❄55:グール系ヒロイン。
子育て開始の一ヵ月は、新しいことへの物珍しさやワクワクといった気持ちが大きく、夜間は乳母に手伝ってもらいつつも、ほぼ全ての育児に全力で取り組んでいました。
二ヵ月が経ち、三ヵ月が経ち……………………。
「ぅうう…………泣いてる」
「ん……行くか…………」
真夜中、隣室の子供部屋へ授乳に向かう姿は、物語の中のグールのようです。二人とも。
「ランヴェルト様、明日の仕事に響きますから」
「いやだ。成長を見損ねる。仕事とかどうでもいい」
――――ええぇ?
ランヴェルト様の謎の優先順位が本当に謎です。
「アンタたちは、何の耐久レースやってんのよ? グール系ヒロインとか嫌よ」
久しぶりに我が家に訪れられたオレンジ色マーメイドなフリーナ様が、引き気味にそんなことを言われました。
意味が分からず「グール系ヒロインとは?」と聞くと、勢いよく「アンタよ!」と怒られてしまいました。
そもそも、私というよりは、ランヴェルト様が耐久レースしているのだと思うのですが。
「テレシアもよ! 乳母でいいところは乳母に任せなさいよ。倒れてからじゃ遅いのよ!」
「…………はい」
フリーナ様の言うことは正しくて。
でもちょっとだけ納得できなくて。
「育児の考え方は家庭によっても違うから、これ以上は口出ししないわよ」
「はい。ありがとうございます」
「全くもう、重要なことを報告しにきたっていうのに…………」
――――重要なこと?
フリーナ様が、小指を立てて紅茶を飲まれているので、静かに次の発言を待ちます。
ジッと見つめていて気付きました。なんだかいつもよりお胸がバーンしてます。パンプアップとかいうやつでしょうか? ムッキムキのムッキムキです。
「なぁによ?」
フリーナ様が、恥ずかしそうにくねっと動かれます。そのたびに筋肉がムキッと目立つのが気になって仕方ありません。
こういうときは、ズバッと聞くのが一番です。
「あぁ、コレねぇ。のっぴきならない理由なのよね」
「のっぴきならないとは?」
「その件についても報告なんだけどぉ――――」
フリーナ様がまたもやくねくね。いつもよりくねくねが長いので、紅茶を飲んでゆっくりと待ちました。
「私ね、アレイダと結婚するわ」
「へー…………へ? え? アレイダと!?」
ぼーっと紅茶を飲んでいたので、一瞬理解できずに適当な返事をしてしまいました。
よくよく考えると、意味不明です。
女性らしきフリーナ様と、女性のアレイダ。何があったら、そうなるのでしょうか?
「あれから意気投合しちゃってね、よくお茶したりしているうちにねぇ。身を固めるんならこの娘がいいなって。きゃぁぁぁ、もぉ、やだわぁぁ。恋バナなんていつぶりかしら!?」
――――恋バナ?





