❄48:結婚して一年が経ち。
ランヴェルト様と結婚して一年が経ちました。
あの大掛かりな裁判以降は、とても平穏に暮らしていました。先日までは。
「うっぷ…………ぎぼぢわるいでず」
「そりゃ、やることやってたんだから、そうなるでしょ。ほらっ」
「ありがどゔございまずっ」
呆れ顔のフリーナ様に、吐く前に冷たいお茶を飲みなさい!とカップを渡されました。
――――妊娠ってこんなに大変なのね。
月経が遅れているなと思ってはいたものの、時折遅れることもあったため、そんなに気にしていませんでした。
ある日の朝食中に急激に気分が悪くなり、その日は食事が全く通らず。翌日も体調不良が続いたためお医者様に診察して頂いたところ、「ご懐妊です」と告げられました。
妊娠だと聞いたランヴェルト様は、その場にいた全員が戸惑うほどに感涙されていました。
白銀に縁取られた美しい空色の瞳からボタボタと涙を零す姿は、幻想的を通り越して、なんだか異様な姿だったのです。
実はちょっと目を疑ったのは内緒です。
だってまさかそんなに喜んでいただけるなどと思ってもおらず。
流石に契約結婚だからだなんだとかはもう関係ないのでしょうが。実家へ養子に出す契約は生きていますし、ランヴェルト様はそれで構わないといったドライな感じだったので、てっきりそんなに子供などに興味がないのかと思っていました。
「アタシもびっくりしてるわよ」
「へ?」
「ランヴェルト、めっちゃくちゃ自慢してるらしいわよ? 王城で」
「ええ?」
フリーナ様いわく、ランヴェルト様は宰相様の執務室で子どもの誕生を待ちわびている的なお話や、将来の職業についてなどのお話を毎日のようにしているそうです。
「毎日?」
「ええ。宰相が言ってたわよ」
ここ最近のランヴェルト様はキャラ崩壊が凄いらしく、王城勤務の侍女たちが悶えたり引いたりしているのだとフリーナ様が大笑いしています。
わりと家ではその『キャラ崩壊』というものをしている気がするのですが、それよりもさらに凄いのでしょうか?
怖いもの見たさもあり、ちょっとだけ宰相様の執務室をこっそり覗きたいなんて思ってしまいました。
「あら? 王族専用の隠し通路を教えてあげましょうか?」
「…………それは、反逆罪とかになりませんかね?」
「えー? んー? うーん? …………うふっ!」
フリーナ様が身体をくねくね動かしつつ、首を左右に傾げ、最終的には誤魔化し笑いをしました。
これは絶対に何かの罪に問われるタイプの甘言ですね。
こういうときのフリーナ様は信用してはいけないと、この一年で学びました。





