03.クラスのマドンナ
03.
「へぁ……?」
夕焼けに染まる放課後の教室、間の抜けた俺の声が辺りに響いた。
全開にした窓から、秋口の底冷えする一陣の風と、アホー、と、大きなお世話すぎるカラスの鳴き声が入り込んでくる。
ぽかんと口を半開きにして、俺は頭を弾きあげて対面の彼女を見た。
奇跡的に一緒になった日直。その最後の仕上げ、学級日誌を一緒に書くなんて天にまで昇る心持ちだった。
ああ、そうだ。だった。彼女が『ある秘密』を打ち明けてくるまでは。
「酷いよ。国分寺君、全然気づいてくれないんだもん」
拗ねるような物言いが、たまらなく可愛い。
夏休み明けの9月に転校して以来、クラスの――いや、学校の話題すべてを
ひっさらっていった美少女――田原幸恵の瞳が俺をまっすぐ貫いていた。
ああ、叶うことなら、田原が手のひらでくるくる器用に回しているボールペンになりたい!
「え、いや……だって、苗字、違ったから。
それに、あの木村がこんなに綺麗になってるなんて、思いもしなくて」
一瞬だけ生じた気の迷いに自分自身できょどりながら、俺はあせくせ返答する。
ってやべぇ、本心が出た。
「あはは、ありがと。 ……転校して、高校の頃ね。両親が離婚してさ。田原はお母さんの苗字なの」
にこりと笑う彼女は殺人級で。
だからこそ、脳髄がいっそう混乱する。
――『田原幸恵』ではなく、『木村幸恵』にならばこの俺にも覚えがある。
中学時代のあだ名は『鉄面皮』。表情筋が死滅しているとまで噂された、無愛想クイーン。
「嘘……だろ?」
あの木村幸恵が、それはそれは笑顔で俺の前にいる。
【細かすぎて伝わらないけど好きなシーン03/ 劇的ビフォーアフター】
きっとここから幼馴染と修羅場があったりなかったりらじばんだり