《スキルを獲得しました──》
《スキルを獲得しました──》
《気配察知》
──それは“音でも視界でもない情報”だった。
空気の揺れ。草のこすれる気配。
それが線として脳内に“地図のように”描かれる。
(これ……死角の敵が全部見える。)
視覚ではなく、五感の延長でもなく──
第六感が常に周囲全体をスキャンしているような感覚。
《頑丈》の弱点を埋める力。
“視認した攻撃限定”という制約を、事実上ほぼ無効化する。
(すげぇ……これはガチでチートだろ)
口元が勝手に緩む。
“特殊魔石”はスキルをくれた。
ラノベじゃなくて現実の異世界で、こんな都合の良い展開があるとは。
俺はしばらく目を閉じたまま感覚を確かめた。
後方3メートル──小動物。
右前方6メートル──飛んでいる虫。
左の奥、40メートル──何か大きい……?
(これは戦い方が一気に変わるぞ)
すべての位置が“見える”。
頭の中に表示されるレーダーみたいな感覚だ。
最高の状態だ。
ここからが本番。
♦︎
森を進みながら、次々と魔物を狩り、魔石を食う。
アシッドスライム10体。
フォレストウルフ3体。
ゴブリンファイター4体。
気配察知のおかげで、死角からの奇襲は一度も受けない。
(《頑丈》の実験もしやすいな)
ゴブリンの棍棒が軌道ごと“見える”。
振り下ろす前の肩の揺れまで感知できる。
「よし……正面から受けてみるか」
棍棒をあえて視認したまま受ける。
ガッ!
腕が弾かれたが、痛みはほとんどない。
(軽減率が明らかに上がってる……!気配察知で死角が消えた分、《頑丈》がフル稼働できる)
攻撃をいなしながら、感覚データを積み上げていく。
次は“魔石の量”の実験だ。
◆小型魔石を10個連続で食べた場合
・筋肉が一気に熱くなる
・肺が広がる感覚が強い
・身体の軽さが段階的に上がる
◆大型魔石を2個食べた場合
・全身が一瞬で重くなるほどエネルギーが流れ込む
・筋肉の密度が“ひと段階”太くなる感触
・心臓の鼓動が一瞬だけ早まる
(なるほど……小は効率、大は瞬発力って感じか)
スキルの仕組みとしては、たぶん魔石内部の“魔力密度”が違う。
(これは……研究しがいがあるな)
新しい玩具を与えられた子どもみたいに、思わず笑みが漏れる。
森の中腹まで進むと、
気配察知が“帯状の反応”を捉えた。
(……群れ?)
視界に入る前から、数の多さが感覚でわかる。
フォレストウルフ8体の小規模群れ。
以前なら絶対逃げてた数。
でも──今日は違う。
「いい、実験材料だ」
まず先頭の2体が跳びかかる。
気配で見切り、足を滑らすように踏み込む。
爪を視認した瞬間、《頑丈》が発動し、そこへカウンター。
ドゴッ!
一撃で沈む。
横から3体が同時に来る。
(左のやつはフェイント、右が本命……!)
気配察知のおかげで、視界外の“動き出し”が全部読める。
俺は地面を蹴り、右へ体を捻る。
刹那、風を裂いて爪が通過。
すれ違いざまに拳を叩き込む。
残りの3体は連携で包囲を狙ってくるが──
(全部見えてるんだよなぁ)
気配察知で死角ゼロ。
頑丈でダメージ半減。
筋力は魔石で爆増中。
負ける要素がない。
3分もかからず群れを壊滅させた。
♦︎
更に奥へ進むと、重い気配がひとつ。
通常の魔物とは明らかに密度が違う。
(……来たな)
姿を現したのは──鉄のような皮膚を持つゴブリン。
◆《アイアンゴブリン》
ゴブリンより二回り大きく、
皮膚は灰鉄色。
腕は丸太のように太い。
棍棒ではなく、“鉄片を圧縮した塊”を武器にしている。
「試しがいがあるな……!」
まずは正面から突撃。
アイアンゴブリンの攻撃を視認しつつ受ける。
ガッッッ!!
全身へ重たい衝撃が走る。
(痛っ……でも折れてはいない!)
頑丈でダメージは半減しているが、それでも圧が強い。
「もう一発……来い!」
気配察知で軌道を読み、
あえて真正面で迎え撃つ。
──ズシンッ!!!
さすがに膝が沈む。
(ギリギリ……火事場の馬鹿力の一歩手前だな)
筋肉が音を立てて膨張し、
拳に自然と力がこもる。
「なら……俺の番だ!」
地面を砕いて踏み込み、
顎へアッパーを叩き込む。
ゴッ……!!
アイアンゴブリンの巨体が宙へ浮き、
そのまま倒れ込んだ。
勝負は一撃で終わった。
(……よし。実験成功だ)
魔石も、通常より濃い鉄色。
もちろん食べた。
♦︎
昼過ぎ。
汗と泥まみれになりながら街へ戻る。
ギルドの裏の物陰で、残りの魔石をこっそり食べ、回復。
換金用の魔石袋はずっしりだ。
(これだけあれば……今日だけでかなり稼げたはず)
♦︎
ギルドがある建物の奥、丸いテーブルにミカリとニアが向かい合って座っていた──
昇太は右手をあげながら二人に近づいていく
「昇太!? 何その泥だらけ!?」
ミカリが椅子を弾いて立ち上がる。
「うわっ……顔まで傷だらけやん!」
ニアは半泣き。
「ちょっと素材偵察のつもりが、足を取られて転んだだけだよ」
俺は苦笑しながらごまかす。
「……ほんとに?」
ミカリはじっと目を細める。
「なんか隠しとるやろ……?」
ニアは頬をふくらませる。
バレかけてる。
けれど──まだ大丈夫。
「本当だって。ほら、素材もちゃんと集めたし」
俺は笑って話題を逸らした。
夜。
安宿の軋むベッドで、ひとりステータスを見る。
レベル:30
HP:560
腕力:500
脚力:600
体力:560
敏捷:560
器用:430
精神:2
MP:0
スキル:
《魔石喰い》
《頑丈》
《火事場の馬鹿力》
《気配察知(NEW)》
Dランク冒険者の平均ステータスが200に届くかどうかという中、冒険者を始めて2週間足らずでそれを遥かに上回った。(精神とMPを除く)
「…バケモノかよ、俺(精神とMPも含めて)」
筋肉は無駄なく締まり、
体は羽のように軽い。
そして──
(これでパーティハウスの頭金は貯まったな)
明日、魔石と素材を換金して不動産屋にでも行こうかと悩みながら昇太は眠りに落ちた。




