❄51:ゔぅぅぅぅ産まれそうだからっ!
ランヴェルト様のジットリとした生温かい手が、ギュムムムムと私の右手を握りつぶす勢いです。
手を握ってとお願いした手前、手汗がとか痛いなど言えないような……いえ、痛いのは違うので言いましょう。
「ランヴェルト様」
「ん!?」
物凄い笑顔です。
キラキラとした幸せいっぱいな表情にちょっと怯んでしまいました。
「えっと……あの…………」
ここは心を強く持って、痛いと伝えねばなりません!
「ランヴェルト様っ! 手がヌルヌルで――――」
――――あ。
「ぬる……」
「すみません、間違えました。握力が強すぎます。力を緩めてください」
「いま、ぬるぬるって」
「気のせいです。陣痛での譫言です」
「いや、ハキハキしゃべってる…………」
「気のせいです!」
ランヴェルト様が納得いかなさそうではあるものの、おずおずと頷いてくださいました。
危うく出産直前に夫婦喧嘩をしてしまうところでした。
「…………ぬる」
何か言いたげではありますが、陣痛の波がやってきたので、お話するタイミングを逃してしまいました。
「いーたたたた! …………ふぅ」
「…………水、飲む?」
「はい、ありがとうございます」
「うん……」
ランヴェルト様がなぜか子犬のような潤んだ瞳になっていますが、今はそれどころではないので横に置きます。
こんなときでも気遣いを忘れない素敵な旦那様です。
何時間、唸り悶え朦朧とし続けていたでしょうか。
汗塗れになり、ランヴェルト様が汗を拭いてくださったり、軽食を口へと運んでくださったような記憶があります。
途中でお医者様にあと数時間で産まれるなどと伝えられ、「やだ!」と言ったのはハッキリ覚えています。
まだ数時間もこの痛さと戦わなきゃなの?と言いながら、ランヴェルト様の手を握って叫んだもの覚えています。
「ゔーっ」
「もう少しですよ! もう少し!」
出産という無防備かつ極限の状態になると、本来の自分というものが出てくるのかもしれません。
ランヴェルト様の扱いがとても雑になってきています。
「ゔぅーっ」
「テレシア……がんばれ……………………テレシア…………あ、ちょっと、握力がっ、つ、爪がっ!」
「ゔぅぅぅぅ産まれそうだからっ! 今っ!」
「…………だよな! 気にするな! 頑張れ! 頑張れっ!」
こんなときでも、気遣いを忘れない…………素敵な旦那様です!





