❄8:怒られるランヴェルト。
氷の貴公子様が仰った『お前を愛することはない』案件を伝えた直後から、フリーナ様の雰囲気が一変しました。
「おい、ランヴェルト、本当にそう言ったのか?」
「っ…………別室で話す」
「あ?」
「別室で」
「ふん。まあいい」
フリーナ様の低い声は、見た目とのギャップが酷いような、そうでもないような、どっちなのだろうと考えつつ、別室に行くお二人を見送りました。
❄❄❄❄❄❄
このタイミングでテレシアからあのセリフが出てくるとは思ってもいなかった。
やはり傷つけてしまっていたのだろう。どう考えても最低だからな。
「で? 言い訳は?」
「っ…………お前も知っているだろう? 私の過去は」
「そりゃぁ、知ってるが」
フリーナとか名乗っているが、ゴドフリーは第四王子だ。私と年齢が近く、わりと……まぁ認めたくはないが、仲はいい。
幼い頃からともに王城で帝王学などの授業を受けていたこともあり、四六時中共にいた。
だから、私の過去やトラブルはよく知っている――――。
幼い頃から地位と見た目のせいで女に擦り寄られていた。
約束した覚えのない結婚話や、男女の仲や、想像妊娠など、十代の頃から悩まされ続けた結果、結婚などする気も起きなかった。
近寄る女たちは、一刀両断の勢いで付け入る隙も与えないようにしていた。
なのにだ。
「兄がお前の結婚相手を見繕ってくれるそうだぞ」
父から言われたその言葉に焦った。
父の言う『兄』とは国王陛下であり、絶対の忠誠を誓っている。
その『兄』が決めた相手なら、父は満面の笑みで二つ返事をしてしまうだろう。
慌てて条件を出したのは言うまでもない。
――――いたのか!
建国当時からある旧家で、政権派閥に所属していない家などあるとは思ってもいなかった。
野心をひた隠しにしているだけなのかとも思ったが、本当になんの野心もない伯爵家だった。
伯爵家に顔合わせに向かうと、艷やかな黒髪の令嬢がいた。瞳は金色に煌めいているのに、冷たさしか感じなかった。無表情すぎて感情が見えない。
雰囲気は繕えているが、二十歳になったばかりの少女が本当に冷静沈着なのだろうか?と疑問に思う。
だから、言ってしまった。
巷で人気の劇のセリフである『お前を愛することはない』を、つい。
まさか、微笑まれ「そうなの? 私もよ」と返答されるとは思っていなかった。
それはとても控えめで、小さなスノーフレークのような優しく美しい笑顔だった。
初めて、女性を綺麗だと思った瞬間だった。
「――――申し訳ないことをしたと思っている」
「テレシア、面白いわね」
「あぁ」
今はまだ、お互いを知る期間だと思っているのだが、思ったよりも何も進んでいないような気がしている。
だが、テレシア嬢と二人で過ごす無言の空気は、なぜかとても居心地がいい。
この感情をもう少し深堀りしていきたいと思っている。
「お前……無自覚かよ!」
「何がだ?」
「バーカ! 馬鹿バーカ」
――――子供か?
「本当に馬鹿だよお前は。はぁもぉ……馬に蹴られるのは嫌だから、俺はこれ以上は手を出さないからな」
「……助けを求めた記憶はないが?」
「ケッ! 馬鹿め! 盛大に嫌われてしまえ!」
そうだな、それが一番の心配ではある。
そんな状態での結婚は、彼女に取って辛い日々になってしまうだろうから。
「かぁぁぁぁ! 無自覚の境地!」
とりあえず、ゴドフリーは納得はしたらしいが、終始煩さかった。