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一撃必殺邪神道  作者: オーゼイユ街の怪人
新たなる敵!?
18/32

目覚めと空腹

「…………私の部屋?」


 そう、見慣れた天井は私の部屋のものだった。


 この家に来てから目を覚ます度に何度も見た天井。それがこうしてまたあると言うことは、


「そっか……、私、帰ってこられたのか……」


 どれくらい眠っていたのだろう。


 戦いの記憶を思い出す。


 バイアクヘーとの一瞬の攻防。急激な体温上昇。私と同じ顔をした者との邂逅。情けない弱音。そして、アルクナイアーシュラ。


 無人島にいたのは短時間なのに、これほどの出来事があったのか……


 そもそも私が生きて帰ってこれたのは奇跡と言ってもいいかもしれない。相手はあのバイアクヘー。もし、アルクナイアーシュラを使えるようになっていなければ、バイアクヘー三十匹なんて倒すどころか相手にするのも不可能だった。


 ――そうだ、アルクナイアーシュラ!


 私の身体はどうなって――あれ?


 どこも変わっていない?


 変化が融けている。前と同じなのか?


 ぐぅーーー


 あっ…………


 思い出したようにお腹が鳴った。


 身体が飢餓のように食料を求めている。朝からこんなにお腹が空くなんて自分でも珍しいことだと思う。


 ぐぅーーー


 催促するように再びお腹が鳴る。


「あれこれ考えても仕方ないことか……、朝食を食べながら師匠に聞いてみようっと」


 廊下に出ると、師匠を呼びながら師匠の部屋を目指した。


 この家がある境界線内なら師匠はどこにでも姿を現すことができる。だから、呼べば私の部屋にだって来てくれる。


 でも、師匠はすごく面倒くさがりだから、私が自ら出向かないといけないのだ。


「師匠~~、師匠~~」


 私の声は廊下に虚しく響く。


「そりゃあ、そうだよね」


 外への買い出しだって私に任せる師匠だ。呼ばれるぐらいじゃ滅多にやっ

てこない。


 お腹を空かせて、ようやく師匠の部屋へと着く。師匠の部屋のドアを開くと、


「なんじゃ騒々しいな」


 と、眼鏡をかけて椅子に腰かけている師匠の姿があった。


「やっぱり、聞こえているじゃないですか~」


「当たり前じゃバカモノ。ここは妾の屋敷じゃぞ? 聞こえないものなどないわ。――さて、要件は空腹じゃな?」


「えっ! なんでわかるんですか!」


 師匠が私のお腹を指差す。


「さっきからぐうぐうと、うるさい程に聞こえておるぞ」


 え? そんなにうるさかったの? 恥ずかしい……


「まあよい、妾も腹が空いた。ここらで昼食にしよう」


「昼食ですか? ってことはもうお昼か……、師匠、私はどのぐらいの間、眠っていたのですか?」


「うーむ……、一日ちょいかのう」


 一日ちょい! そんなに寝ていたのか。


 窓の外を覗くと、弱めの日の光が差し込んでいる。境界内だと日の光などはかなり弱められてしまうので、日が出ていても蝋燭が使われているのだ。


「華奢な妾がここまで運んできたのじゃぞ。少しは感謝をせい、感謝を」


 バイアクヘーが束に掛かってきても問題ない人が何を言うか。


「師匠、とりあえず何か食べるものをください。もう、お腹が空きすぎて料理している余裕はありません」


 先ほどからお腹が早く食料を持ってこい、空腹を満たせと抗議している。


「そんなに腹を空かせておるのか? うむ、それはお主がバイアクヘー共を葬りさった、あのカイムのせいだろう」


「カイムのせい……ですか?」


「うむ、だが今は昼食が先じゃな」


 師匠はそういうと、人差し指で空中に円を描く。そうすると、空間に歪みが発生した。これも無人島に行ったときと同じく境界を弄ることで可能とする技だ。いや、師匠にとってはこんなもの技とも言わないだろう。


 なんでもいいから早くお腹を満たしたいところだが、歪みに手を入れた師匠が困った顔をする。


「むうぅ! 食糧が切れかかっておる……」


「ええ!? 本当ですか!」


「ちょっと待っておれ」


 手を歪みから引き抜くと、今度は頭を歪みへと突っ込んだ。


「お! 奥にまだ少しあったぞ! これなら、昼食には困らんな」


 色艶の良い肉の塊やパンなどが歪みから引き出されて、適当にテーブルの

上へと置かれていく。


 行儀が悪いけど、もうお腹も限界などのここはワイルドに食べるとしましょう!


「いただきます」


 私は豪快に肉へとかぶりついた。


「くぅ~~、美味しいぃ~! お腹が減っていれば、どんなものでも美味し

いですが、やっぱりお肉は最高ですね、師匠!」


「そんなに腹を空かしておったのか…… 見てるこっちの腹が満腹になりそうじゃわい」


 ちょっと師匠が引いているのが気になるが、今はそんなことおかまいなしだ。


「そういえば、さっきこの空腹はあのときの技、カイムのせいって言ってましたけど、そうなんですか? あの技使ったら空腹よりも疲労感の方が強かったですよ」


 バイアクヘーどもを一瞬で屠った絶技――カイム。


 あの技を使ったら時間が停止したようにさえ錯覚させるほど私の動きは速くなっていた。


「そもそも、カイムとはいうものはじゃな。バイアクヘーが宇宙を光速で飛ぶ際に発生する時空パターンを古よりそう呼ぶのじゃ。どれくらい昔かは妾でもわからんがのう」


 へー、そうなんですか。……って、あれ? そう言えば、なんで私はカイムって名前を知っていたんだろう?


「バイアクヘーは光速で飛行した後は、必ず空腹になり大量の餌を食わんといけなくてのう、連続での光速飛行はできないのじゃ。だから、今お主が感じている空腹も、トラペゾヘドロンによって発現したアルクナイアーシュラがバイアクヘーそのものの力をコピーしたものだから、空腹になることまでもコピーしてしまったんじゃろ。それにあれだけの力じゃ、一回使うのが限度じゃろう。あれの連続しようはなるべくなら控えた方がよい」


 確かにカイムは一回使ったら、すぐには連続で撃つなんてできない。ま、一回使えばどんな相手も一瞬で屠ることができる。正に私だけの一撃必殺技だ。


「お主……、この技を使えば、どんな相手にも楽勝などと考えているな? 邪神を倒したいならその慢心は捨てておくのじゃな」


「えっ! なんで、私の考えわかったのですか?」


 驚く私に尻目に師匠は、


「そんなこと、お主に表情を見ていればすぐにわかる。お主は調子に乗りや

すいからのう。思っていることがすぐに顔に出るのじゃ。勝って兜の緒を締めよじゃ。それと、すぐに思っていることを顔に出す癖も直しておけ。相手に自ら情報を与えているようなものじゃ。なるべくなら無表情にしておけ」

「年頃の乙女が無表情なんてできませんよ!」


 私だって花も恥じらうお年頃だ。無表情になれと言われて、はいそうですかとはいきませんよ。


「やれやれ、面倒な乙女じゃ。ならばせめて相手を小馬鹿にしたような表情にするがよい」


 そう言うと、師匠が私を小馬鹿にしたような表情をする…………んだけど、あまりいつもと変わっていない。前から、人を小馬鹿にしたような表情だとは思っていたけど、表情が顔に張り付いているらしい。


「さて、お主の新たなる力となったアルクナイアーシュラじゃが、どこまでその力を把握している?」


「力の把握ですか? うーん…… はっきり言ってまで自分でもよくわからないことだらけですね。なにせ、あの後すぐに気を失ってしまいましたから」


「それならなるべく早く把握しておくことじゃ。強力な力でも使い方を知らなければ、無いも同然」


 なるほど、それもそうだ。


 そっと、自分の左目に触れてみる。今は左目およびその周辺を囲むような状態に戻っている。この左目と一体化したトラペゾヘドロンがあれ程の力を

発揮するとは……


「戦っているときはこのトラペゾヘドロンから断片的に情報が私に流れ込んできましたが、今は全くですね」


「うむ、と言うことは戦っているときでなければ、使い方の情報が流れてこないというわけじゃな?」


 私が頷くと師匠は顎に手を当てて何やら考えだした。

「あのとき、お主がアルクナイアーシュラを発現させたわけじゃが、姿はバイアクヘーを模した姿じゃったな? お主は発現させる前に『盗ませてもらうぞ』と言ったな」


「はい」


 そうだ、私はなりたい姿が見えなかったからこそ、手っ取り早く、私よりも強い目の前にある姿を望んだんだ。


「そうして、発現した姿はバイアクヘーを模した姿になった……つまり、あれが元の姿ではないと言うことか?」


「……そう言われるとそうかもしれませんね。私もあの時は少し舞い上がっていたから気にも止めませんでしたが、考えてみたらあの姿は私がバイアクヘーの姿を望んだわけだから、ああなったもので、違う相手ならそれを模した姿になるかも?」


「なるほど…… クフフっ……ハッーハッハッーー」


 急に師匠が高笑いを始めた。いきなりのことに私の頭は真っ白だ。


「ど、どうしたのですか、師匠!」


「いやいや、あの宝石程度の大きさのトラペゾヘドロンにそこまでの力があるのかと驚いてのう。しかも、それを我が弟子が発動させるとは……全くいつの世も退屈などありはせんと言うことじゃな」


 師匠が自分自身に使っていれば、もっと退屈にならずにすんだと言いたいが、そこはグッと我慢する。表情も師匠にばれないように平常を装うのうに必死だ。


「お主が強くなればなるほど、退屈も紛れる。じゃから死ぬなよ? それにお主は可愛い弟子でもあるからのう」


 師匠の『可愛い』という言葉に一瞬だがドキッとする。これはもしかして…………恋!? そうよね、そうよね! 私だって乙女だもの! 恋の一つや二つするはずよ!


「どうしたのじゃ? そんなににやけて? 今のお主はちょっとバカそうに見えるぞ? いや、元からあまり賢い方ではなかったか」


 …………いやいや~、よくよく考えれば、私が師匠に惚れるってことはないでしょう。だって師匠は女で、私も女なんだから。相手が女性の方が良いって女性もいるみたいだけど、私はそんなんじゃない。


 あ、これは不良が雨の日に捨て犬を助けているのを偶然発見して、その姿にちょっとドギマギしてしまうってやつですね!


 ま、惚れた、惚れないは置いておいて、さっきの言葉もありがたく貰っておきましょう。


「忘れておったが、あの姿になったときの口上みたいなのはなんじゃ? お主のポエムか何かか?」


 口上? ポエム? それって――


「ああ、私が口走った言葉ですか?」


「うむ、そうじゃ。急にお主が語り出すから妾は色んな意味で驚かされたぞ」


「なんじゃ……と言われましても、あれは私が思いついた言葉じゃなくて、トラペゾヘドロンから流れてきた言葉なんですよ。急に頭の中にあの言葉が浮かんで、それを言わなければならないと直感したんです。それで――」


「その言葉を口にしたら、ああなったと言うわけじゃな」


 私の言葉を遮って師匠が言う。


 自分でもあの言葉は少し恥ずかしいと思うが、何か意味があるのだろうか? 


 あ、その前にあのときの言葉を次は完璧に言えるかどうか怪しいな…… 半分ぐらいしか覚えてないけど、次の修業で頼らざるを得ない状況になったらどうしよう…… また、トラペゾヘドロンから流れ込んでくれればいいんだけど…… 


「つまり、あれは詠唱と言うことか」


「まぁ……ポエムと言われるよりは詠唱の方がずっとかっこいいですよ」


 乙女のポエムなどと笑い者にされるのはちょっと……


「うーむ…… だいたいお主の力はわかったが……」


 俯き気味な師匠。その顔はさっきと変わって若干の陰りがある。


「?」


「念を入れて言うが、お主はまだまだヒヨっこじゃ」


「慢心は捨てろって言うんでしょう? そんなの承知してますよ」


 何を心配しているんだか。


「確かにお主は強くなったが、この広い世界から見ればまだまだじゃ。もしかすると……、もしかするとその力に気がついた者たちが、力を狙って襲ってくるかもしれん……」


 この力を?


「まさか、そんなことあるわけありあませんよ。それにトラペゾヘドロンは私の左目と一体化しているんですよ?」


 奪うなんてできないですよ、師匠。


「だからお主はまだまだヒヨっこなのじゃ。力に魅入られておる者は更なる力を求める。例え相手を殺してでも奪いに来る者も珍しくはないじゃろう。じゃから、万が一そんな相手と戦うことになったら逃げるんじゃぞ」


 殺してでも……


 私よりも強い相手が左目に手を捻じ込み眼球を鷲掴みにして引き抜いて行く…… そんな想像が頭を過る。


 途端に心臓の鼓動が早くなる。


 落ち着け、落ち着け私。万が一、万が一の話だ。そう簡単にそんな相手はやってこない。それに誰がこの力に気がつくというのだ。この力が使えるようになったのは無人島だぞ。私と師匠以外に誰もいない。落ち着け、あくまで万が一の話だ。


「……そうですね。気をつけておきます」


 現れるかもわからない相手を恐れるのも私らしくないが、師匠の言うことも無視はできない。用心しておくことに越したことはないだろう。


「少し怖がらせすぎたかのう。なに、安心しておくのじゃ。この館はそう簡単に攻め込まれることもないじゃろうし、仮に来たとしても妾が守ってやる。じゃから、安心しておけ」


「ですね! 師匠に勝てる相手なんてそうはいないですもんね」


 さすが師匠! なんだかんだで頼れる人だ。


「さて、お主の話はここまでじゃ。ここからはこの屋敷の危機についての話じゃ」


「この家の危機ですか?」


 ちょっと、ちょっと! さっきそう簡単に攻め込まれないって言っていたのに!?


「ほほ、そうたいしたことではない」


「ではいったい?」


 私の問いかけに師匠はまた人差し指で空間に歪みを作ると、手で私にこっちへ来いと示した。どうやら、歪みを覗いてみろとのことらしい。


 私も頭を歪みへと突っ込んでみると、なるほど、確かにこの屋敷の危機を忘れていた。


 そう、食糧が全くないのだ。


 最後の食料も私たちのお腹の中へと今さっき消えた。


「お主よりも強い相手に用心するべきじゃが、じゃからと言って、この屋敷に籠っているのも健康に悪い。なので、お主に買い物を命じるのじゃ!」


 やはり、そう来ましたか、師匠! 


 でも、そうすると街へと出るのも久しぶりになるな。最近はあまり行っていなかったから、楽しみかも。


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