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一撃必殺邪神道  作者: オーゼイユ街の怪人
邪神を屠る眼光
16/32

発動! トラペゾヘドロン!

 黒が支配する世界に白の閃光が奔る。


 白と黒が混ざり合い、いつしか私の視界にはあの無人島の光景が映し出される。


「……今のは幻覚?」


 潮の匂いも照りつける太陽の熱さも、間違いなく先ほどと同じ無人島だ。


 ん? 熱さ? 


 そういえば、私の身体――


「幻覚ではないぞ」


 師匠の声が聞こえた。


「もちろん、幻聴でもない」


 師匠の声が言った通り、私の後ろには師匠がいた。


「師匠…… いつの間に……」


 私とバイアクヘーが移動したから、取り残されたと思っていたのが。


「忘れっぽいのう、妾には境界線を弄る力があるじゃろう。例え、お主がこの星の反対側にいたとしても、見つけるなぞ容易いこと。――じゃが、妾のことは一先ず置いておいて、お主のことじゃ」


「私のこと?」


 うなずく師匠。


「お主は確かにあの混沌へと行ったのじゃ」


 混沌!


 やはり、私はあの混沌へ行っていたのか……


「でも、私は一歩もここから動いていませんよ? 砂浜にも私の足跡は来た

方向からのしかありませんよ。ってか、なんで師匠は私があそこへ行ったことをしっているんですか!」


 私に向かって師匠はVサインをする。……あ、Vサインじゃなくて、指を二本立てているのか。ここで私にVサインをするほど師匠には茶目っ気はないかな?


「まずは混沌へ行ったことだが、それはお主の精神だけが肉体から離れて混沌へと導かれたのじゃ。宇宙では肉体なぞ邪魔になるだけじゃからな」


 身体から精神だけが抜け出たって…… まさか、そんなことが……?


「で、でも、どうやって私の精神は肉体から抜け出たのですか!」


「言ったじゃろう。導かれたと」


「導かれたって誰に――」


 いや、これは簡単なことだ。あの者にだ。絶えず顔を変え続けて、私と同

じ顔になった、あの者にだ。


「どうやら、そこのところは理解しているようじゃな。して、お主は受け入れたのじゃろ? ナイの力を」


 そうだ、ナイの力! 


「師匠、あの者が言っていたナイの力って何なのですか? それと、トラペゾヘドロンとはどう関係しているのですか!」


 トラペゾヘドロンとナイの力、この二つはいったい……


「うむ、まあ、その事ともう一つは後で話してやることもないが――今はお

主にすべきことがあるのじゃないか?」


「私のすべきこと……………… って、そうだった!」


 バイアクヘー! すっかり頭の中から消えていた!


「奴はどこに!」


 不覚、不覚、不覚っ! 何たる不覚だ! 精神が抜け出ていたとはいえ、修業相手、しかも命のやり取りをしている相手を忘れるとは…… 


「ほれ」


 師匠が空を指差す先には確かにバイアクヘーが飛んでいるが、様子がおかしい。フラフラと飛んでいるのは私の一撃の影響だが、やけに騒がしい。


「何を騒いでいるんだ?」


 不快な鳴き声で一生懸命である。そんなことをしている暇があるなら、私を殺しにくればいいのに?


 そんなバイアクヘーの行動を見て、師匠はポツリと言った。


「あれはおそらく仲間を呼んでいると言ったところじゃろ」


「へー、そうなんですか……」


 やはり、師匠は何事にも詳しい。伊達に魔女は名乗ってない――――う

ん? 今、師匠はなんて言った? 恐ろしいことだが、私の聞き間違いではないとすると、仲間を呼んでいるって言ったような……


「し、しし、し、師匠っ!!」


「なんじゃ、騒々しい」


 私の声に耳を塞ぐ師匠。


「今、なんて言ったんですか!?」


「だから、騒々しいと――」


「違います!! その前です!」


「その前? ああ、じゃから、奴は仲間を呼んだと言ったのじゃ」


 やっぱり…… 


 先ほどの攻防が脳裏に浮かぶ。隙を作ってやっと一撃入れてやったのに、

あいつとおなじのが最低でも一匹は来るなんて……


 しかも、仲間を呼ぶ以上はもう降りて戦うなんてことはしない。空中から私をいたぶり殺すだろう。


「何を青い顔をしておる? 年頃の乙女はそんな顔はせんぞ?」


「何を呑気なことを言っているんですか! ……あ、いや、師匠は別にあい

つらが何匹来ようが平気かもしれませんが、私は奴一匹でも十分にきついん

ですよ!」


「ちなみにこの無人島に近づいてくる気配が三十はあるぞ」


 三十! あの強さが三十匹! 


 嘘でしょ……


 勝てっこない……


 確実に殺されちゃうよ……


「だから、お主は何を諦めておる?」


「! 師匠…… 私の力じゃ、三十匹もの相手になんか勝てないですよぉ……」


 自然と声に弱音が混じる。泣かないだけまだマシだが、それもいつまでも

つかわからない。いつも強気でいたが、死の気配が近づいているとわかるとやはり怖い。


 この世界で死などありふれ過ぎて慣れているが、それが自分に対するものだと、やはり違う。死にたくないと思ってしまう。


「うむ……、じゃあ、お主は勝てないと言うのじゃな?」


「はい……」


 私の一言に師匠は溜息を吐くと、空を見上げて言った。


「いつもは強気でいる癖にこういうときになると弱音を吐く、なんとも情け

ない。妾はそのような軟弱者に鍛えてやった覚えはないぞ?」


 軟弱者と言われようが勝てないものはどうあがいても勝てるものではない。私だって勝ちたいと思う。相手が深きもの三十匹なら怖くはない。しかし、今迫っているのは、バイアクヘー三十匹だ。強さの桁が違う。


「諦めるのは勝手だが、この程度の奴らを倒せなければ邪神など夢のまた夢。邪神を倒すなんてことはやめて引き籠るのかのう? じゃが、これだけは覚えておくがいい。こうしている間もこの星はちゃくちゃくと邪神による影響を受けている。それがこの星にどんな影響を与えているかなんて、言わなくともわかるじゃろ? それに星だけではない。この星に生きる全ての命が危機に瀕しておる。この間にもどれだけの命が減ってるかなんて想像もつかん程な。那由多一にも邪神を倒す可能性がお主にあるならこんなとこで弱音を吐いている暇などないのではないか?」


 そうだ…………私、何やってるんだろう…………


 自分で言ったはずだ、邪神を倒すって……


「まあ、この世にはまだまだお主よりも強い者などわんさかいる。むしろ、

お主は下から数えた方が早い。しかし、そのお主よりも強い者たちでさえ、邪神はおろか、その眷属の前では無力。まあ、その中から邪神を倒すことができる者が現れるなど無きに等しいが可能性がないわけではないがな。じゃが、妾にはそれもどうでもいいこと。敗色濃厚な戦いなぞやらない方が賢い」


 師匠の言う通りだ。


 現状では人類が邪神に勝てるかどうか子供でもわかる。今の私と同じでどう考えても負けは確実。邪神復活から人類が勝った大きな戦いなどない。

勝ってもそれは小競り合いだ。


 でも、人類は未だ降伏していない。諦めてもない。連敗を重ねても、いつの日にか平和を取り戻すまで戦い続けている。


 ならば、私はどうだ? 


 ここで諦めるのか? 


 尻尾を巻いて逃げ帰るか?


 いや、答えは最初から出ている。


 ――――諦めない!


 でも、敗色濃厚、現状は絶望的、それなら私よりも強い人たちに任せたほうが良いのではないか? 無駄に命を賭ける必要もないのではないか?


 ――――もしも、この星で戦う意思を持つ人間が私だけだったらどうする! 誰が邪神たちと戦うって言うんだ!


「と、こんな高説を垂れたところでお主の考えは変わらないんじゃろ?」


 師匠がニヤっと笑う。


 そう、私の気持ちは変わらない。私はいつでも前向きだ。ここで燻っているなんて、全然私らしくない!


 私は顔を上げる。もう俯いているのは終わりだ!


 空にはもう黒点が蠢いている。


 その数は三十匹、今の私にとっては絶望的な数だ。


 だが、たかが三十匹。ここは強くなるための通過点。この逆境を乗り越えなければ、邪神もその眷属にも届かない!


「師匠、私……戦います。戦って、戦って……いつの日にか混迷と化した世界を救います!」


 ちょっと心が折れそうだったけど、この程度で立ち止まってなんかいられない。


「うむ。その通りだ。お主はここで立ち止まっている器ではないからのう。

それに――――お主の中のトラペゾヘドロンにも変化が起きているぞ」


「えっ?」


 師匠が何を言っているのか理解できなかった。私自身、特に変化が起きているようには思えなかった。だが、私は思い出す。


 あの混沌で会った者のことを。


 そう、あの者は言っていた。些細なプレゼントだと。あの手に握られてい

たのは私の眼球…… でも、私の眼球はトラペゾヘドロンと一体化している。それにこんなことも言っていた。『私は君であり、神々の守り人であり、トラペゾヘドロンであり、創造主の代行者でもある』それってつまり…… あの者がトラペゾヘドロンの……化身って奴なの?


「お主の中のトラペゾヘドロンは、原石の状態とはいえ、お主と完全にどうかしておる。それはつまり、お主が望めばその形を変えることもできると言うことじゃ。前にお主の腕が形を変えたのも、それが原因じゃろう」


 そういうことだったのか。


「それじゃあ、私が考えた通りの形にトラペゾヘドロンが?」


「前はお主の力量、つまりレベルが足らず、生命の危機に陥ったから、暴走形態へとなった。じゃが、あの時の経験があったからこそ、お主は少なからず強くなったはずじゃ。だから、今ならトラペゾヘドロンの力を操ることができる」


 今の私ならトラペゾヘドロンを操ることができるの?


 でも、どうやって?


 私の考えを読み取ってか、師匠が笑みを見せる。


「難しいことではない。意識を集中して自分の中のトラペゾヘドロンにどんな姿になりたいのか想像を流すのじゃ」


 トラペゾヘドロンに想像を流す? それだけでいいのか。


「さて、そろそろバイアクヘー共がここまでやってくる。時間はないぞ、急ぐのじゃ」


 やり方はわかったが、まだ私がなりたい姿が想像できない。あの暴走形態なら強いが、それだけでは今後戦っていくことはできない。


 何か切っ掛けとなるものがあれば……


『技は盗め』


 唐突に蘇る記憶。これは――


 ――そうか!


 これだっ!


 師匠がずっと前に私に教えたアドバイス。めんどくさがりな師匠らしいアドバイスだが、今の私にはちょうどいい!


「師匠、やってみますから少し離れていてください」


「どうやら、覚悟は決まったらしいな。うむ、やってみるがよい。妾の弟子がどうなるのか、しっかりと見ていてやる」


 師匠が離れたことを確認すると、私は目を瞑り、トラペゾヘドロンを変化させたい形へと想像する。そして、その想像を左目のトラペゾヘドロンへと流す。


 想像するのは――


「お前の力を盗ませてもらうぞ! バイアクヘー!」


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