17 「狼」 「大家族」 「里帰り」 「呪い」
この作品は四題がついていますが、四題のほうが後付けなので沿っているかが微妙です。
たまに衝動的に書きたくなる作品があるんですよね(遠い目)
大筋が頭の中でできていたので、推敲を何度も繰り返して形にした自分でもお気に入りの話です。
それから一点ご報告を。明日より実家に帰らなければならないので次の投稿が16日になってしまいます。パソコン等の設備が古くて、実家では投稿できそうにありません。
予約投稿も考えましたが、キャラ設定が書きあがってなく、早いために適当に切り上げることだけはしたくありません。
日々読んでくださっている方、お気に入り登録をしてくださっている方本当に申し訳ございません。
ですが、こちらに帰宅次第早ければ15日の午後には投稿を再開したいと思っています。
待っていてくださると嬉しいです。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
では、本編をどうぞ。
「我が子は、我が愛し仔はどこだ!」
その獣は怒り狂っていた。泣き叫んでいた。
象よりも大きなその体は緋色の毛皮に包まれ、その全身の毛を逆立てて怒りを表していた。
この世界に存在するどの獣よりも鋭敏な嗅覚が、愛しい我が子の匂いを探す。
強靭なるその爪と牙をしまうことなく、奪い取った何者かをいつでも抹殺できるように剥き出しにされていた。
「どこだ?! あの蒼き毛皮を持つ我が子を、我の長子を誰が奪った!」
その背には金の髪と白い肌、碧眼のハイエルフと黒髪の青い肌、紅の瞳の魔族、首元にのぞくわずかに蒼き鱗と翼、角を持つ竜人、彼女ら三名は彼の愛しい伴侶たちであった。もう二名いるのだが一人は子を抱えて留守番をし、もう一人は空から大切な家族を探していた。
背に乗る三名の伴侶もまた、彼同様に全てを射殺さんばかりの瞳で世界を睨んでいる。今、彼や彼女らの脳内に『落ち着く』という言葉は存在しない。
同じ男を愛した大切な友人でもある存在の第一子が、自分たちの娘にも等しい大事な子が奪われたのだ。
「神力は感じない。この世界に居るならわかる筈なのに・・・・・魔力の方は感じる? イリス」
リラが唇を噛み締めて、悔しそうに友人に問うた。
「駄目、あの子の力ならわかる筈なのに。私たちの祝福がついているから神力も魔力も桁が違う・・・・間違えるわけがない。なのに、感じない」
眉間にしわを寄せ、いまだに探知の魔法を使っているのか紅の瞳が淡く輝き続ける。
「クソッ! 妖精にでも攫われたとでも言うのか?!」
竜人、ニーロの言葉に巨狼の耳はピクリと動き、背を振り返った。
「妖精・・・・・・だと。まさか、そんな・・・・・」
「スカー? どうかしたのか?」
夫の反応に戸惑うニーロと彼の反応に即座に理解したのか、イリスの瞳から魔力の光りが消える。
「イリス?」
「二人して、どうかしたのか?」
まだ、わからぬ二人にイリスはポツリとつぶやく。
「・・・・・チェンジリング・・・・・・妖精の悪戯」
瞬時に二人の表情が凍りつき、リラは絶望にも似た深い悲しみを、ニーロは行き場ができた怒りが殺意となって表れる。
「嘘でしょう!? あの子を」
涙を零してリラが呟き、その言葉にニーロが魔力を爆発させるように竜へと変わる。
「妖精か・・・・・・皆殺しにしよう、スカー」
夫へと空中で並び立つ蒼き竜がそのあふれ出る殺気を隠すことなく、提案した。
「駄目だ・・・・・もし、本当に妖精がそうしたのならば生かしておかなければならない。あの子にどんな呪いをかけ、どの世界に行ったのかを聞かねば・・・・・最悪、あの子がこちらに来ることがなくとも」
緋色の狼は頭を垂れ、力なく地面を見る。
「あの子が万に一、億に一でも帰って来る可能性があるというならば・・・・・呪いをかけた当事者が必要になる」
怒りに我を忘れていた姿が嘘のように、狼は悲しげだった。
世界が違えば、探すことはできない。
怒りに狂い、妖精を絶滅にすることは簡単だが、呪いをかけられているだろう我が子がもし帰って来た時にそれを解く方法がいる―――――たとえ、それがどんな低い可能性だろうと、我が子が帰って来るという希望を捨てられる親などいない。
(アスナ・・・・・・・我が子よ、どうか・・・どうか、再会を果たすその日まで、たとえ再会できなくとも幸せでいておくれ)
声にされることのなかった悲しき思いが妻である者たちの心にだけ響き、涙となってこぼれ落ちる。そして、獣はカッと目を開き、吠える。
「だが、我は魔王たる者! 嘆くだけなど誇りが許さん!!
わが仔を奪った妖精を捕らえ、その者の一族郎党を生かしてはおかぬ。
それが絶滅させぬ条件だ! 妖精の王よ!!」
たった一人の妖精の悪戯が魔王の逆鱗に触れ、その怒りと悲しみの慟哭が大地に響いた。
×
「・・・・やっと終わった」
狗堂 明日奈は溜息をつきながら高校から家へと帰る。学校という閉鎖的空間で勉学を学び、一日の半分以上を搾り取られるところを彼女は好きになれなかった。
いや、それ以上に彼女は人の中に混じれずにいた。それはひとえに彼女自身の性格もあるだろう。だが、
(でも、何なんだろうね? この疎外感は・・・・・人に混ざれないというか、混ざりたくないというか、なんかまるで種族自体が違うような気がしてしょうがない)
「あーあ、私は本当にここに居るのかな? いるべきなのかな?」
おかしな言葉かもしれない、思春期の子どもの様な考えかもしれない。
自分の居場所など明確に言葉に出せるような者などいないのかもしれない。
それでも彼女の中にある疎外感は年々増すばかりで、今では家族ですら異物だと感じていた。
そのため現在は亡き祖父母の家を使って一人暮らしの真っ最中であり、親しい友人も作らずに、学校にだけは出てダラダラと生きている。
「あぁ、会いたいなぁ」
ポツリと無意識に呟かれた自分の言葉は、一人にいることを望んでいるはずの自分にはあり得ないものだった。
「・・・・・って誰に?」
自分の口から出た言葉に答える者など、いる筈がない。
「あぁ、夢に出るあの人たち? かな。しいて言うなら」
彼女は定期的に同じ夢を見る。とても暖かで、自分であって自分ではないはずの蒼い毛皮を持った狼の夢を。
そこでは真っ白な狼が自分と他の毛玉たちを包んでいて、その様を嬉しそうに六対の瞳が見ているのだ。
金髪碧眼、白い光に包まれている耳の長いハイエルフ、黒髪に紅の瞳、青い肌からは黒いのに敵意のない力を纏った魔族、青い髪と金の瞳、首元に鱗をのぞかせる竜人、茶の髪とオレンジの瞳、自分の背よりも大きな翼をもつ鳥人、そして、そんな私たちを包む狼をさらに優しく包んでいる緋色の狼の紺碧の瞳。
『目が開いたようだな、愛し仔よ』
その言葉は直接どこかに響くように彼女には聞こえていた。
思念のようなその言葉は穏やかで温かく、喜びに満ちていた。
『愛し仔よ、お前には多くの母がいる。産みの母であるヴィオラ、ハイエルフのリラ、魔族のイリス、ドラゴンのニーロ、グリフォンのファナ、お前の母たちはお前を、お前たちを全てから守ってくれるだろう。そして、多くのことを教えてもくれるだろう』
愛おしげに母を毛繕いしてから、その大きな舌が夢の中の彼女にも伸ばされる。
『我は父として、そんなお前たちを全力で守るだろう。お前たちに敵意を向ける者に牙をむき、その体をこの爪で切り裂くだろう。だから、何も心配することはない』
そして、彼女の視線は父から離れ、自分を包む純白の毛玉たちに向けられる。まだ目も開かずに眠り続ける、彼女の弟妹らしき毛玉たち。
『・・・ま・・・・も・・・る。か・・・ぞく』
わずかに言葉になった彼女の思念に父と母が目を開き、周りの五対の瞳が駆け寄ってくる。
『フフ、我らの子はとても頼もしいな』
父は嬉しそうに笑んだ。
『第一声がこんなにも嬉しいなんて、思わなかった。優しい子』
狼の母が、漆黒の瞳を涙で潤ませている。
『誰に似たんだかね・・・・本当にもう、可愛いわ』
ハイエルフの母が、肩をすくめながら彼女をそっと撫でる。
『・・・・・いい子。大切な私たちの子』
魔族の母が、誇らしげに彼女を見つめる。
『ゆっくり大きくなりな。そしたら、いろんなことを教えるからさ』
毛玉たちを包むようにドラゴンの母が寄り添うように、寝転がる。
『僕たちは幸せ者だよねー、こんなにも家族に恵まれちゃうんだもの』
空中には羽だけを出したグリフォンの母が、笑っていた。
『大切な我の子らよ、愛しい第一子よ・・・・アスナ、よくお眠り』
瞳を閉じていく彼女の耳には父の声を主旋律に奏でられる、母たちの子守唄を聞いて眠りに落ちていった。
いつも同じ夢、内容は変わることはない。誰一人として欠けることもない。
異形の姿を持つ夢の中の彼女に両親であることを告げる者たち、誰も信じることはなく、嘲り笑うだろう夢。
だが、見ている彼女にはわかる。
あの異形の両親たちの深い愛情を、あの優しげな言葉の数々は偽りでないことが、あの温もり溢れる瞳たちが本当に宝物を見ているようだったことを。
生まれて十七年間、週に一度か、半月に一度必ず見る夢。
起きてもその優しさに包まれているかのような暖かな気持ちになるその夢が、彼女は大好きだった。見ている理由などわからないのに、ただの夢の中で実感できるその愛情を支えとしていた。
「今日はお月見でもしようかな? 屋根に上って、お菓子とかも持って・・・・・あっ」
今晩の予定を考えると、彼女はそれを見てしまった。
紀州犬か柴犬、北海道犬だろう白い犬とその飼い主だろう少年が歩く道の先に、一度見ればスピード違反だとわかってしまうような大型のトラックが迫ってくるところを。
白い、白い。陽光に跳ね返るその体毛は彼女には夢の中に居た純白の毛玉たちに重なって映る。
夢の中の自分が『守りたい』と思った大切な者たち。
(守りたい。守りたい! 守ってみせる!!)
願望は行動へと昇華され、彼女の目はそこだけを捕らえていた。
「守らなきゃ・・・・あの子を」
彼女は反射的に荷物を放り捨て、走り出す。自分の中のあらゆる箍を捨て去るように、彼女は走った―――――彼女が冷静だったならば気づいただろう、自分の足の速さの異常さに、運動部にも所属すらしなかった彼女が周りの人間には風が通ったぐらいしかわからなかっただろう事実に。
「え? ああぁ!!」
少年のパニックになるような言葉を聞き、彼女はさらにスピード上げる。
犬だけは主人を守るようにトラックと少年を守るように立ち、吠えだした。
『偉いね、君は』
危機的状況の中で時は止まったようにゆっくりと見える。何が起こったかを脳がありありと焼き付けるようにそんな錯覚を覚えさせるのだが、それは駆けつけた彼女も同じだった。どうやって、自分が彼と話しているかがよくわからない。
『だから、もう少しだけ君に任せていいかな?』
『任せろ!』
彼の返事に彼女は微笑んで、全力疾走を心がける。
『君の大切な家族が、怪我しないようにしてあげて。突き飛ばしちゃうから』
『わかった! ・・・・・でも』
『ありがと、私の心配もしてくれて・・・・・でも、いいの』
彼女は宣言通り、少年と彼を突き飛ばしてトラックの前に躍り出る。もう変わることのできないだろう死の運命が迫りくる。
だというのに、彼女はひどく穏やかな気持ちだった。
「何だろうね? この気持ち」
自分の命の引き換えに守ろうとしたのは少年ではない。白い犬、少年はそのおまけだった。
それは彼女が最後まで、人間に愛着を見出すことはできなかったことへの証明。
「・・・・薄情だなぁ」
両親のことなどどうでもよいと、思ってしまう。
その上で、人間の弟妹達のことも欠片も考えられない。
今思うのは、夢の中に居た彼らのこと。
自分の両親だと、本当に家族であることを、『守りたい』と願った純白の毛玉たち。
「あぁ、会いたいな」
彼女の体を衝撃が襲う。
トラックによって彼女はコンクリートの壁に叩き付けられ、すぐさまトラック自体が彼女の体を壁と挟み込む。
痛みは脳に届き、正確に本人が何に襲われたかを理解してから体に送られる。
「・・・・・何も感じないんだね、死ぬって言うのにさ・・・・アレ?」
パキンッ
彼女の中の何かが壊れる音が聞こえた。その音は何故か懐かしく、同時に恐ろしい。
一部でしかないその綻びから、記憶が溢れ出す。
脳の中で映し出されていくのは幼いころの記憶。
人でなかった彼女の記憶。
異世界で生まれ、純真な妖精が残酷にも取り替えた彼女が本来いるべき場所での記憶。
彼女の目から痛みからではない涙が溢れ出す。
「えっ?・・・・・・コレ、何なの?
本当に? 本当にあの人たちが私の、家族だったの?」
戸惑いではなく、喜び。
疑問よりも、確認。
疎外感よりも、親近感。
「あぁ、こんなに嬉しいこと・・・・ない」
溢れ出るわずかな記憶の中にある確かな愛情とぬくもり、生まれて半年も経たぬうちにそこから連れ去られたこと。
そして、それは本来彼女ではなく、弟妹の誰かだったことをあの日の彼女にはわかっていて、その上でそれを阻止できたのこと。
「あぁ・・・・・守れてたんだ。私」
夢の中にいた彼らが本当の親、幼い自分にあった数少ない思い出が忘れまいと必死に繰り返されていた。
母から生まれ、多くの母たちの優しい匂いに包まれて、目を開くとそこに居たのは多くの暖かな視線。目も開かぬ弟妹達の温もり、父の言葉。
(私、愛されてたんだ・・・・・会いたい、会いたいよ。まだ、死にたくない)
それは、彼女がこの世界で初めて願うワガママだった。
誰とも違うとわかった時からの孤独感も、『家族』であっても自分の中にある違和感にも、夢の中にしかなかった安らぎも、彼女は全てをそういうものだと思って受け入れた。
誰とも必要以上に親しくなることをやめ、諦め、そっと間を置いた。
親から感じる違和感を見るのが嫌で、一人暮らしに近いことをして距離を取った。
あの夢の中でだけ、愛情を感じていた。
手を伸ばしても届かないと諦めていたものが真実であり、この世界の一生分の孤独を感じた少女の生まれて初めてのワガママ。
それはただ、『家族に会いたい』という切実でとても小さな望みだった。
【聞こえるか・・・・・ま、聞こえてなくたっていいけどな。説明がめんどくせぇな、省略しちまえばいいか】
だるそうな何者かの声が彼女には聞こえていたが、彼女にとって今そんな声はどうでもよかった。
【この世界の管理なんざ、めんどくさいことを任せやがって。
それで妖精の悪戯まで俺のせいかっての・・・・・まぁ、いいさ。今まで悪いこともしてねぇし、理由はどうあれこの世界のガキまで助けてもらったんだ。礼はさせてもらうぜ? 魔王の娘】
そんな言葉とともに彼女は何かに包まれる。彼女はかつて感じていた神力でも、魔力でもないその力は彼女の体を包んで持ち上げる。
【俺は神さまだからな、何だってできる。何だってしてやれる・・・・・帰してやるよ、お前が会いたいと望んだ本当の家族のもとへ】
×
「感じる」
「あぁ、来たな」
「わかる、わかるよ!」
「懐かしい・・・・優しいこの力」
「姉さんだ! アスナ姉さんが帰ってきた!!」
突然、はしゃぎだす五頭の純白の狼たちの言葉に、そこに居た父も、母も、腹違いの兄弟姉妹たちも驚く。
「何?! イリス! リラ! 感じるか?」
「・・・・・・感じる、あの子が帰ってきた・・・・・!」
「えぇ! えぇ!! あの子が、戻ってきてくれた」
その紅の瞳と碧眼から涙が零れ、溢れだしていた。
「これで家族が揃うな! やっと、やっとみんな揃って笑いあえる!!」
「迎えに行こうかぁ! 家族全員であの子のもとへ、怪我でもしてたら大変だしね」
ドラゴンの翼と猛禽類の翼が、瞬時に背中から現れ今からでも舞い上がるように大きく広がる。
「父さん、母さんたち。マルーン、バルツ、モーブ、セルナ、ランの狼組はもう行っちゃったんだけど・・・・しかも、その背に乗ってオリーブとカクタス、メディのハイエルフ組とフローラとアシードの魔族組も」
言いにくそうに両親にそういうのは猛禽の翼をもつ大柄の青年、名はバースロー。瞳は金、褪せたオレンジの髪は炎のように立っている。青年の他にもそこには同じく猛禽の翼をもつ女性と黄と緑のドラゴンの翼をもつ男女が立っていた。
「バルツたちのあの速さは予想外だったかな・・・・乗り遅れちゃったよ」
明るい茶の髪に猛禽の翼、瞳は紺碧。名はルベージュ、乗り遅れたことにより唇を尖らせる。
「仕方あるまいよ。今まで会えずに、しかも再会できるかもわからなかった姉者との再会だ。だが、その気持ちは我らも同じ」
緑の竜の翼を広げながら、長い深緑の髪を風に揺らす。その瞳は金、名はロディーナ。そう言いながらも彼女もまた、その姿をドラゴンへと変えていく。
「俺は狩りでもしてこようかなぁ・・・・せっかくみんな揃うんだし、会うならあとからでもいいだろう?」
黄の鱗を持ち、緋色の髪を風になびかせながらレグルドはドラゴンの翼をはばたかせる。その目は紫、口元は再会を果たせることの喜びで緩やかに弧を描いていた。
「イリスとヴィオラは私と共に迎えに行くぞ。
リラ、ニーロ、ファナ、バースロー、ルベージュ、ロディーナ、レグルドは食事の確保とここで歓迎の準備を頼む。イリス、あの妖精はいつでも出せる状態にあるか?」
緋色の狼であるスカーはその体を今は人間状態にして、家族に指示を飛ばす。
緋の髪を背中にたらし前髪は押し上げられ、やや日に焼けた肌と筋肉質の細く締まった体が今は娘との再会できることに落ち着くことなく動かされていた。
「もちろん。ヴィオラ、背中借りる」
「えぇ、イリス・・・・・早く行きましょう、あなた。あの子を迎えに」
白き狼は友を背に乗せながら、夫を急かした。夫もまた妻の心をわかっているのだろう、その声をかけられた瞬間に姿を狼へと変えた。
「あぁ、行こうか。大切な私たちの娘を迎えに」
×
草と土の香りが彼女を包んでいた。
「ハハ、懐かしいなぁ・・・・・・初めてのはずなのに」
息も絶え絶えに彼女は呟いて、地面に倒れ込んだ。
神によって導かれた彼女の体は、あちらの世界で負った怪我もそのままにこちらに戻ってきた。
その姿もあちらの世界のまま、溢れる血が彼女の命を削る。
「帰って来れたんだもの・・・・・どうせ死ぬなら、一目でも会いたいなぁ」
膝を使って立ちあがりながら、よろよろと樹を支えにする。
どこか遠くで狼の声が聞こえ、誰とも知る筈もないというのに彼女の目は細められ、口元は自然と緩む。
「・・・・・わかる、わかるよ。誰かはわからないけど・・・名前も、知らないけど」
耳に聞こえるその声が誰のものかは知らない、もちろんその名すら彼女にはわかる筈もない。この世界に生まれて、半年も経たぬうちに取り換えられてしまったのだから。それでも本能だけは、家族の絆だけは誰にも消せはしない。
「大きくなったんだね・・・・あの子たち」
立ちあがることももうできそうにないと判断した彼女はそっと傍にあった大樹に寄りかかり、自分の名を呼ぶ心地よい声を子守唄に目を閉じていった。
×
狼の末っ子であるセルナと魔族のフローラは誰よりも早く、血まみれで大樹に寄り添い眠る姉を見つけた。
人の姿をしていても、間違える筈もない魔力と神力に包まれた力の波導とどこかからあふれだす懐かしさがそれを教える。
「・・・・・お姉ちゃん?! 嫌だ、嫌だよ!
せっかく会えたのに、帰ってきてくれたのに!!」
「セルナ、落ち着いて。お姉さまの命を父様たちが来るまで何とか私たちの力で持たせるわよ!」
セルナは傍に駆け寄り、悲鳴にも似た鳴き声が辺りに響き渡る。
フローラ――青い肌にうす紫の髪、漆黒の瞳――は飛び降りながら、その手に魔力を集めて姉の体へと同調させるように流す。
「セルナ? 見つかった・・・姉さん!?」
「フローラ姉さま、何があったの? アスナ姉さまはどうしてそんな怪我を?!」
狼組の三番目のモーブ――瞳が琥珀――、ハイエルフ組の末っ子メディ――白い肌に金の髪、緋の瞳――も続く。
「説明するよりも今はお姉さまの命を繋ぐわよ!
メディ、この森で調合できそうな傷薬を作って!
モーブはみんなを呼んで! 少しでも多くの魔力と神力でお姉さまに注ぐ。
セルナも! 泣いてもお姉さまを助けられないわよ!!」
魔力や神力では流れる血を止めることはできない。力は全てを癒すほど万能ではなく、ただ生命力とその薬の既存の力を向上させることしかできない。
壊すことにたけていても、癒す、直すことに力は向いてはいない。
「・・・うん! アスナお姉ちゃんを助ける! 死なせないから、絶対に」
狼から真っ白な髪、桜色の瞳を涙で濡らした少女へと変わり、小さなその手をそっと白い光に輝きだす。
「ウオォオオオオオオオオーーーーーンンン」
少し離れた場所から大音量の遠吠えが発せられ、森のあちこちから草をかきわけて走ってくる音が迫ってくる。
「すぐに採ってくるわ!」
メディは足元を光り輝かせながら、草むらを駆け抜けていく。
「姉貴!」「姉上!」「姉さま!」「姉さん!」「お姉ちゃん!」「アスナ姉!」
三頭の狼――マルーン、バルツ、ラン――は人の姿へと変わりながら、ハイエルフのオリーブとカクタス、魔族のアシードは飛び降りながらその傍へと駆け寄った。
狼たちの髪は皆白く、その瞳の色が異なっていた。マルーンは瑠璃、バルツは若草、ランは
薔薇それぞれの輝きが再会と失いたくないという切実な思いで揺れる。
ハイエルフの肌は白く、オリーブは金、瞳は紅の眼。カクタスは銀、瞳は深緑。
魔族であるアシードの肌は青く、漆黒の髪に白い瞳。三人は状況を瞬時に理解し、傍によって魔力と神力を姉に注ぎいれた。
「できた!」
メディは出来上がった薬を葉に乗せて傍に駆け寄る。
姉の服を開き、水系の魔法で出した水で傷口を洗い、丁寧に塗っていく。
「メディ姉、これ」
ランがさっと包帯を渡し、メディはそれを傷口へと巻き付けた。
「アスナ・・・・・やっと会えた」
十の瞳が驚き、突然現れた父を見た。
人間の姿をしたスカーがそっと大切そうに彼女を抱き上げ、手当された傷口を見て少しだけ顔をしかめた。スカーの隣にはイリスと、人間の姿となった白髪と漆黒の瞳をもったヴィオラが立っていた。
「スカー・・・・・・まず、ヴィオラに譲るべき」
イリスはスカーの手からそっとアスナを奪って、ヴィオラへと渡した。ヴィオラはその手を喜びで震わせ、大切な娘を抱きしめた。
「・・・あぁ、アスナ。おかえり・・・・もう二度と、会えないと、思ってたのに」
涙ながらにそっと抱きしめて、髪を撫でる。
その光景に子らは姉が帰ってきたことを実感し、涙ぐむ。スカーとイリスも目を細め、愛する妻と友人の喜びを分かち合う。
「怪我のことはあとから本人に聞こう。
突然姿を戻して、傷に触れては大変だろうしな・・・帰ろうか、愛し仔たちよ。アスナが目覚めたら、全員で迎えよう。抱きしめよう、多くのことを語ろう。今まで出来なかった分を取り戻すように」
「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」
「何をしたいか、話したいかはよく考えておくように。
だが、アスナは一人だけなのだから。よく話し合って順番も決めておくといい」
スカーは今ここに居る十人の子どもたちを見つめ、微笑む。
「それでは先に帰っているから、皆くれぐれも怪我をしないように帰って来るんだぞ」
そう言って瞬時に狼へと変わり、同じく変わったヴィオラの背にアスナを抱えたイリスが乗る。
「狩りをして遊ぶのもほどほどにして、ちゃんと帰って来るのよ?」
「アスナが目覚めたとき、みんないるように」
そう言って風のように走り去っていく両親たちを見送って、子どもたちもまた走り出す。少しでも早く長く、姉の傍に居られるように。
×
彼女は夢を見る。
いつものように幼いあの日の夢、現実だった愛しい過去の思い出。
『守りたい』と願った弟妹達、笑顔を向けてくれる父と母たち。いつも通りだと思っていたその中に変化が生まれていた。
ハイエルフの母が三人の赤ん坊を彼女に見せるように抱き、魔族の母とドラゴンの母、グリフォンの母が二人ずつ子どもを抱えていた。
『まもる。まもる! かぞく、だいすき!』
幼い彼女の思念が歌でも歌うように囁かれ、その子どもたちに鼻を近づける。
どの子も赤ん坊だというのに、彼女がわかるかのように声をあげて笑う。彼女もまた小さな尻尾を振って、赤ん坊を順番に見続けた。
大切な家族が増えただけ、守りたいものが多くなっただけ、同じ父と母たちに生まれた弟妹達が彼女にはどんなものよりも眩く輝く宝物だった。
『アスナはこの子たちの一番のお姉ちゃんね』
狼の母の言葉にさらに強く尻尾が揺れる。母たちのもとをパタパタと走り、赤ん坊たちの間を忙しなく動く。
『なめて、いい?』
母たちが頷くのを見てから、ペロペロと優しく全員を舐める。次の子のところに行こうとすると赤ん坊が泣きだし、しかし他の子は来ないことに泣き出す。
『あらあら、人気者ね。アスナは』
彼女が尻尾を下げ、耳を伏せて困っているとハイエルフの母がそんなことを言ってクスクスと笑う。
『どの子もお前が姉だとわかるんだろうなぁ、不思議なもんだ』
笑いながらドラゴンの母がそっと彼女の頭を撫でる。
『そりゃぁ、わかるでしょう。だって僕らの子だもの。僕らの家族、僕らの子どもたちだものね』
グリファンの母がそよ風を起こして、子らを包んでいく。
『アスナの気持ちがきっと伝わってるから、甘えたがる』
魔族の母が赤ん坊をあやしながら、彼女をまっすぐ見つめた。
『帰ったぞ・・・・・どうかしたのか? アスナ』
獲物をくわえて帰ってきた父親に振り向いて、まだ泣いたままの弟妹達を彼女は見た。
『フム・・・・アスナは弟妹たちにも愛されておるな』
父親は笑って、獲物を置いて彼女を舐め、順番に子どもたちも舐めていく。父親だとわかっているのか、子どもたちは泣くのをやめてその目を閉じて眠っていく。父親はそれを見届けて、アスナをくわえて純白の毛玉たちの中へと落とした。
『さぁ、お前もお眠り。寝る子は育つという、お前たちの成長を我らに見せておくれ』
×
心地よい夢から目覚めていく、目を開ければいつもの朝が来ると絶望にも似た思いが湧き上がってくるのが彼女の習慣だが今回そんな気分は欠片も存在しなかった。なぜかはわからないまま、そっと目を開ける。
「起きたな、姉者・・・・おはよう、おかえり、初めまして、さて、十七年間会えなかった姉を迎える言葉はどれが適当だろうか?」
深緑の髪と金の瞳、眼鏡をかけた知的な女性が笑っていた。
「あ・・・ゴホッ、ゴホッ」
「無理にしゃべらなくていいさ、姉者。
私はロディーナ、あなたの妹の一人だ・・・皆を呼んでくるから、少しだけ待っていてくれ」
対応は落ち着いていたが、その喜びはロディーナの笑顔と扉を出てすぐに響く駆け足が語っていた。そう言って整えられた部屋に彼女一人だけが残される。夢の中にあった洞窟ではないその場所は綺麗で大きな屋敷のようだった。
あちらでは感じなかった何かが自分の中にあるのがわかり、それが封じられていることも感じられる。この姿事態も殻のような封印の一部だということも、ここでならわかる。
(・・・・帰ってきたんだ。ようやく、本当の家族に会える)
瞳を閉じると自然と涙が零れ、かけられていたタオルケットを濡らす。傷口に当てられた包帯からも、体に流れる力からも家族の温もりを感じることが嬉しくてたまらない。
(だから、この邪魔な鎖を壊してもいい? この私を縛り付ける邪魔なモノを)
呪いのような魔法が自分の体に巻き付けられ、鎖で縛りつけられている。知らなかった、見えなかったあちらの世界ならどうとも思わないそれを彼女はひどく邪魔に感じた。何よりもこの姿が自分の姿でないと気づいてしまっている今は、尚更それを壊したくて仕方がない。彼女の決断は早かった。
「ふぅぅ」
息を深くついて、体の全てを自分で掌握するように集中する。
(周りを壊さないように、内側で握りつぶすように・・・・・呪いすら噛み千切るように、全てから解放される感じで)
流れる二種の異なる力の流れを一つの流れに乗せ、内側から溢れ出しそうになる力を己の体内の何かを縛り付ける呪いへと流す。
絡まり、共に生きてきた呪いはその体から剥がれまいと激しい頭痛と嘔吐を彼女に送るが、彼女は固く唇を噛み締めて壊そうとすることをやめない。
少しでも集中を乱せば、激流のようなこの力が外へと流れ出てしまう。それは彼女の大切な家族が傷つく理由になりかねない。粘つく汗が彼女の額から流れ、唇は切れて血を流す。
(壊れろ。私の自由を、人生をこれまで奪ったのだから・・・・・粉々に砕けろ!)
「アスナ!?
この力の奔流は・・・・何を?!」
緋色の髪、紺碧の瞳。それは彼女が夢に見た父と感じた狼と同じ色だった。
「まさか・・・・・妖精の呪いを内側から壊しているの?」
白髪に漆黒の瞳、それは狼の母だ。
「やめなさい! アスナ!!
そんなこと、前例がないわ! あなたにまた何かあったら・・・」
金髪碧眼、それはハイエルフの母。
「・・・・・・でも、リラ。ちゃんと見て。呪いにヒビが入ってる」
紅の瞳に漆黒の髪、それは魔族の母。
「頑張れ! アスナ! そこまでいったんなら、壊しちまえ!!」
蒼い髪に金の瞳、それはドラゴンの母。
「大丈夫、私たちもここにいるよぉ」
茶の髪にオレンジの瞳、それはグリフォンの母。
(あぁ・・・・私は独りじゃない。この世界には私の家族が、いる!)
たった一言が、かけられる言葉たちが十七年の孤独が癒やしていく。
(異常でいい。この大切な家族のもとに帰れるのならば、あの蒼き狼に戻れるのならば、私は何に恐れられたっていい。
さぁ、帰ろう。私。本当のあるべき姿に、ある筈だった暖かな家族のもとに)
バキンッ
彼女の中で、硬質な音をたてて鎖が壊れた。
力が内側から溢れて、光となって彼女を包む。
神力の白く神々しい、炎のように優しき力、魔力の黒く禍々しい、氷のように気高き力。
その二色が彼女の体の変化を覆う。光が収まるとそこには、父親の瞳のような紺碧の長い髪と真っ白な瞳をもった女性がベッドにそっと倒れた。
「「「「「アスナ!!」」」」」
「・・・・大丈夫、初めての力を全力で内側に向けて、疲れただけだ」
駆け寄ってきたスカーに体を起こされながら、自分の蒼い髪に驚くこともない。
これが自分の本来あるべき姿だということが彼女にはわかる。
「無茶をする・・・・本当にお前という子は。我らに心配させてばかり」
彼女の髪がスカーの涙によって濡れ、その逞しい腕の中で彼女も初めての父の腕の中で手を伸ばして抱きしめ返した。
「ただいま・・・・ただいま、父様、母様たち」
溢れる涙を堪えることもなく、彼女は十七年分の孤独を泣いた。
「入ってきてよ、私の可愛い弟妹達・・・・・私に名前を教えて?
あの日に見た子たちどれだけ大きくなったかを見せて」
「あの日・・・・・って、アスナ? あなた、覚えているの?」
驚き目を開く狼の母に、彼女は笑みながら頷いた。
「覚えてるよ。母様たちがみんなを抱いて、私がそこを走り回っていたことも、みんなが泣きだしたことも・・・・・大好きな、私が守りたいと思った眩しい大切な宝物も、温かい目で見てくれた父様も、母様たちも、全部・・・・・あの世界に居てもね、みんなが夢に出てきてくれて、私・・・・・何も知らなかったのに、忘れてたのに、懐かしくて」
(手が二本しかないのが悔しく感じるなんて、思わなかった。こんなに自分が、誰かに触れてほしかったなんて・・・・・・知らなかった)
「家族だって覚えてなかったのに・・・・・そうだったらいいなって、ずっと」
「無理に言葉にしなくていいんだ、アスナ」
「帰ってきてくれただけで十分。これから、ぜーんぶ僕たちと過ごせるよ」
スカーとヴィオラがどき、ニーロとファナが入れ替わりに彼女を抱きしめる。
「アスナ、獣の姿になって。そうすれば、あなたの家族がみんなあなたを触れられるわ」
「えっ? でも、どうやって?」
「大丈夫・・・・・変わるんじゃなくて、自分を呼べばすぐになれる。あなたの姿を見せて」
リラとイリスがそっと神力と魔力を流して、彼女を促す。
「でも、壊れちゃわない? この部屋」
「なに、かまわない。お前の父たる我は魔王ぞ、どうとでもなる。お前がいなくなってから全ての魔族の統治も行ったし、一部屋だけでなくこの城程度は壊してもかまわん・・・・・・・それに、お前の弟妹達もすでにいくつか壊しておるしな」
スカーの苦笑いを見て、彼女も笑う。どんな表情ですら、こんなにも誰かの想いが嬉しいなんて思ったことは彼女にはなかった。どんな感情もあの世界では彼女に異物、異端だった。
(自分を呼ぶ、か)
彼女は思い浮かべる。
夢で出会ったあの蒼い毛皮を持った狼を、あの自分自身にそっと声をかける。
(帰って来れたよ、私。大切な家族が私たちを呼んでる・・・・行こう)
力じゃない、自分自身の内面に広がる蒼いそこに話しかけるように彼女は姿を変えていく。
広がるのは蒼、その蒼い毛皮は海よりも空の色であり、そこに存在する白き瞳はまるで雲か、昼間に見える真白き月のようだった。
「――――――――――――!!」
すぐさま響き渡るは歓喜の雄叫び、それは彼女であって彼女ではない獣の本能がさせたもの。
彼女が周りを見るとそこには、同じように狼となったスカーとヴィオラ、そして五頭の白き狼たち。だが、彼女と同じ大きさに並ぶのは父であるスカーぐらいで、母も弟妹達も彼女の頭一つ分小さかった。五頭の狼たちは瑠璃、若草、琥珀、桜、薔薇、色とりどりの瞳を輝かせて、蒼い狼へと飛び掛かって行った。
「姉さま、おかえりなさい。私はマルーンです」
「姉貴、俺はバルツだ!」
「僕はモーブです。姉さん」
「セルナだよ、お姉ちゃん」
「やっと帰ってきてくれたね、アスナ姉! アタシはラン」
アスナは驚きで目を丸くしながらも、その五頭を無理やりどかすなどという選択なんてなかった。
夢の中で見続けた目も開かぬ純白の狼たち、彼女の最初に守りたいと願った大切な弟妹達だ。
「私はオリーブ、覚えてる? お姉ちゃん」
「俺はカクタスです。姉さん」
「メディだよ、アスナ姉さま」
マルーンの頭から顔を出すのはハイエルフの白肌、尖った耳を持った三人。金と銀の髪、紅、深緑、緋色の瞳が彼女をじっと見ている。
忘れる筈がない。最初に三人して泣き出して、彼女を困らせたのはこの子たちだった。
「フローラと申しますわ、お姉さま。再会、本当にうれしく思います」
「姉上、よく帰ってきてくれました。アシードです」
バルツの頭からその顔を見せるのは魔族の青い肌、薄紫と黒髪の二人。その瞳は黒と白、口調は少し堅苦しそうに感じてもその笑顔がそんなものを打ち消してくれる。
この子たちも覚えてる。少し傍に居ただけで穏やかな寝息を立ててくれる、手のかからない子たちだったけどだからこそ、その寝顔を見守りたいと思った。
「バースローです、姉さん。この世界の空のような綺麗な蒼ですね」
「やっと帰ってきたねぇ、姉さん・・・・・今度、草原でも走ろうよ!」
自分たちの翼で飛んできたのは鳥の翼をもつ二人組。オレンジと茶、金と紺碧、その色がこの空によく似合っていた。
わかる。この子たちの翼が空を飛んだら、どんなに綺麗だろうってずっと思っていた。
「先程も名乗ったがもう一度・・・・私はロディーナだ。姉者」
「や、姐さん。おかえり・・・俺はレグルド」
風を操って空中に立つようにしているのは深緑と山吹のドラゴンの翼をもった二人の男女。深緑と緋色の髪、瞳は金と紫。
忘れるわけがない。赤ん坊だった弟妹達の中で一番最初に手を伸ばしてきたのはこの二人だ。髭を引っ張ってきて、嬉しい悲鳴をあげたものだった。
「マルーン、バルツ、モーブ、セルナ、ラン、オリーブ、カクタス、メディ、フローラ、アシード、バースロー、ルベージュ、ロディーナ、レグルド」
多くの弟妹達を順番に見詰めて、そのあとに父であるスカーに乗る五名の母を見る。
「ヴィオラ母様、リラ母様、イリス母様、ニーロ母様、ファナ母様」
この世界に帰ってきたから、何度目かもわからないほど流した涙がまた彼女の目元から溢れていく。
その涙を父が優しい瞳のまま、舐めとった。
「そして、スカーお父様」
色とりどりの美しい宝物が彼女の目の前に広がっていた。
あの世界で魅入るなんてことはなかった彼女が、目の前に広がる美しいその光景をじっと見つめていたいと思う。でも、それは違う。
なぜなら、もう眺めるものではないから。
「ただいま・・・・・言いたいことも、話したいこともいっぱいあるのに言葉が出てこないや。だからとりあえず、こうするね」
「えっ?」 「え、嘘」 「おぉ」 「姐さん、すげぇな」
空中組の感嘆と驚愕の声を聞きながら、彼女は風の魔法を使って、全員をまとめてスカーへと抱きついた。
全員がもみくちゃにされるようになりながら、崩れるように抱き合う。
「おおぉ、これはまた危ない真似をするのだな。ハハハハハ、愛し仔よ」
「ごめんなさい、父様・・・・・・フフフフ、あったかい。みんなの力も、体温も、全部わかる」
彼女は目を細めて、その中で大きく尻尾を振り続ける。
「安心したら・・・・・・なんだか、眠くなってきちゃった」
欠伸をしながら、呼吸もゆったりとしていく。その姿を彼女の大切な家族たちが見つめ、彼女を守るように体に寄り添いあう。
「では、皆で昼寝をしよう。大切な我の子らよ、愛しい第一子よ・・・・・アスナ、よくお眠り」
いかがだったでしょうか?
長くてごめんなさい・・・・。
そして、これだけキャラ多くて言葉だけで誰が誰だかわかりますかね?
自分では口調を変えたりして頑張ったつもりなんですが・・・・・
本当はもう一人いるんですけどね、妹が・・・・。その子を出したいので番外頑張ろうと思います。
次のキャラ設定で名前と容姿だけは紹介する予定です。
感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。




