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一撃必殺邪神道  作者: オーゼイユ街の怪人
邪神を屠る眼光
15/32

ナイの力

 バイアクヘーが翼を広げる。


 元から人間以上の大きさをしていたが、翼を広げるとその大きさはより強大なものとなった。


 私と接近戦をしていたときは縮めていたが、これが奴本来の戦闘形態と言う感じか。


 まるで重力が存在しないが如く、バイアクヘーは空へと飛び上がる。


「逃がすかッ!」


 私は逃がすまいと飛び掛かるが、いとも簡単に躱されてしまう。


 空を自在に飛行するバイアクヘーは驚異そのもので、邪神のとの戦いが激化した際には数多くの戦闘機を撃墜したと言われている。そんな怪物が相手となって、はたして私に勝ち目はあるのだろうか。


 だが、その動きに違和感があった。何か様子が変なのだ。


 それは――


「動きが鈍い……?」


 そう、動きが鈍いのだ。


 初めて私の前に姿を現したときは、この目で追うことすらできなかったのに、今でははっきりと動きがわかる。最初ほどの速さがまるでない。


 でも、なんで?


『破ァァアアアア、破ッ!』


 そうだ! 


 あの時の一撃は確かに奴にダメージを与えたのだ。だから、奴も自分の得意な空中からのヒット&ウェイに戦法を切り替えたのだ。まだ、余力があるなら空に飛ばなくとも十分に私と戦うことができたはず。なのに、それをやらなかったということは、あの一撃は奴に相当なダメージを与えたということ。


 今なら奴の速さは私でもなんとか対処できる。それなら、カウンターを決めることができるはずだ!


 バイアクヘーは上空を旋回して私の隙を窺っている。奴も自分の体力を考えたら、なるべく一撃を勝負を決したいと考えているはず。


 私はなるべく的を絞らせないために走る。体力的な問題ならまだ私の方に分がある。


「こっちだ! ついてこい!」


「ピィィィィイイガァァアアア」


 私の誘いに乗り、速さを増して突っ込んでくる。


 速い――――が、避けれれる!


 思ったよりはまだ速さがあったが、家で想像したバイアクヘーよりも遅くなっている速さでは私を捉えることはできない。


 私の首の頸動脈を狙った爪は拳一つ分足りずに空を裂いていく。


 再び空へと舞い上がったバイアクヘーだが、体力の消耗が激しいのか、動きがより悪くなっている。今の一撃が失敗したのは奴自身相当体力を減らすことになっただろう。


 ――ドクンッ


「――ッ!」


 動いていた足が止まる。


 なんだ……? 今の感覚は?


 痛みではなく、何か…………そう、熱さとでも言えばいいのか。それにだんだんと身体に熱が帯び始めている気がする。


 この無人島がどこなのかわからないが、いきなり熱くなるはずなんてない。つまり、私自身が熱くなってきているんだ。


 ――ドクンッ


「――ッあ!」


 まただ、また、あの感覚だ。


 それに今度は左目も熱くなってきている。


「なに……これ…… さっきから熱いし、何が起きてるのよ……」


 踏み出す足も重くなってきている。鉄下駄でも履いているようだ。


 熱い……


 もう、なんなのよ……


「……まさか病気? 奴に爪で切り裂かれたところから宇宙の未知のウイルスが……? いやいや、さすがに考えすぎでしょ。そんな都合よく、このタイミングで発病なんてしないよ」


 それなら、考えられる理由は一つだけだ。


「トラペゾヘドロンか……」


 私の左目と同化している禁忌の宝石、トラペゾヘドロン。ナイアルラトホテップが残したものを師匠がくれて、師匠曰く、私の力となってくれるものらしい。最初の修業で死にかけた私を助けてくれたのだが、その魔力は私の意思とは関係なく身体を動かして暴走させた。


 この魔力に抗うには私自身のレベルアップが必要らしいが………… まさか、もう使いこなせるほどに私はレベルアップしたってこと? 


 マジ?


 でも、トラペゾヘドロン以外に原因は考えられない。


 だけど、まだ私は死にかけていないし、この感じは暴走とも違う気がする。


 ――ドクンッ


「――ッ! 左目が沸騰しそうだ…… 眼が融けそう……」


 これはちょっとしゃれにならなくなってきた。体力が減ったとはいえ、未だバイアクヘーは飛行するだけの力を残している。逆に私は体力こそあるが、身体の自由が利かないうえに身体が沸騰しそうである。


 もう一度、首を狙われたらまずい……


 しかし、こうも身体が動かないと反撃どころか避けるのも難しい。足だけでなく、腕のろくに持ち上がらない。これでは力を込めることなんて不可能だ。


「いよいよ、ヤバくなってきたね……」


「確かにそうじゃ、じゃが、はたしてこれはピンチなのじゃろうかな?」


 本格的にまずい。師匠の声まで聞こえ出した。


 バイアクヘーと戦いながら移動したから師匠はこっちまで来てないのに、声が聞こえ出しているってことは、この声は幻聴だ。


「本来、人間の魔力とは段階的に上がるものじゃ。それはトラペゾヘドロンと同化しても同じこと。それなら、お主に起きている事態はなんじゃと思う?」


 私に起きている事態……?


 それって、この熱さのことですよね……?


 って、ダメだ…… あまりの熱さに頭がやられ始めている。幻聴が言ったことに答えようとしているなんて…… 


 ああっ! 


 もうっ! 


 熱い! 


 身体が熱い! 

 

 左目が熱い!


 燃える、身体が燃える!


「ほほ、ずいぶんと苦しめられている様じゃな。じゃが、もうお主にとって奴は敵ではないのじゃないのか? 今の敵とはお主の中にあるトラペゾヘドロンと言ってもいい。しかし、お主とトラペゾヘドロンは既に一心同体。どこに敵対する理由がある?」


「でも……熱いし、身体は全然動きませんよ……師匠…………」


 あーっ、もう、幻聴に答えちゃってる!


「その熱さは言わば成長の証、変化の前兆、進化の苦痛、受け入れるのじゃ。その変化を、自分の中のナイの力を!」


 成長の証だとか、成長の前兆とか、進化の苦痛とか、なんとなくわかりますが、受け入れるのって無理ですよ……


「何を死にそうな顔をしておる? お主は邪神によって混迷と化した世界を救いたいんじゃなかったのか? それなら、こんなとこでいちいち止まっているわけにはいなかいじゃろ」


 ――――世界を救う!


 そうだ、私は世界を救いんだ! こんなとこでなんか止まっているわけにはいかない!


 幻聴だとしても、師匠が言ったことには変わらないんだ。そのありがたい言葉、信じさせてもらいますよ、師匠!


 ――受け入れるは成長の証


 ――受け入れるは変化の前兆


 ――受け入れるは進化の苦痛


「――受け入れろ、受け入れろ、受け入れろっ!」


 受け入れろ!


「受け入れろっ! ナイの力!」





 最後の言葉を吐き出した瞬間――世界は白に包まれた。


 何もかも塗りつぶす白。無窮の白。


 私は見た。


 宇宙の深淵に鎮座する混沌で男でも、女でも、いずれでもない者の姿を。その姿は絶えず変わり続けている。


 嘲笑が響く。


 顔は変わり続けていくうちに、その中に見知った顔があることに気がついた。

 

 それは私だった。


 正確に言うなら私の顔をした別人。


 いや、本当に別人か?


 この世で私は一人のはずなのに?


 私の顔をした者が言う。


「ようこそ、私。無窮の混沌へ。これはほんの些細なプレゼントだ。好きなように使ってくれ」


 私の顔をした者が手を差し出すと、そこには球体があった。最初はそれがわからなかったが、よくよく見れば、それが見慣れた物だと気がつく。


 それは毎日鏡に映る、私の眼球だった。


「私は見たいのだ。この力を――ナイの力をどう使うのかを」


 顔も声も私と同じなのに、口調だけが違った。その口調は全てを嘲る。私はそんな口調ではない。


 だが、そんなことは今はどうでもいい。


 最も重要なのは私の顔をした者が言ったプレゼントだ。


 ナイの力――


 わからないことだらけだが、唯一つわかることは、あの力は禁忌だ。人間が触れてはならない力だ。


 私の顔をした者の掌で眼球が怪しく煌めく。まるで、私を誘っているかのように。


 一歩、また一歩と足が私の意思に反して動く。どうなっている? 私は危険だとわかりきっている物に近づこうなどとしない…………だが、待て。本当は私はあの力を欲しているのではないだろうか? 今の力じゃ、この先も強くなっていけるのかどうか保証はない。


 落ち着け……


 受け入れろと自分に言い聞かせたはずだ。


 世界を救うと。


 一歩。さらに一歩と足を踏み出す。今度は明白な自分の意思でだ。


「これで私はさらに強くなるだろう」


 嘲笑がより強くなる。


 私は眼球を掴んだ。眼球は熱くもなく、冷たくもない。感じるのは圧倒的な力の存在だった。


「一ついい?」


「どうした、私?」


 同じ顔同士での会話。これほど奇妙なことがあるだろうか。でも、私の問いかけに答えるということは、やはりこの者は私ではないようだ。もし、私なら自分の問いかけに答える必要もない。


「あなたは何者なの?」


 対面する私の口が三日月を描く。


「何を簡単なことを、私は――私だ」


「違う、あなたは私ではない」


 きっぱりと私は言い切る。


「なぜ、そう思う?」


 逆の問いかけ。当然だ。双子以外なら同じ顔の理由など一つ。同じ存在だからだ。正直、私も確たる証拠などない。口調が違うなどはなんとでも言える。


 だが、これだけは言える――


「私の魂があなたは違うと言っているの」


 これほど、意味がないものは他にないだろう。魂が言うなどと…… だが、これほど真に迫っているものもない。私と言う存在が私の顔をした存在を否定しているのだ、それなら対面する私は私ではない。


「ふむ、滅茶苦茶で根拠はない――だが、それでこそ、私――いや、君らしい……か。なかなか面白い。いいだろう、私が何者なのかを教えよう。だが、そのことに意味などないことを覚えておいてくれ。私は君であり、神々の守り人であり、トラペゾヘドロンであり、創造主の代行者でもある。もっとも、それだけではないがな」


「なぜ、私に力をくれるの?」


「ただの気まぐれ、遊び、暇つぶし……とは、少し違うな。私が君になり、君が私になったからとでも言っておこうか。――おっと、もう時間が残されていないな。少し、おしゃべりがすぎたようだ。では、今回はここまでだ。君が強くなれば、また会える。お互いにその時を楽しみにしようではないか」


 私の顔をした者の姿が陽炎のように揺れる。いや、揺れているのはこの混沌もだ。


 揺れて、揺れて、私は黒に包まれる。


 何もかも塗りつぶす黒。禁断の黒。


 嘲笑が響く。


 その声は残響になっても私の脳内で響き続ける。


「さあ、見せてくれ。君のナイの力を――」


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