❄5:氷の貴公子様とマーメイド。
なんだかんだと氷の貴公子様と毎週のようにデートなるものをしています。
てっきり、次の顔合わせは結婚式当日とかになるのかと思っていたので、妙な肩透かしを食らっています。
友人たちは『氷の貴公子様が恋に落ちた』とかなんとか騒いでいますが、結婚適齢期である二五歳の氷の貴公子様と、諸々の条件が釣り合う我が家がたまたま契約に至っただけなのですが。
王弟殿下は、国王陛下に絶対なる忠誠を誓っているというのが国民全員の知るところです。
宰相補佐という、仕事でも高い地位にいる氷の貴公子様が結婚相手に求めたのは『冷静沈着な二十代の娘がいて、野心がなく、政権派閥に所属しておらず、建国時からある家』でした。
なぜそんな条件にしたのか。
詳しくはわかりませんが、一ミリでも謀反の可能性のある家とは繋がらないという王弟殿下の信条なのでしょう。
そして、まさかの事態が起こりました。
我が家はそれにぴったりと当てはまったのです。
脈々と続く家系ではあるものの、ただそれだけの伯爵家で、野心などなく、ただ家名を守るために結婚し、血を受け継がせていただけなので。
そして、今代は私一人しか子供がおらず、父は婿養子か生まれた子供を伯爵家に入れても構わないという相手を探していました。
そう、これはたまたま両家の思惑が合致した契約なのです。
そうして、また、氷の貴公子様とのデートの日になりました。
「迎えに来た」
「ありがとう存じます」
相変わらず無表情が標準装備な氷の貴公子様とのデート。
今日は貴族街に出かけるそうです。
何やら向かいたい店があるのだとか。
馬車に乗り込み、出発です。
視線はずっと合うのですが、やっぱり無言。
「……」
「…………」
なんとなく見覚えのある場所に到着しました。
たしかここは――――。
「ドレスデザイナーの?」
「ん? 知っていたか」
「はい。お噂だけは」
友人たちがよく話していました。『屋敷には絶対に呼び出せず、どんな地位でも予約順、気に入らないと断る凄腕デザイナー』だと。
氷の貴公子様が頷きつつ馬車を降り、こちらにスッと手を出されたので、降りろということでしょう。
そのままエスコートされ店内に入りました。
「あんら、もぉきたのぉ?」
出迎えてくださったのは男せ…………じょ……? どちらとお呼びしたら良いのかよくわかりません。
金髪縦ロールでムキムキナイスバディ。美しいエメラルドのマーメイドドレスを着た、人類でした。
「…………」
「返事しなさいよ!」
マーメイドのお方が、目を見張る速さで移動して来られ、氷の貴公子様の後頭部を勢いよく叩きました。それはもう、勢いよく。
氷の貴公子様が前のめりで転けそうになり、小走りするような形になっていました。
その瞬間、引っ張られる!と思ったのですが、氷の貴公子様がパッと手を離してくださったので、私は無事でした。
「相変わらず軟弱ね」
「…………馬鹿力め」
「はいはい。ほら、早く紹介なさい」
「…………」
このマーメイドの方、色んな意味でとても強いです。