冬
2025年2月1日。
昨日は僕の誕生日だった。
気付かないうちに癌が進んでいたらしい。
最早終末期だ。
余命一ヶ月と言われたのは大晦日の夜。
少しでも長く生きながらえたいだなんて思ってはいない。
近所の公園は、まだ寒いのに子供たちが遊び回っている。
ただ、その姿を無心で眺める。
どれだけ頑張っても、家から200mぐらいのこの公園まで歩くので限界だ。
一息つく。
自分の口から出てきたものだというのに、白い息が綺麗だ。
ベンチに腰を下ろす。
辺りを舞う粉雪に見惚れながら、日々を思い出す。
こんな前科者を受け入れてくれる職も多い訳じゃない。
一ヶ月も同じ職に就いていれず、転々としていた中、八木さんが僕を会社に入れてくれたことは救いだった。
それから、八木さんに恩を返すために働き続けた。
お洒落も娯楽もどれも僕には合わなくて、稼いだ金は恩返しに、後はあの子が殺してしまった人たちのお墓の維持費の一部を負担したり、父、母、透のお墓の管理費に回した。
そんなことを思っていると、子供たちが親と思わしき人のもとに走って行く。
ニット帽を被った男の子が転ぶと、倒れ込んだ男の子につまづいて、後ろを走っていた長いマフラーの女の子と分厚いダウンジャケットの男の子が転ぶ。
三人の女性が駆け寄る。
一人が、少し髪が短いけどあの子にそっくりだ。
あの子は僕が出て行った二年後に所内で自殺したらしい。
房内で布団を口に詰めて窒息死したそうだ。
僕は出所した後、あの子の親族に謝罪をしに行った。
あの子の家はもぬけの殻だった。
あの子が逃亡の途中に帰ってきて殺してしまったと聞いた。
公園の外に目を遣れば、老けた長身の男性が犬の散歩をしている。
高校一年生の頃の担任と特徴が一致している。
好んでいた靴のブランド。
飼っている犬の犬種。
黒いフレームの眼鏡。
口元の黒子。
この辺に公立の高校がある。
多分、本人だ。
そう思おう。
先生は、教え子が癌になってて、自分より先に死ぬと聞いたらどう思うだろうか。
一年しかお世話にならなかったから変わり果てた僕になど気付きやしないか。
少し寒くてくしゃみをする。
視界が少しぼやけている。
腕時計を覗くと、針が同じ場所で揺れている。
そうだ。一昨日急に動かなくなったのだ。
この時計にしたがって、今は11時23分19秒だ。
空を仰ぐ。
雪が降り止んで少し経ち、雪雲の間から澄んだ青を覗かせている。
微かに漏れた優しい太陽の熱が暖かい。




