15 「海」 「かき氷」 「電気クラゲ」 「散歩」
青春?ものだと作者は思っています。
なにぶん作者本人が青春というものを感じることのない生活を送っていたので、青春の定義がいまいちわからないという・・・・・ラノベやゲームに出会えたから本人的には満足しているのですが。
そんな青春知らずの作者が書いた青春?ものですが楽しんでいただけたら幸いです。
読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。
では、本編をどうぞ。
青、蒼、藍、碧、美しい海原の前に一人の老人が佇んでいた。
年老いてなおも老人の目には青年のような輝きが宿り、その背はピンッと伸ばされ、安物のスーツは彼のためにあつらえた特注品のようにしっくりきていた。
ベージュのスーツに赤いライン、同色の帽子と深いこげ茶のステッキ。現代にこれほど『老紳士』と言う言葉が似合う人間が一体どれほどいるだろうか。
彼の目はうっすらと青く、その体に異国の血が混ざっていることを表していた。
その眼差しは遠い、遠い海の果てを見つめてなおも届かぬような場所へと向けられていた。
「お祖父様? こんなところに居ては体が冷えてしまいます」
老人の裾に触れたのは十六ほどの彼の孫娘だった。
つややかな黒髪は腰まで伸ばされ、衣服は白いワンピースを着て、幅の広い白い帽子に青いリボンが巻かれていた。飾り気のないワンピースが、孫娘の白い肌と黒い髪を美しく彩っていた。
「ありがとう、舞香・・・・・・大丈夫だよ」
老人は微笑んで、孫娘の頭を撫でる。深いしわの刻まれた手は優しく、愛を注ぐように撫でられていた。そして、老人はその視線をまた遠くへと向けていた。
「もう少しここで海を見ていたいんだ・・・・・・・ここは、私の思い出の場所だからね。ここを買い取って海水浴場にしたのも、私がここを守りたかったというワガママなんだ。企業の誰もが反対しても、お前の祖母と私の肩腕だったあいつは賛成してくれたなぁ」
苦笑しながら、老人は楽しそうに嬉しそうにそれを思い出していた。
大切な宝物、過ぎ去ってなおも心に焼き付いている情景だけが残っている。
「宮藤おじさまとお祖母様が?」
驚く孫娘に老人は笑みを深めた。
「意外かい?」
「だって、お祖父様が何かしでかすたびに私の前でもお説教をしてたじゃないですか。お二人がお祖父様のワガママを許すところなんて、想像できません」
その通りだった。両親が死んで、会社を継いだ彼に説教をするものなどかつての仲間とその二人ぐらいなものだった。
特に妻と親友は容赦がなく、誰の前であっても彼を叱りだす大物だった。そんな二人のことを彼は誰より認めていたし、信頼していた。
「プライベートではわざとさ、二人をからかいたかったからね。
それに私を怒ってる二人は生き生きしていただろう? あの堅苦しい場所で、二人をあの表情にするには私が少しぐらいふざけたほうが簡単なのさ」
「お祖父様はそこまでお考えだったのですか?」
「そう・・・・・ってことにすれば、かっこいいだろう? 私は本気でやっていたさ」
老人は笑う。それこそあどけない少年のように、いたずらが楽しくてしょうがないどこにでもいる悪ガキのように。そして、老人はそっと孫娘の頬を引っ張った。
「だから、笑いなさい。舞香。
この世界はね、人の笑顔が未来を作るんだ・・・・・この浜辺でかつて、私にそう教えてくれた子がいたよ」
「お祖母様がですか? それとも宮藤のおじ様?」
「いいや、二人にそんな考え当時はなかった。もちろん、私にもそんな大それた考えなんかなかった。
いや、違うな。私の仲間の誰一人として、そんなこと考えてはいなかった」
老人は心地よい孫の頬から手を離して、手を海に向ける。海をその手に抱くように、大切な何かを受け止めるように。
「舞香に教えてあげよう。私たちしか知らない出来事を、私たちが『 』と呼んだ海の子の話を・・・・・私の初恋の人の話をね」
老人は茶目っ気たっぷりにウィンクをして、孫娘の手を引いて歩き出した。
×
あれは暑い夏のことだった。
私たちはどこにでもいるバカな高校生で、男女を含めた昔の仲間六人でこの海に来ていた。年相応に全員がはしゃいで、スイカ割りと若さに負けて女子の着替えを覗こうとしていた田中をそのすぐ横に埋めたものさ。
それでも反省の色はなく、むしろ誇っていたものだから夕霧、紅葉、亜沙子の案によりスイカを頭に乗せることにした。
結果、剣道有段者である康斗が見事に割った・・・・・柊也の頭をね。
無論、スイカは|血に濡れることのないように《食べられるように》と私の案によって袋に包まれ、美味しくいただくことができた。
でも、柊也は懲りなくてね。
その後も風呂での一件で反省が見られなかったので、大量のカツオノエボシを入れたプールで混浴してもらうことになった。
かき氷を食べ、バーベキューを楽しんで、さぁ花火だという時に私たちは彼女に出会った。この世界に存在しない様な青い髪をした、月光のもとに現れた美しい少女に。
『うん、あなたたちだ』
少女は突然私の前に現れたかと思ったら、私の手を取ってどこかへと導こうとした。
無論、何が何だかわからない私や仲間も戸惑ったよ。
その筈なのに、その少女がそういうものだってことを私たちにはわかってしまった。
いや、わかるようにされてたという方が正しいかもしれない。
『ついて来て、くれますか? みんなも』
彼女の問いにみんなが頷いて、私たちはそこについていった。
はは、今思えば本当にどうしてなのかわからないことだけどね。
言葉も必要のない何かが私たちを繋いでいるんだって信じてしまったし、今ですらつながっていると思っている。
そして、あの日も私たちはここに来たんだ。
×
孫娘の手を引いて老人が来たのは一つの洞窟、奥まっているはずなのに明かりを受けて蒼く光を放つ洞窟の中に、その社は存在した。
けして、豪華ではない。大きくもない。
まして時代がかかっているわけでもない。むしろ、木材はまだ新しいくらいだった。釘は打ち込みが甘いし、格子状にされているのは不恰好なことに少し曲がっている。
それでも大切にされていることがわかるほど、その社は美しく保たれていた。
老人はその社に近づき、茶碗と皿をどこからか出したミネラルウォーターで洗い、出所不明な和菓子とお茶を注ぎいれた。
「渚、元気だったか? 私は少し、老けただろう?」
帽子を取って、スーツが汚れるのもかまわずに社の前にある女性の像の前に膝をついた。
「お前の母殿はご健勝だろうか?
康斗も、夕霧も、柊也も、亜沙子も、紅葉も、皆、私だけを置いて逝ってしまったよ。
あの日、ここにいた者はもう私とお前だけになってしまったな」
老人はゆっくりと、そこで涙を零した。
「寂しいなぁ、渚・・・・・本当に」
声は嗚咽にはならず、ただ溢れてくるものを隠すことはできない老人の肩に孫娘が触れた。
「お祖父様・・・・・」
「渚、見ているだろう? この子が私の孫娘だ、私の夢を担ってくれる大切な子だ」
孫を見て、すぐに女性の像へと目を向けた。
「あの日、『何故、私たちをここに連れてきてくれた?』と問うた私に、君は言った。
『あなたたちが誰よりも、この海を楽しんでくれたから。賭けてみたくなった』と」
涙を拭って、老人は立ちあがる。
「なぁ? 渚」
「何? 優治」
そこに初めから居たように少女は立っていた。
神秘的な青い髪、白い肌、黄の美しい瞳。その体には巫女の服。老人も驚かずに、ただ微笑んでいた。
「舞香、私の友人で、初恋の相手で、名前を付けた少女だ。もう、お前も感じるだろう?
渚、私の孫の舞香だ」
二人は互いに会釈し、軽く微笑みあう。老人はそれを見て、穏やかな表情で神の子に語りかけた。
「私は、君との約束を守れたか?
皆との誓いを果たせたか?
私は私で在れただろうか?」
フッと少女は彼らの視界から消えて、老人の前に立っていた。そして、老いた青年をその体で抱きしめた。
「優治たちは、七十年前にもう十分すぎるほどのことをしてくれたよ?
それからだってずっと見てた、ここに来て『自分の独断だ』とか言いながら守ってくれたよね。
季節に一回はいつもここに来て、いろいろ教えてくれた。夕霧と結婚したとか、可愛い娘さんが生まれたとか、その子がいかに可愛いかとか・・・・・ありがとう、優治。
たくさん、たくさんありがとう。名前をくれて、出会ってくれて、愛してくれて、守ってくれて・・・・・忘れないでいてくれて」
そっと少女は老人にキスをする。老人は微笑んで、それを受けた。
「それから大好きだよ、優治。
今も、昔も、これからも。かっこいい優治も、優しい優治も、凛々しい優治も、泣き虫な優治も、ワガママな優治も、歳をとった今の優治も。大好き」
「ありがとう・・・・・渚」
少女は老人の隣に並ぶ、孫娘を見た。そして、満面の笑顔を見せた。
「そして、これからよろしくね。舞香」
ここにまた絆が結ばれた。神の御許で、かつて、七人の男女がそうしたように新たな縁が生まれた。そう遠くない日に、彼女と共に導かれる仲間を祝福するように社は優しくそれを見ていた。
忘れられ、朽ちていくはずだった神とかつて生贄としてそこに捧げられた巫女。
それを救ったのは奇跡の出会いを果たした七人の人の子。
今、ここに新たなる縁が結ばれん。
いかがでしたでしょうか?
これも設定がほとんど語られていません。というか、あまり考えられてもいません。
でも、明日はキャラ設定を投稿するので語られる部分も出るかもです。
あまり期待しないでお待ちくださいませ。
感想、誤字脱字報告、お考えになった四題お待ちしています。




