❄9:氷たちの小さな変化。
◇◇◇◇◇
出して頂いた紅茶を飲みつつ、テーブルに置かれたドレスのデザイン画を眺めていると、氷の貴公子様とフリーナ様が戻られました。
わざわざ別室に行かれて話されたということは、私に聞かれたくない内容なのでしょうね。あの言葉の真意が気にならないと言えば嘘になりますが、気にしても仕方のないことだとは理解しています。
「テレシア、待たせたわね」
「いえ、お気になさらず。先程の続きを――――」
仮縫いや試着の日程を決めて、フリーナ様のドレス店を後にしました。
相変わらず無言のままの馬車内。
ですが、なんとなくいつもと違うような気もします。氷の貴公子様がこちらをジッと見つめてくるので、ちょくちょく目が合うのですが、合った瞬間に逸らされてしまいます。
「何か?」
「……いや別に」
「そうですか」
用がないのならなぜ見てくるのかと言いたいような、どうでもいいような。
今日は、ちょっとしたことでなんだかもやもやしてしまう日のようです。
家に到着し、氷の貴公子様にエスコートされつつ屋敷の中に戻りました。
「本日はありがとう存じました」
カーテシーをして立ち去ろうとすると、氷の貴公子様に呼び止められました。
「何でしょう?」
「あ、いや。また来週迎えに来る」
「…………承知しました」
なぜだか一瞬だけ、返事が遅れてしまいました。
「嫌か?」
氷の貴公子様が一瞬悲しそうな表情をされたあと、すぐに真顔になり、そう聞いてこられました。
嫌かと聞かれると、『よく分からない』が本音のところ。毎週毎週お逢いする必要があるのか、分からないのです。
友人たちは、好きなら逢いたいじゃない!と言いますが、氷の貴公子様は私のことを好きになりませんし、愛することもありません。
であるならば、このデートとやらはなんのためなのか。
「嫌ではありません。では、また来週に」
部屋に戻って色々と考えました。
結局のところは、対外向けのパフォーマンスなのだろうと。
氷の貴公子様のお噂はそれはそれは色々とあります。聞くところによると、私との婚約を発表した後も、色々と出てきています。
意図的に聞かないようにはしていますが、どうやっても届いてしまうものもあります。
「ふぅ。愛のない結婚って面倒なのね」
ぽそりとそう呟くと、お茶を入れてくれていた侍女が心底驚いたような顔をしていました。
「なに?」
「いえ…………愛は、ないのでしょうか?」
「ないでしょ? だって、そう宣言されたのだし」
「ですが…………」
「なぁに? はっきり言っていいわよ?」
侍女が少し悩みつつ、口を開きました。
「ランヴェルト様は、お嬢様の小さな反応もよく見られていて、とても気にされているなぁと思っていましたので」
「そうかしら?」
「はい」
そこまで言うのなら、今度のデートのときにでも、もう少し氷の貴公子様に興味を持って、観察してみることにしようかしらね。