01.ファンタジーとクライマックス
01.
「これは神代の時代の話だ」
落ち着いたテナーバスが、薄暗い洞穴の中に滔滔と響く。
松明の炎がゆらゆらと不規則に揺れ、『この世の全て』を記したとされる石碑をおぼろげに照らしていた。
「その頃、星は疲弊していた。あと一歩で、滅びの崖へ落ちることが可能なほどに」
少年はその石碑の前で立ち尽くしながら、その声を聞いていた。
旅の始まりから自分を導き、そして時には厳しく励ましてくれた恩師の言葉を。
「……シュタルフ博士……全部、知ってたんですか? 初めから、全部――」
拳を握り締め、震えそうになりながら少年は問う。返答はない。
「しかし一縷の望みがあった。それが『巫女』だ。
星の恩恵を受け、不可思議な力を使役することの出来た、ある一人の少女――」
博士の言葉を裏付けるように、石碑にはその名が記されていた。
「その身を願いに変えることを代償に、礎となり、
この星の核、大地の心臓へと落ちた巫女。
あるいは、破滅の運命を屠り、人々の悲願を叶えし者」
長い旅の始まりは、幼い頃から少年の夢に度々登場した、『少女』に逢う為だった。
その微笑みは優しく、その面影はどこか儚げで、そしてとても哀しい瞳をした少女。
灰色の長い髪と紺碧の瞳の彼女と、夜毎の逢瀬を重ね、
少女が切れ切れに渡して来たヒントをつなぎ合わせ、やがて少年は、世界の果てにあるこの場所にたどり着いた。
「悲願、って……」
少年は、より一層拳を握り締める。
石碑に記されていたモノと、恩師の言葉を否定したかった。
けれども――理性、いや、本能ですら、もはや全てを悟ってしまっている。
『カガク』の根底を簡単に覆し、超常現象を生むマナの存在。
風車小屋が立ち並び、酪農が中心の生活に溶け込む、『携帯端末』という異質なもの。
度々目にしたこの世界のアンバランスさを支えていたのは――
「何を今更。君はもう解っているだろう?
魔学の礎、プラネットストーム。その残滓。マナの獲得さ」
「っ!」
少年は振り返り、恩師を睨む。
薄汚れてくたびれた白衣が目に入った。銀縁の奥に潜んだ双眸は、遠い。
どこからか入り込んで来た隙間風が洞穴の中に吹き込み、かがり火を揺らした。
少年と男の影が不規則に揺らめく。
「果たして、星は救われた。
『巫女』を大地の鼓動へ落とすという犠牲を払いながらも――
いや、それによって、この星にマナという絶大なエネルギーを降らせ、種として繁栄を享受している」
石碑に記述された内容は、ここから更に先を行く。
果たしてそれは――――少年にとって、最も残酷なものだった。
「……さて、ノーシュ君。ここで我々は――否、君は、選択を迫られた。即ち――」
「……っ!」
この世界が、一人の贄によって救われたこと。
それが『アマリ』という名の巫女であること。
そして――――それを救う手立てと、
「人類の栄華の為に、巫女を星の贄とするか」
「……そんなの」
「それとも」
「そんなのって……!」
「大地の心臓より巫女を救い、人類から栄華を祓うかだ」
「――アマリ……ッ!」
その代償について。
【細かすぎて伝わらないけど好きなシーン01/ 世界かその子かどっちか選べ】
ネタが尽きるまでやってみるぞー! というよこでえいやっと投下ー。