絶望とスキル-頑丈
家の中に飛び込むと、5歳くらいの男の子が縄で縛られていた。
昇太が急いで縄を切る。
「大丈夫、大丈夫だよ!」
だが──
背後から聞こえた足音は、ひとつではなかった。
オーク1体
ゴブリン10体。
完全に囲まれた。
「……最悪だ」
ミカリが震える息を吐く。
⸻
戦いはすぐに劣勢になった。
昇太の片手剣は棍棒に受けられるたびに悲鳴を上げ、刃はどんどん欠ける。
「くっそ……! いってぇ!!」
棍棒の直撃を肩に受けた瞬間、
昇太の意識が白く飛んだ。
「昇太!!」
ミカリが叫びながら前に出る。
だが彼女の剣も限界だった。
「男の子に……触るな!!」
必死に戦うミカリ。
その足元で、男の子が転んで泣き出す。
その泣き声が合図のように、オークが突進してきた。
「あ──」
次の瞬間、ミカリは男の子を抱き寄せ、
その背にオークの拳を受けて吹き飛んだ。
「ミカリ!!!」
昇太が叫んだ瞬間、
彼の視界は絶望で染まった。
自分は弱い。
自分にはMPがない。
精神は“2”のままだ。
(俺は……誰も守れないのか……?)
胸が潰れそうだった。
⸻
だが、そこで昇太の視線がミカリの落としたカバンに止まる。
中には──先ほど倒したオークの魔石。
「……食うしかない!!」
迷わず魔石を掴み、口に放り込んだ。
ザリッ。
バキッ。
味など分からない。
ただ、喉を通った瞬間──
身体に熱が走り、筋肉が膨れ上がる感覚がした。
同時に、視界の端にスキルが出現する。
【スキル:頑丈】
→ 認知している攻撃をあえて受ける時、防御力1.5倍
「よし……来いよ……!」
昇太はオークの突進を見据え、自ら胸を張って受けた。
ドガァッ!!
「ぐっ……いってぇぇぇぇぇ!!」
悲鳴を上げながらも、倒れない。
オークがわずかに動揺する。
「今だッ!!」
剣が折れかけた状態でも、全力で振り抜く。
ミカリを倒したオークの首を、辛うじて斬り落とした。
そこからは、本能だった。
倒す
→ 魔石を食う
→ 力が回復
→ また倒す
気付けば、周囲に立っている敵はもういなかった。
⸻
戦いの後、ステータスが更新された。
Lv8
HP:200
腕力:180
脚力:200
体力:200
敏捷:200
器用:180
精神:2
MP:0
「精神……2のままかよ……」
「ていうか、MPいつになったら増えるんだよ……俺、テイマーなんだぞ……?」
昇太はため息をついた。
そのまま、魔力でも気力でもない疲労に押し潰され、意識を失った。
⸻
ミカリが先に目を覚ました。
横を見ると、
昇太が男の子を抱きかかえるように眠っている。
(……ほんと、無茶ばっかりするんだから)
優しく見つめながら、
ミカリは幼い日の記憶を思い出した。
──炎と死に染まった村。
泣き叫ぶ自分。
迫るアンデッド。
そこに颯爽と現れた、銀髪の青年。
“エリウス”と名乗ったその冒険者は、笑顔で言った。
『大丈夫。君は僕が守る』
その瞬間、ミカリの世界は救われた。
(……まあ、その勇者パーティ、クビになっちゃったんだけどね)
少し自虐しながら、
昇太と男の子を静かに見守った。
⸻
その後、孤児院に預けると──
男の子の名は「アレク」。
見た目より年上の8歳で、将来は冒険者になりたいらしい。
「オレ、強くなって……お兄ちゃんたちと冒険する!!」
「俺たちFランクだぞ?」
「そうよ、まだまだ弱いの」
ミカリと昇太は苦笑する。
それでもアレクは拳を握った。
「じゃあ! ボクがDランクになったら、一緒に冒険してくれる!?」
昇太とミカリは顔を見合わせ、
そして小さく頷いた。
「約束だ。Dランクになったら、な」
アレクは満面の笑顔を浮かべた。
その瞬間──
三人の未来につながる、静かな“絆”が芽生えた




