❄7:氷の貴公子様がモテる理由。
「ただいま戻りました」
「楽しそうな声が聞こえていた」
「そうですか」
「……」
「…………」
接客用個室のような場所に案内されると、氷の貴公子様が足を組んでソファに座り、優雅な所作で紅茶を飲まれていました。
「…………え? 貴方たち、それで会話しているつもりなの!?」
フリーナ様が心底驚いたようなお顔をされました。が、これがいつもの私たちなのですが?
「会話のキャッチボールよ! キャッチボール! 投げられたら、投げ返しなさいよっ!」
「……」
「…………」
「返事なさいよ! もぉっ!」
「…………キーキー煩い」
氷の貴公子様がボソリと呟くと、フリーナ様が真顔になられました。
「あぁ? 立場わかってんのか? あ?」
「…………急にキレるな。従業員の娘たちが怖がっている」
あら、氷の貴公子様ってそういうところの気遣いはできるのですね? なんて考えていましたら、同席していた従業員の方たちの頬がぽおっと桃色に染まっていました。
なるほど、女性にモテる男性というのは、見た目も然ることながら、言動にもその理由があるのですね。
「ハァ…………話を進めるわよ」
「……」
「…………」
「返事なさい!」
「「はい」」
その後、フリーナ様にちょこちょこ怒られながら、ウエディングドレスのデザイン決めをしました。
ドレスのデザインに特に希望がないと言うと怒られ、布地の希望がないと言うとまたもや怒られ、使いたい宝石の希望がないと言うと更に怒られました。
反対に、氷の貴公子様は希望をサクサクと出しては採用されていっています。少しだけ羨ましいです。
「テレシアに似合いそうなラインは――――」
「プリンセスライン」
「あーん、わかるわぁ! いいわねいいわねっ」
そうなのですね。似合うドレスラインなど気にしたこともありませんでした。
「宝石は何が良いかしら」
「オパールとムーンストーン」
「ああああんっ! 意味も素敵じゃない」
――――意味?
よくはわかりませんが、どんどんと決まっていっています。
「三ヶ月後までに用意しろとか言われて、殺そうかと思ったけど、今のテンションなら作れそうだわぁ」
「三ヶ月後、ですか?」
「なんでテレシアが驚いているのよ。四ヶ月後が結婚式なのよね?」
「あ、そういえばそうでしたね」
「…………貴方たち、本当に大丈夫なの?」
契約結婚なので、私の希望は特に反映されないものなのかと思っていましたし、お父様たちが話を進めていますので、口出しは不要だろうと判断していました。
そう伝えると、フリーナ様のお顔が憐憫なものになっていきました。
「それに氷の貴公子様には『お前を愛することはない』と言われましたし、体裁のみ整えておけば問題ないかと」
「はぁぁ?」
今度は憤怒の表情です。
フリーナ様は百面相がお得意のようです。