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38 「稲荷神社」 「髪留め」 「初恋」 「別れ」

前回の宣言通り、ここから数作自信がないものが続きます。

もっと書き直したらよかったんじゃないかとも思っていますが、これが完成です。

少しでも楽しんでいただけたらいいなと、思っております。


読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

では、本編をどうぞ。

「たとえ、僕が僕でなくなっても・・・・僕は君を守るから」

 少年は歌うように、少女へとそう伝えると駆け出していく。

 二人を追っていた薄暗い何かへと、立ち向かっていった。

「待って! 行かないで!!」

 少女の声に少年は振り返ることもなく、人でないことを表す狐の尻尾を揺らしながら、その後ろ姿を少女は見送ることしかできなかった。


×


 時は変わり、その六十年後。

 かつて少女だった女の子は、年老いて立派な稲荷神社の前で佇んでいた。緋袴に白装束、真っ白になった髪、今はただ静かに手を合わせていた。

 その双眸はゆっくりと開き、凛とした強さを持つ瞳が露わとなった。

「今日も来ましたよ。あの日から毎月、同じ日に、こうして神社が立つ前から来ていましたが、どうやらそれも今日が最後となりそうです」

 どこか嬉しそうに、寂しそうに、老婆はそこにいるかもしれない誰かへと語りかけた。

「あなたと出会ったのは偶然で、仲良くなったのは一瞬のことで、遊んだのは・・・・きっと二時間にも満たなかったというのに。別れるのだけは早くて、こうしているかどうかもわからない・・・・あなた自身かどうかもわからないあなたへと、手を合わせる時間は六十年。私もよく飽きることなく通ったものですね。

 夫はあなたに嫉妬するし、幼馴染たちは呆れ果てていましたよ。『一度消えてしまった存在を、ましてや妖怪をどうしてそう思えるのか』とね」

 老婆はただ静かに、語りかける。

「妖怪でも私はよかったんですよ。ただ『日本陰陽師協会』の当主の娘などと言う、子どもには何ら関係ない飾りによって・・・・大人が子どもを遠ざける。

 その中であなたは、大人に見つかったら消されるかもしれないのに手を伸ばしてくれました。

 嬉しかったですよ、とても」

 皺深い手を胸の前で重ねて、ほんのりと頬を染めるその姿は恋する乙女そのもので、そこには本当に嬉しそうな笑顔の花が咲いていた。

「権力の前に臆して手を伸ばすことを躊躇って、自分たちの力が対等になるまで決して手を伸ばそうとはしなかった幼馴染たちよりも、婚約者となるまで仕事仲間程度でしかなかった夫よりも。

 私はあなたを愛していました。ずっと、ずっと私の初恋はあなたの物です。名前も知らない、ただ遊んでいただけなのに、私を守ってくれた・・・あなたのもの」

 立てかけていた木製のシンプルな杖をとりながら、彼女はゆっくりと神社へと背を向けた。

「そう、これで最後・・・・・神となりかけているあなたにたかる悪霊たちを祓う仕事はこれで終わり。六十年という時間の中で集めたあなたへの信仰を使って、私はあなたをこの土地の神にする。そのあとは、私の孫娘たちがあなたを守ってくれるわ。素晴らしいのよ? 私の孫は。

 一番上の子はね、あの年齢で私が出来なかった霊力と儀式に長けているの。それにね、その子の下の孫娘も剣術に秀でていてね。三番目の子は自分には何もないなんて言うけど、そんなことはないわ。自分のことを理解してあの子は行動できている。多分、大器晩成型なのでしょうね」

 そう言って彼女は杖から刀を抜き放ち、懐から数枚の札を取り出して指に挟んだ。

「おいで、(みずち)

 彼女がそう声をかけると半透明の青い色をした、5メートルほどの龍がどこからか現れる。彼女は膝をついて、置いてあった鞄へと手を伸ばして折りたたまれた薙刀をしっかりと固定して地面へと突き立てた。

「戦いの片手間に儀式を展開・・・・・こんなことをできることが協会にばれたら、私はどんなモノとして見られるかしらね」

 彼女が言った瞬間に本堂は光放つ円に包まれ、それに吸い込まれるように多くの黒い邪が集まりだす。

 言葉とは裏腹に彼女は笑顔だった。まるで『人外』と思われることが嬉しいかのように、それをずっと望んできたかのように。

「蛟、好きにお食べなさい」

『はーい、おかあさん』

「そうね・・・・・あなたを生み出した時点で、私はもう協会の頂点になったんだったわね」

 今、ようやく思い出したかのように呟き、刀を握りなおす彼女はとても楽しそうだった。

 霊力を元にして生み出す式神、それの形は複雑であることが霊力の扱いに長けていることであり、大きさこそが霊力の数値を表す。

 彼女は蛟を生みだしたのは十五の時、その時点で協会の頂点に君臨し、今もなおその座に君臨し続けていた。

「・・・・こんな座なんて別に欲しくなかった。まぁ、ここを守ることを独断で決められたということだけを見れば、力は持っていても不便ではなかったのですけど。

 爆っ!」

 そう言って集まりつつある餓鬼どもへと霊力の風で札を貼り付け、言葉通り爆散していく。

 爆風の中を、老体とは思えぬほどの軽やかな動きで刀を振るっていく。爆風から生まれる炎すら制御しきっているかのように、その衣服に汚れは見られない。

「まだまだ小物ばかり・・・・準備運動にもなりませんね。おっと、儀式もでしたね」

 そう言うと彼女は手元だけで印をきり、わずかな間目を閉じ、聞き取れぬほどの小さな声で何事かを呟く。

「っ! どうして」

 目を開き、本堂からずれた草むらを見やるがそこには何もいないように見える。

「・・・・・白帝、行ってくれますか?」

陽華(はるか)嬢がワシを頼ってくれるのはいつ振りじゃ? 嬉しいのぅ』

 年老いた声の白虎が彼女の影から姿を現し、嬉しそうに尾で彼女の体に触れた。

「私ももうずいぶんと老いましたよ・・・・白帝。ここまであの子たちの気配を気づけないのですから」

『それとて、全盛期の半分程度じゃ。今のお主にも届かぬものは、星の数ほど()るじゃないか。それでは行ってくるかのぅ』

 風のように音だけを残してどこかへと消える白虎を見送り、彼女は不意に空を見る。

「・・・・私は今日、死んでいいと思ってすらいるんです。望んで手に入れることができたのはこの社だけ、ここを守り通して死ねるのなら私は本望なんですよ。

 蛟、刀を・・・・水刃をください」

 龍から吐き出され、剥き出しの刃となっている刀が落ちる前に持ち手を握り、彼女は二刀となった。

 揺らめく水面のような刃と揺らぐことのない鋼の刃、その二つを握って彼女は目を閉じる。

「いくら力があっても、ここを守っても、何もないのかもしれない」

 一度消えてしまった命の欠片が、ここに集っていればいいと願った。

 思い出の地に神として、彼が別の誰かになっていたとしてもかまわないと思ってただこの地を守り続けた。

「あなたである確証もない、あなたであってもあの日に出会ったあなたはきっともうどこにもいない。わかっています。他の誰かにわざわざ言われずとも」

 壊れた命は再生できたとしても、記憶はない。

 それは、少女が出会った少年ではなくなるということ。

「それでも私は守りたいのです。

 あなたがあの日、理屈ではない何かで私を守ってくれたように」

 そこにいるのは年齢も、まして種族も関係なく、ただ愛しい者を守ろうと恋する女性。

「今度は私が、あなたを守ります。

 たとえこの命がこの儀式が終わるまで儚く散ってしまうものであっても、全てを終えるまでは・・・・私はあなたのために咲き誇りましょう」

 気迫と殺意を纏い、日暮 陽華は修羅となる。

 六十年前の恩と、抱き続けた初恋と、全てが無為だったなどと誰にも言わせないために。


                     ×


黎華(れいか)姉さん、舞華(まいか)姉さん・・・・白帝さんが気づいたみたい」

 眼鏡をかけた陽華の末の孫娘である咲華(しょうか)は、判断を仰ごうと二人の姉を見る。

「そうね、お祖母様はどうしてこんな社を保護しているのか・・・それにあの装備も」

「薙刀に、愛刀と白爺と蛟・・・・かなり本気出してんなぁ」

 二人は双眼鏡を覗きつつ、冷静に装備の分析しつつも理解できないと呟く。

『陽華嬢も大変じゃな、こんな孫娘を三人も抱えておる』

「「「!?」」」

『ほっほっほっほ、良い反応じゃ。じゃが、全盛期の嬢ほどではない。

 風は吹いたと思えば通り過ぎているもの、動いたときにはもうワシはここに居るよ』

 白帝は笑いながらも三人に軽く牙を見せた。それは何とか隠そうとしている怒りがつい見えてしまったかのように。

『ここは、あやつと嬢の場所じゃ、参拝ならば表に回るとよかろう。

 守る姿を見たいのならば、嬢に言えばよい。もっとも、今回ばかりは許しはせんだろうがの』

「なんでなんだよ! どうしてばあちゃんは、この社だけを特別視してんだよ?!

 どこにでもある社じゃねぇか!」

『そうじゃ、どこにでもある社じゃ。多くの者から見ればそうでしかない場所じゃ』

 最初に吠えた舞華の言葉へと、白帝はなんということもなく答える。

「歴史から見てもまだ若い。お祖母さまが当主になってから作られた社で、まだ六十年しか経っていないわ。それを何故、神へと昇華させようとしているのかがわからないわ。場所だってここは竜穴ですらない」

『そうじゃ、歴史の面からも、地力的な面においてもここはいたって普通の場所じゃ。

 何も特別なことはない。むしろ、歴史的には浅く、神になるには少し早すぎると言ってもよい。いや、陽華が定期的に訪れたというだけでこの地には少し変動が起きておるかもしれんが・・・・いずれにせよ、大した場所ではないの』

 黎華の言葉に白帝は頷き、むしろそれに対して補足の説明すら入れる。

「じゃぁ・・・何故?」

『さての、ワシも詳しくは知らん。知っておるのは嬢だけじゃ』

「白帝さんも知らないの?」

 咲華は意外そうに見つめ、白帝はその場に横になりつつそれに頷いた。

『嬢はこの地に関して、必要な要件以外は誰にも話そうとはせん。そして、ここの管理だけは他の誰にも委ねようとはせん。六十年間ずっと、な・・・・式神であるワシらにすらじゃ』

「そんな・・・・どうして?!」

 咲華にはわからなかった。自分の霊力を源としている自分の分身、使い魔である式神にすら頼らずにこの地に何があるのかも、どうしてこの社に拘るかも。

『便利な道具として式神を、妖怪を見たくないと。

 昔から頑固に言うておった。ワシはそれが続かないと思っておったよ。いくら口で言ったとしても使う側である陰陽師は式神を道具として使い潰し、妖怪を害であろうと、なかろうと滅するものじゃ。ごく稀にいたとしても人の世を捨てるか、人の肉体を捨てるか、狂うか、いずれにせよロクな道ではない。

 じゃが、嬢はそれをあくまで人の身で成し遂げおった』

 呆れるように、称えるような口振りは虎の表情からは何もわかりはしない。どう思っているかなど見当もつかない。

『・・・・・嬢? まさか、嬢?!』

 白帝はそう叫ぶと慌てたように飛びのいて、去っていった。

「嘘っ? まさか・・・・」

 咲華の表情はこおり、何とかそれだけを言う。

「ありえないとは思うけど・・・・まさかお祖母さまが危機に?」

 黎華は信じられないと思いつつも、双眼鏡をとろうとするが手が震えていた。

「それ・・・・どんな奴だよ」

 舞華は常に腰に掛けてある刀に触れるが、それは手の震えからか音をたてて揺れていた。

 三人には『日本最強』『世界最強』の名をほしいままにした祖母が倒れるさま、危機になるさまが想像することすらできなかった。


                    ×


『嬢?!』

「白帝・・・・三人は?」

『それよりもその血は何じゃ?!』

 陽華の口元から多量の血が溢れていた。外傷があるように見えない。

「・・・病に人は勝てない、勝てぬのなら、せめて自分がしたいことをして死にたいと願っては駄目? それにね、白帝」

 陽華はまるで幼い子どもの様に、白帝へと笑いかける。

「私は自分の体が、この儀式に耐えられないことをわかっていたの。『戦いながら、舞の型に近い形で奉納する』それがこの病を抱えた体にどれほど負担になるか、わかって・・・いたのよ」

『初めから死ぬつもりじゃったのか?!』

 牙をむいて怒鳴る白帝に、まったく悪びれることもなく陽華は頷いた。

「えぇ、そうよ。私は・・・・死にたかった」

 立ちあがりながら、二刀を掲げて彼女は舞を始める。動き一つで妖怪たちは消え去り、腕も足も無駄な動作など一つもない。

「六十年前から、ずっと・・・・己の死よりも他者の死が怖いと知ったあの日から、私は誰よりも死にたかったのよ。

 蛟、ごめんね。きっと、あなたが幼いのは私の心を映しているからなんでしょうね」

『おかあさん、わるくないよ?

 おかあさんのきもち、ぼくわかるもん』

「ありがとう、いい子ね」

 そっと通り過ぎながら、本当の親子のように舞い踊りだす二つの存在は神秘的な美しさを持っていた。

『嬢!』

 責めるような白帝の言葉を聞こえぬふりをして、陽華は印をきる。

「白帝、あなたが止めることはね。予測していたのよ。だから、契約者をすでに私の娘に変えてあるの。

 あの子ならあなたをちゃんと個として扱ってくれる。力でも、神でもなく、あなたとして・・・・・・勝手なことして、ごめんなさい。白帝」

『嬢―――?!』

 白い円の中に吸い込まれるようにして、今あるべき元へと戻される白帝に軽く手を振った。

「許してなんていわない。だから、もし私が死に損ねたらその時に会いましょう。白帝」

『ばいばい、おじいちゃん』

 蛟と共にそう言って、光に吸い込まれた白帝を見送った。

 そして、振り返る。

 そこにはあの日の悪夢が居て、陽華はほぼ無意識に刀を強く握りしめていた。

「さて、終焉にしましょう。私の宿敵さん?」

<いつぞやの食い損ねか、我に食われに来たのか>

 黒い何かは笑い、陽華もまた笑っていた。

「いいえ、あなたを殺しにきたのよ」

 あの日の弱いだけの少女はもういない。逃げるだけの守られるだけの存在はもういない。

「この土地はあなたが居るべき場所じゃない」

<ふっ、吠えていろ。その口ごと、お前を食らうてやろう>

 そんな言葉を吐く黒い塊へと陽華は飛び掛かり、水刃と黒刃を振るう。その動きに合わせるように蛟が氷の粒手を降らしていく。

<ほう・・・・龍か。小娘が、やりおる>

「フフ、私が小娘ならば、老骨には早く退場してもらわなければね」

 冷ややかな笑みをこぼしながらも、その口元からは血が溢れ、無意識のうちに陽華は心臓の近くを握りしめていた。

<病と・・・・・人質もいるな。二つ抱えて、貴様が何を選ぶかは見物よの>

「自分の命以外の全て・・・・そんな当たり前なことを聞かないでもらいたいですね」

<口ではどうとでも言えよう。人間は皆、己の身が一番かわいい>

 陽華の言葉を笑うように、何かは笑う。

「そうだった私を変えたのはあなたですけど、ね!」

 黒刃と水刃を振り、数枚の札を巫女服のいたるところから取り出して他に溢れる小妖怪たちに貼り付ける。

「爆っ!」

 絶え間なく、相手に隙を与えないために攻撃を当てられぬように動きをやめることのない陽華の呼吸は切れだしていた。

<死んでよいと思うならば、動きをやめればよい。我が貴様を殺してやろう。その身より溢れる霊力はさぞ美味であろう>

「あなたに捧げる物など、この肉体にはありません。

 霊力の一欠片も、肉も、血も全て、あなたにだけは・・・・やりはしない」

 ほんの少しだけ立ち止まり、すぐに何かへと駆け出していった。

 六十年ぶりの憎悪と憤怒を持って、陽華は初めて感情で刀を振るっていた。

<ならば、人質を使うまでよ!>

 陽華とは違う方向、先程見やった草むらの方向へ闇が奔ったのを見て、陽華は舌打ちをしそうなほど唇を歪ませてそこへと飛んだ。

「黎華! 舞華! 咲華!」

 三人の孫娘の名を呼び、草むらの中で突然すぎて行動に移せていない彼女らを見つける。

「蛟!」

 とっさに式神を見るが、社の守りを開かせるわけにはいかない。

 結界も間に合わない。ならば、全てを刀で切り払うしかないだろう。

 走る中で一つ目の攻撃を水刃で断ち切る。

 孫たちと何かの攻撃の間に割って入る瞬間、二つ目の攻撃を黒刃が捕らえた。


 だが、三つ目の攻撃は間に合わずに陽華の右の肺を貫いた。


「ガッ・・・・」

 衝撃とともに肺の中の空気が血とともに吐き出され、陽華は数歩後ずさる。

「お祖母様?!」「ばあちゃん?!」「おばあちゃん?!」

「三人とも・・・・お説教したいところですがそんな暇はありませんし、幸いあなたたちには才があります。

 私に手を貸してください」

「「「そんなことより、怪我を

「私はもともと、助かりません。この儀式の完成まで持てばいい方だったのですから、それが少し早まっただけのこと。

 もっとも協会どころか、あなたたちにも言っていなかったことですが」

 三人はこれまで見たことがない祖母のボロボロな姿に驚き、自分たちを庇って死にかけている。それどころか、今まで見たこともないような表情で笑ってすらいて、三人は戸惑っていた。

「あなたたちには、家族にはもっとこの表情を出せばよかったと少しだけ後悔していますが、もう過ぎたことです。

 私の最期の仕事を、手伝ってくれますか? 私の自慢の孫娘たち」

 『自慢』、祖母から聞く初めての言葉たちの中でただその一言だけが彼女たちの胸に射抜いた。ただ自分たちに技を、術を、礼儀作法を教えるだけの厳しさでしかできていないような祖母が、自分たちに助けを求めたのだ。

「やらせてください。お祖母様」

 まず答えたのは黎華だった。その目は先程あった困惑はなく、冷静に物事を見ようとしていた。

「アタシもやるよ、もっともアタシは剣しかできないけどさ」

 それに追うように、舞華が答えた。少しだけ口元に笑みを浮かべ、『ばあちゃんほどじゃ、ないかもだけど』とおどけてみせた。

「・・・・私でも、力になれる?」

 窺うように答えたのは咲華だった。

「自信を持ちなさい、咲華。

 黎華、あなたは儀式の方を任せるわ。知識として知っているでしょう?

 舞華、あなたは黎華を守りなさい。咲華は・・・・私と来なさい」

「「「はい!」」」

  黎華、舞華の二人は社へと走りだし、陽華は咲華を連れだって何かの前に立った。

<守ったか・・・・小娘を連れて、我に勝てると?>

「勝つわ・・・・この子は強いもの」

 黒刃を杖のように使い、体を支えながら、咲華を背に従える。

「咲華、私があなたをこちらに連れてきたのは何故かわかる?」

「・・・・私が儀式にも、剣術にも秀でていないから」

「違うわ、私はあなたに経験を積ませたたかった。自信をつけてほしい。

 捕縛陣、五の型を」

「はいっ!」

 陽華が促すと咲華は印をきり、それにしたがって彼女の式神であるイタチが駆けまわった。

「あなたは自分が何もないという。

 それは違う。弱いこと、自分が何もできないことを知っている者はとても強い。

 事実を知って立ち止まらずに研鑽を積もうとする者ならば、尚更」

<動けぬ・・だと? 我の動きを完全に、止めるだと?!>

 陽華はそう呟きながら、動きのとまった何かを見つめた。

「私は儀式の最中だったから、式神を動かすぐらいしかできなくて・・・捕縛陣なんて複雑なのは組めなかったの。

 全盛期なら、それくらいできたのにね。老いとは、嫌なものね

 それじゃぁ・・・さよなら、私の悪夢」

 それだけ言うと陽華は容赦なく、二刀を振り下ろして何かの存在を殺した。

「これで終わり・・・・私の役目は、やっと終わった」

 陽華はその場であおむけに倒れ、空を見ていた。

「おばあちゃん!!」

「蛟」

 孫が駆け寄ってくるのを感じて、陽華は蛟を呼んであたかも立ちあがっているかのように浮き上がった。

「咲華、あなたは誰よりも自分のことを知っている。あなたはきっと三人の中で誰よりも大きく咲くと思う。『大器晩成』、その言葉を心に刻みなさい」

「えっ? そんなこと」

 戸惑うばかりの孫娘に、陽華は微笑んだ。

「じゃぁ・・・・あなたにわかりやすい目標をあげましょうか。

 私はこの社に蛟を封じる・・・・・・いえ、違う。この子は私と、この地の霊力を混ぜ合わせた存在だから、この地の使いと言ってもいい。この子をあなたが使いこなせたとき、あなたは私を超えた証明になる」

「どうして、私なの? 黎華姉さんでも、舞華姉さんでもなく、私?」

「・・・・あなたがきっと、私に一番似ているから」

「えっ?」

 聞き取れずに、聞き返してくる孫の言葉を聞こえないふりをして、蛟にお願いして樹へと寄りかかる。

「黎華にはこの霊力を詰めた数珠を、この二刀は舞華へ渡してください。それと神となったあの人はきっとあなたを選ぶ。だから、この髪留めをつけなさい」

「あの人って、全然わからないことばかりだよ?!」

「あの人が覚えていたら、きっと教えてくれる。覚えてなかったら、あなたがこの先を・・・・・作ればいい。

 私の時代は終わり、私の体は朽ちていく。それが望んだ死に方で終われるなんて、私はなんて恵まれているんでしょうね」

 蛟は消え、その場へと崩れていく祖母を両手で受け止めた。

 その顔は満足げに微笑み、目を閉じてる祖母を咲華は何もできずに見送った。


 強くなろう、咲華は初めてそう思った。

 それは偶然にも六十年前、陽華がそう決意した場所だった。


いかがだったでしょうか?


途中と最後がもっとよくできなかったのかと・・・やはり思いますね。



感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。

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