31 「研究所」 「ハゲ」 「仕事」 「制裁」
二作目のコメディ?です。
笑えるといいなー、面白いとは思うんだけどなー。と不安になりながら書いた作品です。
オチ・・・ついたと思うんですが。自信がないですねぇ・・・。
そんな作品ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
では、本編をどうぞ。
「ねぇ、葛は同性愛についてどう思う?」
「突然ですね、所長。仕事してください」
白衣を着たそこそこ整った顔立ちの女性、何を研究しているかもわからないこんなところではなく女優やアイドルになった方がもうかるだろうとは思えるほど綺麗な女性ではあるこの所長だが、神さまは何を間違えたのかこの人を変人に作り上げた。
わけのわからない機材が置かれたこの部屋、二十はある机が半分どころか五分の一しか埋まってないのはこの所長が人をえり好みし、あげく何を研究していることも手伝わせておきながら決して自分で理解するまで答えを教えないからだ。
その完成品が一握りで一億人を殺せるような猛毒であっても、ワンプッシュで世界の四分の一を吹っ飛ばせる爆薬どころか何次元の殺人兵器であろうと、全人類の老若男女問わず一週間ほど獣耳生活させるような奇怪な薬であろうとも、署員の誰か一人が自分を止められなかったことが悪いと言い張るような女性だ。今のところ、それは私を含めた所員四名の尽力によって免れているが。
私は山とある所長が今までの溜め込んできた研究データを打ち込みながら、適当に返事を返した。
「うわぁーん、葛が真面目に答えてくれないから全人類の男性限定をハゲにするウィルスを散布しちゃいそう」
「私は一向に構いません。困りませんから」
「「よくない(っす)!!」」
棒読みの所長のセリフを即答で返すと男性職員である同期の功刀 信二とこないだ入ったばかりの新人、樟村 透から悲鳴が上がった。
普段ならばもう一人女性所員である柊 朱音は少し面倒な交渉に出ているので今はいない。
「髪なんて飾り、そして、男はいつかハゲるものです。少し早まるだけじゃないですか。今は植毛や育毛もあることですし、何の心配もありません」
「その断言はひどくないっすか?! 葛先輩」
「女がハゲたら病気を疑いますが、男の場合フェロモンからそうなっているのです。ただ、環境によってそれが遅いか早いかの異なるだけのこと。
いっそ、若ハゲの方には感謝されるのでは? 所長の研究が人様の役に立つ機会など早々ありませんし、柊さんにも相談して検討しましょう」
「ちょっと待て! 俺たちの意見は無視か?! 葛!」
次の日曜、二人で飲む約束があるのでその時にでもしましょうか。
多数決をとっても愉快犯である所長と特に困らない私、柊さんは優しいから微妙かもしれませんが勝算はありますし。
「私もその飲み会に参加させなさい。そうすればハゲルスの散布は中止よ」
「心、読まないでいただけますか? 所長。
そして、読むなら後半もしっかり読んでください」
どこまでも命令形、さすがですね。所長。ハゲルスですか、案外響きがいい。
「「どこまでも俺たちは無視か?!(っすか)」」
「二人はしゃべるときに手が止まりますからね、口と同時に手も動かしてください。
それと、そこの机にある書類は今日中にですから」
私の視線はがっちり画面を見ながら、両手は異常な速さでタイピングを繰り返す。合間に紅茶を飲み、二人の机の前にある机を指差した。
「・・・・・マジっすか? 葛先輩」
「冗談だよな? 葛」
視界の端に『嘘だと言ってくれ』とでもいうような懇願にも似た悲しげな表情と青ざめた表情を見せた二人が入るが、私が気にするわけがない。
「私は仕事関連でも、プライベートでも嘘や冗談は好きではありません。それに作業の割り振りは私の仕事ですから、大丈夫ですよ。あなたたちがこれから真面目にやればぎりぎり徹夜はしないで済む量ですから」
そう全力でやればただの紙である筈にもかかわらずに、天井に届くほどある書類なんて彼らなら終わる。何故ならこの所長に選ばれてここに居るのだから。
それに私たちはどうせここにプライベート置かれていて、所長の手回しによってここに住むことしかできなくなっている。万が一、仕事が終わらなくとも、徹夜しても明日に関わるようなことはない。
「あぁ、終わらせなくてもかまいませんよ。ただし、その場合一つ条件があります」
私のその一言に二人が嬉しそうに笑ったような気がし、同時に所長から『頭、打ったの?』という視線というか、思念に近いものを感じた。
「所長、所長が以前道楽で作ってどういった効用があるかわからない薬が数点余っていましたよね?」
私は話を逸らすように、所長に問うた。
もちろん、私はその答えを知っている。研究品やそのデータ関連は私が一任されている。所長が発明したものが世に出ていいかの最終的な判断も私がしている。
「えぇ・・・・あぁ、もちろん好きに使っていいわよ」
「ありがとうございます。所長。
さて、もうわかりますよね? 二人には、仕事をしない代わりにそれらの実験台になってほしいのです。危険ですから、動物たちには使いたくありませんし」
私は珍しく手を止めて、にっこりとほほ笑んで見せた。
「(葛先輩の笑顔、俺初めて見たっす?!)」
「(同期で入った俺だってそうだ!? ていうか、あいつ笑うことできたのか・・・・)」
恐れおののいていながら、二人は余計なことを考えたことがなんとなくわかったので二人には今度所長お手製のクッキーをプレゼントすることにしよう。
あのポイズンクッキングも真っ青な料理を、二人の前に出すことを固く決意した。
「どうしますか?」
「「大人しく仕事をさせていただきます」」
「よろしい」
「ねぇー、葛ぁ。最初の質問に答えてよぉー」
私は背中に感じたいつも通り過ぎて少し腹が立つ脂肪の塊の感触と、首にまとわりついてくる両手をどうしようかと考えながらも作業を続ける。
「仕事中です」
「嘘つきぃー。それ、明日のノルマだって知ってるよ?
あ、違うかぁ。明日のノルマだけど、少しでも他の分担減らすための後片付け・・・・・ぐへぇ」
何気ない口調で言われかけた言葉を、顎に掌底を当てることで強制的に黙らせる。
「やるのかー? 葛ー」
少しだけ痛そうに顎を押さえつつ、目を三角にして私を睨んでくる。
「所長、明日の食事を貧しくされたくなかったら黙りなさい」
ごく小さな声で囁かれた言葉、ここの料理は当番制であり五人中料理ができるのは私と柊さんだけだ。普通の職場なら何らかの形で優遇され、仕事量は減るが人数が人数のため一人でも欠けたら仕事は倍になるのでそんなものはされる筈がない。
「ちぃ、どうせアタシは胃袋掴まれてますよぉ。でも、少しくらい休憩したら? 十分くらいはさ」
私はちらりと時計を見つめ、現在時刻を確認する。もう二十時、昼の休憩以降から休憩をとっていないから、確かに休憩するにはいい頃合いかもしれない。
「ただいま戻りました」
「お疲れぇー、朱音ちゃん」
「お疲れ様っす、柊先輩」
「朱音、飯作ってくれ・・・・アダッ」
「お疲れ、柊さん」
第一声から食事をねだった功刀にシャーペンの一本を投げつけ、黙らせる。
「・・・・葛さん? 私が昼に出て行った時と体勢が全く変わってないように見えますが、休憩取っていますか?」
「今から、十分ほどとるから大丈夫です。柊さんもバカの戯言は気にせずに一休みするように」
そう言って隣の机に座って、私の画面を覗きこんでくるとさらに顔を険しくされた。
「それ、明日の私か功刀さんのノルマじゃありませんでしたか?」
「明日のノルマは別に作りましたし、他の仕事も終わらせました。大丈夫ですよ」
「だから、休憩! 休憩! 朱音ちゃんも久しぶりにガールズトークしようぜぇ!」
ガールズ・・・・・
なんでしょう。私たちから程遠い言葉を言われて、軽く脳がフリーズしますね。それに所長に関しては趣味を全開に研究に没頭しているだけなので、尻拭いや後片付けの私たちとは違って常時休憩だということわかっていますか?
「それでさぁ、二人は同性愛についてどう思う?」
「結局、話題は変えないんですね? 所長」
それと心読めないんじゃなく、今のは読まなかったんですよね?
「・・・・それはどういった考えの元で、ですか? 樒所長」
「うーん? どうとってもかまわないよ。一般的な意見でも、個人的な意見でも、同性愛なんて面白いじゃない?」
白衣のポケットから私と柊さんが合作したクッキーが何故か出てきて、私はいつものように紅茶を三人分、仕事中の二人にもコーヒーを差し入れる。礼を言われながら、席に戻り、話を聞く側に回ろうとするが、いつも通り所長が相手では無理だろう。
「それで葛の考えは?」
「・・・・・・そう、ですね」
私は顎に手を当て、少し息を深く吸い込んだ。私の悪い癖、普段極力短い言葉だけで終わらせようとするために、長い言葉を言おうとすると少し考えなければ何も言えなくなる。
そのための長考、だから私は交渉役には向かずに淡々とこなせる事務仕事を重点的に行っている。あまり会話を必要とせず、淡々と自分だけを中心に置けて、行動も把握し切れる範囲。
交渉役を他三名に押し付けていることは申し訳なくもあるが、その分私はできることを行うことでそれをサポートすると決めている。
「他人が他人を想うことが理論じゃないのならば、それもまた恋として成立していいのではないかと思います。
もっとも、恋をしたことがない私が言っても説得力に欠けますが、友愛も、敬愛も、親愛も、あらゆるものの延長線上に愛があるのなら、性別などあってないようなものかと」
十以上の年齢差がある恋愛もそれと同じだと感じている。
結局は一人の存在に恋をすることが恋愛ならば、そこに必要なのは『周囲がどう思うか』ではなく『自分がその存在を好きであること』である。
「故に私はどれほど年齢が離れていようが、恋した存在が人間であろうとなかろうと、性別が同じであろうと大した問題ではないと思います」
私の断言にそこにいる男二名が目を点にしていた。だから、二人は手を止めるなと言っているのに。
柊さんは感心するように『そう言う考えもありますね』と呟き、所長は(基本的にいつもだが)楽しそう笑っていた。
「二人とも手が止まっています。動かしなさい」
「いやいやいや、お前からそんな言葉が出ると思ってなかったから当たり前だろ」
「右に同じっす」
「ほう? では、私が何というと思っていたのですか? 二人は」
二人は顔を見合わせ、私の真似だろうか? 表情を硬くして、声を揃えようと指でリズムをとった。
「「同性愛? そんな非常識的なもの、ありえません。存在することも不思議で仕方がありません」」
「・・・・二人が私のことをどう思っているかがよくわかりました。この言動により私は今日の食事当番を放棄し、二人の今日の夕食は所長に作っていただきます。柊さん、私の部屋に非常食があるのでそれを一緒に食べましょう。二人に頼まれても作ってはいけませんよ」
私はその発言に苛立ちを感じたので、流れるようにこぼれ出た言葉を撤回する気はない。
「「ウノオォオオオオオーーーーーー」」
「自業自得だねぇ、二人とも」
「同情の余地もありません」
「それで、二人の意見はどうなんです?」
二人の泣き声というか鳴き声を聞き流し、二人の意見を求める。
「私にはよくわかりませんね。やはり一般的に男女で恋するものですから、私は付き合ったこともありますけどあれは結局周囲の熱にほだされてっていう感じがありました。
それ以降も何度か付き合いましたけど、ずっと一緒に居る相手とは巡り合ったことはないですね」
一般的な意見、まぁ、おそらくこれが普通の答えなのだろう。
「アタシに恋したって言うやつは大抵外見しか見てないおバカだったからねぇ。ねぇー?
く・ぬ・ぎ? まだアタシと付き合いたいかー?」
所長は初対面である面接で告白をした功刀を見やり、愉快そうに笑っていた。
「死んで、赤ん坊からやり直したら関わることもないでしょうね」
「アハハ、アタシは転生しても、アンタに無理やりトラウマ作りに行ってやると今心に固く決意したー」
来世にも目をつけたられた功刀へと内心で合掌し、紅茶のおかわりを二人へと注ぎ入れる。所長だったら来世どころか、時を遡って前世にもトラウマを作りに行けそうで怖い。
「葛さん、同感です」
所長しかり、柊さんしかり、どうして私の心が読めるのか。
「愛がなせる業です。主に友愛で」
「そうですか・・・・・」
なんだか、少し疲れた。仕事じゃない何かで。
この研究室は混沌だ、研究室と言っておきながら、好き勝手に研究しているのは所長のみであとの四人はその尻拭いや後始末に追われている。
片手間に自分のしたい研究をしているのも確かにいるが、それだって完成するかどうかも未透視が立たない長期間のものだ。
だが、その中で私は紅茶を飲みながらふと思った。
「私は・・・この五人で会えるなら、それも悪くないと思いますがね」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
場に沈黙を訪れる。私はあわてて口元を押さえていた。しまった、言葉にするつもりはなかったのだが。
男性二名からはあからさまに『正気か?』という視線をもらっている。
その開いたままのみっともない口に、三日前に私が教えながらも所長が作った飴(?)を三つずつ投擲する。
「フム、表面は鋼のように固く、中身はどろっとして、味は・・・・(バタンッ)」
「・・・こ、こんにゃく芋の味がするっす、あ、味が変わった・・・・あ、三途の川?」
吐き出さずに『味わう』という選択肢がそもそものミスだと思う。
まぁ、だからこそ蘇生用の柊さんの飴も放り入れたのだが、毒を中和しきれなかった。もしくは毒と一緒に中和剤を入れても中和剤の方が効くのが遅いため、結局は毒でし・・・・倒れるか。
仕事の方はもう仕方がない。私が片手間で、何とかできなくはない量ですし。
「アタシは普通に嬉しいけどね、こんな変人とまた出会いたいなんてさ。酔ってるの?」
「仕事中です。私が飲むわけがなく、それに柊さんのように酔って乱れることもありません」
「葛さん、それは少し酷いです」
頬を膨らませて怒ったような顔をする柊さんの頬を潰しつつ、私は紅茶をあおった。
「でも、さっき言った言葉に嘘はありません。私はここが好きですよ」
だらけきっているようで、仕事に追われている。
楽しいようで、現実の厳しさを全員が知っている。
社会から隔絶しているようで、切り離されていはいない。
騙されるようにここに来た者、望んでここに来た者、所長に拾われて来た者、追いやられた者、その誰もが所長に気に入られたからここに居る。
「いつもそうやって笑えばいいのに、葛さん」
「まったくもって同感だねぇ」
二人に言われて私は自分の顔に触れた。私が笑う? わざと威圧的にするわけでなく?
「笑っていましたか?」
「笑ってました。自然な笑顔で」
「笑ってた。いいものみせてもらったよぉ」
同時に言われた言葉の前半はほぼ完全には持って聞こえ、後半だけは譲り合って言うってわざとですか?
「・・・・・左様ですか」
何と答えていいかわからずに、目を逸らしてそう言った。
「「照れてるぅー」」
「わざわざ言わなくていいです! 二人を倒した飴を口の中に入れますよ?」
「「それは勘弁!!」」
口を押さえるのも同時ですか・・・・仲がよろしいことで。まったく。
「私は夕飯を作って来るので二人は仕事に戻ってなさい」
「お手伝いは?」
「いりません」
所長が手をあげてそんな戯言を言ってきたので光よりも早く切り替えし、扉を閉じた。
冷蔵庫にあるものを頭の中で確認しつつ、私以外辛いものが好きじゃないお子ちゃま舌どもに何か仕返しをできないかと検索する。
「・・・・よし、今日の夕飯は激辛麻婆。それとご飯とナムルにしましょう」
冷凍庫に回復用にハーゲン○ッツもあるから、大丈夫でしょう。というか、それぐらいはしないと気が晴れませんし★
そのあと、激辛麻婆によって他四名が火を噴き、冷凍庫に用意されていたハーゲンダッ○によって癒される。
その光景を見守りながら、葛は母親のように穏やかに笑っていたという。
いかがだったでしょうか?
・・・ちゃんと笑えましたでしょうか?
コメディへの二度目の挑戦でしたが、やはりイマイチわからない。
笑い、難しいですね。
感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。




