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一撃必殺邪神道  作者: オーゼイユ街の怪人
邪神を屠る眼光
14/32

瞬間の攻防

 荒々しく、禍々しい翼が展開される。隊長は二、三メートルと言ったところだが、その身から発せられる殺気が身体をより強大に錯覚させる。


 なんと形容すればいいのかわからないほどバイアクヘーの身体は醜悪で翼こそ蝙蝠に似たような感じだが、身体は筆舌に尽くしがたいものだ。鳥類を始めとした有翼生物を混ぜ合わせてもこうはならないだろう。地球の生物とは根本的に違う生物だ。


「ピィィイイイイ――――キィイイイイっ!」


 不快な咆哮を再度上げる。


 戦闘態勢であることをあらわしているのだろうか。


 私も身構える。


 私とバイアクヘーの距離は十メートル、いや、九メートルと言ったところか。この距離なら奴は加速はできない。奴の攻撃でおそろしいのは超加速からの突撃だが、九メートルなら十分な加速はできない。


 むしろ、この距離は私に取っては有利だ。距離さえ詰めれば自慢の拳や蹴りを叩きこむことができる。血気盛んな奴のことだ、私に背を向けて距離を稼ぐとは考えにくい。接近戦なら私の方が得意なはず。


 もう一度、バイアクヘーの身体を観察する。


 形容しがたいほど醜悪なのは変わらないが、それよりも注目すべきところは奴の細長い腕だろう。鋭い爪こそついているが、あまり重い物を掴むことにはなれていないとうかがえる。爪に注意しながら、身体に重い一撃を加えれば飛行困難に追い込むこともできるはず。


「さあ、来いッ!」


「ピィィギャアアアア――」


 私の挑発に乗ったバイアクヘーが動く。


 予想通り、私から離れて距離を稼ぐなんてことはせずに真っ直ぐとこちらに向かってくる。爪は突き出さないで、頭から突っ込んでくる突撃の体勢だ。


 距離がどんどんと詰められていく。徐々に速さは増してくるが、十分目で追えるし、トップスピードにはほど遠い。


 ギリギリまで、ギリギリまで引きつけて――最大の威力の一撃を叩き込む。


「せいッ――――破ッ!」


 私の拳に確かな手ごたえが――ない!?


「躱された!? この距離で!?」


 そうか! 


バイアクヘーは拳の当たる瞬間に後方へと下がったんだ。所謂、バックステップ。私は拳を放つ時、腕を完全に伸ばさずアッパーの形でちょうどバイアクヘーの腹に直撃するように放った。アッパーは超接近戦でしか使えないが、威力は相手をダウンさせるには十分なもの。だが、その分リーチが短いのが難点。私はギリギリのギリギリまで引きつけたつもりだったかが、引きつけられたのは私だった。


 私の拳を躱したバイアクヘーはすぐさま攻撃へと移る。


 爪だ!


 私が放った拳を引き戻す前に鋭い痛みが走る。


「――痛ッ!」


 やられた!


 引き戻した腕には深紅の線がついている。切られたのだ。


 思いのほか、バイアクヘーは接近戦も強いらしい。


 しかも、強いだけでもやっかいなので速さも健在だ。トップスピードでもないのにこの速さだ。離れたら確実に速さで翻弄されて嬲り殺しだ。


 離れられる前に連続で攻撃して奴を足止めしないと!


 突きと蹴りを連続して放つが致命傷を与えるには程遠い。そもそも細い見た目のわりには身体が硬い。この調子じゃ、どれだけ攻撃しても致命傷には至らない。


「ピィガァァァアアアアッ!」


「くッ……!」


 長い腕から繰り出される爪の攻撃は対応しづらい。攻撃されるたびに身体のどこかに痛みが走る。持久戦になったらこちらが先に息切れする! 


 確実に倒すならやはりどてっ腹に重い一撃を放たなければ。


 一瞬。一瞬の隙があれば、攻撃を叩きこめるはず。


 どこかにその隙を作るチャンスがあれば……


 いや、待てよ?


 思い出せ。ここがどこなのかを。


ここは……無人島。


そうだ、だがもっと詳しく。


――ここは…………砂浜?


 ……そうか! 砂浜だ。


 刹那の自問自答により辿りついた答え。バイアクヘーの隙を作りだすチャンス。


 私たちが戦っている場所は砂浜。砂浜なら当たり前に存在するのは砂だ。当たり前すぎて全く気付かなかった。


 私はバイアクヘーの攻撃を防ぎながら気づかれないようにつま先を深く砂の中へと沈めると、


「とう…………りゃあッッ!!」


 思いっきり砂を蹴りあげた。


 バックステップで少し後ろへ下がったぐらいじゃ、これは躱せない。


「ピィイイイイイイギャアアア」


 バイアクヘーが驚きの鳴き声を上げる。それもそのはず、私が蹴り上げた

砂の量は半端じゃないぞ。


 少し下がったぐらいじゃ意味がないと判断したのか、咄嗟に翼で風を起こして砂を吹き飛ばすが、もう遅い!


 そもそも、この砂を使ったのは目つぶしが目的ではない。地球の生物なら有効だろうが、邪神の眷属には通用するか怪しいところ。だから、目を潰すのではなく、私自身を隠す壁にしたのだ。


 一瞬だが私の姿がバイアクヘーの視界から消える。


 足に全体重を乗せて、拳に渾身の力を込めて無防備となった腹へと打ち込む。


「ピィガァアアアアァガガガガガガァァアア――」


「今度は手ごたえ――」


 ありだ!


 硬いが腕などに比べると柔らかい。何よりもバイアクヘーの内部で何かを壊した観測が確かにあった。バイアクヘーの身体の構造は本には載ってなかったが、恐らく何かの器官を破壊することに成功したのだろう。


「破ァァアアアア、破ッ!」


 全力で殴りぬける。


 バイアクヘーの身体が宙を舞い、重力に引かれて砂浜へと落下する。砂浜にはバイアクヘーの口から漏れた血が線となり、私の立ち位置から落下地点まで点々と続いている。


「はぁあー……はぁあー……」


 全力で拳を放ったから、その反動が身体を襲う。こんなに力いっぱい殴ったことなんか人生で一度もない。


荒い呼吸を静かに整える。


 短い攻防だったが、まさに一瞬、一瞬の思考にミスがあれば、倒れているのは私だっただろう。


 吹っ飛んだバイアクヘーは口から血の泡を吐いている。私の渾身の一撃だ。そうそう簡単に立ち上がってもらっては困る。しばらく、どころかこのまま永遠に倒れていてくれればいいのだが――


「ほほー、上手い攻撃を当てることができたようじゃな!」


 あ、師匠……


 そういえば、師匠がいるのを忘れていた。


 まあ、いちいち師匠のことを考えていたら勝てなかったから仕方ないよね……?


「ええ、なんとか勝ちをもぎ取りました……」


 本当になんとか……だ。正直、肉体の疲労よりも精神的疲労の方が多い。接近戦に持ち込まなければ精神的疲労はなかっただろうが、代わりに肉体的疲労、最悪の場合は命そのものが危なかったかもしれないが……


「うむ? 勝ちをもぎ取った? お主は何を言っているのじゃ。 いつ、価値をもぎ取ったのじゃ?」


「えっ……?」


 師匠、何を言っているのですか?


 だって、奴は確かに……――


「ほれ、見てみぃ」


 師匠がバイアクヘーが倒れているところを指差す。


 途端に全身を嫌な気配が襲う。


 振り返ると、汚らしい色の血を口の端から垂らしながらも、バイアクヘーが立ち上がるところだった。


「――そんな!」


 私の渾身の一撃を食らってもまだ立ち上がるなんて…… 信じられない……


「さて、第二ラウンドの始まりと言ったところかのう。クックック」


 師匠が嫌らしく嘲りを含んだ笑いを漏らす。その笑いが私とバイアクヘーとの戦いの代にラウンドを告げるゴングとなった。


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