師匠!
これまではホラー系統なんか書いてましたが、今度はギャグ系のものを書いてみたいと思い書いてみました!
これから主人公はどんどん強くしていこうって感じなので、そういう話が好きな方はぜひ読んでみてください
「師匠! 私は邪神によって混迷と化した世界を救いたいです!」
私の突然の言葉に師匠は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした後、笑い出した。それも普通の笑いではなく、バカ笑いである。
「かっかっか、何を言っているかバカモノ。お主のようなヒヨっこなぞ邪神どころか、その眷属にすら歯が立たん。寝言は寝て言え」
と、こんな風に私をバカにするが、私は至って大真面目である。
「何を言いますか師匠! 寝言を言う夢の世界だって既に邪神たちによって日々浸食が強くなっていて、呑気に寝てることだってできないのですよ!」
邪神たちの力は凄まじく、人間の考えなど到底及ばないことを平然とやってのける。これまでも大いなるクトゥルフ相手に世界の軍隊がミサイルを豪雨の如く、叩き込んでやったのだが、それも大いなるク
トゥルフには全く通用せず、おまけにただの腕の一振りによって発生した大津波によって世界最高の艦隊は海の底へと姿を消したのだった。
そんな、圧倒的力を持つ邪神が現在世界各地で大暴れしているのだ。フォマルハウトから到来したクトゥグアは一瞬で都市を灰に変え、大いなるクトゥルフと並ぶハスターはイタクァをリーダーとしたビヤーキー軍団を配下として、人類への一斉攻撃を開始した。
「むぅ、確かにお主の言うことも一理あるな。このまま死を待つのもバカらしいか」
師匠も思うことがあるのか、いつもの人を小馬鹿にしたような表情を改めて、真面目な表情になった。
「そうでしょう師匠。このまま無残な死を待つならば、こっちから打って出ようと思うのです」
「しかし、世界の軍隊が一致団結しても歯が立たなかった邪神どもじゃ。お主では勝ち目なんてものはないぞ? 那由多に一つも勝ち目はないと言ってよい」
「うぬぬ……」
確かに師匠の言う通りだ。私の力では火に挑む羽虫のようにお手軽な自殺に等しいだろう。いや、火なら那由多に一つ、勝ち目でもあるだろうが、相手は人知を超えた全能すらも超越した邪神群だ。最初からやるだけ無駄なのかもしれない。
「師匠! それでもなんとか戦う術は無いのですか?」
私の鬼気迫る表情に師匠は顎を撫でる。
暫くの間、無言だったが何か策があるのか口をようやく開いた。
「うむぅ、ま、戦うにしても相手が相手じゃ。生半可な力どころか相当な力を持ったとしても勝つことは無理じゃろう」
「そ、そんなぁ……」
ようやく、口を開いたかと思えば、出てきた言葉は勝つことは無理と言うことと等しいことだった。
「待たんか、諦めるのはまだ早いぞ。生半可でもそうとうな力でもダメなら――」
「ダメなら?」
私は期待を込めて師匠の言葉を反芻する。
「絶対的な神さえも超える力を身に着ければいいのじゃ」
師匠の口から出た言葉は最初に私が師匠に言った、世界を救うと同じぐらいバカなことだと思った。
「お主、今、絶対に無理と思ったじゃろ?」
そんなことを言われれば、私は素直に、
「ま、まあ……」
と、言うしかなかった。
「まったく、情けない娘じゃのう」
師匠が私はザ・情けないと言う表情で見つめてくる。
「自分で世界を救いたいなぞと戯言を言ったわりには神を超えるのは無理とは……、情けない、ああ、情
けない。世界を救いたいなら神をも超えてみせんか! そもそも、お主はどうやって邪神と戦おうと思っ
たのじゃ?」
どうやってって言われても……
「それは……銃器や魔術で……」
私の言葉に師匠はまたも呆れた表情をした。
「そんなものに頼るな。それにお主が使ったところで付け焼刃じゃ。邪神はともかく下級の者にさえ十分な効果は得られないだろう」
「それじゃあ、どうやって神を超えられると言うのですか?」
師匠に言われた通り、私の魔術の腕前は平均よりもちょっと下。銃器に至っては一回も撃ったことがない。それでも、何もできないよりはマシだと思ったのだが……
「うむ、例えば、お主が子供だとして、近所のガキ大将を倒すためにはどうする?」
「が、ガキ大将ですか?」
いきなりガキ大将と言う言葉が出てきて驚いた。しかし、驚いている暇はない。
「仲間を連れて袋叩きにしてみようと思います」
「圧倒的に強いから近所でガキ大将と言われてるのじゃ、有象無象が集まったところで勝ち目はないぞ?」
そんなこと言われても私の住んでたところにはガキ大将なんていなかったし……
「わからんか?」
私は必死に想像する。どうすれば、ガキ大将を倒せるのかを。
そして、一つの答えに行き着いた。それも極単純なことに。
「自分を鍛えて、強さで圧倒する……ですか?」
「うむ」
師匠は頷いた。満足と言った表情だ。
「ガキ大将と言えども、所詮はガキ。ならば、鍛えて挑めば勝てぬことなぞない」
まあ確かに鍛えればガキ大将ならばなんとかなりそうだけど……
「師匠、私はガキ大将が倒したいのでは、邪神を倒したいんです。規模が違いすぎますよ」
「バカモノ。規模が違えど、通りは同じじゃ。己が身を鍛えることで神を超えるのじゃ」
む、無理だ! 身体鍛えて、邪神が倒せるのならこの世は筋肉だらけだ。それができないから、皆、あ
らゆる手で邪神と戦おうとしているのに……
と、言っても、もはや邪神に挑もうなどと考える者自体が酔狂と言われる世の中であることは間違いな
いが……
それに――
「師匠、さっきは銃器や魔術に頼るのはやめろって言ったじゃないですか」
その言葉に師匠は、
「当たり前じゃ、お主のような貧弱で不器用な娘がいきなり銃器なんかに手を出しても意味がないじゃろ
う」
「銃器はそうかもしれませんが、私は師匠に魔術を教わっているんですよ? 魔術方面で鍛えたほうが効
率がいいじゃないですか!」
師匠、師匠とここまで言ってましたが、この人はなんと私の魔術の師匠なのです。名前、通りなはいくつもあり、私が知っている名もその一つなので、私は師匠とだけ呼んでいる。
私はおかしいことを言っているつもりはないのだが、師匠は私の言葉を一笑に伏した。
「お主のようなできの悪い弟子の魔術をいくら鍛えても邪神には通じぬ。銃器も一緒じゃ。例え、連続でミサイル並みの威力の弾丸を発射できる銃器を使えたとしても、やつらには通じぬ」
えー、師匠、それっておかしいように思えるのですが…… なんてことは素直には言えない。遠回しに、
「身体を鍛えても同じようなもんだと……」
小声の抗議しかできない。
「まあ、身体だけ鍛えてもそうじゃろうな」
「じゃあ、他に何を鍛えればいいのですか?」
魔術ダメ、銃器もダメ。それで身体以外に何を鍛えればいいと言うのだろうか。私には皆目見当もつかない。
「心じゃ」
「心ですか……?」
そんなこと言われてもなぁ。心を強くしたぐらいじゃ、邪神には勝てないと思うのですよ、師匠?
「強き心はときに世界、いや、神さえも超える。そう思わんか?」
「そう……なのですか?」
「そういうものじゃ」
「そうなんですか……」
そんなことを言われても…… 師匠、根性論では邪神には勝てませんよ……
「お主は妾を誰と思っておる?」
「私の魔術の師匠だと思っています」
また、いきなりわけのわからないことを言う師匠だ。見た目は可憐な美女と美少女の中間ぐらいだが、
さすが魔術の師匠、その年齢は数百歳とも言われている。しかし、とうとうボケが始まってしまった
か……
「ぬ? お主、妾がボケてきたかと思っているな」
「め、滅相もありません!」
心の中まで読んでるのではないだろうか。
「まあよい。さて、そう妾は魔術師じゃ。だから、世にも珍しい呪具をいくつも持っているのは知っているな?」
「まあ……」
「そこでお主にある呪具を授けようと思う」
「師匠~、身体を鍛えろと言っときながら、呪具に頼るのはどうかとおもいますよ~」
「茶々を入れるな」
そう言って師匠は私の頭を叩いた。
え、? 私、間違ってないよね!?
「それにその呪具は普通には機能しない。いわば、何の変哲もないものじゃ」
「それじゃあ、持っててもあまり意味が無いようにも思えますが……」
またしても師匠の拳が飛んでくる。
「だから、言ったじゃろう。普通にはと。その呪具は心と身体がある領域へと達したときにお主を変えてくれる」
「え? 私、人外になっちゃうんですか!」
嫌だなぁ。邪神を倒すのに人外になったら、むしろ人間側ではなく、邪神側じゃないですか。
そんなことを見透かしてか、師匠は笑うと、
「安心せい、一時的な変身みたいなもんじゃ」
と、言った。
それなら、一応安心できるが……
「それで、ある領域ってのはどうすれば達することができるのですか?」
またも師匠は笑った。
「主は察しが悪いのう。これまで何の話をしてきた?」
何のと言われると……、あ!
「心と身体を鍛えろってことですね」
「そうじゃ」
ここまで来てやっと、心と身体を鍛える意味がわかってきた。
「それで、その呪具の名前は?」
「うむ! その名は『トラペゾヘドロン』じゃ」