39 「マジシャン」 「二代目」 「青春」 「忘れていた思い出」
非常に珍しく青春ものです。
青春・・・・ってなんでしょうね?
わからないからこそ自分で書いてみました。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
では、本編をどうぞ。
失恋した。
人生の初めての恋、いわゆる初恋というやつだった。
別に特別なもんじゃないだろうし、中学で初恋とかいろいろ進んでいる現代ではむしろ遅い部類に入るんじゃなかろうか。
でも、私は本気でその人のことしか考えられなかったし、気持ちが伝えられないことをもどかしく思って寝られない夜すらあった。
声をかけたくても真っ赤になってる顔を隠して、心臓の音が聞こえているんじゃないかと不安にもなった。
アドレスを交換できたとき、喋ったり、彼のちょっとしたことを知るだけで舞い上がりそうだった。
自分でもちょっと驚いてしまったくらい、私は恋する乙女だった。
「ごめん、俺。好きな人いるんだ。それに・・・・お前のことは友達としか見れないよ」
『どこぞの少女漫画かよ』と思った言葉で私の恋は終わり、友人の恋を応援した。
「真剣に答えてくれて、ありがとう。その人とうまくいくといいね、これからも友達としてよろしくね」
その言葉に言えた自分に乾杯!
偉いぞ、その時の私。今の自分なら絶対に無理。
と いうわけで、年齢的にお酒は無理なので普段はあまり飲まない炭酸を飲みつつ、ヤケ食いです。
コンビニの惣菜って美味しいよね?
チキンとか、肉まんとか、フランクフルトとかをもう手持ちの小遣いを空にするぐらい買った。
どうせ、今月も来月も買ってる本は出ないし。
使い道なんてないんだからと思って、容赦しなかった。
公園でそれをのんびりと食べていると、嫌に目につく白いシルクハットに白いタキシード、顔の上半分を隠した仮面舞踏会で使うような豪華な仮面をつけた人が立っていた。
「マジシャン?」
私の言葉に気づいたのか、マジシャンはこちらを見て口元だけで笑っていた。シルクハットからこぼれている一つにまとめられた髪は日本で多く染めている汚い金髪じゃなく、天然ものなのだろう綺麗な金、おもわず見惚れてしまった。
「これは素敵なマドモワゼル、私をお呼びですか?」
体型も、声も中性的で、男なのか女のかが全く分からない。
「別に・・・・公園でそんな目立つ格好していれば、私じゃなくても呟いちゃうよ。
それにフランス語なら、イリュジョニストって呼ぶべきだったかな?」
「いえ、多くの人がここを訪れましたが素直にそう言ったのはあなただけですよ。あとは幼い子どもばかり、あなたぐらいの年齢から人は素直に何かを言うことを忘れ始めてしまうものですから。
マドモアゼルは博識ですね、マジシャンで結構ですよ。日本に居るのも長いですから、そちらですっかり呼ばれ慣れています」
そう言いながらシルクハットを軽く触れたかと思うと、手を私の前に差し出して赤い薔薇を差し出した。
「・・・・薔薇は好きじゃないんだよね」
私は正直言うと、マジシャンはその薔薇をサッと消し去った。
「ほう、何故です? やはり、棘があるから?」
「違う、香りが高くて、誰もが知っている。とても良いことだし、綺麗な花だとも思うけど、『万人に愛されているから』は私が好きになる理由にはならない。
だから、嫌いではないけど。私はまだ自分から薔薇を好きになったことはない」
私のその言葉にマジシャンは『ほう・・・』と驚いたように呟き、指を鳴らしてステッキを出した。
「ならば、マドモワゼル。あなたが好きなものは何ですか?」
「どうして、私にそんなこと聞くの?」
私のその問いに、マジシャンは顎に手を当てて考える仕草をした。その姿はとても様になっていて、私はおもわず笑っていた。
アレ? 可笑しいなぁ。私、失恋したから八つ当たりくらいはすると思ってたんだけどな。ていうか、それで友達に対して不機嫌丸出しだった気がする。まぁ、そのことは後日詫びを入れよう。お菓子でいいかな。
「あなたと私が、今ここで出会ったから」
そう言ってマジシャンは右手でトランプを見せつけるようにしてから、空へと放った。
トランプはどうやったのか、色とりどりの花びらへと変わった。
「散らかすなよ・・・・でも、いいんじゃない? いつもならキザだって、笑ってやるところだけど、今日はそう言うキザな台詞でも聞いていたい気分」
「フフフ、それはよかった。
大丈夫ですよ、トランプに戻りますから。ワン、ツー、スリー、はいこの通り」
そう言ってマジシャンは花びらを手に集めてからその手を開く。そこには先程と何も変わらないトランプがあった。
「私は今よりこのひとときだけは、あなただけのマジシャン。
どうか、お楽しみくださいませ」
そう言ってマジシャンは私のためだけにマジックをしてくれた。
それはどこにでもあるトランプマジックやコインマジック、鳩を出したりする王道のマジックばかりだったけど、気が付いたら私の顔には笑顔が浮かんでいた。
×
どれほどの時間がたったのかもわからなかったけど、日はすっかり傾いてマジシャンは赤くなった太陽を見つめた。
「さて、マドモワゼル。私のマジックはご満足いただけたでしょうか?」
「まぁね、ちょっと失恋して気分が堕ちてたんだけどさ・・・・なーんか、楽になっちゃった。
ありがとう、マジシャン」
私がそう言って笑ってみせるとマジシャンも笑い、掌を見せて何もないことを示してから私の手を左手で取って数個の飴玉を落とした。
「いえいえ、こちらこそ。美しいマドモワゼル」
「プッ、美しいなんて・・・・・私からは程遠い言葉だよ、マジシャン」
もらった飴の一つを口に入れながら、私は飴玉の一つをマジシャンへと投げる。
「話、聞いてもらってもいい?」
「なんなりと」
右手を胸元に当て、軽く頭を下げる姿は不自然さなんてない自然すぎる動きで。
夕日に照らされる白い衣装も、目元を隠す派手な仮面も綺麗だなぁと思った。
「じゃぁ、隣に座ってよ。もう、観客と出演者じゃないでしょう?」
「それもそうですね。では、失礼します」
大した音をたてることなくマジシャンは私の隣へと座り、手を握ってそこから二つの暖かな缶の紅茶を出してくれた。
「紅茶はお好きですか?」
「うん。ありがとう・・・・・どっから話そう、今日から話そうか、それとも始まりから話すべきなのか」
私がグダグダ言っていると、マジシャンは紅茶を開けてゆっくりと飲み始める。
「ゆっくりと話してください。そしたら、私の話もぜひ聞いてください。マドモワゼル」
その言葉に私は頷いて、ゆっくりと語りだした。
最初はね、なんとなく目に入っただけだった。
別に『かっこいいから~』とか、『何かができるから~』とかで惹かれたわけじゃないんだ。
あるゲームのことで話してたことがきっかけ、それが楽しかったってだけでさ。私はちょっとおかしいくらいその人のことが、気になったんだ。
理由がわからなくて、どうしたいかもわからなくて、とりあえずいろんなことを話してみることにした。女らしさとかはあんまりないから、ありのままにゲームとか普段のこととか誕生日とか、アドレスもその過程で交換した。
思い返してみれば話してる内容が全く色気もなくてさ、フラれて当たり前だったんだろうけど。
うーん、それでも私はきっと好きだったんだろうなぁ。
他から見たら『恋愛』にすら、まともになってなかったのかもしれないけど、告白して、フラれて、儚くても短くても、私は『恋』とやらをしたんだろうなぁ。
誰かを好きになるって・・・・何なんだろう?
なんとなくで見つけて、共有することもなく自分で抱えて、相手に伝わらないときも相手の一挙一動に振り回されて、でも相手のことを知りたくて・・・・
伝えても実るとは限らないのに、人はそれを繰り返す・・・・なーんて、人間代表ってわけでもないのにね。考えが壮大になっちゃうなぁ。
さっき言った通り、あっさりフラれてここでヤケ食いしてたら、あなたに会ったんだよ。マジシャン。
私の話はこれでおしまい、あなたの話を聞かせてよ。
私を美しいなんて言う、物好きなフランスのマジシャン?
フフ、やはりマドモワゼルは素敵な方だ。いや、実に面白い。
私は最近亡くなったある有名なマジシャンの跡取りでして、実家にいると周囲の目が煩わしくてたまらないので、ちょっと逃げてきたのですよ。
そう・・・・・・私は、あの世界を魅了した日本人マジシャンの二代目です。
ですが、私は幼いころからマジックが大嫌いでした。
どんなマジックも父と引き合いに出され、少しでもやれば『将来はあとを継いでマジシャン?』ですからね。
子どもの頃も・・・・一度だけ、逃げました。
父の日本公演の時、右も左もわからない日本で私は呆気なく迷子になりました。
当然です、まだまだ子どもで感情のまま泣きながら走ったんですからね。
そうしたら・・・・私と同じように泣いている子が居ました。
・・・・えぇ、そうです。笑わせたかったから、マジックをしてみせました。
嫌いだというのに、いつも持ち歩いていた道具で拙いマジックでね。
生まれはフランスで言葉なんてわかりませんでしたが、表情だけは万国共通ですから。その子が笑顔になるまで、私は必死に続けましたよ。
驚いていた表情が見る見るうちに笑顔に変わるんです。綺麗な、飾ることを知らない優しい野の花のような暖かな笑顔でした。
嬉しかったんです、その笑顔が。
他の誰でもない、自分がこの子を笑顔にできたんだと思うと誇らしくて、もっと笑顔が見たいと思いました。
そのあとは周りの声も聞こえなくなりました。
ただ、今回ばかりは堪えましてね。父が死んだことには正直、一切ショックを受けてません。
覚悟していましたから、付き合いの長い病でしたからね。
父は死んで誰にも超えることのできない偉人になり、その栄光は美化され続けることでしょう。
死者を超えるなど、できるわけがありません。最早そこには、いないのですから。
私のマジックは父から教わったものなど、何一つとしてありません。
何度父に『自分の公演に付き合え』と誘われても断り、『私は私だ』と私自身が思っていても、周囲はそう思ってくれません。
だから、昔と・・・・・幼い頃のように私は逃げたんです。
見つけたこの公園で、マジックだけを繰り返してたんですよ。
「その子に会いたかったの?」
私が問うと、マジシャンは少しだけ口元をゆるませた。
「かもしれません。
あの日、私があの子を笑顔にしたかったのに、私が勇気づけられてしまったんです。あの笑顔に」
「その子、どんな子だったの?」
「そう、ですね・・・・マドモワゼルと同じような髪色をして、長めで、あの時私は薔薇なんて持っていなかったので、確かタンポポで同じマジックを・・・・」
ほんの好奇心で聞いたことにすらすらと答えていくマジシャンの言葉は途中でとまり、突然私をじっと見つめてた。
うん? タンポポで同じマジック?
『きれーい、あなたの髪もタンポポとおんなじでとってもきれい』
「あっ・・・・」
思いだした。ここで私・・・・昔も泣いてたんだ。
おじいちゃんのお葬式が終わって、おじいちゃん家にいつものように行ったとき、おばあちゃんしかいなくて、この公園の今はなくなっちゃったブランコで、一人で泣いてたんだ。
「・・・・・あぁ」
マジシャンの声から嬉しそうな溜息が零れて、口元を押さえて震えていた。
「「ありがとう(ございます)。今も、あの時も」」
二人で重なった言葉に互いに顔を見合わせて、二人で声に出して笑った。
「偶然とは・・・・あるものなのですね」
驚いたように呟くマジシャンは、右手でタンポポを私へと差し出した。私はそれを受け取りながら、逆の手で縛られていた金髪に触れた。
「綺麗・・・・・あの日と変わらない綺麗な色。私の好きなタンポポと、同じ色」
「言葉がわかるとは素敵ですね、きっとあの日も同じような素敵な言葉を私にくれたのでしょう?
ありがとうございます。素敵な女の子だった、美しいマドモワゼル」
そう言って手袋をつけた手が私の手を取り、まるで物語の騎士のように私の手の甲へとキスをした。
「お会いしたかった。ずっと、ずっとあの日から」
「私は忘れてた・・・・・でも、タンポポが好きになったのはあなたとの思い出の欠片だったのかもしれない」
私が正直にそう言うと、『それでもかまわない』とでもいうように首を横に振った。
「よいのです。それで過去が変わるわけでもありませんし、あなたは思い出してくれました」
私たちは示すこともなく立ちあがり、かつて出会った場所・・・・・ブランコがあった場所に吸い込まれるように歩いていった。
もう何もない場所、ぽっかりと空いたスペースになってしまっているそこには確かに私たちの思い出があった。
俯いて泣いていた私と、目を真っ赤にしていたのに私を笑わそうとしていたマジシャン。幼い自分たちがそこに居るように見えたのは、気のせいだろうか?
「それで・・・・いつまでこっちに居られるの? マジシャン」
「今日までですよ、マドモワゼル。
父の葬儀も終わりました。私はまたフランスへと、帰らなければなりません」
そう言って私から軽く距離をとったマジシャンへと、私は問う。
「ねぇ・・・・また、会える?」
「マドモワゼル、あなたがそれを望むなら。
私はマドモワゼルを、日本から攫ってしまいましょう」
「フフ、本当にできるのかしら?」
挑発するような言葉が出た自分自身へと驚きながら、マジシャンは笑った。
「できますよ? 何故なら私は、あなたのマジシャンですから」
口元しか見えてない笑顔の筈なのに、私はその笑顔に見惚れて顔が熱くなるのを感じていた。
恋だと思っていた物とはまた違う、心に音をたててはまっていくような不思議な気持ちだった。
×
何があっても学校はある。
それは当たり前すぎて、私は今教室に居て、窓を見ながらマジシャンのことを考えていた。
あの後、私とマジシャンは結局名乗り合うこともせずに別れた。
手を握ることも、アドレスを交換することも、互いの趣味を話すわけでもなく、一緒に居るだけで十分で、当たり前だとでもいうように。
「・・・・・・今日か」
彼はきっと今日帰ってしまうのだろう、私にはエッフェル塔しか浮かばないような場所へと。
多くの報道陣に囲まれながら、私が見たあの姿で。
「私が望むなら・・・・なら、やってみなさいよ。バカ」
『では、ご覧に入れましょう。ワン、ツー、スリー』
そんな声がどこから聞こえてきて、『ついに幻聴かぁ、末期だなぁ』と思って目を閉じると
そこはもう教室ではなくなっていた。
「やってみせましたよ? 湊 悠月さん」
得意げに私の前で笑う顔は目隠しを外しただけの昨日の姿のままで、私はその手に抱かれていた。
「・・・・どうやったの?」
私が呆然としてそれだけを呟くと、マジシャンは報道陣から私を守るように強く抱きしめて私へと目を合わせた。仮面の奥から見える青い目はキラキラと輝いていた。
「さて、どうやってでしょう?
ですが私はマジシャンですから、あなたにこう答えましょう」
マジシャンはそう言ってから楽しげに自分の口元に指をあてて、私へとウィンクをした。
「タネも、仕掛けもございません♪」
いかがだったでしょうか?
正直に言いますと、最後の一言を言わせたかっただけです。
作者がマジシャンの決めゼリフだと思っているこの言葉を言わせたいがために、この作品は生まれました。
感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。




