❄58:ハブリエルとルーカス。
二人目の息子の名前は、ハブリエルの希望もあり、ルーカスに決定しました。
実家の伯爵家の養子にするのは、お父様と話し合い、本人たちが大きくなってから決めて良いとのことでした。
お父様とお母様は相変わらずで、お互いに不干渉を貫かれています。我が家にしてもそうで、孫だから特にどうするということもなさそうです。
反対に、王弟殿下であるお義父様は、孫にデロデロです。
国王陛下の前で「孫にお願いされちゃったら、下剋上くらいしてもいいかも!」などと危険な発言をしていたそうです。
「…………デロデロになるのは、家系らしい」
「なるほど?」
よく分かりませんが、納得しておきましょう。深堀りするとろくなことにならなさそうですし。
「父上、母上…………」
ハブリエルが十五歳になった日の朝食の席でした。
みんなでお祝いを伝えていましたら、ハブリエルが急にボソリとつぶやきました。
相変わらずの無言っぷりですが、ときおり何かしらつぶやくことはあるのです。が、今回はなんだか様子が違いました。
「伯爵家を継いでやりたいことができました」
「…………へ?」
「ほぁ!? ハブリエルが喋ったぞ!」
驚くところはそこなのかとか言われそうですが、驚くところはそこで間違いありません。
それから、伯爵家を継いでやりたいことってなんなのでしょうか?
「ん。秘密」
「まさかの秘密!」
ランヴェルト様が「なんでだ!」とハブリエルの両肩を掴みユサユサと揺らしますが、ハブリエルは断固として話しませんでした。
「ルーカスはそれでいいの?」
ルーカスの気持ちを聞いていなかったことに気づき、慌てて確認するとルーカスが黒い髪を揺らしながらこくんと頷きました。
え、これっていいってことなの? 大丈夫なの? 二人で話したとか? というか、二人で話すの? 二人で会話していても、基本的に超短文で返答はイエス・ノーくらいしか聞いたことなかったけど。そのレベルで将来とかの話もしてるの? え? 本当に大丈夫!?
二人のおかげで脳内が大忙しです。
「だっ…………大丈夫なのね?」
結局、口から出たのはこの一言のみになりましたが。
二人とも私と同じように、頭の中でグルグルと考えて、結局一言しか言わないだけのタイプではあるのですが、それにしても言わなさすぎではと思うのです。
ランヴェルト様はなにやらむむむっと考え込まれています。どうかしたのかと聞いてみると、ちょっと申し訳無さそうなお顔をされました。
「テレシアには失礼なんだが、伯爵家を盛り立てるほどの利点はあるのか?」
「……たしかに」
なんといいますか、『たしかに』としか言えない問題です。名前が建国当時からあるだけで、政権派閥にもおらず、やっていることは、小さな領地の経営。
しかもその領地も特に何かがあるわけでもなく、ただ芋などの作物を細々と作っているだけです。
「あるよ」
「へぇ、あるのねぇ」
「うん」
どうあっても、何をしたいのかは教えてくれないようです。
まぁ、あまり意思表示しない子が自らしたいと言うのだから、やりたいようにやらせてあげるのが一番だろう、ということでランヴェルト様とも意見が一致しました。





