悪な反応は次々と消えていき、そして――黒樹、あなたと出会った」
語るアリスのどこか嬉しそうな雰囲気があった。やはり、笑みは浮かべてはいないが、私にはそう思えた。
「一緒に戦い、言葉を交わして、あなたの覚悟は確かに伝わってきた。でも、まだ足りなかったの。もし、自分よりも強く、そして正しいことを突きつけてくる相手を前にして、あなたはどうするのか見てみたかった」
それって……
「さっきの質問って、そういうことだったの?」
「いじわるなことを言ってごめんなさい。でも、そこだけは確かめておきたかったの。――そして、あなたが出した結論は、どんなに危険な力で、世界を危機に晒したとしても世界を守りたいと言う矛盾したものだった。そして、そのためにはどんな相手にも立ち向かう意思、決意を私に示した」
そう、私がアリスに言ったことは矛盾している。この世界を守るために世界を危機に晒すような力を使って戦うという矛盾したこと。
でも、今の私にはこれしかない。世界を危険に晒すとしても、それで守れるものがあるなら、戦っていきたい。それが私の矛盾した想い。
「黒樹、あなたの戦うための理由は確かに聞かせて、いえ、見せてもらったわ」
アリスが手を差し出してくる。
ついさっきやったばかりの行為なのに、遠い昔のように思える。
「あなたなら、その力を大事なことに使える。そう、確信できた。――だから、共に戦いましょう。黒樹。この世界を邪神たちから取り戻すために!」
この時のことを私は一生忘れることはないだろう。
初めて共に戦う仲間と言える存在ができたことを。
そして、初めて見たアリスの笑みを。
「……あんないじわるを言った私と共に戦ってくれる?」
その応えに私は――
「もちろん! ううん、むしろ逆だよ! こんな私とでも一緒に戦ってくれる?」
「ええ! よろしくね、黒樹!」
差し出された手を私は強く握ったのだ。