37 「学園生活」 「獣人」 「仲人?」 「弱音」
正直に申し上げます。
これを含めた以降の三作品はあまり自信がありません・・・
書けない状態の中で、悪あがきをして書きあげた作品たちです。
人に読んでいただけるほどには整っていると思ってはいますが、面白いと思っていただけるかは作者自身わかりません。
それでも読んでくださっている皆様には本当にただ感謝を。
これからもこんな時はあると思いますが、どうかお付き合いをよろしくお願いします。
ここは獣人の世界、ありとあらゆる獣人が普通に暮らしている世界。
地球と何も変わらない環境の中で、ただ一点『そこに生きる者が人間でなく、獣人に入れ替わっただけ』の何も変わらない世界。
この話はそんな世界のありふれた日常を綴った物語である。
×
「行ってくる!」
宣言と共に立ち上がる狐耳付き恋する乙女の目を見て、私はその雄姿に手を振った。
「おぅ、頑張りなー」
駆けだしていく少女を見送りながら、私は溜息をついて机と突っ伏した。
「はぁ~、疲れたぁー」
「いつもながらよくやるわね、結友」
頭の上から降ってくる溜息交じりの言葉を聞きながら、私は首を回した。そこにはいつもと変わらない綺麗な黒い翼を持った友人である鴉刃 恵理がそこにいた。
「なら手伝ってくだせぇよ、恵理さぁん」
「いやよ、めんどくさい」
「ですよねー」
さっきまで恋する乙女が座っていた席に恵理が座るのを見ながら、机に置かれた二本のペットボトルのミルクティーを見た。
「奢りよ、気にせず飲みなさいな」
「うわぁーい、ここに黒い翼を持った天使がいるぅ。
はぁー、いーきーかーえーるー」
「お茶一本で大袈裟ね・・・それに、それじゃ堕天使じゃない」
ありがたいお言葉にペットボトルを開けてミルクティーを喉に流し込む。冷たくて甘いミルクティーが精神的に疲れを癒し、のどを潤していく。
「それで? 今日はどんな恋路を応援したの?」
「いつも言ってるけど、私は応援なんてしてないよ・・・・・ただ、話を聞いているだけ。他にはなーんにもしてない」
私はこめかみあたりから出ている後ろへ伸びている螺旋状の角を指で軽く触れてから、横に突き出たヤギの耳を上下に動かした。
私はマーコール(山羊の一種)の獣人、宿木 結友。学校中で有名な恋愛相談の達人である。
「それで人の恋愛の悩みを聞いてあげるとか、人が良すぎるのよ」
「相談してくる人を、無下にはできないじゃーん」
机に突っ伏し、腕を伸ばしていると不意に角が触れられた。
「最近、あなたが校内でなんて呼ばれてるか、知ってる?」
別に嫌ではないし、恵理さんだからそのまま角を自由にさわらせる。
「んー、何て言われてんの?」
噂には疎く、最近相談件数が異様に増加してる気がするし。
「『恋の宿木さん』よ」
「アハハハ・・・・・何、その恥ずかしい二つ名。マジですか?」
少しも恥ずかしがらず、むしろいつも以上に冷たい表情をしている恵理さんに問い返す。
「こんなことで嘘言って、私に何か得でもあるの?」
「ないよねー・・・・だから、件数増えてるんだぁ。
おかしいと思ったんだぁ、クラスどころか、学年違う見たこともない子たち来るんだもん」
もう半ば他人事のように、ここ一か月ほど自分のところに来た恋愛相談を走馬灯のように思い返した。
昔から老若男女問わず、私は相談役を担うことは多かった。
教師にしたって、同級生にしたって、生徒会長でもなければ委員長にすらなったこともない私の元に相談しに来る。
最初の内はそれがなぜなのか、どうして私の元に相談しに来るのかがわからず、数人に聞いてみたことがあった。
『どうしてでしょうねぇ? あなた、すごく聞き上手で、話しやすいのよねぇ』
『真面目に聞いて、真剣になって考えてくれるんだもの。つい、相談したくなるの』
『う~ん、男女とか関係なく、君が悩みに対して真剣でいてくれるから。かな?』
そんな言葉をもらってしまっては嫌だとも言い難いし、ついついずるずると相談役を続けてしまった。
(まぁ、その過程でちょっと疲れちゃって、それを見られてしまって仲良くなったのが恵理さんなんだけど)
おもわず恵理さんに見えないように苦笑する。
嬉しい出会いであることには違いないから、後悔はない。
私は私に過信しすぎていたし、彼女もまた自分に対して厳しすぎた。
互いに互いが必要だと思ったからこそあった出会いだと、私はそう信じている。
「あなたに得はないでしょうに・・・・・うまくいったみたいね、今回の恋路も」
「得かぁ・・・」
そう言って恵理さんが見ている視線の先を追うと、そこにはさっきまで私に相談をしていた狐耳の恋する乙女が満面の笑みで、想い人であろう人と共に下校する姿だった。
「・・・・あるよ」
「えっ?」
体を起こしつつ、私はその夕日に祝福されるように包まれる結ばれたばかりのカップルを見守った。
「あんなに幸せそうに笑ってくれてるじゃん? それで十分、私は得をしたよ」
そんな私の言葉に対して彼女は一瞬だけ眼鏡の奥の瞳を丸くし、それはすぐにいつも通りの彼女らしい苦笑を浮かべた。
「それに、今こうして恵理さんにお茶まで奢ってもらえたしねー」
おどけるように笑うと、彼女は苦笑をごく少数の親しい人にしか見せない表情に変えて笑っていた。
「プッ、あなたらしいわ・・・・・本当に」
彼女は鞄を持って立ちあがり、いつも通り私へと手を伸ばしてくれた。
「ほら、見届けたんだから、帰るわよ。
どうせ、疲れたとかグダグダしてたのはあれを見届けるためだったんでしょ? この救いようのないお人よしは」
私の行動は恵理さんにはなぜかバレバレらしい、これじゃおちおち隠し事とかサプライズとかもできそうにないなぁ。
「恵理さんのその言葉、久々に聞いた。『救いようのないお人よし』」
私はその手を取りながら、口元が緩んでいた。
「あの時は・・・・今と全然違うわ」
ほんの少しだけ陰りを帯びた顔、私はそんな彼女の手を引くことでその表情を無理やり掻き消した。
「さっ、帰ろう。お茶のお礼に私はクレープでも奢っちゃう!」
「それじゃ、お茶とは釣り合わないでしょ・・・・でも私は、人の奢りでも容赦も遠慮なんてしない主義よ?」
「・・・・ちょっとだけ、手加減してほしいかなぁ?」
「一度口に出したことは、ちゃんと責任持ちなさい? 結友」
私は後ろから聞こえてくるいつも通り苦笑交じりの声を聞きながら、出会った日と同じように手を引っ張っていった。
×
私は家のベッドへ飛び込んで、天井を眺めた。
あの後、本当に恵理さんは容赦なく高いクレープを頼んでくれて、お財布のライフが尽きかけている。
でも、まぁ・・・・
「それが暗い表情をなくしてくれたんなら、いっか」
苦笑して、ベッド脇にある小さな棚から数冊あるうちの一冊であるフォトアルバムを引っ張り出した。
黒の地に白の文字で『Eternal friendship』と書かれたシンプルなアルバム、基本は緑とオレンジに統一されている部屋の中で目立つ(来た友人曰く『悪目立ち』らしいが)色彩だった。
ページを開くとまだ出会って一年しか経っていない私と恵理さんの写真があった。
写真が苦手だと、不思議なことを言うから最初の内は笑顔よりも戸惑うような表情が多くて、私が不意打ちのように撮ったものが多い。慣れてくれるといいと思って、本人が嫌がるのを知っていながら私は写真を撮ってきた。
「フフッ」
怒るような、戸惑うような、それでもどこか嬉しそうな、とっても不思議な表情をしている一番最初の写真。
たった一年しか経っていないのに、もうずっと前から友達でいたんじゃないかと錯覚するほどの出会いの始まりを思い出す。
場所は屋上、誰もいないと思って行った先に居たのが彼女で・・・・・私はそれを気づかずに、空を飛ぼうとした。
×
(あー、疲れたなぁ)
私は生徒会室から出て、扉を閉めつつそんなことを思った。
(だいたい一生徒にしか過ぎない私に行事のこと、相談されてもね、困っちゃうんだけどなぁ・・・・・それに私、まだこの高校に入ったばっかりなのに)
それでもお願いされると無下にはできず、ついつい生徒会室まで呼ばれ話を聞きにくる私自身に呆れていた。
本当はメールでも相談できるのだし、そちらにしてほしいのも本音だが、やはり相談は声に出して、本人の言葉を聞かなければ相談する側が落ち着かないらしく、お茶とお菓子を出されながら二時間ほど時間を奪われた。
これと言って用事があるわけじゃないし、幸い季節は夏へと向かっていて外はまだ明るい。不意に窓を見ると心地よさそうな風が木々を揺らしていた。
「屋上に行ってみようかな」
最近、相談事ばかりでのんびり風にあたることをしていないような気がする。
考えてしまうとざわざわと高山に住んでいた祖先の血が騒ぎ出し、私は自然と駆け足になっていた。
扉を開けると開放的な空が見えた。
腰ぐらいの高さまである柵と屋上の隅の木々と中央あたりに置かれた花壇、そしていくつか用意されているベンチ。
風と緑と、花の香り。人気があるのも納得な、気持ちのいい場所だった。
昼休みは人が多すぎてここに来ることはないが、人気もないこの時間はいいかもしれない。
柵に沿って進むと、景色が綺麗で、まるでこの世じゃないみたいに感じた。
(あぁ・・・・私はこれに、この景色のまえでは何て・・・・ちっぽけなんだろう)
急に厳重に蓋をして開かないようにして、全ての感情が溢れ出してくるような気がした。
汚れきった感情、不要だと思っていた感情、誰にも見せたくないと思ったから鍵をつけて心の底に沈めておいた。
ドロドロとこの世にあるどんな色よりも薄暗く、重く、汚い感情たちが目を覚まそうとしていた。
『相談? 私じゃなくてもいいじゃない?!』
『みんなが必要としているのは言葉をぶつけることができるサンドバック、誰でもいいのよね』
『たまたまそこにいたから、「話しやすい」なんて建前。
傷ついてもかまわない、どうなったっていい、なんて思われてもかまわないそれが私だったんじゃない?』
『私は相談以外に何かした?
アドバイスなんてしてない、応援なんてしてない、まともな意見なんて出していない。
何にも力になってない。それって、聞く意味あるの?』
『ねぇ、私が居る意味って、あるの?』
『私が、私である必要って、あるの?』
頭の中で複数の私が囁いていく。私が自分で押さえ続け、殺しつづけた否定的な部分。そして、私がいつもどこかで思っていた本音。
でも、本当にその通りだった。
相談してくる人たちが望んでいるのは私から助言ではなく、ただ聞いてもらうこと。
誰と誰が付き合っただとか、誰がどの教師を嫌っているとか、教師がいつ結婚するつもりだとか、どうでもいい内輪のことばかり。
そのせいで望んでもいないのに情報通になっていて、そのことから新聞部からも散々ネタを提供するように言われたこともあった。ついでに勧誘も酷かった。
話して問題ことと、そうでないことを選別する作業は私の神経をすり減らした。
だけど、プライベートのこと、行事のこと、ほとんどが個人的なことだからこそ家族にも言うに言えず、ストレスは胃痛となっていた。
それでも病気にはならずに、市販の胃薬とは友達だった。
「あぁ・・・・痛いなぁ」
また少し痛みだした胃の付近を撫でながら、屋上の中央へと吸い込まれるように歩いた。
風が下から吹き上げるように、それでも砂を巻き上げるほどの力はない風。
緑の香りと土の香り、人の匂いのしない自然の香りだけを運ぶ風が心地よい。
『楽になりたい』
『私が居る意味はない、私が「私」がいる意味なんてない。そうでしょ?』
『誰も私を気にかける人なんて、居ないじゃない』
弱気な自分、拗ねた自分、もう全てに疲れた自分。
見なかったふりをして、存在を否定した自分自身が私へと多くのことを話しかけてくる。
「・・・・そうだね、本当に。そうだよね」
泣くことも、怒ることも、喚くことも、嘆くことも、憐れむことも。
負の感情だと思って沈めていたら、表に出す方法だけを忘れてた。
へらへらと笑って、周りに合わせて、時に相談を受ける。ただ、それだけの私になっていた。
「もう、いいよね。疲れちゃった」
体を倒して、重力に身を任せる。
どうせ、誰も見ていない。
家族ですら私の不調に気付くことはなかった。結局は家族すらも、違う個人だと深く実感した。
友人だという人たちも同じで、私のことをどう思っていたんだか。疑い始めたら、もう本当にきりがない。
あぁ、こんなことを考えて逝くのかと思うと、本当に醜くて最後まで自分を嫌いになりそうだった。
不意に陽光を受けて、紫に見える漆黒の翼が横切った。
私はおもわず素でそれに
「綺麗・・・いいなぁ」
と暢気に呟いていた。
「あなた、馬鹿なの?」
不意に聞こえたその声は冷たくて、投げ出された筈の私の体を抱き上げていた。
「・・・・はい?」
「そう、馬鹿なのね」
「えっと、今のは返事じゃなくて・・・戸惑ったからなんですけど」
漆黒の翼と綺麗な腕、銀縁のシンプルな眼鏡、同学年を表す青のネクタイ。同じクラスの人で、確か名前は・・・・
「鴉刃 恵理、さん?」
「・・・私の名前を憶えている人が居ることに驚いたわ。あなたは・・・宿木さん?だったかしら」
私は頷くと同時に、屋上へと彼女は降り立った。
「・・・・して」
「なにかしら?」
「どうして! 放っておいてくれなかったんですか!?」
(違う。こんなことを言いたいんじゃない。やめて)
普通ならば驚くようなところで彼女は一歩も引くこともなく、私を見つめ返した。
「私は死にたかった! 生きていたくなんてなかった!!
こんな場所で、こんな苦しい場所で! 苦しいだけの生活を終わらせたかった!」
(ヤダヤダヤダ。何言ってるの?)
心は拒否していても、口が動く。
それはまるで私が心の中で押さえつけていた全てが、交代したように。
目からは涙が零れて、喉が焼けつくように痛い。
「みんな、みんな私に相談事を持ってきて、みんなもう自分で答えを持っているのに!
どうしたいか、どうすべきかもわかってるのに!!
『誰かに話を聞いてほしいだけ~』なんて言って、その誰かに私を選んで!
どうでもいい人に話して、自分が少しでも楽になりたいだけじゃない!?」
声がかすれる。息が乱れる。頭が酸欠でくらくらする。
「今、こうして、私がしていることだって・・・・それと同じなのに、こんなことしたく・・・ないのに・・・・どうして」
自分の声だけが大きく聞こえて、頭がぼんやりとしてくる。体中が熱いのに、頭は冷めていく。視界が白くなったり、ぼやけたりして、忙しない。
(頭が・・・痛い。胃も・・・痛い)
視界の中で自分が崩れたことがわかり、それを彼女は支えてくれた。
「ゆっくりと呼吸しなさい・・・・大丈夫よ、ここにあなたを責める人なんていないから。
なんて・・・・・私は誰に言っているんでしょうね。あなたかしら?それとも・・・・私自身?」
背中をポンポン軽く撫でられながら、私は彼女の言葉を聞いていた。
「私の勝手な独り言よ・・・・あなたは偶然とはいえ、私に弱音を、本音を見せた。
私が見せないのはフェアじゃないわ」
支えられながら、私はぼんやりとする頭でそれを聞いた。
「あるところにね、シロオオタカの一族が居たわ。
でも、その一族にある日生まれたのは黒い翼を持った子どもだった。親はすぐに子を捨てたわ、一族の恥だもの。さぞ、邪魔だったんでしょうね」
ベンチに座って、私に膝を貸すと彼女はそっと語りだした。その視線はどこか遠くを見つめながら、自分の黒い翼を憎むように。
「そんな子どもを拾ってくれたのは、愛情深いワタリガラスの夫婦だった。
夫婦には子どもが居なくて、同じ一族の人になんて言われてもその子を子どもだって言い張って育ててくれた・・・溢れるほどの愛情をもらった女の子はすくすくと育った・・でも、女の子に友達はできなかった」
私は徐々にはっきりとしてきた頭で、その翼に触れた。
「じゃぁ・・・私の友達になってよ」
助けを求めるようにすがっているんだと、自分で思ってしまった。
弱音を見せてしまったから、同情のように寄り添おうとしているのは自覚している。
「本当に気兼ねなく、何でも話せるような場所になるから。あなたも・・・恵理さんも私のそんな場所になってよ」
それが彼女と友達なった始まりの言葉だった。
×
今、思い返せば馬鹿なことをしたと思う。でも、その馬鹿な行為で私は親友を得た。
「まったく、何がきっかけになるか。わかったもんじゃないよね」
今、一番新しい写真のページを見ると少しだけ笑顔がうまくなった恵理さんと私が並ぶ。胃薬ともすっかり縁が切れ、相談を受けても潰れなくなった。
「これからも続けるよ・・・・この友情だけはね」
そう言って私はアルバムを撫でて、そっとあるべき場所へとそれをおさめた。
私たちは友情は、きっと普通の人たちが知ったら異常なものだろう。
同情から始まった、互いの傷を知ってしまったから放っておけなくなってしまっただけ。
始まりは友情なんかじゃなかったし、ぎこちないものだったけど私たちは一年間で本当の友人になれた。
何もかも違う私たちを、繋いでくれたのは互いに嫌った自分だった。
もしかしたら、人生に無駄なことなんてないのかもしれない。
なんて思えるのも、たった一人の親友のおかげだと思うと私は携帯をとって恵理さんへとメールを打った。
『私と出会ってくれて、ありがとう』
きっと驚いて電話をかけてくるか、メールでそっけなく返ってくるか。どちらにせよ、彼女の反応を楽しみにしながら送信のボタンを押した。
いかがだったでしょうか?
今回も友情ですね、私の趣味でどうしても女子の友人関係に偏ってしまいます。
ここで突然ではありますが、読者の皆様に一つご質問があります。
これまで30数作品書いてきましたが、どの作品が一番よかったのでしょうか?
悲恋、純愛、コメディ、学園、友情、多少ではありますがアクションもありました。
どれが一番面白かったのか、どうか教えてください。よろしくお願いします。
感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。




