「底辺新人の俺と元勇者パーティ見習い、初クエで事件に巻き込まれる件」
前話を一部修正致しました。※12月5日0:00頃
昇太は、ギルドのカウンターで声をかけられた。
「真鍋昇太さんですね? あなた宛に手紙が届いています」
差し出された封筒は、質素で、ところどころ涙の跡がにじんでいた。
見覚えのある名前を見て、昇太は息を呑む。
──赤ん坊を抱えて泣き崩れていた、あの母親。
震える指で封を切ると、中には丁寧な字でこう書かれていた。
『あの時、助けてくださってありがとうございました。
息子は無事、わたしの腕に戻りました。
あの村にはもう住めません。ですが、新しい土地でふたりで生きていきます。
あなたの勇気は、一生忘れません。』
昇太は胸の奥が温かくなるのを感じた。
自分の選択が、確かに誰かの未来を守ったのだと思えた。
横でミカリはそっと視線を逸らした。
だが、その頬はほんのりと緩んでいる。
(……嬉しそうじゃない。気づいてないと思ってるのかな、この人)
ミカリは少しだけ唇を噛んだ。
「本当に、調子に乗りやすい人ね」と言いかけてやめる。
うっかり嬉しさがバレそうだったから。
⸻
その日の夕方、二人はテーブルに向かい合って座った。
ギルドの薄暗い酒場の席で、これからの方針を決めるためだ。
「まずは……Dランクを目指そう」
ミカリが言う。
その目には、いつものツンとした強さと、かすかな期待が混ざっている。
「Dランクって、一人前なんだっけ?」
「そう。平均ステータスが200前後って言われてる。
私たちFランクだと……まあ、まだまだ駆け出し」
自虐するように、ミカリは片手剣の柄を見つめた。
勇者パーティ時代のものだが、荷物持ちだった彼女が良い武器を渡されるはずもなく、
刃はところどころ鈍り、鍔には小さな欠けがある。
昇太の剣にいたっては、
ギルドで無料支給される“初心者用”の片手剣。
錆び、刃こぼれし、振るたびにガタつく。
「……まあ、頑張ろう。俺、強くなるのは得意みたいだし」
「そこは、素直に頑張るだけでしょ」
呆れ顔で言いながら、ミカリはなぜか嬉しそうだった。
⸻
そして二人は初めての“討伐クエスト”を受けることにした。
非討伐より危険だが、評価が高く、手っ取り早く昇格が狙える。
内容は──
Fランク:近郊の村に出没するゴブリンの討伐
「ゴブリンなら、まあ……私とあんたなら問題ないはずよ」
ミカリは自信ありげに言うが、昇太は苦笑する。
「問題なのは……俺のこの剣だけどな」
「ほんと、それね」
二人は同時にため息をついた。
◆第11話 異変──ゴブリンがいない村
ゴブリンが出ると報告された村は、寂れた空気に満ちていた。
だが──
肝心のゴブリンの気配が薄い。
「……変ね。ゴブリンが荒らしたにしては、痕跡が少なすぎる」
ミカリは地面を観察しながら眉を寄せた。
「ここ、誰かに荒らされた跡があるけど……ゴブリンの群れにしては、足跡が大きい気がする」
昇太もそれに気づいた。
確かに、踏み固められた足跡の中に、明らかにサイズの異なる跡が混じっている。
「これ……嫌な予感しかしないな」
「でも依頼はゴブリン討伐よ。まずは探すしかない」
⸻
村の奥へ進むと、ようやくゴブリンの姿があった。
「いた!」
ミカリが片手剣を抜く。
昇太もボロボロの片手剣を握りしめる。
ゴブリンは3体。
軽く構えると、ミカリは一歩踏み込み、素早く1体を斬り伏せた。
昇太もタイミングを合わせて切りかかる。
刃こぼれした剣が、ゴブリンの棍棒を受けて“ギィッ”と嫌な音を立てた。
「うわっ、折れる折れる!?」
「ちゃんと受け流しなさいよ!!」
怒られながらも、昇太は必死に戦う。
ミカリが2体目を斬り伏せ、昇太も力任せに3体目を倒した。
「よし……!」
「問題はここからよ」
ミカリの表情は険しい。
「この倒したゴブリン……傷だらけ。誰かと戦った跡がある」
「……それって」
「そう。ゴブリンを狩れる、もっと強い魔物が近くにいるってこと」
空気が一気に重くなる。
⸻
さらに村の奥へ行くと、古い木造の家の前に──
巨大な足跡。
そして、強烈な獣臭。
昇太の喉がひくりと動く。
「ミカリ。
これ、ゴブリンじゃないよな……?」
「……オークよ。間違いないわ」
Fランク冒険者がまともに戦っていい魔物ではない。
「すぐギルドに戻って救援依頼……!」
そう言いかけた時、
「……たす……け……」
かすかな子どもの声が家の中から聞こえた。
昇太は条件反射で走り出していた。
「ちょ、昇太!!」
ミカリが慌てて追いかける。
「オークがどうこうより、子どもがいるなら……助けないと!!」
「バカっ! 無計画すぎる!!」
それでもミカリは止めなかった。
止められなかった。




