ふくふく捕獲依頼。
朝。
王都の掲示板の前に、人が集まっていた。
紙が一枚、増えている。
いつもより、少しだけ目立つ場所に。
「……赤い鳥、捕獲?」
「報酬、これ本当か?」
「桁、間違ってねえ?」
ざわめきが広がる。
捕獲対象の説明は、ひどく曖昧だった。
・赤い
・丸い
・速い
・飛ぶが、あまり飛ばない
「ふざけてんのか?」
「いや……あれのことじゃね?」
誰かが、空を見上げた。
⸻
その頃。
市場の裏、日陰。
ふくふく鳥は、転がっていた。
羽毛を最大限に膨らませ、
ほぼ、球。
「くふぅ……」
眠ってはいない。
ただ、動く理由がない。
パンの匂いは、さっき食べた。
追いかけてくる子供も、今はいない。
平和。
……だが。
「いたぞ!」
声。
「まふ」
即座に立ち上がる。
今日は声が多い。
子供じゃない声が、混じっている。
ふくふく鳥は走った。
走って、走って、屋根へ。
羽ばたかない。
跳ぶだけ。
後ろで、何かが光った。
地面に線が走る。
「まふ!?」
よく分からないが、嫌なやつだ。
ふくふく鳥は線を避け、
樽を踏み、
洗濯物をくぐる。
速い。
でも、今日は少しだけ、空気が重い。
屋根の向こう。
白いもの。
パン。
しかも三つ。
「……わふ」
怪しい。
怪しいが。
一個、つつく。
動かない。
かじる。
おいしい。
「わふ!」
次の瞬間。
網。
四方から、落ちてくる。
「まふっ!!」
ふくふく鳥は跳ねた。
が、今日は狭い。
網が絡む。
羽毛に引っかかる。
――まずい。
体の奥が、熱を持つ。
ほんの、一瞬。
影が伸びる。
羽が、炎の輪郭を帯びる。
見た者は、一人だけだった。
「……今、何か……」
だが次の瞬間。
網の中は、空だった。
残っていたのは、
赤い羽毛が一枚。
そして――
「……また、か」
男の肩。
いつもの場所。
ぽす。
ふくふく鳥は、丸くなる。
「くふぅ……」
安全。
下では、騒ぎが爆発していた。
「消えた!?」
「結界が……すり抜けた?」
「いや、今のは……」
言葉が重なる。
意味は分からない。
ふくふく鳥は、興味がない。
パンは、まだ口の中だ。
男が、ため息をつく。
「だから言っただろ……」
ふくふく鳥は聞いていない。
羽毛をもふっと広げ、
目を細める。
「ぴ」
その日の夕方。
掲示板の依頼は、外された。
理由は簡単だった。
・捕まらない
・危険性が確認できない
・むしろ追う方が危険
噂は、また形を変える。
「朱雀は人を選ぶ」
「いや、ただの鳥だ」
「神の気まぐれだ」
どれも、違う。
ふくふく鳥は、ただのふくふく鳥だ。
逃げて、
食べて、
休む。
夜。
肩の上で、うとうとしながら。
「……ぴ」
羽毛の奥で、
ほんの少しだけ、赤い光が揺れた。
誰にも、気づかれないほどに。




