空の牢獄、光なき群星4
しばらく、誰も口を開かなかった。
星灯の揺らぎだけが、食堂の天井をゆっくりと流れていく。
沈黙に耐えきれなくなったように、レオは小さく息を吸った。そしてずっと疑問だったことを口にした。
「宙の渦、って場所を知っていますか」
その一言で、空気が変わった。
ガルドが目を見開き、ウルナは思わず椅子から身を乗り出す。
フィノの指が、竪琴の弦の上で止まった。
「その名を、どこで聞いた」
アステリオスの声は、低く、慎重だった。
レオは胸の奥に手を当てる。
そこに確かにある温もりを感じながら言った。
「妹が、死ぬ前に言ったんです。東の果ての海に、宙の渦っていう場所があって。そこに魂を還せば、また生まれ変われるって」
レオは俯きながら言った。
「生まれ変わりたいって」
ウルナが、ゆっくりと息を吐いた。
「古い伝承で聞いたことがるよ。戦の前、砂漠の巫女たちが歌っていた古い神話」
「俺も聞いたことがある」
ガルドが腕を組み、唸るように言う。
「星は空へ昇るもんだが、還りたい星は、海を目指すって話だ」
ノクトだけが、鼻で笑った。
「おとぎ話だ。希望を餌にした、死者のための慰めだろう」
「それでも」
フィノが、静かに言葉を紡ぐ。
「魂は、行き先を選べるのではないでしょうか。私は、そう信じたい」
アステリオスは、しばらく目を閉じていた。
まるで、二百年前の戦場を見つめ直しているかのように。
「レオ」
やがて、彼はその名を呼んだ。
「お前は、妹の星を、還したいのだな」
レオは、迷わず頷いた。そしてか細い声で言った。
「はい」
その言葉に、ガルドが大きく目を伏せた。
ウルナは唇を噛みしめ、拳を握る。
「俺たちは」
アステリオスが、低く続ける。
「奪うことしか知らなかった。勝つために、守るために、命を星に変えた」
彼は、右腕の古い紋章を見つめた。
「この紋章はその代償の証。だが、もし星を還す道があるのなら、それは、俺たちが背負った罪に、意味を与えることになるのかもしれない」
ノクトが、わずかに目を細める。
「本気で言っているのか」
「本気だ」
アステリオスは即答した。
星灯が、ひとつ、強く瞬いた。
その光に照らされて、五人の影が石床に伸びる。
奪った者。
封じられた者。
そして、還そうとする者。
レオは、自分の胸に宿る微かな光を感じながら思った。
ここは牢獄だ。
星灯が一つ、大きく揺らめいた気がした。




