30 「少女戦隊」 「親友」 「悪」 「問い」
この作品は・・・・衝動的に書きたくなった作品です。
どうもピクシブとかでイラスト見ていると、そっちに気分が影響されるようで・・・・
どうしても書きたくなってしまったから書いた、何も考えずに出来上がっていた作品です。
そんな作品ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
そして、この場を借りて私信を。
Tさん、誕生日おめでとう。
どうかこの縁が、終わることないことを祈って。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
では、本編をどうぞ。
夢の中で幼い二人の少女が手を繋いで歩いていた。
緑と命にあふれた美しい森の中、二人で仲良く楽しそうに笑いあう。
それは灰色の雲に覆われているけれど、雨が降る様子はない。
仲睦まじいその少女たちを祝福するように、森は色鮮やかな果実を実らせ、獣たちも歓迎するようにじゃれ付いていた。
曇り空でありながら、そこには青空があるのを幻視してしまうような微笑ましい光景だった。
空が突然、陰る。獣たちが恐怖を抱いて、隠れていく。
木々が風に揺られ、その果実を落としてく。
暗雲が立ち込め、そして、二人の少女をわけるように光りが落ちた。
一人の少女は光りに包まれ、もう一人の少女は光りに包まれていく少女を離すまいと手を取ろうとするが何かによって弾かれる。
手が滲み、痛むはずの怪我を見ようともせずに少女は、昇っていく光りの中の少女へと必死になって手を伸ばした。
光りの中で泣きじゃくる少女もまた、だんだんと闇に包まれていく少女へと必死に手を伸ばしていた。
指先がわずかに触れ、それすらも許さぬように光と闇が弾きあう。
ゼロだった筈の距離が、遠く離れていく。離されていく。
「いや・・・・いやだよ! はるちゃんを連れて行かないで!!」
弾かれても少女は血だらけの手を、先程まで確かに繋がれていた右手を伸ばしていた。
光りの中で名を呼んでくれている少女の声は聞こえない。
だけど、自分の名前を、彼女だけが呼んでくれる愛称を叫んでくれていることが少女には口の動きでわかった。
光と闇が二人を別つ。
「春歌―――!!」
×
「ッ!」
夢の中の自分の声で飛び起きる。現実ではどうやら名前を出さずに済んでいたようだった。左手を額に当て、いやな汗が流れていたことに気づいた。
「・・・・・夢、もう二年もたつのに・・・・まだ、うなされるなんて」
自然と右手に目がいき、寝ているときですら覆っている筈の黒革の手袋が外れてあの刺青のような傷が露出していた。
手の甲にあるリンゴに絡まる蛇の紋章、そしてそこに在るのはあの光りによって弾かれたときに負った赤い傷跡。
これが選ばれてしまった証。なら、この印を抉り取ったらあの日に戻れるの?
この手が光を拒絶してしまうというのなら、この手を、腕を斬り落とせばあの子の隣に立つことができる?
考えると同時にベッド脇にあるチェストからナイフを取り出し、迷うことなく手の甲へと突き刺した。
「お姉さま!」
「マスター?!」
悲鳴にも近い声を出して飛び込んできたのは、私の実の妹である宵華と黒いウサギ耳を付けた執事のハーゼだった。
「「何を?!!」
二人の重なり合う声を聞いても、私は一心不乱にナイフを右手に突き刺すのをやめない。
手の甲が傷だらけになり、赤しか見えない。
「お姉さま! おやめください!!」
二人が私を羽交い絞めにして抑えられる。
「邪魔しないで、宵華! ハーゼ! 離して・・・・・離せ! 離せぇ!!」
「マスター! 落ち着いてください!!」
二人の言葉は耳に入ってきている。理解もしている。だが、一度目を覚ましたこの感情はそう簡単には眠ってはくれない。
私が望んだことはそんなに・・・・そんなにあってはいけないことだったの?
「桜樹様」
冷たい風が私を包んだ。私の熱くなった感情を強制的に冷ましていく。
「大丈夫です」
温かな風が吹き込まれ、冷まされた体が熱を取り戻していく。
「・・・・・・ルナール、ソロ」
青と赤のキツネ耳を付けたメイドと執事、私をけしてマスターとは呼ばない私の最初の部下であり・・・・・私が、私たちが変わってしまったことを傍で見ていた存在。
「二人とも・・・・もう平気だから。離して」
私の変化に気づいたのだろう二人は心配そうに私を見ながら、そっと離れた。ソロが二人と入れ違いで私の傍に来て、ナイフを定位置にしまってから落ちていた手袋を拾いつつ私の右手の治療を始めた。
「宵華様、ハーゼ。
朝の時間は何があっても、どんな音がしても桜樹様の部屋には立ち入り禁止だと、私は言いましたよね?」
そんな私たちの背後ではルナールが二人を正座させて、お説教が始まろうとしていた。尻尾をふわりと立ちあがらせて、どこからか痛いほど冷たい風が吹いてくる。
「ですけど・・・・お姉さまにもしものことがあったら」
「もしものことなど起きません。
万が一、ジュエリードロップたち五人が相手と戦闘になったとしても、今の段階ならば桜樹様はお一人でも返り討ちにすることが可能です」
宵華の意見を一言でバッサリ切り捨て、ハーゼへと視線を向けた。
「・・・・ですが、桜樹様は」
「まだ、反論するのですか?
それとも、『王』が『王』でないところまで見ていたいのですか?」
「クッ・・・・申し訳ありません」
「ルナール・・・・言いすぎよ。二人は私を心配して駆け込んできてくれたんだから」
そう言いながら私は包帯を巻かれ、いつもの黒革の手袋を装着された右手を見た。
「それはそうですが・・・・桜樹様」
ルナールの気遣いの視線を受け、私は少しだけ困ったように笑う。ここに居る全員が怪我をした私よりもずっと痛そうで、辛そうで、感情をみっともなく露わにして手を傷つけてしまった自分が憎たらしくなってきた。
「いいのよ、もう・・・・悪いのだけど、一人にさせて」
「・・・お姉さま」
「大丈夫・・・・もうナイフを出したりしないから」
妹が何を言おうとしたのかがわかっていたので、それ以上言われる前に返答した。
「聞こえたでしょう。宵華様、ハーゼ、ソロ、退出しましょう」
ルナールに促されて、三人は戸惑いながらだが部屋を出ていく。
最後にルナールが最後の一人となり、私に深く頭を下げた。
「桜樹様、どうかゆっくりなさってください」
そう言って、退出していく姿勢のきれいな後ろ姿に
「ありがとう、ルナ」
聞こえるかどうかもわからない程度の声で感謝を告げた。
×
全員が出て行った後、夢を思い出していた。
あれは私の過去。
彼女が『正義』に選ばれ、私が『悪』に選ばれた日。
あの日、私はこの世に『正義』と『悪』が存在し、『悪』だけが初めからこの戦いの本当の理由を知っている。
その理由から『悪』は共通する一つの信念を持って、世界を壊すと決める。
年齢も、性別も、性格も全ては関係なく、ただ『選ばれた』という事実だけを突然突きつけられて、立場としても『悪』は『悪』であることを世界に強制される。
幸いそれに負けないほどの力を選ばれたときに与えられるが、持っていた立場を失うことは多い。
しかも、自分から捨てるのでなく、周りから追い出されるという形で。
だからこそ、『悪』になる人間は人を憎み、力を使うことを迷うこともなくなっていく。
知った時は出来すぎているこの流れに苦笑した。
人、動物であることを問わずに同時期にその近辺で目覚めた者たちは一人の『王』の元に集まる。
私はその『王』だったからよくわからないのだが。
ルナール曰く『本能、ですね。この方の傍にあり、戦うことが私たちの務めだとわかるのです。この方にならば殺されようとも、利用されようともかまわないとどこかに深く刻まれています・・・・ですが、間違えないでください。少なくとも最初はそうであってもあなたの傍に居る私たちはあなたに惹かれてここにおります』とのこと。
そして、誰一人の例外なく『王』である存在が目覚めた時につけられる紋章 ―― 私ならばリンゴに絡まる蛇 ――を体のどこかにつけられている。
もっともそんなことを確認しなくとも、『王』である私が一目見ればなんとなくだが味方かそうでないかはわかってしまうけれど。
実の妹である宵華が選ばれたのも偶然でしかない。というか、『悪』の情報網を使って調べたり、他の組織に聞いてみたりもしたが珍しいらしい。
蛇足だが、『悪』の組織は国からも、社会からも支援を受けられない。
そのせいか『悪』の組織は、互いに仲がいいことが多い。
多かれ少なかれ、選ばれてしまったことで人生を狂わされてしまった者たちばかりで同情こそしないが、苦労を知っていてくれる理解者を求めている。それも結局は『王』同士の相性で決まるのだが。
考えを散らすように自分で傷つけた手を見た。
「・・・・もう治ってる」
手の感覚を確かめるために閉じ開きを繰り返し、手袋を外して包帯をほどいた。そこには朝見た時と変わらない紋章と、最初の傷跡だけが刻まれていた。
あれほど深く刺したというのに、刺した傷のほとんどは再生していた。
やはり、『正義』の力でつけたものでないと痕すらも残らないようになっている。
これもまた、『悪』に目覚めた者たちが逃げ出さないようにする神さまの方法なのだろう。
死ぬことを許さず、人間としてまともに生きることも許さず、ただ役目を全うさせるためだけの駒。
『正義』と『悪』の戦いを初めて、もうすぐ一年経つ。
歴代の『悪』の組織の情報を探っても、短ければ半年、多くは一年。どんなに長くても二年。それが終わりの目安。
負けることが運命づけられた『悪』の行きつく先、『王』は世界から追放されどことも知れぬところに封じられるか、全ての責任を背負って死ぬことが役目。
配下だった者たちは力を失って、社会へと回帰する。
墓を作ることも許されない『王』と、公には二度と刻むことの許されない紋章。
それを祀り、弔い、守る場所があるらしい。だが、それを知っているのは残された者たち、『悪』であった者たちだけ。
もうすぐ、私たちの戦いにも決着がつく。
たとえ、これが神によって勝敗が決められているゲームであっても、最初から負けること前提で戦う『悪』などいない。
否、仮に居たとしても『王』たる者だけはそれをしてはいけない。
私はほどいた包帯を捨て、黒革の手袋を右手につけ直して立ち上がる。
「それが『悪』の運命ならば、私は最後まで『悪』の『王』をやり通すまで」
私は迷ってはいけない。
――― 私がぶれてしまえば、後ろについて来てくれる皆が迷ってしまう。
誰が傷ついても、何を壊しても、傲岸不遜に笑っていればいい。
――― その笑みで、私より前に立って戦ってくれる皆を安心させればいい。
私は最後の瞬間まで、『悪』としてあればいい。
――― 残された皆が、一欠片でも『悪』であったこと、『王』についてきたことを後悔しないように。
私の思いも、願いも、選ばれてしまった時点・・・・・いや、違う。
選ばれる前だって、叶うはずのないことだったのだから。
×
「悪の女王ロゼとして、本日の指令を下す。
薔薇の女騎士ヴィーチ、補佐にソロをつけ、ハーゼを中心として20の出撃を許可する。指示内容はアクアサファイア、ウィンドエメラルド、ホーリークォーツ、ボルツアメジストの行動阻害。
その間にルナールと私はリーダーであるフレイムルビーの捕獲する」
「ロゼ姉さまが直々にご出陣なさるのですか?」
顔を隠した黒い鎧騎士姿のヴィーチ、変身状態の宵華が私に問うた。
「えぇ、フレイムルビーは単騎でも私と互角はいかなくても・・・・あなたたちでは苦戦する程度はあるわ。だから確実に足止めできる四人をあなたたち三人に任せたいの」
「お任せください。倒してしまっても?」
口元だけをのぞかせる兜からでもはっきりとわかるほど宵華は好戦的に笑んでいて、それにつられるようにハーゼもソロも笑みを見せる。
変身状態だとほとんど例外なく、好戦的になってしまうのはどうにかならないかしら。そう思いつつも私の口元も同じように笑っていることを、自分でも自覚していた。
「かまわないわ、目的はリーダーである彼女が居なくなって弱体化する他メンバーとフレイムルビーの力を奪うことだもの。好きなように暴れてきなさい。
ソロ、ハーゼ、くれぐれもストッパーであるあなたたちまで戦いに酔いすぎないように」
「お任せください」
「ヴィーチ様のストッパー役は確かに承りました」
二人が好戦的な笑みから苦笑じみた笑みになったのを確認し、私も一安心だ。
「お姉さま、酷いです」
「フフ、可愛い妹だもの。少しくらいはからかいたいじゃない」
宵華の少し拗ねた声を聞きながら、私は表情を切り替えた。
「では、行きましょう。
稼ぐ時間はそうね・・・・・私の指令が出たらその場で中断して、撤退。指令がなくとも二時間で切り上げてきなさい」
「「「はい!(はっ!)」」」
三人が先陣を切って飛び出していくのをルナールと共に後ろから続く。ルナールたちは自分たちの足で移動するのに対して、私は強大な空を飛ぶ蛇へと乗る。
彼の名はアダラ。私が『悪』の力に目覚めてから、ずっと私の一部になった存在。
「アダラ、今日もよろしくね」
『任せよ、我はロゼのものゆえ』
彼は純粋な力の塊。動物でも、人でもない彼にアダラという名を与え、感情を教えたのは私。
親であり、共に生きるしかない共存相手。神さまが与えた残酷な命であって、命ではない異物。
「ありがとう・・・今日は久しぶりに私も戦うから」
『覚悟は、決めたのか?』
何も言わずとも彼にはわかってしまう。私の体と心に住み着く彼だからこそわかってしまう感情がある。
「ないよ、そんなものは」
親友だった存在と戦う覚悟は、桜樹にはない。
「だけどね、私は『悪』の『王』たる覚悟だけはずっと決めてある」
『選ばれたことを嘆くよりも、選ばれて出会えた存在を大事にしたい』なんて、前を向くための嘘かもしれない。
「私が前を向いていないと、他のみんなが迷ってしまうもの。そこに呪井 桜樹の感情はいらないでしょう?」
でも、そう割り切らないと私は前を向けない。
『王』として、立っていられなくなる。
『それでよい。それでこそ我の紋章を持つ者、アダラ・ユーベルの王たる者よ』
彼は珍しく満足そう言うと、雲を切り裂いて泳ぐように進んでいく。
初陣ではないが、数える程度しか出陣したことがない私は戦いへの高揚感に戸惑いながらも、その口元を彩る笑みだけは押さえきれていなかった。
×
先陣をきっていた三人に追いつくと、既に全員が臨戦態勢だった。赤、青、黄、緑、そして紫。それぞれのイメージカラーを纏った私と同年代の少女たち。
「ロゼお姉さまが御着きになられましたわ。
頭が高いわよ! あなたたち!!」
宵華がそう言って、アダラに乗る私へと深く頭を下げた。
「マスター、やはりあなたは神々しくあらせられる。
貴様ら如きが拝むことのない美しき姿の前にひれ伏すがいい」
ハーゼが前半を恍惚とした表情で、後半は冷たい視線で五人の少女たちを見下していた。
「ロゼ様、この後の本日のお菓子はフィナンシェでございます。
紅茶はアッサムのミルクティーでよろしいでしょうか?」
ソロにいたっては五人を全く見ずに、私にこの後の予定を言ってきている。
「ストロベリータルトもございますが、こちらの紅茶はアールグレイのストレートティーとなります」
ソロと少しだけ張り合うように、ルナールが他のお菓子の提案までしてきてくれる。
「フフ、ヴィーチ、ハーゼ、ありがとう。でも、そんなこと言わなくてもいいのよ?
どうせ私たちが明日にでも正義ごとこの世界を壊すのだもの。消えてしまう彼女たちに礼儀を払われても、どう思われようともかまわないわ。
ソロ、ルナール、今日は帰ってからみんなでお茶会でもしましょうか。あなたたちのおいしいお菓子をみんなで食べましょう。
もちろん、あなたたちもちゃんと席に座るのよ?」
私は四人へとほほ笑み、『悪』の『王』として言葉節々にそう言ったものを混ぜ込む。
「もちろんあなたもよ」
と小さくアダラに言いながら、感動に体を震わせている四人を見ないフリをして五人の少女たちへと悪そうに笑った。
「こんにちわ、ジュエリードロップの方々。何度目かしらね? こうしてあなたたちに出会うのは。
私はね、正直もうあなたたち五人を一斉に相手にするのが飽きてきたのよ。
ねぇ? ルナール!」
その言葉を合図にルナールの能力で一体に氷の柱が乱立し、五人の少女たちが分担される。
「ハーゼ! ヴィーチ!」
ハーゼが多くの自分の分身を生みだし、宵華の指示の元で一人に対して五人の組員たちが突き進んでいく。
「ソロ!」
そして、フレイムルビーの元へと突風と私とルナールが降り立ち、私の次元も空間も無視した闇の中へと引き込んだ。
×
「キャァッ!」
突然のことで誰も反応しきれない瞬間だけを狙った集中攻撃、フレイムルビーをアダラの口から放り投げ、暗いだけの空間にいくつかの赤い光が灯る。
倒れ込むこともなく受け身をとって、臨戦態勢に映る彼女を私は懐かしさから見つめてしまった。一般人には誰かわからなくなる補正がかかっているのに、私たちにはかかっていない。
いっそ、かかっていてくれれば私は・・・・救われたのだろうか?
少しでもこの気持ちは楽になっていたのだろうか?
「みんなは?! ここはどこなの!!」
「私の空間よ・・・・・私だけの、ね」
「あなたは・・・・ロゼ!」
私を睨みつけるその目から溢れる敵意と殺意。
もし、私があのままあなたの傍に居られたら、こんな目を見ずに済んだ?
もしかしたら、同じ親友を持つ者として友達に慣れていたかもしれない青。
もしかしたら、からかいの対象として楽しかったかもしれない黄。
もしかしたら、ともに本について語り合うことができたかもしれない緑。
もしかしたら、あのまま仲のいい三姉妹でいられたかもしれない紫。
そんな未来があったかもしれない人たちよりも、親友であったあなたから向けらえるこの視線が何よりも辛い。
「覚えていただき光栄だわ、フレイムルビー・・・いや、穂村 春歌さん?」
「ッ!? どうして私の名前を?!」
「『悪』の情報網を舐めてもらっては困るわね」
彼女は気づかない。気づけない。それでいい。
ここに居るのはあの少女じゃない、私はロゼだ。
「アダラ、捕らえて」
「そう、簡単に! 捕まるもんですか!」
私の願いで彼女を多くの蛇が襲いだし、それに必死に抵抗している。
炎の拳と、炎の魔法。いかにそれが強くとも、それだって圧倒的な量の前には無意味だ。
彼女は強い。実戦経験から見ても、単純な近接戦闘なら私は相手にならないだろう。ならば、近接戦闘に持っていかなければいい。
彼女は優しい。いつだって周りを見て行動している。それ故に全員が彼女に頼り、彼女が誰に言われる出なくリーダーを務める由縁だろう。
だが、それは裏を返せば、彼女自身が仲間に依存していることを意味する。
「・・・・どうして? 力が・・・・? それに・・・体が?」
「蛇が毒を持っている生き物だということを、忘れました?
それに『正義』の力を吸収する技術は、日々進化しているんですよ? 私はその毒部門の専門家ですから。コダラたち、捕らえて」
『我がやるぞ?』
「アダラ、あなたがやったら力を吸収しすぎて死んでしまうでしょう? それにあなたは絞める力加減も苦手でしょう」
標準よりもまだ大きい蛇の姿でアダラが立ちあがり、私を見ながらそんなこと言う。ため息をつきながら、パートナーをたしなめる。
フレイムルビーはコダラたちに巻きつかれ、麻痺毒と力を一時的に封じる特殊な毒を流されても私を睨みつける目は衰えことはなく、強い光を宿らせていた。
「どうです? フレイムルビー。無力な少女に戻っていく気持ちは」
私はそう言いながら、研究の成果である一つの物質を取り出した。
曇りガラスの塊のようなそれを、右手で持ってフレイムルビーに巻きついている一匹のコダラの口元へと持っていく。コダラもそれが何をするものかわかっているようで、口を開いてそれを咥える。
濁っていたその物体は、だんだんと透明感のある赤色に変わっていった。
「完成・・・・しましたね」
紅い色がついた宝石となったそれを恐る恐るつかもうとした瞬間、
ジュッ
反射的に手を離し、宝石は闇の中に落ちて砕け散る。それは熱となって私を襲った。私はほぼ無意識に、コダラたちにある指示を出す。
『ロゼ!』
「アダラ! それに触れては駄目!!・・・・・私は大丈夫だから」
炎に包まれながら、闇で相殺して被害を防ぐ。
「未完成・・・・だったようね、まだあの光を防ぐだけの力が足りないなんて」
まだ、闇ができることは相殺が限度。
光を御すことが出来なければ、いつまでも私たちは神の掌の上だ。それでは何も変わらない。変えられない。
『ロゼ、無事だな? どこも怪我などしていないな?』
私の体に巻きつき忙しなく動くアダラを撫でて、大丈夫だと笑って見せた。
「・・・どう、して? まもったの?」
麻痺毒でしゃべることも辛い筈の彼女が、私がコダラに出した指示によって守られた彼女が私に問うてきた。
「その・・・手? え? まさ、か」
さっきの炎で黒革の手袋が焼けてしまい、私のあの傷跡が露わになっていた。
「私の目を見なさい。フレイムルビー」
私はじっと彼女の心の奥底まで覗くように、視線を合わせた。
私への戸惑い、再会の喜び、現実への悲しみ、未知への恐怖、全部読み取れてしまう。
「おう・・・ちゃん」
「あなたは何も思い出さなかった。私はロゼ、あなたの倒すべき敵よ」
「いや、ちがう、ちがう!・・・・あなたは!!」
さすが、『正義』のリーダーである少女だ。この程度の催眠術じゃ、通じない。本当にどこまでも神さまは私たちが嫌いなようで、憎たらしくて仕方がない。
なら、力を直接流し込むしかないじゃないか。
私は彼女の唇を奪い、体内へと力の一端を流し込んだ。瞬間的流れ込んできた『正義』の力が私を体内から焼くような痛みへ変わる。
内側から注がれた力は『悪』は精神に異常をきたし、『正義』は内側から体を壊していく。私は今、それをこの身を持って知った。
「・・・・あなたは、何も、思い出さなかった。私はロゼ・・・あなたの倒すべき敵よ」
口から血が零れながら、うつろになった彼女の瞳へ刻み込むようにもう一度呟いた。そこに零れていた涙をハンカチでそっと拭った。
それは彼女に言ったのか、それとも自分に言い聞かせていたのか自分でもよくわからなかった。
「戻ってきなさい。みんな」
「もう・・・・戻ってきませんよ。あなたはもう終わりです」
その言葉を私は待っていたのかもしれない。あの日、彼女と別れさせられた時からずっと。
「・・・そう、だからルナの気配もなかったのね」
私の『悪』が終わることを。
「みんなは生きているでしょうね?」
それだけは確認しないと、私は彼女たちの『王』だから。
「もう、悪の力はなくなっちゃったけどね・・・・ルビーを攫った私たちはあなたを許さない」
「・・・えぇ、でしょうね」
許してほしいなんて思っていない。神にも、他人にも、社会にも。
私を罰していいのは彼女だけ。私を殺していいのは、私をこの世界からなくしていいのは彼女だけ。
「アダラ、最後の一戦よ。本気で手伝ってちょうだいな」
闇の中で私と四人の少女たちの一戦が始まった。
青の少女が射出する水の刃を私は飛んで避けると、その先には緑の少女が蔓を使って私の足をとろうとする。それを闇で生み出した刃によって切り開くと光のない筈のこの世界に雷が射出されていく。
「コダラ、悪いけど」
頷くコダラたちを宙へと飛ばし、避雷針代わりにする。
「なんてことを?!」
「それでも仲間なの!」
四人からそれぞれ文句が上がるが、戦いに卑怯も何もないことを体現している私たちが何をいまさら。
「隙あり!」
黄の少女の光りの弾丸をよけきれずにまともに受け、私は後ろに引きながら傷口を押さえていた。
「フフ、アダラ、あなたの力の全てを私に預けてくれる? 今までしたことなかったものね」
『無論だ、我はロゼのものゆえ』
闇の世界の色がさらに濃くなっていく。重圧が増していく。
「ひれ伏しなさい。この世界は、私のものよ」
その言葉に五人の少女は立っていた場所に叩き付けられるように、ひれ伏した。
この空間でしかできない。ここの全ては私のもの。だからこそできる荒技だ。
現実世界では絶対に実現できない、重力という力。無用の長物であることを望んだ力だったが、最後にこうして使う日が来るなんて。
「「「「ルビー!!」」」」
四人の少女が何事かをぶつぶつ言っていたのは気づいていたが、私も自分の中にある大きすぎる力の制御で精一杯だった。
四人の声にこたえるように彼女が輝きだす。
白い光り、あの日彼女と私を奪った光。そこに一条の赤い光りも混ざっていた。
「遅くなってごめんね、四人とも」
彼女の笑顔が眩しくて、その笑顔を向けられている四人が憎い。
「ッ!! あなたもひれ伏しなさい。フレイムルビー」
力を注ごうとした瞬間
「・・・ゴホッ」
口から突然零れてきた血を手で受け止め、心臓近くが燃えるように痛みだした。
「こ、れは・・・・」
『先程体内に入った力が能力者の強化によって、内側から破壊力を強めた、だと?!』
終わりだとわかっていても、憎しみが膨らんでいく。嫉妬が今更になって、止まらない。
あの四人が、この社会が、この世界が、こんなシステムを作った神が憎い!
でも、
ようやく彼女の手で楽になれることを私は、心のどこかで安堵していた。
「行くわよ。ロゼ!」
臨戦態勢の彼女を私は手を広げて受け入れる。
「えぇ、来なさい! フレイムルビー!!」
拳を掲げて突き進んでくる彼女の攻撃を殺すために、幾重にも闇の刃を出していくがそれを四人の少女が防いでいく。闇の刃は彼女には届かない。
もう目の前に迫った拳を、私は彼女と同じように拳に闇を纏わせた。
そして、拳は互いにぶつかり合うはずだった。
だが、それはぶつかり合うことはなかった。私はその拳を開いてしまったから。
「「「「「!!??」」」」」
五人の少女が驚くのを空気で感じたが、そんなのはもうどうでもいい。
彼女をこの手で傷つける? 出来るわけがない。
『友達になろう。おうちゃん』
そう言って伸ばしてくれた手を、握ってくれた手を、どうして彼女に傷つけることに使えようか。
「どう・・・して?」
先に口を開いたのは、呆けたように口を開いていた彼女だった。
「・・・・さぁ? どうしてでしょうね」
倒れていく私の体を包むように、見たこともない文字と数字が刻まれた光の線と円が私を縛り付けていく。
「忘れちゃったわ」
彼女の拳が離れ、私は封印の光りで痛む体に鞭を打つ。
「アダラ・・・・ごめんね。でも、お互いに眠る前にもう一度だけ、お願いできるかしら?」
『優しい、ロゼのためならば。いくらでも』
私は彼女の目を見たが、その目は涙を零していた。
「ごめんね、ごめんねぇ・・・・おうちゃん」
私の体に突然抱き着いて、子どもの様に泣き出した。
「忘れててごめんね、たくさん傷つけてごめんね、気づかなくてごめんね、探さなくてごめんね、何も返してあげられなくてごめんねぇ・・・・・・うわぁぁーーーーん」
ボロボロ零れてくる温かい涙が私にかかっていく。
「どうして? どうして神様は
「もう、いいのよ」
そう言って彼女を抱きしめるように、その髪を優しく撫でる。
私がこの二年間でたくさん言って、思ってきて、自分のいくらでもなおる体を傷つけることで発散してきた思い。
「私がたくさん文句を言ったことが、今こうしてはるちゃんが思い出してくれたことで報われたの」
それでいい。それだけでいい。これ以上、望んではいけない。
「でも! 私は、おうちゃんが辛かったのに! おうちゃんは覚えていてくれたのに!!」
それでも自分を責めてくれる親友の存在が嬉しくて、自分が悪いと言ってくれる彼女が愛おしくて。
「だったら、さ・・・・・・私を忘れないでいて。たまにでいい、数年に一度でもいい。ううん、十年に一度でもいい。私を思い出して。『悪』の『王』としてでなく、あなたの友達の一人に『呪井 桜樹』って子がいたんだって」
「・・・・そんな、欲がなさ過ぎるよ。おうちゃん」
「そうかな? 大好きな人の心にずっと居れるんだよ? それって生きていることとどう違うのかな?」
私はそう言って瞼を下ろした。
封印されてる時はきっと暇だから、アダラにたくさん謝ろう。
「それじゃぁね、はるちゃん。永遠に、幸せでいてね」
ここに一つの『正義』と『悪』の話は終わりを告げる。
ただ少女たちの働きによって『悪』は滅び、世界は今日も『正義』によって守られた。
公にも、後の歴史にもそう語られることだろう。
だが、個としての彼女たちの思いが埋もれることがないように、ないものとして扱われぬために、私はあの方の配下としてここに事実を記そう。
そして、ここまで読んだ者に問う。
『悪』とは、『正義』とは一体何なのだ?
いかがだったでしょうか?
正直、彼女の思いは作者自身よくわかっていません。
友情だったのか、恋愛感情だったのか、最後の願いすらも・・・・明確な答えは不明のままです。
ただ、私が悪の側ばかりに視点を置いてしまうのは、悪がなぜ悪なのか。どうして、悪とされてしまったのか、そういったことを考えてしまうからかもしれません、
感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。




