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34 四題なし 部誌改訂 天際翔子の場合

昨日の別視点です。

だから、本当なら34ではなく、33の方が正しいのですが。

物語数なのでこれでお許しください。


読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

では、本編をどうぞ。

 いつだって 気づけばあなたを見ていた


 ただ一人 泰然としていたあなたを

 いつでも 気にかけていた

 そこに理由なんてなかった でも

 あなたと共に居たい と願うようになっていた

 あなたは知っていただろうか?

 私が憧れていたことに

 そして その思い以上に


 ただ あなたと××になりたいと思っていた私に


                     ×


 一歩、また一歩と私 ―― 天際(あまぎわ) 翔子(しょうこ) ―― は屋上へと続く階段を昇っていた。多くの人が部活をしているだろうこの放課後という時間に、私はあるクラスメイトに会うためにそこへ向かっていた。

 屋上へと続く扉の前で立ち止まり、深く息を吸う。

 ここまで来るのはもう何度目になるだろう?

 足が緊張で震え、額に汗が浮かんでいる気がした。いつもここで逃げてきた。

 たった一言伝えるだけなのに、特別な一言でもなければ、愛の告白でもないのに、どうしてこんなに緊張してしまうのかもわからない。

 でも、もう逃げないと決めていた。どんなに怖くても、不安でも彼女に伝えたいから。

 覚悟を決め、扉を開く。

 予想通り、そこには夕焼けの空を夢中になって眺める一人の女子生徒が座っていた。


 私はその時初めて、『言葉をなくす』という言葉の意味を理解できた。


 屋上という、視界の開けた場所に一点の、夕日の(あか)が支配する。

 温かな橙と、橙追いかけるように黄がその紅を包み込む。

 東の空にわずかに除く夜の紺、そこにわずかに見えるのは星と月の淡い輝き。

 そして、その雄大さと共に並べられた彼女の存在が一体となり、そこに一つの絵画が生まれていた。


 私は神秘的なその光景に見惚れ、呆然と立ち尽くした。


「・・・・綺麗」

 私は彼女 ―― 木陰(こかげ) 優里(ゆうり) ―― の言葉で、現実へと戻ってきた。

「ねぇ」

 彼女は突然かけられた言葉に酷く驚いているようだったが、もう言葉にしてしまった。もう『逃げる』なんて選択肢は残っていない。あとは突き進むしかない。

 だから私は、彼女の横を指差して、その言葉を続けた。

「そこ、座ってもいい?」

 彼女が頷いてくれたのを確認しながら、私は彼女の横へと座った。

 口調はいつもと変わっていないと思うが、心臓がバクバク鳴っていて少しうるさい。

「ありがとう」

 そう言って、彼女の視線を追うように私も空を見た。

 そこにはやっぱり広い空が広がっていて、雲や鳥、太陽に星、月がある。


 多くの人に囲まれることに窮屈さと息苦しさを覚えたのは、いつからだったのだろう?

 自分で望んで手に入れた、自分がしてきたことでしてきたはずなのに、私の素を出せなくなっていたのはどこからだったのだろう?

 辛くて、苦しいと思って、時々誰にもばれないように視線を逸らしていた。

  そんな視線の先に偶然いたのが、彼女だった。

 誰と話すでなく、誰と一緒に居るわけでもなく、彼女は今のように空を見ていた。

 閉鎖的な教室の中で、彼女だけがここから浮いていて、私にはその姿がとても自由に見えた。

 羨ましかった。

 妬みも、嫉みもなくただ純粋に、そうなれないだろう自分とは違う孤独への強さを持った彼女を。


「優里ちゃんはいつも屋上で何してるの?」

 自分の考えを振り払うように、彼女にそう問いかける。

「空を見てるの・・・・・・ここが一番、空が近く見えるから。それに」

 彼女はそう言って立ちあがり、空へと手を伸ばした。

「おいで」

 教室では聞いたこともない優しげな声で、まるで呪文のように彼女は小さく囁いた。その言葉に学校の周りを旋回していた鳩の群れが彼女の元へと降り立った。

 頭や肩、腕に鳩をとまらせている彼女はまるでテレビで見たマジシャンのようだった。

「わぁ・・・・」

 感嘆の声がおもわず零れた。

「この子たちと居ると、公園でも少し目立つから」

 少しだけ苦笑しながら、自分の周りに集まる鳩たちを優しく撫でている彼女の顔には、やはり教室では見たことがない優しい笑顔があった。

 少しだけ、鳩が羨ましい。

 なんて思うのはおかしいかもしれないけど、私の知らない彼女を彼らは知っているんだ。

 何の行動もしてこなかった私が『ずるい』なんて思ったら、それこそ卑怯者だ。

「行ってもいいよ?」

 彼女は鳩を見渡してそう言うが、肩に乗っている白い鳩がそれを拒むように首を振った。それどころかさらに甘えるように、その顔を彼女へと摺り寄せた。周りの鳩もその鳩の行動から、彼女へと甘えようと飛び掛かっていった。

「ちょっ、待って! 危ないから、一度には撫でられないってば」

 本当に『あっ』という間に鳩たちに襲い掛かられ、彼女は体勢を崩してその場に倒れてしまった。倒れた彼女の体に次々と鳩たちが乗り、どこか得意げな顔をしていた。

 一瞬呆気にとられて、私はすぐさま我に返った。

「だ、大丈夫?! 木陰さん!」

 私は慌てて、彼女の元へと駆け寄った。私が近づくにつれ、鳩たちは警戒したのだろうすぐさま空へと帰って行った。

 鳩の羽根や羽毛と土埃だらけの制服、少し怒るような、拗ねたような表情。

 なんとなく彼女のそんな年相応の子どもっぽい表情が可愛くて、可笑しかった。

「・・・・・プッ、アハハハ」

 そう思っていると自然と笑いが声に出ていて、私は本当に久しぶりにお腹を抱えて笑った。

「アハハハ、すごいことになってるよ? 制服とか・・・・・ほら、羽根だらけ」

 ひとしきり笑ってから彼女へと右手を伸ばし、左手は彼女の制服についていた羽根をとった。

 笑ったら、なんだか肩の荷が下りたように楽になった気がした。

「・・・・その笑顔が、ずっと見たかった」

「え?」

 うまく聞き取れなかったその言葉を聞き返すと、彼女は何事もなかったかのように私の手を取ってくれた。

「ありがとう、天際さん」

 彼女がさっき鳩たちに向けていた笑顔が、私へと向けられたことが嬉しくて何を言いたいかするりと出てくる。最初にあったあの緊張も、もうすっかりなくなっていた。

「・・・・あのさ、私も時々、ここに来てもいいかな?」

「ここは私の場所ってわけじゃないし、いいよ」

 言葉もなんとなくだけど、不思議なことに遠く感じなくなっていた。

 最初はただの憧れだった。でも、いつからかそんな彼女と話してみたいと思うようになっていた。

「それとさ」

 さぁ、今からちょっとだけ勇気を出そう。

 彼女とこうして話したいって思っていたのを実行できたのだから、もう少しだけ勇気を出せばいい。

 自分が思っていた以上に私は臆病で意気地なしだったけど、今日の私はここまで来れたんだから。

 掴んでいた彼女の手をさらに左手で包むようにして、胸の前まで持ってきた

「私の友達になってください」

 私の言葉に彼女の表情は固まり、動かなくなった。

「もしかして、私嫌われてる?」

 その反応に不安になってしまい、顔を覗き込む。

 嫌われるほど関わっていなかったと思うのだが、無意識に嫌われるようなことをしてた?

 そんな考えが頭に浮かんだ瞬間に、彼女は焦ったように首を振ってくれた。

「い、いや、そうじゃなくて・・・・その、あの、何で?」

「何でって?」

 彼女の問いに意味が分からず、私の方が首をかしげてしまう。

「だ、だって私、教室の隅で隠れて見えないような存在だよ!?

 それに友達だって多くなければ、何か特別にできることがあるわけでもない。あなたとの接点なんてホント、クラスメイトだったってことぐらいしかないんだよ?」

 混乱しているのか、少しだけ早口だった。

 でも、彼女自身は自分で気づいているだろうか。

 そう言う彼女自身がどんなに辛そうにその言葉を言っているかを。

「『クラスメイトだった』。理由はそれだけじゃ、ダメかな?」

 憧れたのは本当だった。気になったのはなんとなく。

 でも多分、友達になりたいって思ったのは彼女があの日、たまたま視線の先に居たから。

「私ね、一年の頃から優里ちゃんのこと知ってた。でも、どうしてだろうね?

 『友達になろう』ってずっと言えなくて、去年から放課後にここに居ることも知ってたのに。結局、今日までかかっちゃった。

 私って意外と意気地なしだってわかった」

 少しだけ恥ずかしいけど、私はこれまでのことを白状した。顔が少し熱くて、紅くなっているだろうことがわかる。

「私も・・・・・ずっと友達になりたかった」

 彼女のその言葉に次は私が驚く番だった。

「でも、私には何もなかった。誰かに誇れるようなことも、誰かに手を伸ばすほどの勇気も、自分が正しいっていう自信もなかった」

 彼女の口からこぼれる弱音、私の知らない弱さ。

「私は弱いよ、とっても弱い。

 傷つきたくなくて、人の中に入っていくことを放棄しちゃったくらい・・・・・こんな私だけど」

 彼女から見た私はどう映っていたのはわからない。けど、私と同じで、自分が弱いことを彼女は知っていた。

 彼女は私へと手を伸ばして、泣きながら微笑んでいた。

 不安で、辛かったことを誰にも言えなくて、周りが怖い。

 気持ちの全部がわかるとは言うつもりはないけれど、その欠片だけはわかる。

「友達になってくれますか?」

 だから、私は彼女の手を迷うことなく、握っていた。

「もちろんだよ。それに私だって意気地なしだもん、支え合えばいいんだよ」

「ありがとう、天際さん」

「ちがーう! 名前で呼び合おうよ! せっかく友達になったんだしさ。ね、優里?」

 自分でも少し馴れ馴れしい気もするけど、私はわざと明るい口調で言った。

「しょ、翔子」

 少しだけ誤魔化すように空を見る彼女の背中へと抱きつき、彼女と同じように空を見た。

 日はすっかり傾いているけど、来た時と変わらない綺麗な空がそこにはあった。

「ありがとう、優里」

 なんとなくお礼が口からこぼれて、おちていった。

「こちらこそ、ありがとう」

 お互い何に対してのお礼かも言わないまま、私たちはこの日、生涯変わることのない友情を得た。


                      ×


 いつか どこかで 誰かが言っていた


 『絶対など 存在しない』と

 信じていた 同等ものもなどありはしない


 でも たった一人の『理解者』『親友』という存在が気づかせてくれた


 それは『驕り』だったことを

 彼女が微笑んでくれたあの日

 私には どんな存在よりも彼女という存在が相対だった


 そして どうか願わくば

 この友情(幸せ)が永劫に続きますように


いかがだったでしょうか?

最初と最後の詩は、もともとは二つで一つのものでした。今回、別々に投稿すると決めたときに二つに分けたものです。

ですので、ここに載せます。


(前)

 いつだって、気づけばあなたを見ていた


 いつでも 人に囲まれていたあなたを

 ただ一人 泰然としていたあなたを

 いつしか 目で追っていた

 いつでも 気にかけていた

 そして その理由も知っていた

 そこに理由なんてなかった でも

 あなたは私にない たくさんのものを持っていたから

 あなたと共に居たい と願うようになっていた

 あなたは気づいていただろうか?

 あなたは知っていただろうか?

 私が居たことに

 私が憧れていたことに

 そして それ以上に

 そして その思い以上に



 ただ あなたと××になりたいと思っていた私に



(後)

 いつか どこかで 誰かが言っていた


『永遠などありはしない』と

『絶対など 存在しない』と

 知っていた 永遠にあるものなどない

 信じていた 同等ものもなどありはしない


 でも たった一人の『理解者』『親友』という存在が気づかせてくれた


 それはただの『諦め』だったことを

 それは『驕り』だったことを

 彼女が手を伸ばしてくれた あの日

 彼女が微笑んでくれたあの日

 私には どんな瞬間よりも永遠だった

 私には どんな存在よりも彼女という存在が相対だった


 そして どうか願わくば

 この友情(幸せ)が永劫に続きますように


すみません、後書きが長くなりました。

感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。


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