パーティ名決定
武具屋を出たあとも、昇太の手には「ヴァーダント・エッジ」の重みが残っていた。
刃は鈍いはずなのに、不思議と手に馴染む。まるで呼吸する生き物のように、じんわりと存在感を主張してくる。
「ねぇショータ、その剣……ちょっと嬉しそうじゃない?」
ミカリが横で微笑む。からかい半分、興味半分といった顔だ。
「いや……まあ、悪くないかなって」
「ふふ。さっきの店主さん、最初は怖いのに、最後は優しかったね」
「うん。完全に顔で損してるよね。」
「…」
夕暮れの街路灯が灯り始める。
さっき耳にした旅人たちの噂。
(“金眼の獣”……災厄の色……)
記憶の奥底で、転生直後の悪夢が唸り声をあげる。
「……ショータ? 本当に大丈夫?」
覗き込むように顔を寄せてくるミカリ。
「うん、大丈夫。ただ……気をつけたほうがいいのかもなって思っただけ」
「そっか……でも、ひとりじゃないよ。私がいるからね」
「最初のツンデレはどこにいったんだ」
「…」
自分はもう、孤独じゃない。
たしかにそう思える。
その日のうちにギルドへ戻り、新たな採取クエストの受注を終えた。
ギルドは夕方の混雑が落ち着いた時間で、受付のランプが温かく灯っている。
受付嬢が書類を受け取り、笑顔を向けた。
「昇太さん、今日はもうお帰りですか?」
「はい。明日からまた依頼を見ようかと」
「ふふ、頑張ってくださいね。あ、そういえば──」
少し声を潜める。
「近いうちに、街で“特定パーティ制度”の見直しが入るそうなんです。
正式にギルドに登録しているパーティに優先クエストが回りやすくなるとか。
もし組む相手がいれば、早めに申請したほうがいいですよ」
「パーティ……か」
視線の先で、ミカリが小さく首を傾げていた。
受付嬢は笑みを深める。
「仲良さそうですし、ちょうどいいんじゃないですか?」
「…え?」
妙に気恥ずかしくて、昇太は言葉を飲み込む。
ミカリがぽつりと口を開いた。
「ショータ。……もし迷ってるなら、私、組みたいよ?一緒にいたいし……その……心強いから」
その控えめな声音に、胸が熱くなる。
「今までのツンデレはどした。」
「…」
昇太は深く息を吸った。
「……ミカリ。これからも一緒に戦ってほしい。
正式にパーティを組んでくれない?」
ミカリの顔がぱっと明るくなる。
「うんっ! 組む! ショータとなら、きっとどこへでも行けるよ!」
ギルドの登録用紙に、それぞれの名前を書いていく。
パーティ名の欄を見て、昇太は思わず硬直した。
(……パーティ名?
ミカリが覗き込む。
「どうする?」
「えーっと……」
少し悩んだ末──
昇太は、今の自分の気持ちに正直な言葉を静かに書き込んだ。
【アルティメットダークネスフェニックス】
「すぐに新しい用紙をもらってきて」
ミカリが死んだ魚のような目で遠くを見ながら呟いた。
昇太は新しい用紙を静かにパーティ名を書いた。
【スローライフ】
「……いいね。私、その名前、好きだよ」
ミカリが少し悩ましげに微笑んだ。
提出した瞬間、受付嬢が明るい声で言った。
「はいっ、『スローライフ』登録完了しました!」
その言葉が、どこか新しい世界への幕開けのように響いた。
ギルドを出ると、夜風が気持ちよかった。
手には、まだ馴染みきらないヴァーダント・エッジの重み。
金眼の獣の影が街のどこかでさまよっているかもしれない。だが今の昇太の胸には、以前のような怯えはなかった。
隣にはミカリがいて──
手には、自分を選んでくれた剣がある。
(大丈夫。今度は逃げない)
夜の石畳を歩きながら、昇太は静かに固く誓った。




