パーティハウスと資金集め
――スローライフ、ボロ宿暮らしの現実
朝。
昇太は、ギシギシと悲鳴を上げるベッドの上で目を覚ました。
「……はぁ。今日も天井の木材、落ちてこなかったな。セーフ」
泊まっている宿は、とりあえず“寝られるだけマシ”という格安の安宿。
お湯はぬるく、壁は薄く、窓は風でガタガタ揺れる。
シャワーを浴びようと蛇口をひねる。
「……あっつ!? いや、急に熱くなるんかい!」
温度調節の概念は存在しないらしく、ぬるいか熱湯の二択だった。
日本のワンルームを思い出して、昇太は苦笑する。
(……いや、正直こっちのほうが広いし、東京より家賃安いし、なんかもう慣れてきたな)
♦︎
一方ミカリは、別の安宿で朝からため息をついていた。
「……また壁ドン聞こえてる……」
隣室のカップルが朝から激しく言い合っている(たぶん喧嘩)。
壁一枚ゆえに全部聞こえる。
「うち、剣の素振りとか魔法の練習するとき、絶対苦情来るやつだ……」
ミカリは肩を落としながら装備を整えた。
♦︎
そして最後は――ニアの安宿。
「やめろぉぉぉ!! 枕はうちのもんやって言うてるやろぉぉ!」
部屋の中から、悲鳴とも怒号ともつかない声。
宿の主人が戸を開ける。
「ニアちゃん……また虫と相撲してんのか?」
「違うわ! こいつ、枕とって逃げようとしよんねん!!」
ニアの両手には猫爪クロー。
対峙しているのは――巨大ゴキブリ(約15㎝)。
「ギシャアッッ」
「お前が枕使ってどうすんねん!! 寝る気か!!」
最終的にクローで真っ二つにされ、宿の主人は震えながらその死骸を片付けた。
……
三人とも、心から思った。
(((……早くまともな家に住みたい……)))
ギルドでFランク試験に合格し、スローライフの新メンバー・ニアを迎えて三日後。
昇太、ミカリ、ニアの三人は、いつものようにギルドの掲示板前へ来ていた。
しかし、そこでエリスに声をかけられる。
「皆さん、今ボロ宿に住んでいるんですよね?
スローライフは正式なパーティですし、“パーティハウス”を借りるという手もありますよ」
「言葉のチョイスやばくね?」
「ぱーてぃはうす?」
昇太はツッコミをいれ、
ニアが首を傾げる。
エリスは微笑みながら説明した。
「パーティの拠点となる事務所兼住居です。
共同生活をしながら、作戦会議や装備管理、依頼対応をまとめて行えるのが魅力ですよ。
多くの本格的なパーティは持っています」
「きょ、共同生活……!」
ミカリの耳まで真っ赤になる。
「ミカリ?」
昇太が顔を覗き込む。
「な、なんでもないっ!!」
(…なるほど。ラノベ主人公って鈍感が多いけど、俺はちゃんと察するぞ。うん。)
そんな中、ニアが元気よく叫んだ。
「共同生活ええやん!! うちらで“でっかい家”借りよ!!」
「いや勢いで決めようとするなって!」
「ええやん! ミカリはどう思う?」
「わ、私は……別に……その……いや、いいと思う……」
ニアが満面の笑みを浮かべ、昇太を見る。
「決まりやな! 昇太、お金貯めよ!」
エリスが追い打ちをかけるように言った。
「ちなみに、安いところでも家賃は月15万Gほどになります」
「15万……」
屋台で食べた串焼きが200G。
そこから考えると――
(1G=1円くらいの感覚か……
つまり15万Gは日本円でも15万円。
結構デカいぞ、これ。)
「稼ぐしかないな!」
三人の意思は固まった。
♦︎
討伐依頼を中心にこなし、魔石を売る――
それがスローライフの金策方針として決まった。
「ほんなら、がっつり稼いでくで!」
「うん! がんばろう!」
「よし、今日は――」
昇太はそこで区切った。
「……悪い。今日は俺、一人でやりたいことがあるんだ」
ミカリが目を瞬かせる。
「えっ、別行動?」
「うん。ちょっと、個人的に試したいことがあってさ。
危険な依頼は受けないよ。二人も安全なクエストにしてくれ」
ニアがじと目を向ける。
「ほんまに危ないことせえへんやろな?」
「もちろんもちろん、軽い依頼だけだって!」
(……完全に嘘だ。
本当は“食べられるだけ魔石を食べる日”にするつもりだ。)
昇太は二人をごまかすように笑い、別方向へ歩き出した。
♦︎
森に入り、人気がなくなったところで昇太は深呼吸する。
「さて……行くか」
今日の目的は――
自分の限界を知り、その力を伸ばすこと。
前回の戦闘で得たスキル《頑丈》。
どれほどのダメージ軽減ができるのか、実戦で試す必要がある。
そして、倒した魔物の魔石を食べ、力を底上げする。
「よし、まずは――」
森の奥から、低い咆哮が響く。
「ガルルァッ!」
狼型魔物が三体、飛び出してきた。
「ちょうどいい!」
昇太は地面を蹴り、正面一体に向かう。
ウルフが爪を振り上げる。
(ここで《頑丈》のテスト。ダメージを“視認して受ける”と軽減される――)
わざと右肩で受けた。
ズバッ!!
衝撃が体を揺らすが、殴られた痛みは軽い。
(おお、本当に3割くらい軽くなってる……!
これなら連戦でもいける!)
驚くウルフの首元を手刀で叩き折る。
その背後から二体が同時に飛びかかる。
「っと!」
横に跳び、爪を避け――反撃。
ドゴッ! バキッ!
二体もすぐに沈んだ。
「次は……ゴブリンの群れか」
森の奥で複数の足音と気配。
武器を持った《ゴブリン》が四体、飛び出した。
「いける!」
飛び込んだ昇太は、素早い動きでゴブリンたちを次々に倒していく。
(スキルなしでも、今の俺なら十分戦える!)
しかし――
バサッ……バササササ……
草むらから現れたのは、見たこともない数のゴブリン。
さらにウルフ、スライムまで混じっている。
合計――20体以上。
「うわ、マジかよ……!」
さすがに焦りが走る。
(でも……今ここで逃げたら強くなれない!)
「やるしか……ねぇ!!」
第一波のゴブリンを殴り飛ばした瞬間、背後からウルフが噛みつく。
「っく……! 《頑丈》!!」
ダメージは軽減されるが、数が多すぎる。
囲まれ、次々に攻撃が飛んでくる。
(やばい……!思ってた以上にキツい……!)
体力がみるみる削られ、息が荒くなる。
ウルフの爪が脇腹を裂き、血がにじむ。
(……やっぱ一日で大量に戦うのは無謀だったか)
しかし、諦めかけた時――
目の前でスライムが跳ねる。
その体内に、淡い光。
(……魔石、そうだ、魔石を……食えば……!)
昇太はスライムを掴み、噛み砕いた。
体の奥で熱が走る。
(……っしゃあ!! 力が……湧く!!)
ゴブリンが振るった棍棒を胸で受ける。
(《頑丈》!!)
軽減された衝撃を耐え、拳でゴブリンの頭部を粉砕。
そこからの数分は、昇太自身も覚えていなかった。
気づけばすべての魔物が沈んでいた。
足元は魔物の死骸だらけだった。
「……はぁ……っ……はぁ……っ……
勝った…………」
足が震え、身体が限界を訴える。
そのまま横倒しに倒れこみ――
昇太は意識を失った。
♦︎
「ショータ!!」
「おにーさん!!!」
どこか遠くから声がする。
まぶたを開くと、ミカリとニアが泣きそうな顔で覗き込んでいた。
「よかった……
街に戻っても帰ってこないし……森じゅう探したんだから……!」
「心配させんなやぁ!!」
二人の声に、昇太は苦笑する。
「……ごめん。でも、ちょっと成果はあったよ」
ポーチから、魔石の山と魔物素材を取り出す。
「半分は、二人に。あとは素材だ。売ればそこそこになるはず」
ニアは目を輝かせる。
「めっちゃ集めてるやん!!」
ミカリは胸に手を当てて、ほっと息をついた。
「もう……心配したんだから……」
「……ごめん」
昇太は立ち上がり、深く息を吸う。
「あとで全部話すよ…」
昇太は自分だけに見えるステータス画面を見ながら二人に何から話そうかと考えていた。
♦︎
【ステータス】
Lv:20
HP:400
腕力:360
脚力:400
体力:400
敏捷:400
器用:360
精神:2
MP:0
スキル
・魔石喰い
・頑丈(視認している攻撃を敢えて受けた時のみ、ダメージを3割減らす)
・火事場の馬鹿力(HP2割以下で腕力・敏捷・脚力が1.2倍)




