電子書籍発売記念SS②『ランヴェルト様の鼻息が凄い件』
ランヴェルト様と旅行することになりました。向かう先は王族の所有する温泉地の別荘。
初めての場所なので、とても楽しみです。
別荘に到着し、ランヴェルト様がソワソワとした空気を出しつつ、温泉に入る準備をしていました。
「ランヴェルト様、湖を見に行きませんか?」
「湖……おんせ…………ん。湖に行こうか」
ランヴェルト様が真顔でしょんぼりとしていましたが、ちょっと理由があって湖に行きたいので、ここは譲るわけにはいきません。
荷物の片付けを終わらせて、侍女たちには好きに過ごすよう伝え、ランヴェルト様と手を繋いで湖へと向かいました。
「ん、涼しいな」
「はい」
湖の周囲はとても涼しく空気が澄んでいました。
近くに大きく茂った木がありましたので、そこにシートを敷き座るよう伝えました。
ランヴェルト様は横並びで座ろうとしていたのですが、頭を引き寄せて膝に頭をのせてもらいました。
「いつもありがとうございます」
ランヴェルト様の柔らかな髪の毛を手ぐして梳きながら、日頃の感謝をゆっくりと紡ぎました。
毎日、お仕事ご苦労さまです。
子どもたちのこと、たくさん愛してくれて、ありがとうございます。
いつも家の中を明るくしようとしてくれて、ありがとうございます。
この旅行に誘っていただいてありがとうございます。まぁ、何やら計画をしているようですが?
「な……なにも、計画してない」
挙動不審で答えるランヴェルト様が可愛くて、クスクスと笑いながらまたランヴェルト様の髪の毛を梳きました。
「休暇、しっかりと楽しみましょうね?」
「ん」
湖の側で少しいちゃいゃして、別荘へと戻りました。
夕食を先に済ませ、温泉に向かう準備を侍女のルイーズとしていましたら、ランヴェルト様が横からぬっとてを伸ばしてきて、ルイーズが持っていた入浴着をぽいっと投げ捨てました。
「へ?」
「いらない」
温泉は露天風呂になっています。別荘にいるのは私たちだけですし、ある程度は壁があるので人に見られる可能性はほぼないものの、マナーとしては着ておきたいというのが本音。
「ランヴェルト様?」
「どうせ脱がせる。いらないだろう?」
何をドヤ顔で言い放たれているんですかね?
「…………ランヴェルト・オーステルベーク」
「へ?」
「ランヴェルト・オーステルベーク!」
「はっ、はいっ!」
低い声でランヴェルト様のフルネームを呼ぶと、しゃがんで私の下着を物色していたランヴェルト様がサッと立ち上がり、私の目の前に立つと直立不動になりました。
「いっ、愛しく聡明なテレシアさん? フルネームはちょっと怖いのだが?」
「……ランヴェルト・オーステルベーク侯爵閣下」
「っ、あ、はい。あ……ちょ、ルイーズ、居ていいから! 頼む、出ていくな…………あっ!」
侍女のルイーズが手に持っていた服をソファに置くと、音もなく部屋から出ていきました。
ランヴェルト様は手を伸ばして助けを求めていましたが、ルイーズは貼り付けたような笑みで礼をしていました。
「ランヴェルト様」
「はっ、はい!」
「いくら気心知れた侍女だろうと、あのような振る舞いは、可哀想です」
「はい…………」
「まぁ、温泉でイチャイチャするのは吝かではございませんが」
「ぬぐ、むふぅぅぅぅ!」
ランヴェルト様の鼻息があまりにも荒くて、ちょっと吹き出してしまいました。
「あはははは! なんですか、その鼻息は」
「いま直ぐ行こう、温泉っ、いま直ぐっ! なっ?」
ランヴェルト様が慌てて近づいてきたのですが、ブフォーブフォーといった荒い鼻息が顔に掛かります。
ちょっとうざいですね。
「ランヴェルト・オーステルベーク」
「っ! はいっ」
フルネームで呼びかけると、ランヴェルト様は焦りながら直立不動になられます。ちょっと面白いですね。しばらくコレで遊べそうな気がします。
あ、温泉では、まぁその……ちょっとのぼせたりもしつつ、しっかりと二週間の休暇を堪能しましたよ?
―― fin ――
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加筆ももりもりっとやっておりますので、ぜひぜひお手元に迎えていただけますと…………いつもどおり小躍りしますヽ(=´▽`=)ノ
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