❄52:硬直するランヴェルト様。
いきんでと言われていきんで、深呼吸してと言われて深呼吸をして。
なにがなんだか分からなくなっているときでした。
「テレシア様、もう少し! もう少しですよ!」
「テレシア、もうすぐだぞ!」
ずっともうすぐとかもう少しとか言っていませんかね? と素に戻った瞬間でした。
急に圧迫から解放されたような感覚。
「おめでとうございますっ!」
「テレシアっ……よく頑張ったな」
ランヴェルト様とお医者様の声に続き、子猫が鳴くようなフニャフニャした泣き声。
お医者様の腕の中にいる命の存在。
包まれているタオルの隙間から見える、小さな手足。
「うま……れた?」
「はい! 元気な男の子ですよ」
「っ、よかったぁぁぁ」
へその緒の処置が済み、私は胎盤を排出する処置があるとのことで、産まれた赤ちゃんはランヴェルト様に託されました。
「っ!?」
赤ちゃんを抱きしめたランヴェルト様が硬直していますがなぜでしょうか?
胎盤排出でお腹をグイグイと押されているため、ちょっと会話できる状態ではないのですが、気になります。
「はい、お疲れ様でした。終わりましたよ」
「ふぅ…………ランヴェルト様?」
「……」
腕に抱いた赤ちゃん――息子をジッと見つめたまま、いまだ硬直し続けているランヴェルト様。
何があったのでしょうか?
「……………………ちいさい」
「はい、そうですね。ランヴェルト様、私にも見せてくださいませんか?」
いまだにしっかりと赤ちゃんの顔が見れていません。
「っ、あ、すまない! ほらっ」
恐る恐るといった様子で歩き、そっと手渡されたのは、ランヴェルト様そっくりの白銀の髪を持つ小さな赤ちゃん。
少しだけ開いた瞳は、灰色がかっています。
瞳の色は成長するにつれて変化するらしいので、どんな色になるのか楽しみです。
「かわいい」
「んっ!」
「小さいです」
「んっ!」
ランヴェルト様がベッド横の床に跪き、コクコクと頷いています。真顔で。
ちょっと可愛いですね。
「髪はランヴェルト様にそっくりです」
「んっ! 鼻や口はテレシアだ」
「そうですか?」
「んっ!」
コクコクと頷き続けるランヴェルト様。
やっぱり可愛いです。
「ランヴェルト様」
「ん?」
「お名前を付けてくださいますか?」
「っ! もちろんだ」
晴れ渡るような笑顔で力強く頷いてくださいました。
元々、名前のリストはいくつかあったのですが、お顔を見てから決めるということにしていました。
どんな名前になるのでしょうか? 楽しみです。





