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消えた時計店の謎

作者: haruma.

消えた時計店の謎


とある静かな田舎町に、古びた時計店があった。その店にはアンティークの時計が所狭しと並べられ、時間を告げる音が絶えず響いていた。店主の西田雅人は70歳を超える老人で、時計を修理する腕前が評判だった。だが、ある朝、その時計店が忽然と消えてしまったのだ。


町の人々は驚き、口々に噂を始めた。「泥棒か?」「地震で崩れたのか?」警察も調査に乗り出したが、建物があった痕跡さえ見つからない。そして、消えた時計店とともに、西田雅人の姿もどこにもなかった。


そんな中、この事件に興味を持った一人の女性探偵、白石凛が現れた。彼女は都会からこの町に移り住んだばかりで、日々退屈な暮らしを送っていた。だが、この不可解な事件に心を動かされ、自らの足で真相を追うことを決意する。


まず凛は、西田の家を訪ねた。家は時計店のすぐ裏手にあり、彼の生活が垣間見えるような質素な造りだった。しかし、家の中には妙な違和感があった。家具はそのままなのに、時計だけがすべて消えている。そして机の上には、一枚の手紙が残されていた。


「時間は逆戻りしないが、過去を修理することはできる」


このメッセージが意味するものは何か?そして西田はどこへ消えたのか?白石凛の頭の中で、無数の疑問が渦巻いていた。彼女はこの手紙を手がかりに、謎の時計店の真相を探る旅に出ることを決意する。


白石凛は手紙を持ち、町の人々に話を聞き始めた。まずは西田の時計店に通っていた常連客たちだ。彼らの話から、驚くべき共通点が浮かび上がった。


「西田さんの時計に触れると、不思議と昔のことを思い出せるんです。なんだか、時間そのものを操っているみたいで……」

「修理してもらった時計を身につけると、昔の後悔が薄れる気がして。まるで心の傷が癒されるようでした。」


どの客も口をそろえて、西田がただの職人ではなく、不思議な力を持つ時計職人だったと言うのだ。凛はその話を聞きながら、頭の中でいくつかのピースを組み立て始めた。


次に、凛は時計店の跡地を詳しく調査することにした。地元の警察はすでに調べを終えていたが、彼女は自分の目で確かめたかった。跡地にたどり着いた彼女は、地面にうっすらと残る奇妙な模様に気がついた。それは幾何学的な形をしており、まるで古代の時計の内部構造を描いたようだった。


模様を写真に収めていたそのとき、不意に凛の背後から声が聞こえた。


「時間を追いかけるのはやめたほうがいい。」


振り返ると、そこには見知らぬ男が立っていた。彼は30代くらいで、落ち着いた声色だが、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。


「誰ですか?」凛は身構えた。

「西田雅人の知人だよ。時計の秘密を知りたいなら、引き返すんだ。さもなくば、君も彼と同じ運命を辿ることになる。」


男はそれだけ言うと、振り返りもせずに立ち去っていった。凛はその言葉に動揺したが、時計店に隠された秘密を知る決意は揺るがなかった。


その夜、凛は再び西田の家を訪れた。手がかりを求めて家を隅々まで調べていると、床下収納の中に鍵付きの箱を見つけた。箱を開けると、中には一冊の古びた日記が入っていた。


「今日、私は時間の歪みを発見した。時計の中に隠された力を使えば、過去の修復が可能だ。ただし、代償は計り知れない……」


日記には西田が時計を通じて「時間を修理する技術」を発見したこと、そしてそれを使って多くの人を助けたことが記されていた。しかし、その技術は使うたびに彼自身の時間を削り取るものだったという。


凛は背筋が凍る思いで日記を読み進めた。その最後のページには、こう書かれていた。


「すべての時計を捧げ、最後の修理を行う。これが私の選んだ結末だ。」


西田雅人は、自らの時間をすべて差し出し、何か大きな修理をしたのだろうか。そして、それが「消えた時計店」にどう繋がるのか。


凛は答えを求め、日記に記されていた「最後の修理」の場所 -町外れの古い教会へ向かうことを決意した。

町外れの教会は、すっかり廃墟と化していた。かつては結婚式やミサで賑わったという話だが、今は訪れる者もおらず、草木に覆われている。西田の最後の修理がこの場所で行われたというのはどういうことなのか

白石凛は懐中時計を手にしながら、胸の中で不安と興奮が渦巻いていた。この時計はただの遺品ではなく、何か大きな秘密を抱えている。西田が彼女に託したものとは、一体何なのか?


教会を出て時計を調べていると、裏蓋の小さなボタンが目に入った。凛は恐る恐る押してみた。その瞬間、時計が突然光りだし、空間がねじれるような感覚に襲われた。


「な、何これ……!?」


眩しい光の中で、凛の体はどこかへ引き寄せられるように感じた。そして、気がついた時には見覚えのある風景が目の前に広がっていた。だが、それは今の町ではなかった。


「これって……過去?」


目の前には、まだ時計店が建っている風景が広がっていた。だが、それは消失する前ではなく、もっと前――時計店が全盛期だった時代のようだった。人々が店を訪れ、西田が忙しそうに修理をしている姿が窓越しに見える。


凛は呆然と立ち尽くしていたが、すぐに気を取り直し、時計店の中に入ることにした。扉を開けると、店内はアンティーク時計の音で満ちており、現代にはない独特の活気が漂っていた。


「いらっしゃいませ。」


振り向いた西田は、今まで凛が見てきた幽霊のような存在とは違い、実体を持つ若々しい姿だった。彼は凛を見て少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「あなたは……?」

「私は……ただの探偵です。」


凛は正体を隠しながらも、西田に近づいた。そして彼の手元を見ると、懐中時計を修理しているところだった。それは、彼女が教会で見つけた時計と同じものだった。


「この時計……どうしてそんなに特別なんですか?」

凛が問いかけると、西田は一瞬手を止め、真剣な表情でこう答えた。

「この時計は、人々の過去を修正する力を持っている。けれど、それを使うたびに私の時間が削られていく。だから慎重に扱わなければならない。」


「あなたはそれを知りながら、なぜ使い続けるんですか?」

西田は時計を見つめ、静かに答えた。

「過去に縛られた人々を解放するためだよ。誰しも後悔や傷を抱えている。それを少しでも癒すことができるなら、私の時間を捧げる価値はある。」


その言葉に凛は胸を打たれたが、同時に彼の運命を知るがゆえに複雑な感情を抱いた。このままでは、西田は自分の時間をすべて使い果たし、やがて消えてしまう。それを止めるためにはどうすればいいのか――?


凛は懐中時計を手に取り、自分が未来から来たこと、西田がすべてを失う結末を迎えることを伝えるべきか迷った。だが、その時、西田がふと意味深な言葉を口にした。


「未来から来た君には分かっているのだろう。この時計がどう終わるのか。」


「え……どうしてそれを?」凛は驚愕した。

「時間を修理する力を持つ者には、時間の歪みの気配が分かるんだ。君もその歪みを抱えてここに来た。さて、どうする?私はこの時計を捨てるべきだと思うか?」


凛は答えに詰まった。この時計を捨てれば、西田は消える運命を免れるかもしれない。だが、それによって多くの人々が癒しを失うことになる。


彼女はついに決断を下す時が来たと感じた――。


白石凛は、心の中で激しく葛藤していた。この時計を捨てさせれば、西田雅人の命を救うことができる。しかし、時計の力を失えば、多くの人々が癒しや救いを失うかもしれない。彼の運命を知る探偵として、どちらが正しい選択なのか、凛は答えを見つけられずにいた。


凛は深呼吸をし、意を決して言葉を口にした。

「私は……この時計を残すべきだと思います。」


西田の表情がわずかに和らいだ。「理由を聞かせてくれるかい?」


「確かに、あなたがこの時計を使い続ければ、あなたの命は削られてしまう。それでも、この時計が救ってきた人々のことを考えると、これを捨てる選択肢はないと思います。あなたが背負っているものは大きいけれど、その重さがあなたの生きた証でもあるはずです。」


西田は凛の目をじっと見つめた。やがて小さく頷き、こう言った。

「ありがとう、君の言葉には確かに重みがある。だが、どちらの道を選んだとしても、この時計が引き起こす歪みを無視することはできない。だから、私自身が歪みを封じるための方法を考えたんだ。」


そう言って、西田は棚の奥からもう一つの時計を取り出した。それは、教会で見つけた懐中時計と同じデザインだが、少し異なる構造をしていた。


「これは、時計の力を封じるための鍵だ。この鍵を使えば、時間を修理する力を永久に閉じ込めることができる。ただし、これを使うと時計店も、私自身も、時間の中から完全に消えることになる。」


凛は息を呑んだ。「そんな……あなた自身も消えるなんて……」


「これが私にとっての最善の修理だと思っているよ。誰もが過去に縛られずに生きるためには、私の存在そのものが障害になるからね。」


凛は反論したい気持ちを抑えられなかった。「でも、そんなの間違っています!あなたは人々の希望だったはずです。それを失うことで、また誰かが苦しむことになるかもしれない!」


西田は静かに微笑んだ。「君がそう思ってくれるだけで十分だ。私の役割は、もう終わりにしなければならない時が来た。」


その時、教会の鐘が鳴り響くような音が遠くから聞こえた。西田は懐中時計を握りしめ、凛に向かってこう言った。

「さあ、君には最後にもう一つだけお願いがある。この時計を未来へ持ち帰り、誰にも触れさせないようにしてほしい。」


凛は涙をこらえながら頷き、時計を受け取った。西田は彼女に背を向け、大きな柱時計の前に立った。そして、静かに鍵を懐中時計に差し込み、回した。


その瞬間、凛の視界が光に包まれ、教会全体がゆっくりと消え始めた。時計の音が次第に遠ざかり、すべてが静寂に戻った。


?白石凛は胸の高鳴りを抑えながら、静かに教会の扉を押し開けた。


中は薄暗く、湿った空気が漂っている。木製の長椅子は朽ち、ステンドグラスは割れて色褪せていた。しかし、奥の祭壇には驚くべき光景が広がっていた。


そこには無数の時計が並べられていたのだ。アンティーク、懐中時計、腕時計――そのすべてが西田の修理を経たものらしく、規則正しい音を刻んでいる。そして、その中心には巨大な柱時計がそびえ立っていた。


「これが西田さんの……最後の場所?」


凛が柱時計に近づこうとしたその時、空気が歪むような感覚が襲った。視界が揺れ、彼女は思わず足を止めた。そして、時計の中心部に淡い光が現れ、中から人影が浮かび上がってきた。


「来たか、白石凛。」


現れたのは、西田雅人その人だった。だが、彼はまるで幽霊のように透き通っており、生きている人間には見えない異様な存在感を放っていた。


「西田さん……!ここで何をしているんですか?」

「私はこの場所で最後の修理を行った。そして、その結果、時間そのものの境界を越えたんだ。」


「時間の境界……?」凛は理解が追いつかない。


「私の時計は、人々の過去を修復する力を持っている。しかし、それを繰り返すたびに、時間の歪みが大きくなった。この教会はその歪みを集める場所として選ばれたんだ。」


凛は震える声で問いかけた。「じゃあ、あなたはもう戻れないんですか?」


西田は静かに頷いた。「私はここで多くの人の『時間』を救ったが、自分の時間はすべて捧げた。この姿は、時計に縛られた存在の名残に過ぎない。」


「そんな……」


西田は凛を見つめ、微笑んだ。「君は探偵だな。ならば、この教会に隠された最後の謎を解くんだ。それが、私が君に託す役割だ。」


そう言い残し、西田の姿は消えた。だが、柱時計の内部から微かな音が聞こえた。凛が慎重に近づくと、時計の中に小さな引き出しが隠されているのを見つけた。


引き出しの中には一つの懐中時計が収められていた。それはどこか見覚えのあるデザインで、西田の手紙に書かれていた「時間を修理する」力を象徴しているように感じられた。そして、その懐中時計の裏側には、こう刻まれていた。


「すべての時間は再び繋がる」


凛は時計を手に取り、真相を探るため再び調査を開始することを決意した。この懐中時計こそが、すべての鍵になるに違いないと確信しながら――。


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