蟻と爪
グロいっす。自分的には。よく寝る前にこんなものがかけたと、自分でも驚いています。そんぐらい、グロいです。
ただただ、グロイ(と思います)です。
え?ああ、うん。そうなんだよ。
最近、悪夢を見るんだ。
悪夢?悪趣味だなあ、人の悪夢を聞きたがるなんて。
好奇心は大事だけどさ、行き過ぎた好奇心は身を滅ぼすよ。
その夢はね、虫に、食われるんだ。
蛭や蛆なんかじゃないんだ。
蟻なんだよ。
蟻にね、一寸づつ、一寸づつ、本当に、気づかないぐらい、啄む様に、肉を毟り取られていくんだ。
けれど、その痛みは、うん、まるで何万本もの針を、一箇所に刺すようなんだ。
そんな痛みがね、体中で、何年も何十年も続くんだ。
延々と、蟻はむしり続けるんだ。体中のあっちこっちで。
でもね、傷が治る速度と、蟻に毟られて肉が減っていく速度、あんまり変わんないんだ。
蟻はね、最初、体中を歩き回るんだ。
くすぐったいんだよ。さわさわと、羽でなでられるみたいで。
でも、いきなり激痛に包まれるんだ。
蟻はね、関節は襲わないんだ。
落ちちゃったら、痛みが減るから。
まず、蟻は一匹だけくるんだ。
それでね、頭に卵を産み付けるんだよ。
するとあっという間に孵化してね、どうだろう十匹くらいかな、皮膚を破って飛び出てくるんだ。
痛くは無いんだ。ただ、ちょっとピリってするだけ。
最初はね。
生まれた十匹もまた、卵を産むんだ。
前と同じ場所に、前と同じように、前より大きな卵を、前より深く。
けど、生まれてくる蟻は、ますます小さくなるんだ。
これをね、10回ぐらい繰り返すんだ。
その頃には、僕の全身を覆うぐらいに増えていてね。
痛みも、体中が悲鳴を上げて、地獄に逃げ込むんじゃないかっていうぐらい痛いんだ。
でも、蟻は止めてくれないんだ。
全身に、体中にだよ、散らばっていってね。
一呼吸置いてから、肉を喰いちぎり始めるんだ。
あ、そうそう、思い出したよ。
確かそれを、少しづつ僕の隣のスペースに置いていくんだ。
ちょっとづつ、ちょっとづつ。
イラつくぐらいゆっくりと。
するとね、だんだん人ができていくんだ。
僕から毟り取られた肉片で。
気味が悪いったら無いよ。
皮膚で内臓ができてて、髪の毛が血管で、筋肉が髪の毛なんだ。
そして、髪の毛が骨で、内臓が皮膚なんだよ。
目玉や口は、ひっきりなしに体の表面を沼に浮かぶ枯葉のように動くんだ。
気持ち悪いよ。てらてら光る肉の海に、ヌペっとした顔の一部が現れるんだ。
時々、筋肉になった骨に引っかかってね。
そうすると、ぶるぶると身を震わせるなまこのような指で、引っぺがすんだ。
顔のパーツは体中を漂ってるっていったろう?
じゃあ、顔には何があると思う?
脳みそと蟻がね、互いにむさぼりあってるんだ。頭では。
その表面には、絶えず、鱗のような、でも、ぶよぶよした、蟻と脳みそが透けて見える、肉色をした爪が絶えず生え続けてるんだ。
幾重にも重なって、てんでばらばら、一枚一枚が好き勝手な方向に向かって。
互いに差し合ってね、時にはぽとりと落ちるんだよ。
爪がね。
そうすると、それはいつまでもピクピク、グニュグニュと動き続けて、僕のほうに向かってくるんだ。
当然、僕は逃げられない。
顔まで這い上がってきた爪が、僕の食い散らかされた顔に食い込む!
蟻に食い千切られるより、痛いことがあるなんて。
思いもしなかったよ。
必死で、爪を振り落とそうとしたんだ。
けど、食い込んだ爪は落ちない。
するとそれは僕の顔中に生え始めたんだ!
恐ろしいよ。おぞましいよ。いまだに爪を見ると震えが走る。
必死で、必死でもがいていると、隣の、なんと呼ぼうか、ぬらぬらとした肉の塊がこっちへ来る。
そしてね、あの、熱っぽいような、冷やっこいような、そんな手で僕の頬を撫ぜるんだ。
それから、じーっと僕の目を覗き込む。
爪がのたうつ顔で、爪に覆われつつある僕の顔を。
目を疑ったよ。
覗き込んでいたのは僕だったんだから。
正気を失ったかと思った。
…でも、でもさ!よく考えたらそれは当然だよね!
だってさ、あははははは、僕の体から毟り取られた肉片でできているんだから。
そいつは、僕に囁きかけるんだ。
何回も、何回もね。その内、蟻達も一緒に囁き始めるんだ。
僕が、その囁きに耳を傾けようとしたら、そこで、夢は終わって、目が覚めるんだ。
わかってるよ、そうだとも。
くだらないことさ、ただの夢だよ。
え?僕の頬にぶよぶよした桃色の蛆が付いてる?
気のせいだよ。
だって、たぶんそれは、爪だから。
昨日の夜ね、僕は彼から聞いたんだ。
ほら、僕の肉片からできた、彼だよ。
激痛に叫び身悶えながら。
彼は囁いた、人の幸せは人の不幸の上に成り立つって。
きっと、最初に蟻にあったときには理解できなかったと思う。
でもね、昨日は理解できた。
思ったとうり、今朝、目が覚めても激痛は引かなかったよ。
ほっぺたに、グジュグジュと蠢く、爪が生えていたから。
この爪をね、君にあげるよ。
きっと、蟻達も爪と一緒に君の元に行くと思うな。
それも、夢じゃなく、現実でね。
彼らの望みはね、夢から外に出ることだったんだよ。
君も、気の毒だね。
知りたがりさえしなければ、僕も話さなかったのに。
嘘じゃないよ。きっと、他の人に話をしたさ。
途中で耳をふさいで逃げても良かったのに。
じゃあ、今晩はいい夢が見られるといいね。
僕はきっと、見られるよ。
君、うれしいでしょ?だって、今まで僕しか味わったことのない苦痛と絶望を味わえるんだから。
好奇心が満たされるだろう?
あっははははははははははははははははははははははは………
ほら、ほら、日も翳ってきた!
ほら、ほら、君の背中に一匹の蟻が!
ざわざわと、君の影がうごめいている!
あは、あはは、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
人の幸せは不幸の上に
夢 悪夢 爪 爪の夢 蟻
他に考えてたタイトル。爪にしたら、手の続きっぽいから止めました。クオリティもガクッと下がってるから。こっちのが丁寧に書いたのに。やっぱり、思いつくまま場の雰囲気で書いたほうが、短編はできがいいのかも。