闘いの後で。【挿絵あり】
森を抜けると、徐々に木々の密度が下がり、陽の光が地面を照らすようになった。倒したオークのことを思い出すと、胸の奥がざわつく。あのとき理性を持っていたはずの存在を、自分たちはやむを得ず傷つけてしまった。三人の間には、言葉にできない沈黙が流れる。互いに視線を交わすだけで、心の中の重さを察し合っているのがわかる。
「……帰り道も静かだな」ニアがようやく小声で口を開く。
「うん……森も、あのオークも、まだ頭の中に残ってる」ミカリが息を吐き、腕を組む。
俺は黙ったまま、足元の落ち葉を踏みしめながら歩く。風に揺れる枝の音が、かえって胸のざわめきを際立たせる。森の静寂、倒したオークの金眼――あの瞬間の力強さと狂気が、まるで夢の中の映像のように脳裏を過ぎった。
三人は言葉を交わさずとも、互いの思いを共有していた。やむを得ず戦ったこと、相手が操られていたこと、そしてまだ森の奥には謎が残ること――それらを抱えたまま、村の明かりが遠くに見えてきた。
やっとのことで村に辿り着き、宿の前に立つ。建物の明かりが温かく、ほっとする。三人は重い足取りで中に入った。宿の木製の扉を開くと、暖かな空気と他の冒険者たちの笑い声が迎えてくれる。だが、俺たちの胸の中にはまだ戦いの余韻が残っていた。
「……まずは風呂だな」俺が声を出すと、ミカリとニアも小さく頷く。熱い湯に浸かると、体の疲れがじんわりと溶けるようだった。昇太は湯気の中で魔石を口に入れ、微かに体力を回復させる。冷え切った身体に血が巡る感覚は、安心感と共に少しの罪悪感を薄めてくれた。
「戦うって、こういうことなんだな……」ミカリが湯船の縁に座り、ため息をつく。
「うん……勝つことが正義じゃない場合もある」ニアも視線を沈めたまま答える。互いに戦いの意味を考え、言葉少なに湯に浸かる時間が続く。
その後、三人は食事を取った。
食事の最中、3人はさっきの出来事を忘れるように、冗談を言い合い、暖かい時間が流れた。
だが、心の片隅には、森での違和感が残る。
昇太だけが思い出す、木々の間にちらりと見えた黒いローブの影。視界の端で捕らえた微かな動き、風で揺れる布の気配――誰も気付いていないその存在は、胸の奥に小さな違和感として引っかかっていた。声に出すこともなく、ただ心の中で、次に何が起こるかを考える材料として留めておく。
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ギルドの掲示板には、色あせた紙に印刷された新しい依頼が貼られていた。依頼内容は、村の近郊で頻発している「洞窟内の魔物調査」と「貴重な鉱石の採取」。しかし、文面の端には目立たない注意書きとして、こう記されていた――「最近、森や洞窟で異常な目を持つ魔物の目撃情報あり。十分注意すること」。
昇太は掲示板の文字をじっと見つめ、目を細める。森で倒したあのオークの金眼と、微かに見かけた黒いローブの影を思い返す。あの瞬間の違和感は、決して消えたわけではない。心の片隅で、次の行動の重要性が静かに膨らんでいく。
「……金眼の魔物、か……」俺は小声でつぶやく。ニアとミカリは依頼内容を確認しながら、まだ森での出来事に胸を痛めている様子だ。だが、昇太だけは、他人には話さないまま、次の危険を頭の中で整理していた。黒いローブの存在が何を意味するのか、誰が操っているのか、まだ手がかりはない。しかし、それが次の事件につながることは、直感として確かに感じていた。
掲示板の周囲では他の冒険者たちが新しいクエストに向けて装備を整えている。賑やかな声や道具を扱う音が響く中、昇太は自分たちのチームの位置を確認する。森での戦闘後のやるせなさが残る三人だが、この静かな緊張感はむしろ集中力を高める材料になった。
「次はどう動くか……」昇太は心の中で繰り返す。森の奥で見た金眼のオークの瞳、微かに感じた黒いローブの気配、そして掲示板の情報。これらすべてが、次の行動に向けた伏線として胸に重く残る。今はまだ形の見えない糸だが、繋がる瞬間が必ず来る――その直感が、昇太の背筋を少しだけ引き締めた。
ニアとミカリも、静かに掲示板を眺め、互いの目で意思を確認する。言葉はなくとも、共に歩む覚悟は共有できていた。三人の間には、森で味わった罪悪感や恐怖を受け止める沈黙が流れる。だがその沈黙は、未来への準備と結束を静かに強める時間でもあった。
昇太の意識は、ふと森の中の黒いローブの影に戻る。あの人物が次にどんな動きをするのか、何を企んでいるのか。答えはまだ先だが、確かに何かが動いている。胸の奥に引っかかる違和感は、決して消えることはなく、次の事件の鍵として意識に留まる。
「準備はできてるか?」ミカリが声をかける。ニアはうなずき、昇太も小さく拳を握った。森で倒したオークの記憶、金眼の不穏さ、黒いローブの気配――すべてを胸に、三人は次のクエストへと歩を進める決意を固める。未来に待つ未知の脅威を前に、互いの絆と経験だけが頼りだ。
ミカリとニアです。
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