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人形令嬢と半妖のあやかし祓い屋  作者: 黒彩セイナ


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13/14

どこまでも、共に……

 初めて青紫に会った時、自分とは異なる人だと思った。青紫は己の能力を深く理解し、その存在を認めてくれる者が傍にいて、恵まれているのだと。だが、それはまったく違っていた。青紫も優子と同じように、常に他者から否定され、この世界に自分の居場所がないと思い、孤独を抱えていた。

 目を開けると、割れた窓ガラスが視界に入った。

 小粒の雨がポツポツと降り、優子の頬を冷たく伝う。

「青紫さん……!!」

 勢いよく上体を起こすと、ズキンッと差すような痛みがして、片手で頭を押さえ込む。

 厄の妖怪の姿がなくなったおかげか、辺りに広がっていた漆黒の闇のような妖気も消え、頭痛も良くなっていた。

(そうだ、青紫さんは……)

「目が覚めたか」

 優子のすぐ近くに座り込んでいる薊。その視線の先には、地面には横たわる美月の姿もある。

「心配するな、強力な封印を解いたから気を失っているだけだ。お前は俺と一緒にこの森を出て黒羽の本家に戻るぞ。ここにいるより、あの屋敷にいる方が安全だ」

(……行ってしまった……)

 一気に絶望が胸の中に広がり、締め付けられるような激しい痛みを感じる。

「っ……くっ……ううっ」

 両手で顔を覆い、声を押し殺すように涙を流す優子に、歯を食いしばる。

「気持ちは分かるが、お前には何もできない。……俺にも」

 悔しそうにそう言った薊は立ち上がる。

「俺は美月を担がなきゃ行けねぇから、お前は自分の足で歩けよ。こいつは置いていく、助ける義理も情もねぇからな」

 そう言い、薊は夜会にいた男を見下ろす。

(何もできないことは分かってる……でも……)

 両手を握りしめる優子。

 自分が行っても足手纏いになる。

 だからと言って、このまま青紫をおいて、逃げるようなことできない。

 決めたのだ。何があっても青紫を信じると。約束したのだ。傍を離れないと。

「おい、ちんたらするな、行くぞ」

 立ち上がった優子は、俯きながら薊の前まで来る。

「本当は、こんなこと、したくないんですけど……仕方がないです」

「あ……?」

 眉間に皺を寄せ、首を傾げる薊。

(やるしかない)

 バッと顔を上げた優子は、薊の大事なところ目掛けて片足を振り上げた。

「くっ……!! お、お前っ……!!」

 蹴りは見事にヒットし、薊は悶絶しその場に崩れ落ちた。

「薊さんごめんなさい。私、やっぱり、青紫さんを一人で戦わせられない!」

 そう言うと、優子は全速力で走り出し、廃墟を出ていく。

「あっ、おい待て……っ!」

 壮絶な痛みに、薊は立ち上がることができず、その場で狼狽えるしかなかった。

「クソっ……!」


 廃墟を出た優子は、走りながら空を見上げる。

 雨は止んだが、風が強く、空はどんよりとしている。灰色の空の一部が黒い漆黒に覆われ、漆黒の中に、青い光がある。

(あそこに青紫さんがいるんだわ)

 空を見上げながら、必死に走る優子。

 もっと早く走りたいのに、その思いとは裏腹に、足が前に進んでくれない。

「あっ……!」

 小石に躓き、水たまりに顔から盛大に倒れ混んでしまう。

 泥水で顔と着物は汚れる。

 両手で水を払うと、草履を脱ぎ捨て、着物の帯を取ると着物を脱ぎ捨て、肌着になり、再び走り出す。

 早く……早く青紫のところへ。

「優子……!」

 どこからともなくヨモギの声が聞こえてきて、優子は辺りを見回した。後ろを振り向くと、そこには、巨大な白い龍の背中に乗ったヨモギがいる。

 思わず足を止める優子。

「ヨモギ? どうしたあなたがここに……多江さんは? 多江さんは無事なの!?」

「安心しろ、薊が使役している妖怪が傍についている」

 多江の無事を知って、優子は安堵した。

「こいつが、ここまで連れてきてくれたんだ」

 そう言い、ヨモギは機嫌良く、白い龍の背中を軽くポンと叩く。(すごく綺麗……)

「あなたは……?」

 白い龍は身を屈め、優子を見据える。

「お前があの子の嫁か。あの子は美人だと言っていたが……」

 乱れた髪に、泥だらけ優子の顔を見て、紫苑はおもしろそうクスりと笑う。

「乗れ、あの子の元まで行くんだろ。私の背に乗った方が早い」

 地面に伏せる白い龍。優子がヨモギを一瞥すると、ヨモギは力強く頷く。

 優子が背に乗ると、白い龍は浮遊する。

「小物、小娘、しっかりと掴まれ」

 優子はヨモギ片手を差し出す。

「この方が安全でしょ」

「すまない、ありがとう優子」

 ヨモギは差し出された優子の片手にちょんと乗ると、優子は肌着の袖の中にヨモギを入れる。

 白い龍は徐々に上へと浮遊すると、空に飛ぶ。

 漆黒が大きくなるにつれ、青い光も強さを増す。

 少しの間、飛び続けていると白い龍が口を開く。

「紅葉に頼まれたんだ」

「紅葉さんに……?」

「対価は払うから、お前の力になってくれと。対価など払わなくても、可愛い息子のためなら私は力を貸したが、面白そうだから、話に乗ると言ってやった」

「かわいい息子……。じゃあ、あなたが青紫さんを育てたっていう」

 青紫が美月と仕事の行った時、一縷から、青紫を育てた妖怪の話を聞いていた。

 優子の言葉に、白い龍はおかしそうに目を伏せる。

「そんな大層なものじゃないさ。私はただ、半妖のあの子が一人でも生きていけるように、異能の使い方や、祓い術をかける相手をしてやっただけさ。……一人では、生きていくことにならなかったようだが」

 そう言い、紫苑は嬉しそうに、小さな笑みを浮かべる。

「あの、もしよければ、名前を教えてくれないかしら」

 強風が吹き、優子の声がかき消される。

「悪いが、風の音でよく聞こえない。もっと大きな声で話してくれ」

「名前……! なんていうのですか……!」

「……ウハハハハっ!!」

 叫び問う優子に、紫苑はお腹から大きな声を出して笑う。

 そんな紫苑に、優子は少し拗ねたように眉間に皺を寄せた。

「そんなにおかしいことじゃないでしょ、名前くらい」

「人間が妖怪に名前を尋ねるなんて、そうないさ。お前は変わり者だな」

 優子の懐にいたヨモギが、ひょっこり顔を出す。

「おいらも聞かれた時は、驚いたものだ。でも、やっぱり嬉しいものだ。名というものは、妖怪にとっても特別だからな」

 優子にとっては何気ないことにしか過ぎないが、それこそが、妖怪と人間を対等に思っている証でもある。

 そんな優子に、紫苑は呟く。

「……そうか。そんなお前だから、あの子も心を開いたんだろうな」

「何か言った?」

「いや、なんでもない」

「それで、名前は教えてくれるの? くれないの?」

「紫苑だ」

「え?」

 前のめりになり、耳を澄ます優子。

「私の名は、紫苑という」

「紫苑……あなたも、素敵な名だわ」

「漢字というものは、紫に苑。この名は、青紫がつけてくれた」

「青紫さんが?」

「ああ、おかしいよな、子供が親に命名なんて」

 そう言い、紫苑は何かを思い出したかのように楽しそうに笑う。

 紫苑__。その名は、生涯忘れることのない、世界でただ一人の息子から贈られた、大切な名。

 まだ青紫が片手で歳を数えられた頃、青紫は筆を取り、和洋紙に自分の名前を書くと、紫苑に見せた。

 目を凝らし、和洋紙を見る紫苑。

「これは……なんて読むんだ?」

「あおし。私の母がつけてくれた、私の名です」

「へー、どんな意味が込められているんだろうな」

「さあ? それは分かりませんが。祖父の話だと、この字には、希望という意味が込められているとか」

「希望……なんだか、良い響きだな」

 腑に落ちず、パッとしない顔をする青紫に、紫苑は「フッ」と笑うと、愛情を向けるように青紫に擦り寄った。

「きっと、お前の母親は、お前の幸せを願ったんだろうな」

「……そうでしょうか」

「そうだとも、でなければ、希望などという意味を込めない」

 少し考え込むと、青紫は再び筆を手に取り和洋紙んい書く。そして、紫苑に見せた。和洋紙には、紫苑__と書かれている。

「私と同じ、紫という漢字を使いました。苑には、囲いという意味があります。あなたはこの森一体のボス的な存在ですから、ピッタリでしょう?」

 そう言って、青紫は楽しそうな笑みを見せた。

「私からのプレゼントです。紫苑」

 無邪気な笑みを向け、紫苑に和洋紙を差し出す青紫。

「……ああ、そうだな。ありがとう、愛おしい息子」

 そう言い、紫苑は目を閉じ、青紫に自分に自分の額をつける。青紫も穏やかな笑みを浮かべると、目を閉じた。

(私も願うよ、青紫。お前の生きる道が、幸せであるようにと)

 紫苑が昔話に老けていると、風が緩やかになる。

「何、急に風が弱まった」

「風早だな。私が上手く飛べるように、風の抵抗をなくしてくれているのだ」

(風早……ありがとう)

「私の異能で、ここら一体に結界を張っている。妖気は広がらないだろう。紅葉の話では、黒羽と漆原も応援に来ている」

 一縷と庵を含めた黒羽一門は帝都で、紅葉の父親を含めた漆原一門が近隣の街で災いに備えているという。

「だが、私もいつまで持ち堪えられるか分からないし、この妖気が禍々しい邪気に変わってしまわないうちに、あの妖怪を壺に封印しなおさなければ」

(……青紫さん)

 優子の両手に力がが入る。

「風は味方になった。スピードを上げる、しっかり掴まれ!」

「はい……!」

 紫苑は一気にスピードを上げ、青紫の元へと急いだ。


 強まる漆黒の妖気の中、青紫は厄の妖怪と対峙していた。

「っ……!」

 厄の妖怪の体には、青紫の異能で造形された氷の矢が刺さり、動きを止めているが、厄の妖怪の勢力は弱まることなく、その妖気は邪気へと変化しつつあった。

 厄の妖怪から出る邪気により、森の木や川の水は生命を奪われ、逃げ遅れた妖怪は、すでに邪気に飲まれてしまっている。

 もっと抑え込まなければ、犠牲が増える。

「ゲホッ……!」

 咳き込み、片膝をつく青紫。

 口元で片手を押さえ込みながら、咳き込み続けると、吐血してしまう。力を使い過ぎているせいで、青紫の体には、すでに多くの毒が回っている。思っていたよりも、この体で異能を使うのは危ういようだ。

 それでも、青紫の攻撃の手を緩めるわけにはいかない。

 一度、厄の妖怪から離れ、頭上に飛び立った青紫は、両手から氷の結晶を出し、厄の妖怪を囲い込むように放つ。結晶は厄の妖怪の体の中に埋め込まれ、爆発する。

 厄の妖怪は苦痛な悲鳴を上げた。

「ゲホゲホッッ……!!」

 飛びながら、さらに吐血した青紫の顔には、霜ができ、吐かれる吐息は白く凍えるように冷たい。

 こんな姿になってまでまだ戦うなんて。かつての自分なら、こんなことはできなかった。

 愛している。優子にそう言われた時、時が止まった。

 愛した人が、自分を愛している。その喜びは、言葉でいい表せないくらいの幸せが、青紫の胸の中を埋め尽くした。

(……母さん、私、やっと分かりました)

 ずっと、母のことを愚かな人だと思っていた。地位も名声も、何もかも捨てて、妖怪である父と一緒になり、己の命すらも惜しいと思わなかった。

 だが、今なら分かる。たとえ全てを失ってでも、守りたい人がいる。

 青紫は自分を奮い立たせると、力を振り絞る。


 漆黒の妖気は禍々しさを放っていた。

「ついに邪気が出てきてしまったか」

 紫苑は険しい顔をして言う。

 そこで優子は何かに気づく。

「あれ……!」

 優子が指差した先、そこには異能を使い、一人、厄の妖怪に立ち向かう青紫の姿があった。

「あそこか」

 紫苑は慎重に厄の妖怪に近づく。

「そうだ。優子、これを紅葉から預かってきたんだ!」

 ヨモギは懐から、折り畳まれた小さな札を取り出すと、優子の着物の袖から出てくる。優子の肌着に捕まりながら、腕をよじ登り肩までくると、札を広げ、優子の額に貼る。

 札は赤く光ると消え、優子の額に連なった黒い文字が浮かぶ。

「魔除けの術が施されている。優子はおいらたち妖怪と同じくらい妖気が強いから、妖気に当てられやすい。だから、紅葉が札に術を書き記して、優子に使えって言ってくれたんだ。紅葉、自分はここには来られなけど、せめてもって」

「紅葉さん……」

(ありがとうございます)

「いくら術があるとはいえ、大丈夫な訳じゃない。それを忘れるなよ」

 紫苑は釘を刺すように優子に言う。

「……ええ」

「おそらく、あの子は異能を使いすぎている、私が代わってやるから、その間、お前は少しでもあの子を休ませろ。だが、妖怪も人間同様、邪気の影響は受ける、お前も私も、触れてしまえば終わりだ」

 優子は肩にそっと触れる。そこには、いつもあるはずのお守りのスカーフがなかった。

 不安が募り、弱気になりそうになる優子だったが、自分を鼓舞する。

(しっかりするのよ。青紫さんが頑張っているのに、私がここでヘタれるわけにはいかない)

 優子は身をかがめ、紫苑に顔を近づける。

「紫苑、私は覚悟はできてる。できる限り、青紫さんに近づいて。私が、青紫さんを無理矢理にでも、あの妖怪から引き離すわ」

 横目で優子を見る紫苑。

(一点の濁りもない、真っ直ぐな瞳……この小娘は、今までいったいどれだけのことに耐え、努力してきたのだろうか)

 紫苑は優子の覚悟を感じ取ると、青紫へ一気に近づく。

「青紫さん……!!」

 優子を見た青紫は大きく目を見開く。

「優子さん……どうして」

 近づいてくる優子に、青紫は動揺する。

 優子は青紫に片手を差し出す。

「捕まって……!!」

 青紫は言われるがまま、優子の片手を掴むと、そのまま紫苑の背の飛び乗る。紫苑は一気に厄の妖怪から離れ、地上に降り立った。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

(酷い……)

 青紫のその姿に、優子は唖然としてしまった。

 顔や体に霜が出て、息も白く冷え切っている。呼吸は今まで見たことないくらいに荒くなり、青紫は息をするのもやっとだった。

 血のように赤い両目はそのままだが、力を使いすぎているせいか、姿は半分人間の姿に戻っている。

「はぁっ……はぁ……くっ!!」

「青紫さん……!!」

 苦しそうにする青紫に、優子はその背に手を回す。

「っ……!」

 その尋常でない冷たさに、優子は反射的に青紫から手を離す。

(……これは、かなりまずい状態だわ)

「小娘、青紫を連れて私から降りろ!」

 紫苑の緊迫した声に、優子は青紫の肩に腕を回し、紫苑から降りる。

「おいらはお前と一緒に行く」

「いいのか小物。命がどうなるか分からんぞ」

「おいらだって妖怪だ。ここで立ち向かわなきゃだろ」

 紫苑は満足げに鼻で笑うと、そのままヨモギを背に乗せ、厄の妖怪に向かっていく。

「どうして来たんですかっ……!!」

 決死に叫ぶ青紫。

「あなたを守るために、あの場を離れたというのに……ゲホォゲホォッ……」

「青紫さん……!」

 咳き込む青紫の背中を摩る優子。

 地面にボタボタとと青紫の血が落ちる。吐血しながらも、青紫はなんとか息を整える。

「ごめんなさい……でも、青紫さんが命懸けで戦っているのに、ただ見ているだけなんて、できなかったんです」

 青紫の体はどんどん霜が増えていき、それは青紫の体を覆うように美しい結晶へと変わっていく。

 異能は、着実に青紫の体を蝕んでいた。

(このままでは、本当に青紫さんが死んでしまう)

 優子は咄嗟に青紫を抱きしめる。

「何をしている離れて……!」

 突き飛ばす勢いで、両手で優子を押しのける青紫。

「嫌!! 離れないわ! 絶対に離れない……!!」

 青紫が突き放そうとするほどに、優子は抱擁を強める。

 優子の体にも霜ができはじめ、息が苦しくなる。

「うっ……! っ……」

(肺が……凍ったように冷たい……)

 それでも、苦しさに耐え、優子は必死に青紫を抱きしめ続ける。

「っ……私のことはいいから! このままでは、あなたも死んでしうまう!」

「それでも構わないっ……!!」

 優子の決死の叫びに、青紫の体がぴたりと止まる。

「あなたと一緒なら、死ぬことなんて怖くない」

 息をするのが苦しくなっても、優子は必死に言葉を紡ぐ。

「だって……私はっ……あなたを愛しているんだもの……」

 笑みを浮かべて青紫にそう言う優子。

 唇を紫色いし、ガタガタと体を震わせながらも、優子は力の限り、青紫を抱きしめ続ける。

「っ……私たちは……何があっても、最後まで、一緒でしょ……?」

 優子の揺るぎない愛に、青紫の視界は涙でぼやけ、涙が溢れる。

 ボロボロと涙を流す青紫。ゆっくりと、優子の背中に両腕を回すと、弱々しくも、抱きしめた。

 優子の体の霜が結晶へと変わり始めた、その時だった。

 優子の体から黄金色の光が放たれる。

(何、これ……)

 光はどんどん強さを増し、二人を包み込む。太陽のように温かい光は、二人に生命力を漲らせてゆく。

「これは……まさか、治癒の力?」

 目を疑うような光景に、青紫は言う。

「治癒……?」

「優子さん、あなた、巫女の血を引いていられたのですね」

 優子は自分から発せられる黄金色の光に驚き、両手を見つめる。

 体を覆っていた結晶が、嘘のようにが消えている……それに、息もしやすい。

 青紫を見ると、青紫の体にあった結晶も消え、顔色が良くなっている。

(これが、私にあった特別な力……?)

 大地を揺らすような大きな物音が聞こえ、空を見上げると、結界から出ようとしている厄の妖怪に、紫苑が体当たりをし食い止めようとしている。邪気に触れてしまい、紫苑の体には黒いモヤのようなものが染み込んでいる。

 思わず、立ち上がる優子。

「あのままでは紫苑が……!」

 焦る優子の片方を青紫が握る。

「優子さん、意識を集中させて、イメージするんです。守りたいものを、救いたい人たちを。大丈夫、あなたならきっとできる」

 優子は頷くと、目を閉じる。

 まずは紫苑に意識を集中させる。

(紫苑……)

 心の中で、紫苑を思い浮かべる。すると、優子から少しずつ黄金色の光が放たれ、橋をかけるように紫苑まで届く。

 徐々に紫苑から邪気が消えていき、弱っていた体が力を取り戻す。

 目を開け、パッと明るい笑みを浮かべ、青紫を見る優子。

「その調子です」

 優子はさらに紫苑に意識を集中させる。紫苑の体を守るように優子の黄金色の光が包み込む。

 青紫はその光景に圧巻されていた。

(すごい……あの力は治癒だけではなく、盾にもなるのか。優子さん、あなたは、本当にすごい力をお持ちだったのですね)

 紫苑の力に押され、厄の妖怪は帝都から引き離され、結界の中に戻っていく。

 もっと、もっとこの力を広げなければ。

 優子は体に力を込め、黄金色の光は強さを増す。光は厄の妖怪を包み込み、巨大な厄の妖怪の体は少しずつ小さくなる。

「今ならいける」

 立ち上がる青紫。そこに薊がやって来る。

「青紫……!!」

 薊は、全速力で青紫の元へ駆け来た。

「薊! いいところに来ましたね」

 薊は優子を見て驚く。

「あいつ、こんな力を隠し持ってやがったのか」

「今のうちに、あの妖怪を封印します」

 薊はポケットから壺を取り出し、青紫に投げる。

「じゃあ、これが必要だろ」

 壺を受けとった青紫は、口元に面白がるような笑みを浮かべる。

「お祖父様、ご立腹なさるのではないですか。お気に入りだったでしょうに」

「まあーな。でも、世界の一大事だ。ここで使わないで、どこに使うんだよ」

 薊が渡してきたこの壺は、薊の祖父が大切に保管していた封印専門の強力なもの。呪物コレクターでもある薊の祖父は、蔵に多くの呪物を保管しているのだ。

「ありがとう、薊」

「……ああ」

 青紫は壺を手に、優子の隣に並ぶと、強く握られている行この拳に手を添える。

 優子が青紫を見上げると、青紫は「一緒に」と言うように、優しい笑みを浮かべ、頷いた。優子が頷き返すと、二人は手を握り合う。黄金色の光が二人を包み込む。

 青紫は壺を片手に、胸の前に突き出し構えると、目を閉じ呪文を唱える。

「__汝、我が声に耳を傾けよ」

 青紫の呪文に、厄の妖怪は悲鳴を上げる。封印に抵抗し、邪気を飛ばしてくるが、優子の黄金の盾に跳ね返される。

 青い光が放たれ、厄の妖怪は壺に吸い込まれていく。

「っ……!!」

 厄の妖怪の力に押されそうになる青紫。優子は青紫の手をぎゅっと握り、青紫の持つ壺に片手を添える。

 青紫も優子の手をぎゅっと握り返す。

 優子は目を閉じ、意識を青紫だけに集中させる。

「静まりたまえ静まりたまえ……!!」

 青紫の青い光と優子の黄金色の光が重なり合い、これまでにない強い光が放たれる。

 厄の妖怪は壺の中に吸い込まれる。

「……やったか」

 力が抜け、青紫はその場に崩れ落ちる。

「青紫さん!」

 かがみ込んだ優子は青紫の背中に片手を置く。

 青紫は優子を見上げると笑う。

 優子は今にでも泣き出しそうな顔をしながら、青紫を見つめる。

 どんよりとしていた雲は晴れ、夕暮れ時の太陽が顔を出し、温かい日差しが二人に降り注ぐ。

 優子が青紫の体を支えながら、二人は立ち上がる。

「帰りましょう青紫さん、私たちの家に。みんなが待つあの場所に」

「ええ……帰りましょう」

 微笑み合う二人、そこに、ヨモギを乗せた紫苑が優子たちの元へやってくる。

 紫苑から降りると、優子の足に飛びつくヨモギ。

「優子……!!」

 泣きながら、擦り寄ってくるヨモギを、優子はかがみ込むと両手で掬い取り、視線を合わせた。

「おいら、もうダメかと思ったぞぉぉぉぉ……!」

 大粒の涙を流し、泣きじゃくるヨモギ。

 そんなヨモギに、優子と青紫を顔を合わせ、笑い合う。

「青紫」

 紫苑は体を丸め、青紫を囲うように抱きしめた。

「無事でよかった……」

「紫苑……」

 少し震えている紫苑の声。心からの安堵がこもったその言葉に、青紫の目には光るものがあった。

 青紫は何も言わず、紫苑に身を寄せた。

 そんな様子を見守っていた薊は、腕を組み満足げに言う。

「一件落着だな」

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