表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星攫いの少年  作者: 月蜜慈雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

空の牢獄、光なき群星4




 しばらく、誰も口を開かなかった。

 星灯の揺らぎだけが、食堂の天井をゆっくりと流れていく。

 沈黙に耐えきれなくなったように、レオは小さく息を吸った。そしてずっと疑問だったことを口にした。


「宙の渦、って場所を知っていますか」


 その一言で、空気が変わった。

 ガルドが目を見開き、ウルナは思わず椅子から身を乗り出す。

 フィノの指が、竪琴の弦の上で止まった。


「その名を、どこで聞いた」

 

 アステリオスの声は、低く、慎重だった。

 レオは胸の奥に手を当てる。

 そこに確かにある温もりを感じながら言った。


「妹が、死ぬ前に言ったんです。東の果ての海に、宙の渦っていう場所があって。そこに魂を還せば、また生まれ変われるって」


 レオは俯きながら言った。


「生まれ変わりたいって」


 ウルナが、ゆっくりと息を吐いた。

 

「古い伝承で聞いたことがるよ。戦の前、砂漠の巫女たちが歌っていた古い神話」


「俺も聞いたことがある」


 ガルドが腕を組み、唸るように言う。

 

「星は空へ昇るもんだが、還りたい星は、海を目指すって話だ」


 ノクトだけが、鼻で笑った。

 

「おとぎ話だ。希望を餌にした、死者のための慰めだろう」


「それでも」


 フィノが、静かに言葉を紡ぐ。


「魂は、行き先を選べるのではないでしょうか。私は、そう信じたい」


 アステリオスは、しばらく目を閉じていた。

 まるで、二百年前の戦場を見つめ直しているかのように。


「レオ」

 

 やがて、彼はその名を呼んだ。

 

「お前は、妹の星を、還したいのだな」


 レオは、迷わず頷いた。そしてか細い声で言った。

 

「はい」


 その言葉に、ガルドが大きく目を伏せた。

 ウルナは唇を噛みしめ、拳を握る。


「俺たちは」


 アステリオスが、低く続ける。

 

「奪うことしか知らなかった。勝つために、守るために、命を星に変えた」


 彼は、右腕の古い紋章を見つめた。

 

「この紋章はその代償の証。だが、もし星を還す道があるのなら、それは、俺たちが背負った罪に、意味を与えることになるのかもしれない」


 ノクトが、わずかに目を細める。

 

「本気で言っているのか」


「本気だ」

 

 アステリオスは即答した。

 星灯が、ひとつ、強く瞬いた。

 その光に照らされて、五人の影が石床に伸びる。


 奪った者。

 封じられた者。

 そして、還そうとする者。


 レオは、自分の胸に宿る微かな光を感じながら思った。

 ここは牢獄だ。

 星灯が一つ、大きく揺らめいた気がした。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ