❄49:妊娠期間を経て。
妊娠期間は順調に過ぎていきました。
徐々に膨らんでいくお腹に、私は不思議な気分だったのですが、ランヴェルト様はいたく感動しているようで、事あるごとに撫でてきます。
「っ……ふふっ」
「すまない、起こしたか」
「おはようございます」
擽ったいような、揺すられているような、そんな感覚で目が覚めると、ランヴェルト様が私のお腹を擦っている……なんてことはしょっちゅうです。
ちょっと驚きはするものの、柔らかく微笑んでいるランヴェルト様はとても美しくて、ついつい笑みが零れてしまいます。
「八ヵ月か……既に出てきそうなんだが」
「お医者様は、もう少し大きくなると仰っていましたよ」
「きつくはないか?」
心配そうに眉を落としながら聞いてくださるランヴェルト様。出逢った当初からは考えられないほど感情を見せてくれています。
私もそれに引き上げられるようにして、想いを伝えられるようになってきました。
「はい。少し体は重く感じますが、どうにか慣れてきましたよ」
「ん」
ベッドから起き上がる際は、ランヴェルト様が手助けしてくださいます。
それはとても小さなことで、当たり前のことなのかもしれません。でも私には途轍もなく大きな愛だと感じられるのです。
両親の寝室は別々で、お父様はお母様の体調がどんなに悪かろうとも見舞うことはありませんでしたし、朝食に同席していなくとも、気にした様子もありませんでした。
それはお母様も同じで、お父様が妙に咳をしているときなど、顔を顰めて『うるさい』といった雰囲気を出されていました。
「ありがとうございます」
「ん」
ベッドから立ち上がると、頬にキスをくださいます。それがとても嬉しくて、自分からもしたいなと思いはするものの、まだまだ実行はできていません。
自らする頬へのキスは、『いってらっしゃい』が精一杯です。
臨月間際になり、毎日の眠りが浅く長いものになってきました。
仰向けで眠れず、横になって眠るのですが、お腹の中で赤ちゃんが暴れてなかなか眠れないのです。
「っ……いたたたた」
「テレシア?」
真夜中にお腹がズンと痛みました。
いつもとは違う痛み。そしてパチュンという不思議な音。
「え?」
「なんの音だ?」
二人でキョトンとしていると、じんわりと下着が濡れていっているのがわかりました。
「あ……破水したみたいです」
「ぬぉあ!?」
ランヴェルト様が変な声を出してベッドから飛び出ると、流星のような勢いで寝室から消えていきました。
――――えぇっ?





