23 「勇者」 「一目惚れ」 「戦闘中」 「贈り物」
今回は恋愛を書いてますね。
といっても、あからさまにベタベタはしませんが。
楽しんでいただけたら、嬉しいです。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
では、本編をどうぞ。
その女性は、あまりにも綺麗だった。
神が、自分ができる最大限の加護を彼女に与えたのではないかと思ってしまうほど。
流れる金髪は日の光を受けてなお褪せることを知らず、その瞳は森の美しいもの全てを凝縮したような深みのある青緑。
彼女の口から紡ぎだされる言葉は幾千、幾万の人を魅了する。
その笑みを向けられたものはある者は忠を、ある者は信を彼女へと捧げた。
そんな完璧な女性が俺の幼馴染、もっとも彼女が『勇者』へとなった時から道は別たれていた。
いないも同然の、旧友だ。
俺には何もない。
人を魅了するほどのものは何一つ、そして誰かを守りたいなどと言う信念もありはしなかった。
『共に行こう。フェル』
そう言ってくれた彼女へと俺が首を振ったのが、何よりも証拠。
他の誰もが頷くだろう彼女の言葉を断ることができたのはおそらくは俺だけだろう。
憧れも、彼女へと嫉妬すら向けることもしようともしなかった情けない俺。
彼女はそんな俺の答えに何も言わず、ただ残念そうに笑うだけだった。
彼女が旅立ってすぐに俺もまた村を飛び出し、辺境であった故郷にすらその名を轟かせていたある鍛冶師へと弟子入りを果たした。
もともと素質はあったのだろう、そこで俺は師匠の背を見て学んだ。
もともと口数の少ない人だった師は俺を一瞥してから、弟子となることをあっさり許し、全てを見て盗むしかなかった。
そして、口数の少なかった師は五年経った俺に言った。
『一本の武器を作ってみせろ。なんでもいい、お前が今持っている全てを込めて、最高の作品を作ってみせろ』
今、思い返せば、師はあの時点で己の寿命に気づいていたのだろう。
俺は一本の刀を作ってみせた。刃紋は揺らめき、うっすらと蒼い俺の魔力を宿した俺の全てがつぎ込まれた刀だった。
『・・・免許皆伝だ。フェル。
何も教えなかったってのに、よく俺の技を盗んだ。俺の弟子は生涯お前だけだ、そしてそんなにお前に祝いとしてこれをくれてやる』
そこに置かれたのは一本のハンマー、まだま新しいそれには師の魔力の流れを感じた。
『俺の生涯、最後の作品だ。受け取れ』
礼を述べ、俺が頭をあげた時にはもう、師は穏やかに永久の眠りについていた。
ずるい人だと持った。
卑怯な人だとも思った。
最低なくそじじぃだとも、思った。
だが、それすらももう言えずに、言えないままにその人はもうここには居なくなり、ただ、これから俺の腕となってくれるだろうハンマーと体にしみついた技量の全てを残して去って逝った。
その日から俺は師の名を継ぎ、鍛冶師として生きた。
故郷も、世界も忘れて、噂を聞きつけた剣士を品定めしてから武器を作る日々。
そして、幼馴染の顔すらも忘れたと思っていた頃に
彼女はやってきた。
×
「ここにローレンス・フォーグ殿はいらっしゃられるか?」
最初に入ってきたのは騎士鎧を纏った若い男だった。
「あいにく、師匠はとっくに死んだ。それに騎士の武器はここでは作らない。失せろ」
音からして実力は中の上、その程度じゃ、俺は武器を作らない。というか、あっても売らない。
「なんだと! 貴様」
「短気だな、昨今の騎士は・・・・・この間、ここに来た者もそうだが、騎士は礼儀がなってない」
後ろを振り返らずに溜息をつきながら、俺は愛用のハンマーを肩に置く。
剣をわずかに引き抜く音が聞こえ、その剣の出来の悪さに顔をしかめた。
「武器もイマイチだな、どこの安物だ」
「貴様ぁ!!」
切りかかられたことがわかり、俺は作りかけの鉄が剥き出しである刃でそれをしのぐ。
「ほれ、どうした? こんな作りかけの鉄の塊すらもきれないのか? ソレは」
手入れもなってねぇな、鎧もボロボロだ。これじゃぁ、使われてる武器たちのほうが哀れだな。
「ウィル? どうした?」
そんな言葉を言いながら、一人の女性が入ってきた。それは・・・・
「・・・・・・ルディアーナ?」
「フェル? フェルロードなのか?」
別れてから八年経っていた幼馴染の、時が経ってなおも美しく成長した姿だった。
×
俺はその場に座り直し、ルディアによって騎士は追い出された。
「久しぶりだな、フェル。私が村を出た後、どうしてたんだ?」
笑みすら浮かべて、再会を喜ぶ幼馴染に俺は顔を逸らすことなく見つめ返した。
「村を出て、師匠に弟子入りして、師匠が死んで俺が名を継いだ・・・・・・ただ、それだけだ」
「それだけって、すごいことじゃないか。
弟子をとらないことで有名な鍛冶師・ローレンスのもとで名を継ぐことまでするなんて、幼馴染として誇らしく思う」
眩しい、眩しすぎるよ。お前は。
いつも、いつも、どんな顔をしているときも。あまりにもまっすぐで、純粋で、それなのにどこか強くて。
俺は昔からそんなお前に惹かれていて、それでも近づけば近づくほど、俺にはお前がふさわしくないとわかってしまうから。
「それで? こんなところに何しに来たんだ? 『勇者』ルディアーナ殿?」
でも俺は、そんなお前が好きだった。
「あぁ・・・・それなんだが、私に武器と鎧一式を作ってほしい」
俺はその言葉を受け止め、立ち上がる。
「・・・・・・・あらゆる国に、俺よりもすごい鍛冶師がいる。
そして、お前に武器を作りたいと願う鍛冶師すらいるだろう。そんな者たちを捨て、お前は俺を選ぶのか?
それにローレンス師は俺が知る限り間違いなく、誰よりもすばらしく、誰よりも強い武具を作る鍛冶師だった・・・・・だが、師も俺も使い手である剣士を選ぶなんて、ふざけた考えを持っている。それを理解した上でか?」
ルディアは迷うことなく、頷く。
「あぁ。フェルロード・フォーグ、私は何人の高名な鍛冶師がいてもお前を選ぶ。
そして、お前が作った武具で、この世界を守ると誓おう」
本当にまっすぐだ。
誰がその芯を作った?
誰がお前に世界を背負えと言った?
誰がそんなにお前を強くした?
どうして、そんなに優しくなれた?
「あぁ、その注文承ろう。
俺の鍛冶師生命の全てをかけ、お前と共に歴史に名を残すだろう武具を作ってみせる」
それは、お前がお前だから、なんだろうな。ルディアーナ。
「あぁ、頼む。フェル」
「得物は何だ?」
「全て、お前に任せる。
私に合うと感じた武器を作ってくれ、それを私は何であっても使いこなしてみせよう」
笑うルディアのそんな言葉に、俺は驚かされもした。が、すぐに思い直した。
「・・・・・わかった、その信頼にこたえられるようなものを作る。作ってみせる。
金も要らん、ただその剣と今着ている鎧を使わせてくれ」
俺はルディアの着ている傷だらけの鎧と、おそらく折れているのだろう剣を指差した。
「これを、か?」
「あぁ」
「剣は折れてしまっているし、この鎧は傷だらけだぞ? それでもか」
「あぁ、『最後まで共に居たい』って聞こえてくるんだ。そいつらから。
『お前を守りたい』、『一緒に戦いたいって』、叫んでやがる」
愛おしいそんな武具の言葉が俺の心の耳朶を打つ。
何て健気なのだろう、何て優しいのだろう。
戦いのために生まれたこいつらはなぜこうも俺の心を打つ。
鎧に触れ、剣を引き抜く。折れた刃がわずかに輝き、流れるその力には覚えがあった。
「師匠の作か・・・・・偶然とはいえ、お里帰りだな。おかえり、スヴェート」
鎧を脱ぎ、下の鎖帷子にだけになっていく。俺はそれを気にせずに、棚からある素材を抜き出した。
師匠の友人だった龍の鱗と骨、遺品だったそうだ。
龍も師匠になら使われていいと言って遺体を頼み、鱗と骨を譲った。
それを使うにふさわしい人物は師匠の代ではついに現れることはなかった。そして、もう一本、俺が師匠に免許皆伝をもらった刀を引き抜く。
俺が初めてすべてを注いで作った刀、それを渡せると思った者もまた訪れはしなかった。
「師匠、ご友人の遺品、使わせていただきます」
そう小声でつぶやき、俺は鎧と剣を持って工房に入って硬く戸を閉めた。
×
ここは俺だけの世界だ。
幼馴染も、師匠もない。俺が創る場所。
炉に火が入り、熱は高くなっていくその中で俺は休息という言葉を消し、三日三晩ハンマーを振るい、火と戦い続けた。
あいつが命をかけ、この世界を守るというのならば、俺はこの命をかけて、お前と共に多くの戦場を駆ける武具を作ろう。
お前の代わりに傷つき、お前と共に戦う相棒を俺が創ろう。
戦闘中、お前が誰かを守るように、そんなお前を守る鎧を贈ろう。
俺に武の才はない。
俺に人を惹きつける輝きはない。
俺に揺らぐことのない信念はない。
俺に飾ることもなく、世界の全てに慈しみを捧げる高貴な心はない。
だが、俺には師が残した技と、お前がくれた信頼がある。
それを使い、俺は俺の全てをかけて、『勇者』と共にかける武具を作ろう。
×
刃紋が生まれ、輝きを放ち、俺はそれを研いでいた。
鎧は既に完成している。あとはこれに刃を生み出すだけ。
「・・・・ルディア、いるんだろう? そこに」
「・・・・・・・気づいていたのか。フェル」
「あぁ、入れよ」
「それよりもお前は何か食え! 一度も出てこなか・・・・」
俺を見て、ルディアは言葉を失う。
当然だ。目の下の隈は酷いなんてもんじゃないだろう、頬はこけ、髪はたった三日で白くなっていた。
「どうして・・・・・いや、何故そうなってしまった?」
涙すらこぼして、俺を見つめる。それに応えずに俺は出来上がりつつある大剣を持ち上げ、柄の部分に銘を彫る。
『二代目 フォーグ
フェルスヴェード』
「泣くな、ルディア・・・・・お前はこれから世界に命をかける。なら、このくらい俺にもさせてくれ。
こんな幼馴染ってだけの男を信じてくれたお前に、俺は武器を作ることしかできない。共に戦うことも、その背を守ることも、そんなお前を支えることも」
柄と鞘を装着し、鎧にかけた布を取り払いながら、俺は大剣を手渡す。
「『勇者』よ、これが俺の誠意だ」
ルディアは鞘から大剣を引き抜き、わずかな光に反射して輝くそれを慣れた手つきで振った。
「あぁ・・・・・これは私の剣なのだな」
鎧を装着し、さらに剣と体が一体となって流れるような動きを見せる。
「二代目、フォーグ。確かにあなたの誠意受け取った。これで戦いに赴くことができる!」
「あぁ・・・・武運を祈る」
俺はそう言って、倒れ込むように椅子に背を預けた。
「フェル?!」
「うん? あぁ、気にするな。疲れたんだよ」
これで俺の役目は終わった。
こうして幼馴染に会うのも、これが最後だろう。
『勇者』となった時点でもう会うことはないと覚悟したのだ、『英雄』などになったらもう見ることも叶うまい。
「フェル・・・・・ありがとう」
「それとおまけだ」
俺は握っていたものを指で弾き、ルディアは難なくそれを受け止めた。
「これは・・・・ルアの花」
「好きだっただろ?・・・・花を模して、武具同様に祝福をかけて、まじないを施した。
お前の命を守る、たった一度だけ奇跡だって起こせる。そんなものさ」
俺は力無く、椅子に背を預けながら、ルディアの声を聞いていた。
「覚えていて・・・くれたのか? そんなことも」
「忘れるわけないだろ?」
俺の背が不意に抱きしめられる。
彼女の温もりと花の香りが俺を包み込み、涙が俺に降りかかった。
「ありがとう、フェル」
「相変わらず泣き虫だな、ルディアは」
「お前が私を泣かせるからだ・・・・・お前の前でしか私は泣かないさ」
「そうか・・・・・戦い、頑張れよ。
生きて、この国を守れ。死ぬなんて考えるな、絶対にだ」
「あぁ、帰って来るさ・・・・・フェルのところに」
俺の知らない熱のこもった視線、それは心地よかった。
「俺はここに居る・・・・・どこにも行きはしない。だから、帰ってこい。それと」
言葉にするのを少し躊躇い、俺は力無く笑った。
「改めてプロボーズするから、違う覚悟もして来い」
眠りにおちていく中で、幼馴染の真っ赤になった顔と、幸せそうな笑顔を俺は確かに見届けた。
ここから先?
それを聞くのは野暮というものだろう。
何故なら、こんなにも遠回りをした彼の恋が叶わぬなど、彼女を愛した神が望むわけがなく、不器用な人間の思いが届かずに終わる世界などありはしないのだから。
平和な世、平和になった国、そこにあるのは一つの家、そして男女は共に生き、未来は続いていく。
それこそが誰もが望むハッピーエンド。
いかがだったでしょうか?
自分でもなぜ素直に勇者の視点で書かないのかが不思議でなりません・・・。
絶対主人公じゃないような、人の斜め上を行くような視点だと多少自覚しています。
でも、書くとこうなってるんですよね・・・。
感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。




