成長する剣
オーク討伐の成果を報告するため、昇太とミカリは街の冒険者ギルドへ向かっていた。
ギルドの受付嬢が、Gランクの昇太に笑顔で声をかける。
「……えっ、オークの討伐!? Gランクで受けたクエストなのに、Dランク相当の成果を上げたんですね。立派ですよ!」
昇太は戸惑った。転生後初めて、人から褒められる経験。
こんな感覚、地球での長時間労働では一度も味わったことがなかった。
「……あ、ありがとうございます」
昇太のぎこちない返事に、ミカリは誇らしげに微笑んでいた。
「ねぇ、ショータ。今日は、その……新しい武器、買いに行こっか」
隣でミカリが控えめに微笑む。
「うん。さすがに、あのボロ剣じゃ危ないしね」
そう言われて、昇太は街の外れにある武具屋へ向かった。
街は夕暮れの気配に包まれ始めていた。
その中で、寂れた一軒の武具屋だけは、どこか重たい空気を纏っている。
扉を開けると、擦り切れた革の匂いと油の香りが混ざり合っていた。
「……客か。珍しいな」
無造作に声をかけてきたのは、無精ひげをたくわえた屈強な店主。
口数は極めて少なく、必要最低限しか言葉を発さないタイプのようだ。
「えっと……武器を探してまして」
「なら勝手に見てけ。俺は手ぇ離せねえ」
ミカリが指した先には、木箱が積まれ、その上に色とりどりの武器が無造作に置かれていた。
「こっちのほうは、出戻り品の山だよ」
一度は誰かが買ったが、扱いきれず、使いこなせず、返品された武具――つまり“選ばれなかった武器”たちだ。
(これは…?)
山の中、埃をかぶった一本の剣が目に留まった。
飾り気はない。刃も少しだけ鈍っている。
そのとき、カウンターの奥から店主がちらりとこちらに視線を投げた。
「……へぇ、その剣を選ぶ奴が、まだいたとはな」
皮肉ではなく、本当に驚いている声だった。
「おっさん、この剣、そんなにダメなんですか?」
「ダメじゃねぇ。むしろ……“育つ”武器だ」
「育つ?」
店主は、面倒そうにしていたくせに、その剣の話になると口が滑らかになる。
「装備者が成長すりゃ、この剣も比例して強くなる。
ただしな……問題がある」
「問題?」
「上級者は成長の余地が少ねぇから、わざわざこんなの使わねぇ。
そして初心者は――剣が育つ前に、魔物にやられて死ぬ」
⸻
(……これか)
昇太はふと、自分のステータス画面を開いた。
装備欄には確かにこう表示されていた。
武器:ヴァーダント・エッジ(片手剣)
特性:装備者の成長に比例して力を増す。
握った感触に、思わず小さく息をつく。
まるで、「ようやく来たか」と言われたような気がした。
「……これ、いただきます」
「おう、勝手に持ってけよ」
店主は淡々と言ったが、その目には確かな興味と好意が光っていた。
言葉通り、代金は請求されなかった。
「え……あの、代金は……?」
思わず口に出してしまった昇太に、店主は肩をすくめて笑った。
「別にいいさ。あんたがちゃんと使いこなせそうだからな。出戻り品だって、使うやつ次第で化けるもんだ」
その言葉に、昇太は胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
目の前の剣はただの道具じゃない。
それを認めてくれる人間がいる。そう思うだけで、心が軽くなる。
「ありがとうございます……必ず、大事に使います」
昇太は深く頭を下げる。
「ま、腕次第で化ける剣だからな。あんた次第だ」
店主は再び淡々と作業に戻った。
武具屋を出て、街の中央通りへ向かう途中だった。遠くから聞こえてくる、旅人たちの噂話。
「──金眼の獣が出たらしい」
「またか。最近、多いよな……」
「見たって奴、震えてたぜ。あれは“災厄”の色だってよ」
昇太の足が、止まった。
背筋が、ぞわりと粟立つ。
金眼の獣──
転生直後の悪夢。
それはただの魔物ではなかった。
(まさか……また、近くに?)
手が、無意識に新しい剣の柄を握る。
ミカリが首をかしげた。
「ショータ? どうしたの?」
「……なんでもない。行こう、ミカリ」
昇太は顔を上げ、歩き出す。
──金眼の獣。
それはきっと、ただの魔物ではない。昇太の胸の奥では、言いようのないざわつきだけが、静かに鳴り続けていた。




