攫い手の罪
レオは無意識の内に、自分の右手をレナの胸に当てて、弧を描いた。
何周も、何周も、まるでそれだけしか行動することが出来ない生き物のように。
視線の一点をただ、レナの胸の中央に集中させる。
レオは殆ど何も考えずに、それを実行した。
しばらくするとレナの胸の上に浮かび上がる白い塊が出てきた。
ゆらゆら揺れる、まるで焔のようだ。
レオは何の光をない瞳でそれを見つめ、ボソッと呟くように、言った。
「レナ、還っておいで」
その声に誘われるように、白い塊はレオの右手に吸い込まれていった。
その時、ゴーン、ゴーンと教会の鐘の音のように、頭が歪みそうなほどの巨大な音が響き渡る。
レオの耳に周囲の音が蘇ってくる。
ざわつく人々の声と足音がこちらに近づいてくる。
扉を開けた修道士に一人が、ヒっと悲鳴をあげた。
「攫い手だーーーー!!!」
その声を聞いた周囲の人々がなだれ込むように部屋に入り、レオを押さえつける。
たまらずレオは叫んだ。
「痛っ、何すんだ!!」
そんなレオの言葉に気にも留めず、周囲は口々に言う。
「攫い手だ…」
「攫い手が現れた…」
「なぜだ。もう戦はないのに」
「見よ。あの紋章を!!」
捻りあげられた右手が高く掲げられる。
レオはうなり声をあげ、そのあと戸惑ったような表情をした。
なぜなら。
「ウっ、え…」
周囲のざわめきがより一層強くなる。
レオの右手には、星が散りばめられた複雑なモチーフの紋章が現れていた。
レオはポカンとした顔で、
「ハ…」
と呟くしかなかった。