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降りしきる雨の中、桐生さんは傘をささない。  作者: 橘ふみの


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【完結】大嫌いだったはずなのに④

 恋人関係っていう解釈でいいんだよね? 『お前が欲しい』ってそういうこと……だよね?


「まっ、その辺はちゃんと自分で確かめなさ~い。ささ、ショッピングして美冬の所へ行こ!! 急な仕事入っちゃったから、夕方には空港行かないと」

「そっか」

「あまりゆっくりできなくてごめんね?」

「気にしないで。準備して出掛けよ?」

「好きなものたっくさん買ってあげる!!」


 それから『年上彼氏ゲットしたんだから!!』ってお母さんが張り切って、服やら下着やら化粧品をたくさん買ってくれた。今までの男女交際禁止! は一体何だったんだろうか……。


 ── 美冬のバイト先でお母さんと別れて、美冬のバイト終わり。


「もぉ、こんなにいいって言ったのになぁ……」 

「雫さん、梓と出掛けられたのが嬉しかったんじゃない? てか、あたしの分まであるし……ほんっと申し訳ないわ。相変わらずセンス良すぎな、雫さん」

「まぁ、いいでしょ。お母さん美冬のこと大好きだし。美冬の選ぶの楽しそうにしてたよ~。ていうか、むしろ迷惑かけてごめんだよ」

「別に迷惑なんてかけられた覚えないって。めちゃくちゃ良くしてもらってるわ、実の子供でもないのにさ」

「……もう、うちの子だよ」

「ははっ。なにそれ、ウケるね~」


 ・・・美冬は家庭環境が複雑というか色々あって、先輩ん家とかを転々とする生活を送ってる。何度か一緒に住まない? って誘ったし、お母さんもめちゃくちゃ誘ってたみたいなんだけど、『それは無理』の一点張り。美冬のことだから迷惑かけたくない、とかなんだろうけどね。全然迷惑じゃないのにな。


「で、桐生さんとはどうなったのー?」

「あー、うん……多分、付き合うことになった……と思う」

「はあ? なんで曖昧なわけ~?」

「付き合ってくれとか言われてないし……」

「梓から言えばよかったじゃん、んなもん」


 ごもっとも過ぎて、ぐうの音も出ない。


「後で聞いてみる」

「そうしたら? じゃ、また明日~」

「うん、送ってくれてありがとう」


 ── 夕飯も食べて、お風呂にも入ったし、後は寝るだけ……いや、まだメッセージが送れていない。


 スマホと睨めっこして、《私達って付き合ってるってことでいいですか?》と、何度も何度も打っては消してを繰り返している。


「はぁぁ、ほんっとどうしよう」


 ベッドに寝転んで、右を向いて左を向いて、忙しなく動いている私。


 《こんばんは。一つ聞いてもいいですか? 私達って付き合ってるってことでもいいんでしょうか?》


 ・・・いや、やっぱ無理。打ったメッセージを消そうとした時だった。


「ああっ!!」


  最っっ悪、送っちゃった……。


「け、消そう! 桐生さんが読む前にメッセージの送信を取り消せばっ」


 ・・・ええ……? 既読になっちゃったよぉぉー。


 《今夜は帰れそうにない。今、電話してもいいか》

 《お仕事お疲れ様です。はい、大丈夫です》


 すると、すぐ桐生さんから電話がかかってきた。深呼吸して、少し震える手で通話ボタンを押す。


 【もしもし】

 【俺はそう解釈してたんだが、梓は違うのか】


 姿が見えなくても声で伝わってくる。桐生さんの少し焦ってる顔が目に浮かんできた。それがとても愛おしい。


 【違わないです】

 【そうか、ならいい】


 言わなきゃ、ちゃんと──。


 【あのっ、桐生さん!! 私とっ】

 【俺の女になってくれ、俺だけの女に】


 これは、『付き合ってくれ』ってことだよね?


 【桐生さんをください】


 ── 私だけのものにさせて。


 【ああ、なんでもくれてやる】

 【桐生さん大好き】

 【梓、愛してる】


『愛してる』の一言で全身がアツくなった。


 耳元で囁かれているような、そんな感覚。胸の高鳴りが抑えきれない。桐生さんに会いたい、早く会いたい。明日、会えるかな。


 ── 翌朝


「今日も雨かぁ」


 毎年、この時期は憂鬱だった。


 朝も昼も夜も絶え間なく雨が降り続けて、空はどんよりした灰色に覆われて、常に薄暗い日々……だったはずなのに、桐生さんと出会ったあの日から、私の世界は明るくて、『梅雨も悪くない』そう思えるようになった。


 あんなにも大嫌いだったはずの梅雨が、“桐生さんに傘を貸してあげられる”……ただそれだけの理由で、こんなにも気分が晴れやかになるなんて、本当にどうかしてる。


「桐生さん、おはようございます」

「ん」


 エントランスには、雨降りなのに傘を持っていない桐生さんが立っていた。


「傘、買ったらどうですか?」

「要らねえ」

「ですよね」


 この役目は私だけのもの。誰にも譲れないし、譲らない。傘だって買わせてやんないんだから。


「はい、どうぞ」


 私が傘を差し出すと、その傘を受け取って頭を撫でてくる桐生さん。


「ありがとな」

「うん。いってらっしゃい」

「ん。気をつけて行ってこいよ」


 私は少し背伸びをして、桐生さんは少し屈んで、優しく触れ合う唇。降りしきる雨がキラキラ輝いて見えて、こんなにも綺麗だなんて……本当に信じれない。


「じゃあね、桐生さん!」


 手を振っても振り返してはくれない。でも、優しく微笑んでくれる。


 そんな桐生さんが── 大好きです。



この更新分にて本編は完結となります。お付き合いいただきありがとうございました!


おまけが2話あるので、最後までお付き合いいただけますと幸いです!


現在(2025/4/21)、番外編として作中に登場した峯と長岡のサイドストーリーをちょっと書こうかな?と思ってるので、更新した際はお付き合いいただけると嬉しいです!


ということで、降り傘(略称)をお読みいただきありがとうございました!もしよろしければ『ブックマーク』『星評価』『リアクション』などしていただけると、とても嬉しいです!励みになるのでぜひ、よろしくお願いします♬*゜

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