エピローグ
王都の朝は、静かだった。
地下で何が起きたのかを知る者は、ほとんどいない。
黒ローブの組織は表向きには「自然消滅」という扱いになり、
地下施設の存在も、王城の名の下に封印された。
冒険者ギルド王都本部。
掲示板から、いくつかの依頼がひっそりと消えている。
金眼級――
非公開依頼――
過去事例との関連性あり。
それらはもう、張り出されることはない。
昇太たちは、いつものようにギルドの一角にいた。
派手な称賛も、勲章もない。
「……ほんとに、終わったんだね」
ニアが、窓の外を眺めながら言う。
「終わった、というより」
ミカリは苦笑する。
「一区切り、かな」
昇太は、黙って頷いた。
腰には、ヴァーダント・エッジ。
変わらず、静かだ。
だが、もう不安はなかった。
肩の上で、ふくふくとした重みが動く。
「ぴ?」
朱雀――ふくふく鳥は、
王都でも変わらず、ただの鳥のように過ごしている。
炎を吐いた翌日には、
市場のパンくずを追いかけて走り回っていた。
誰も、それが
空想上の神鳥だとは気づかない。
「ねえ昇太」
ニアが振り返る。
「これから、どうするの?」
「……どうもしない」
昇太は答えた。
「いつも通りだよ」
依頼を受けて、
危ない目に遭って、
たまに、笑って。
「それでいいの?」
ミカリが少しだけ、真剣な目で問う。
昇太は、少し考えてから言った。
「英雄になるつもりはない」
「でも……守れるものがあるなら、剣は振るう」
ミカリは、ふっと息を吐いた。
「相変わらずだね」
朱雀が、ぴょんと昇太の頭に乗る。
「重いぞ」
昇太が苦笑する。
王都の街は、今日も動いている。
人は笑い、争い、忘れていく。
エリウスの名も、
やがては歴史の隙間に消えるだろう。
だが――
「……それでいい」
昇太は、心の中で呟いた。
誰かが語らなくても、
誰かが讃えなくても。
世界は、続く。
そして今日も、
MPゼロの冒険者と、
空想と現実の狭間を生きる朱雀は、
並んで歩いていく。
それだけで、十分だった。
――了。




