33 四題なし 部誌改訂 木陰優里の場合
サブタイトル通りです。
これは高校時代に書いた作品で、実際に部誌にも載ったものを推敲しなおしたものです。
今思い返せば、これが短編を書くことの始まりだったのかもしれません。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
では、本編をどうぞ。
いつだって、気づけばあなたを見ていた
いつでも 人に囲まれていたあなたを
いつしか 目で追っていた
そして その理由も知っていた
あなたは私にない たくさんのものを持っていたから
あなたは気づいていただろうか?
私が居たことに
そして それ以上に
ただ あなたと××になりたいと思っていた私に
×
多くの人が部活をしている放課後に私 ―― 木陰 優里 ―― は一人、屋上で空を見ていた。昼間の青空が夕方に近づくにつれオレンジの光りに満たされ、徐々に紺に近い青に染まっていく。
「・・・・綺麗」
幻想的とすら言えるその光景に、誰に言うでなく言葉が零れていた。
「ねぇ」
私は突然かけられた言葉に驚き、素早く後ろを振り向いた。
そこにはいつもクラスの中央に居る天際 翔子さんが立っていた。
彼女は驚く私の隣を指差して、いつもと変わらぬ口調で言った。
「そこ、座ってもいい?」
私は彼女の言葉を断る理由もなく、無言で頷く。
「ありがとう」
そう言いながら、私がいつからか遠くから見ていた彼女の笑顔が目の前にあった。
彼女の横顔を盗み見ながら、ふと『珍しい』と思った。
彼女の周りにはいつだって人が居て、彼女はその中で笑っていた。
人の居ないときなど存在しない彼女、私とは真逆の彼女。
誰にも興味を抱かないように、誰からも興味をもたれないように周囲に生まれていた私とは違う。
人を導いて、正して、楽しんでそこに居られる彼女を尊敬して、認めていて、心の隅で羨ましくて、ほんの少しだけ妬ましかった。
だがいつの頃からか、彼女の笑顔が ――― ほんの少しだけ辛そうに見えることが増えた。
「優里ちゃんはいつも屋上で何してるの?」
突然の質問に、私は空を見た。
「空を見てるの・・・・・・ここが一番、空が近く見えるから。それに」
立ちあがり彼女の傍を軽く離れてから、学校の周りで旋回を繰り返す鳩の群れへと手を伸ばす。
「おいで」
小さく呟くと群れの鳩たちが方向を変えて、私の腕や肩、その周りに集まってくる。
「わぁ・・・・」
おもわずこぼれたらしい彼女の感嘆と驚きの声。
「この子たちと居ると、公園でも少し目立つから」
私の傍でクルクルと忙しなく鳴く子たちの羽や頭を撫でながら、彼女を見た。
「行ってもいいよ?」
鳩たちにそう言うと、肩に乗っている白いリーダーである ―― 『白磁』と呼んでる子 ―― が首を振る。もしろ『もっと撫でて』とでもいうように私の顔に顔を摺り寄せた。その様子を見ていた他の鳩たちも私へと飛び掛かって甘えてくる。
「ちょっ、待って! 危ないから、一度には撫でられないってば」
バサバサと羽音に包まれて体勢を崩し、倒れたところで鳩たちが私の体を占領していた。
軽く頭を打ったので、人の胸元で得意げにクルクル言っている白磁を触れる程度にはたく。
「だ、大丈夫?! 木陰さん!」
彼女が近づいてくる音が聞こえ、彼女に警戒して次々と鳩たちが空へと戻っていく。
「・・・・・プッ、アハハハ」
彼女は私を見て、突然笑い出した。
「アハハハ、すごいことになってるよ? 制服とか・・・・・ほら、羽根だらけ」
私の手を伸ばしながら、逆の手は制服についてしまった羽の一本を見せてくれた。
そこには私が見惚れた、彼女の笑顔があった。無理をしていない、取り繕っていない笑顔。
「・・・・その笑顔が、ずっと見たかった」
不意に口から出た言葉に、私はあわてて口に手を当てた。
「え?」
聞き返すような彼女の言葉を聞こえないふりをして、私は自分が笑っていることに気づいた。
「ありがとう、天際さん」
その手を取りながら、私は立ちあがった。
「・・・・あのさ、私も時々、ここに来てもいいかな?」
「ここは私の場所ってわけじゃないし、いいよ」
頷く私に彼女は、先程の同じように嬉しそうに笑う。
生き生きとした、彼女らしい笑顔だった。
「それとさ」
彼女は握ったままの手を胸のところまで持ってきて、両手で私の手を包んだ。
「私の友達になってください」
・・・・・・・はい?
一瞬、脳が思考停止状態に陥った。
あまりにも突然すぎる彼女の言葉に対し、意味を理解することができていても驚きによって反応が遅れる。
いや、嬉しい。すごく嬉しいのだ。
ただ、こんなにもストレートに友達になりたいなんて言葉をもらったのは初めてでどうすればいいのかわからないというか、むしろ『友達になって』なんていわれたことがないからどう反応すれば正解なのかが全く分からないというか
「もしかして、私嫌われてる?」
そう言って私の顔を覗きこんでくる彼女の表情は不安げで、私は焦って首を振った。
「い、いや、そうじゃなくて・・・・その、あの、何で?」
「何でって?」
不思議そうに首をかしげて、顔をあげた私の目をまっすぐ見つめた。
「だ、だって私、教室の隅で隠れて見えないような存在だよ!?
それに友達だって多くなければ、何か特別にできることがあるわけでもない。あなたとの接点なんてホント、クラスメイトだったってことぐらいしかないんだよ?」
混乱で若干だが口調は早くなる。
テストの結果は可もなく不可もない中の下、友人関係はほぼ無に等しく、クラスに居ても居なくとも困らない人間。
苗字の通り、気に隠れて見えない存在、それが私だ。
そうしていたことに後悔はない。自分でそれを望んですらいた。
「『クラスメイトだった』。理由はそれだけじゃ、ダメかな?」
そんな私の問いをなんてことはないかのように、彼女は答えた。
「私ね、一年の頃から優里ちゃんのこと知ってた。でも、どうしてだろうね?
『友達になろう』ってずっと言えなくて、去年から放課後にここに居ることも知ってたのに。結局、今日までかかっちゃった。
私って意外と意気地なしだってわかった」
そう言って彼女は照れくさそうに笑った。
教室の片隅で見てきた彼女の笑顔、私はそれが眩しかった。
その言葉が、笑顔を向けられることがなくてもいい。
私にはどうせ無理だと諦めて、人と関わることをやめた私とは違う彼女を尊敬していた。
もうかけることも、かけられることもないと思っていた言葉をそんな風に思っていた彼女から貰えるとは思っていなかった。
彼女が私を知っていてくれたこと。
私に手を伸ばしてくれたこと。
同じ思いを抱いていてくれたこと。
そんな重なりすぎている奇跡が、偶然が嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
ならば、私も答え、伝えよう。
彼女が出してくれた勇気と、伸ばしてくれた手に応えるために。
「私も・・・・・ずっと友達になりたかった」
今はまだ、言葉は下手でもいい。
この気持ちだけが伝わりさえすれば、それでいい。
「でも、私には何もなかった。誰かに誇れるようなことも、誰かに手を伸ばすほどの勇気も、自分が正しいっていう自信もなかった」
彼女の周りにはいつも他の誰かが居て、笑顔があふれていた。私はその中に入っていく勇気など持ち合わせてはいなかった。
「私は弱いよ、とっても弱い。
傷つきたくなくて、人の中に入っていくことを放棄しちゃったくらい・・・・・こんな私だけど」
自分の弱さは自分がよく知っていて、何度だって繰り返してきたはずだった。
それなのにどうして私は今、涙を零しているのだろう?
涙が零れ、彼女へと伸ばした手が震える。それでも私は精一杯笑った。
「友達になって、くれますか?」
言葉では表現しきれない彼女が言ってくれた言葉への感謝と、重なった奇跡に応えるために。
「もちろんだよ。それに私だって意気地なしだもん、支え合えばいいんだよ」
彼女は一瞬たりとも迷うことなく、私の手をしっかりと握ってくれた。夏の太陽にも負けない眩しい笑顔がそこにはあった。
「ありがとう、天際さん」
「ちがーう! 名前で呼び合おうよ! せっかく友達になったんだしさ。ね、優里?」
名前呼びなんて本当にしたことがないことを要求され、私は自分の頬が熱くなるのを感じていた。
悪戯っぽく笑って待つ彼女はどうやらそう呼ぶまでは逃がしてくれそうになかった。
「しょ、翔子」
空を見上げて誤魔化しながら、顔を逸らす。そんな私の背中へと嬉しそうに抱きつきながら、彼女もまた空を見た。
「ありがとう、優里」
「こちらこそ、ありがとう」
お互い何に対してのお礼かも言わないまま、私たちはこの日、生涯変わることのない友情を得た。
×
いつか どこかで 誰かが言っていた
『永遠などありはしない』と
知っていた 永遠にあるものなどない
でも たった一人の『理解者』『親友』という存在が気づかせてくれた
それはただの『諦め』だったことを
彼女が手を伸ばしてくれた あの日
私には どんな瞬間よりも永遠だった
そして どうか願わくば
この友情が永劫に続きますように
いかがだったでしょうか?
もう一人の彼女の視点は明日の投稿となります。
まぁ・・・『四題詰め合わせ』のタイトルから若干ずれている気もしますが、お許しください。
感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。




