02.ファンタジーと再開
02.
緑深い森の奥、こじんまりとしたきこり小屋がある。
村人からは『変わり者』として鼻つまみにされている老人の棲家だ。
客人といえば命知らずなウサギや小鳥たちくらいなもので、いや、ごくたまに道に迷った放浪者が訪れることもあるか。
閑静な――というよりはむしろ、物悲しいほどの静寂が横たわっている場所だった。
「ふぅ……」
小川のせせらぎに耳を傾けながら、老人は小屋の表に置かれた安楽椅子に腰掛ける。
老人の骨身と連動するかのように、椅子はギシリと音を立てた。
眠るように、ゆったりと老人が目を瞑った次の瞬間である。
葉擦れの音と流水音に混じって、足音が響いてきた。
ゆっくりと、しかし確実に一歩づつこちらへ向かってくる、
明らかに野生の動物のものではないそれに、老人は瞼を押し上げてそちらを注視する。
白く長いスカートの端が、老人の視界を掠めた。
『やれやれ……察するに村からの迷い人かの……』
心中でため息を吐きながら、老人は再び目を瞑り、立ち上がることなく言葉を紡ぐ。
「お嬢さん、こんな老いぼれの小屋に何の用じゃ。
ここには何もないぞ。悪いことは言わん、早く引き返しなさい」
しわがれた声だった。
老い、やせ細った、とてもみそぼらしい声。
『本当に、なんてザマだ……』
自嘲が心中で溢れる。しかしそれに抗う気力はとうの昔に失くしてしまった。
そうだ――――まだ自分が少年だったころ、あの子を失ってからというものそんなものはない。
ため息が漏れる前の刹那、クスリ、と、悪戯っぽそうな微笑みが老人の耳に入る。
「いいえ、ダメよ、お爺さん」
麗しいソプラノボイス。若い女の声だった。
む、と引っかかりを覚えたのはそこだ。この言い方では――まるでここが目的地だったようなものではないか。
瞼を押し上げて――――そして、見た。
「……昔、昔、約束したの。大切な人と、ここでって」
女の長い髪が、身に包んだ白いワンピースと共に風に揺れる。
その微笑みに、その声に、その面影に、老人の瞳孔が開いていく。
「ま、まさか……まさかお前さんは……」
一瞬、森が歓喜に震えるかのようにざわめいた。
それと同じように全身を震わせながら、老人は立ち上がる。
覚束ない足取りでよろよろとそちらへ歩み寄り、老人は手を伸ばす。
「 ――?」
老人がなぞった名に、少女は微笑みでもって応えた。
【細かすぎて伝わらないけど好きなシーン02/ エンディングでの再開】