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降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。  作者: 橘ふみの


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【おまけ①】キスは甘いチョコレートの味 月城&桐生 視点

 


「傘、ありがとな」

「いえいえ。はい、これ……今日の夜ご飯は唐揚げです」

「旨そうだな」

「お口に合えば嬉しいです」

「ありがとな、また後で」


 私の頭を撫でて、チュッと音を立てながら額にキスを落とす桐生さん。嬉しいけど、ちょっとだけ寂しい唇。でも自分からキスするのも恥ずかしいし、してほしいとも言いづらいし……。


「そんな顔すんな」


 そう言いながら私の後頭部に手を回して、引き寄せた桐生さんの唇が私の唇と重なった。


「止まんなくなるだろ」

「止めないでください」

「ったく、煽んじゃねぇよ」


 真顔でベシッと私の頭にチョップしてきた桐生さん。こういう絡みも悪くはないっていうか、結構好きだったりする。というか、桐生さんだったらもう何でもいいのかもしれない。


「また今度な」


 そう言いながら意地悪な顔をして玄関から出ていった桐生さん。その玄関ドアをただ眺める私。


 ── 私達は付き合い始めてからも傘を貸して、お裾分けをし合う仲は変わらず継続している。これが私達の当たり前で日常。この先もこの関係が続くといいな、なんて思ったりもする。


 そしてある問題がひとつ。桐生さんが触れるだけのキスしかしてこなくなった。甘く絆されるような、あの大人なキスが忘れられない。欲しくて、欲しくてたまらないのに、桐生さんはそうでもないのかな……? もしかして、私のキスが下手だったとか?


 ・・・サーッと血の気が引いたのは言うまでもない。







 なんとなく梓が深いキスを求めているのが伝わってくる。それが無性に愛おしくて、めちゃくちゃに抱き潰したい欲に駆られる。理性がブッ飛びそうで欲を抑えきれる保証がない以上、梓を怖がらせるんじゃないかと、触れるだけのキス止まりになっちまう。


 ── 梓はどんな表情で、どんな声で俺を求めてくんだろうな。


 梓を抱きたい。抱き潰して、これでもかってくらい愛してやりたい。心も体も、奥の奥まで俺で満たして、埋め尽くしてぇ。俺以外のことなんて考えられねーくらい、俺でいっぱいになればいい。俺じゃなきゃ満足できねえ心と体になっちまえばいい。


 そんな邪な気持ちが俺を支配していく。


「……チッ。怖がらせるだけだろ、こんなもん」


 梓が怖がらねえように時間をかける必要がある。焦れば梓を傷つけるかもしれねえ。抑えろ、俺の欲なんざどうだっていい。


 梓から貰った飯を食って、シャワーを浴びながら梓のことを想い── 我慢しきれずヌいた。


「……ハッ、ガキでもあるめぇし何やってんだ。俺」


 洗ったタッパーと梓の好きなチョコレートを持って、頭ん中を空っぽにしながら梓ん家へ向かった。


 インターホンを鳴らして少しすると、ガチャッと玄関ドアが開いて出てきたのは……はぁーー、おいおい勘弁してくれよ。


「すみません! お待たせしました! お風呂に入ってて、ははっ」


 キャミソール1枚にクソ短ぇ短パン。せめてなんか羽織れよ。無防備すぎんだろ、どんだけ危機感ねえんだ? つーか、他の男にそんな姿ぜってぇ見せんじゃねぇぞ。見た野郎はもれなく殺す。梓は俺だけのモンだ──。


「……桐生さん? どうしました?」


 どうしたもこうしたもねえ……。上目遣いで俺を見上げてくる梓。俺を悩殺する気か? 死ぬぞ、リアルに。ったく、今時の若ぇのはこれが普通なのか? 可愛すぎんだろ、やめろ。そんな瞳で俺を見んな。


「旨かった」


 タッパーとチョコレートを渡すと、ジッと俺を見てくる梓に欲情する俺はどうかしてんのか?


「風邪引くぞ」

「……なら、桐生さんがあたためて」


 そう言ってギュッと俺に抱きついてきた梓は、俺の気も知らねぇで本っ当に厄介でしかない。まあでも、これが愛おしくてたまんねぇんだわ。


「体冷えてんじゃねぇか」

「桐生さんはあったかいですね」


 ・・・このままお前をメチャクチャに抱いてしまいたい。そんな俺の邪な気持ちが梓に伝わったのか? と思うほど、あっさり俺から離れる梓。


 それが名残惜しくて、『ずっと俺の腕の中にいろ』そう言えたら何か変わるのか? なんて、クソほど柄でもねえこと考えてる自分に吐き気がするわ。


 で、何を思ったのか俺がやったチョコレートを次から次へと俺の口へ突っ込んできた梓。


「梓、おまっ」

「ください」

「んあ?」

「そのチョコレート、私にもください」


 そう言うと俺へ両手を伸ばしてきた。そして、俺の首の後ろへ腕を回してグッと引っ張られる。


 ── そして、重なる唇。


 梓からキスなんてされたことねぇし、俺の唇を割って舌を入れてこようとするしで、内心焦りまくってるのは言うまでもねえだろ。


「おいっ、梓っ!?」


 俺が口を開いた途端、ここぞとばかりに攻めてきた梓に俺の理性がグラグラ揺れてブッ飛びそうになる。そんなのお構い無しに舌を絡めて、求めてくる梓にもう我慢できそうにねぇわ。


 あーーもういい。知らねえぞ、どうなっても。


「んっ……き、りゅうさんっ……もう、むり!」

「あ? 足んねぇよ」

「ん……っ」

「甘ぇな。すんげえチョコレートの味がする」

「はぁっ……もうっ! ……桐生さんっ、ストップ!」


 ── 梓が立てなくなるほどのキスをしてやったのは、言うまでもねえだろ?

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