41 「知らない誰か」 「現実」 「誕生日」 「可能性」
ストックのラストです。
連続投稿はこれを機に終わります。
一つできたら投稿するかもしれませんし、今回のようにまとめて投稿していくことになるかもしれません。
あるいは二次創作に手を出すかもしれません。
これからの予定が全く未定です。
ですが、ストックを切らせずに約二か月もの間投稿できたことは本当に嬉しく思っています。
書くことをやめることはあり得ませんので、気長に待っていただけたら幸いです。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
では、本編をどうぞ。
一人の人間が生まれた特別な日。
一年で一度だけあるたった一人の存在を祝福するための日。
「誕生日、ね」
くだらない。
人類が今、何十億居るんだか知らないけど。たった三百六十五日しかない一年に、特別な日なんてあったもんじゃない。
個人の誕生日なんて、歳をとるための日以外のなんだというのだろう。
「まっ、誰にも祝ってもらえない人間の僻みなんだろうけど」
あるいは双子に生まれた者の定めとして、自分の誕生日が常に誰かの誕生日だということを、近くで感じていたせいかもしれない。
いつもそう、誕生日だと考えてしまう嫌な考え。
どうしたって変えられない事実と、もう過ぎ去った過去。
それなのに私は考える。
仲が良ければ、違ったのかもしれない。
誰かではなく、かけがえのない人と同じ誕生日だと思えたのかもしれない。
男女の似てない双子、二卵性双生児。
男勝りな私と、内気な弟。
どこかずれた私と、要領のいい弟。
頑固な私と、柔軟な弟。
感情を出すことがへたくそな私と、へらへら笑って見せれる弟。
最初は偶然だった違いを、私はいつからか別の方向へとわざと走っていた。
憎かった。誰からでも手放しで褒められ、愛される弟が。
苛立った。あいつの酷いところを知らない両親と、なんだかんだ言いながら世話を焼く周りが。
許せなかった。そんな私の怒りを知らずに、愚痴をこぼす袋にしていた弟が。
それでも私は・・・・どこまでも不器用で、『かまってほしい』『褒めてほしい』なんて言えなくて。
何をしても褒めてもらえないなら、何もしない。
そう決意したのはいつだったかは忘れ、私の代わりは全て弟がした。
私がしても褒められなかったことが弟は褒められていて、私は怒られた。
わけがわからなかった。
何かをしても私には利益がなく、弟にはある。なら、それでいいじゃないか。
それでも兄を経由して、頼んでもいないのに陰口の内容だけが私の元へ届く。それ以外の愚痴も、変わらずに私に言われ続けた。
いつからだっただろう、実家にいると胃が痛みだすようになったのは。
いつからだっただろう、突然心臓付近が実際に締め付けられるように痛みだすようになってしまったのは。
「今日だけは、ありとあらゆるところの日付の欄を塗りつぶしてやりたいなぁ」
あぁ、嫌だ嫌だ。
ただでさえ躁鬱の激しいというのに、この日は特に不安定で大嫌いだ。
それなのにテレビを見ても浮かれたバカ騒ぎをしているようなこの時期が、本当に昔から大嫌いだった。
「気分転換に、散歩でもするかな」
どうせ誰からも連絡は来ないだろうし、いやがおうにも日付を見せられる携帯は置いていく。もともと好きではないから、普段からは持ち歩いてこそいるがサイレントマナーだ。
時計だけはつけていこう、どうせ日付の欄は合わせていないから狂っているから問題ない。デジタルではないし。
身内からの連絡もわずらわしくて、しょっちゅう連絡してくるような友人なんてなく、持ち歩く意味もない。しいて用途を言うなら、バイトぐらいだろう。
自分だけの部屋、自分だけの場所。
私は私だけのものをいつも求めていて、手をかけるものだけを大切にして、それ以外をすべて切り捨てる。
だけど、私にはそんな手をかけるものすらない。
興味のない話題、興味のない人間、興味のない物には一切関わらない。
本当に自分だけしかない私には、趣味ぐらいしか手をかける物がない。
重たい、扱いづらい人間だと思う。
それでもそれ以外のやり方など、私は知らなかった。
上辺だけの笑顔もできる。社交辞令的なこともできる。やろうと思えば、何だってできる。
だからこそ、私は全てに警戒する。
全てに対して一歩引き、簡単には超えられないような壁を作る。
その壁を越えてきてくれた者だけに、私は全てを注ぐ。
これは人を、世間を恐れる私の防衛術だと言ってもいいだろう。
まぁ、その防衛が固すぎて、誰ともかかわれないのだが。
そんな自分でもわかりきっていることを、自分の中の汚い感情を殺すように私は外へ出る。
変わらない表情は自分のあらゆる感情を、人に見せたくないから。
「やめるか・・・・考えるのを」
思考を放棄する。どう考えても下にしか行かないときは、
自分の『誕生日』を、ただの『何も変わらない日』と思い込むために。
×
外に出ると、まだまだ冬だと実感するような冷たい風が吹いていた。
空の色は冬と夏じゃ色が違う気がする。
冬の空は色が淡く、太陽すらも優しく陽射しをくれている気がする。
夏の空は色が強く、太陽もそれに負けないように強く輝いている。
どちらも好きだが、私が落ち着くのは冬の空だ。
「・・・・・水仙には少し早いかな」
近くにある公園のベンチに腰かけて、私は白くなる息を意味もなく吐き出した。
「どこで・・・・何を変えればよかったんだろうなぁ」
後悔ばかりの人生だった。
友人の作り方を知らず、人と話を合わせることを知らず、家族すらも億劫でこんなところまで逃げてきた。
それでも学校に通っているのは、惰性だろう。
生きていたくなくて、それでも死にたくはなくて。
ワガママだ、私は。
自分でどうする気もないくせに、欲しいばっかりで。
でも、ないから周囲から逃げてきて。
どうしようもない人間だ。
心の支えとするものすら持てずに、考えれば考えるほど自分自身は空っぽだった。
「・・・・・はっ、どうして生きてるんだろうなぁ」
上を見ると自然と涙が零れてきて、手の甲を目に当てる。
『おいで・・・・こっちにおいで』
「?!」
突然聞こえてきた声に私は体を震わせながら驚き、辺りを見渡した。
遊具があり、砂場があり、私以外の誰もいない。来た時と何一つ、変わってはいない。
「ついには・・・・幻聴かぁ。鬱かな?」
首を振って、もう一度空を見る。
『おいで、恵那』
「・・・・誰だよ、私の名前まで知ってるって」
高橋 恵那 ――― それが私の名前。どこにでもある高橋という苗字に、顔に似合わない響きの名前。大っ嫌いだった。
『おいで・・・・・私の娘よ。いや、私自身よ』
「はぁ? 何言ってんだよ。お前」
そう言いながら、私は立ちあがる。
声がする方向はわからない。でも、歩けばつくという確信があった。
×
「プッ、どこだ? ここ」
適当に歩いてきたし、もう一年もいるというのにこの辺の地理に疎い私はまったく知らない場所に来ていた。
道に迷うと、自然と笑えてくる。まったくどこかわからないし、帰り道なんて裏覚えだ。
あぁ、そういえば、こっちに来たばっかりの時もなれない道を自転車で彷徨ったことがあったっけな。
それで半日無駄にして、あげく携帯を持っていなかったからそこに居た人に道を聞いたんだっけ。
「で? 私を呼んだのは誰? いるんでしょ?」
『あぁ、ずっと君の前にね』
白い光りに包まれた、かろうじて人の形に映る何かが私の前にいる。
「何の用?」
『君は・・・・現状に満足していそうになかったから、少しだけ話をしようかと思ってね』
低い声、丁寧な口調、それはまるで何かの物語の紳士のようだった。
『もっとも・・・・・そうしてしまったのは私自身なのだけどね』
苦笑、だろうか? そんな風に聞こえて、私はそれを睨んだ。
「だから? どうするの? てか、どうしたいの?」
『フフ、そう怒らないでほしい。気持ちはわかるがね』
その余裕そうな声も気に入らなくて、私は苛立ちが募ってきた。
「アンタ、何がしたいの?」
『何をしたい・・・・か。
難しい問いだね、私は語りたいだけかもしれない。自分の考えを誰かに知ってほしくて、ここでこうしている。
ここが自分の世界だと、自分を確実に肯定してくれる場所だと言いたいのかもしれない。
まぁ、確実に言えることは私の頭の中で生まれた君たちを描きたかった、かな?』
私の頬に触れた手は優しく、大きくて、少しだけ硬かった。家族にすら触れられることを嫌う私だが、その手を振り払うのはなんとなく嫌だった。
会ったことのない祖父は、こんな手をしていたのだろうか?
そう思うと自然と、涙が落ちていた。
『君は私だよ・・・・いや、あらゆる物語に出てくる子たちが、私自身じゃなかった日なんてない。
君たちは私の感情の欠片であり、愛しい夢、悲しい現実、焦がれた希望なんだよ』
「・・・・・希望? 私が?」
『あぁ、そうだよ。
君は自分がいらないと思っている。でも、君は私の娘だ。不器用で、人とうまく付き合えなくて、どうしようもなくそんな自分が嫌いな君は私の希望さ。
でも、忘れないでほしい。君はいつでも変われる。
君を見ている人はきっといるよ、こんな私にだっていたんだからね』
まるで幼い子どもにするかのように、私の頭をクシャクシャと撫でながらそれは笑った気がした。
『今も君の中にいる忘れられない名前、それと捨てられずにいる番号を見てごらん?
きっと、その子も君を想ってくれているから。
そして、お願いだ。
どうか、どうか幸せになっておくれ』
「私を、この世界から奪っていかないのね?」
私はそうしてくれると思っていた。
この世界から、私を連れ出してくれるのかと思っていた。
だって、その方が私を知る者なんていないところの方がいろいろ都合は良い。
『そうするのはきっと、簡単だ。
事実、そうした方がいいのかもしれない』
それは私を見ている気がした。誰もが逸らす私の睨みつけたような目を、受け止めてくれた。
『だがそれは、本当に君はそれを望むのかい?
現状から逃げ出して、卑怯者になってまで君は幸せになんてなった時、君は本当にそれを「幸せ」として受け止めることができる?』
その言葉はまるで、自分に言い聞かせるかのように聞こえた。
「・・・・それはない、わね。
卑怯者にだけは、嘘つきだけには、誤魔化すことだけはしたくない」
『いい子だ』
そう言ってそれはもう一度、私の頭を掻き撫でていった。
『お別れだ、私の愛しい娘よ。いたかもしれない私自身よ。
どうか、不器用にも足掻いて、曲がっているようにまっすぐに幸せになっておくれ』
そういって、その存在はそこから掻き消えた。
まるで初めからそこに存在しなかったかのように。
「・・・・・勝手なこと言ってくれちゃってさ。
あーあー、まったく」
勝手に現れて、勝手に去っていって、勝手なことを好き放題言ってくれたその存在。
あれがきっと神さまなんだろう。
適当で、どっかで人間に共感していて、いつも誰かしらことを見ていて、きっと人間のことを見捨てきれないでいる。きっと、そんなお人好し。
「腐ってる方がバカらしくなってきちゃったよ。
せいぜい足掻いてみようかな、いろんなことにさ」
別にさっきの奴に何か目覚めさせられたわけでもなく、何かをいじられたわけでもない。
心を動かすような言葉を言われたわけではない。
でも、前を見よう。
下や自分の背中を見たりするのも、もう飽きてしまった。
「アンタは、こんな私だって希望と呼んでくれたんだからさ」
そう言って帰り道を捜しながら、私は部屋を出た時とは違って軽い足取りで進んでいった。
あの神様が私を選んで産み落とした日。それが私の誕生日なのだから。
いかがだったでしょうか?
実際にいるかもしれない、いたかもしれない、誰かの話です。
書くのに詰まっていた時のものなので、あまりいいとは言えないかもしれません。
ですが、私は書いたことに一切後悔をしていません。
約二か月、読んでくださっていた方々に感謝を。
感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。




